【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
身体の中からくすくすという笑い声が聞こえてきた。
クグルスだ。
亜空間に待機してもらっているガドニエルとベルズのほかに、魔妖精のクグルスには、一郎の体内に入ってもらって、一郎の耳目を共有してもらっているのだ。
なんだかんだで、クグルスは淫魔の知識に関しては、一郎に色々と教えてくれる先生の役割を果たしてくれる。
奴隷宮の中がスクルドの言霊のせいで、濃い淫気に近い魔素が充満しているような状態であることはわかっている。
だから、ちょっとでも気になることがあれば、身体の中から知らせてくれるように頼んでいたのだ。
“ご主人様、もしかして、あの娘の魅了状態を解除しようと思った? だめだよ。そのために魅了にかけ直したりしたら……”
クグルスが「伝心」で言葉を伝えてきた。
“かけ直す?”
一郎も伝心で応じる。
“ご主人様って、淫魔師として最初からレベルが高かったから知らなかったかもしれないけど、普通は淫魔が性支配をするときには、一回目から完全支配できたりしないんだよ。最初は、魅了状態になるの。そして、何度も何度も性行為を繰り返して、やっと支配を刻むんだ。ぼくだって、やり方は違うけど、獲物を捕らえるときにはそうするんだから”
“もしかして、俺はアドリーヌから魅了を解いたけど、そのために俺の魅了にかけてしまったということか?”
“支配の一歩手前のね。ご主人様がわざと支配をしないようにと念じたんで、魅了で終わったんだ。本当なら、ご主人様なら唾液だけでも十分に一発支配できるよ……。でも、そのまま支配しちゃえば? あれは、なかなかの雌畜になると思うよ。ものすごく濃い淫気を発散したしね”
“そういうことか……。教えてくれてありがとう。だけど支配はしない。するとしても、全部の交渉が終わってからだ”
“はいはい。じゃあ、気をつけてね、ご主人様”
クグルスの笑い声が途絶える。
「はあ、はあ、はあ……。し、失礼しました。もう大丈夫です」
一方で腕の中のアドリーヌがしっかりと脚を踏ん張るように立つ。だが、足もとを見ると、アドリーヌの内腿から垂れた愛液がサンダル履きのくるぶしに達し、さらに地面まで濡らしている。
ものすごい愛液の量だ。しかも、口づけだけのことなのだ。
なるほど、クグルスが支配してしまえと言うはずだ。
「せ、先導します」
アドリーヌが一郎の腕から出て、奴隷宮に向かって歩き始める。
一郎はベアトリーチェとともに続いた。
やがて、奴隷宮の建物の前に到着した。
両開きの扉は大きく開いている。
扉の内側の奥側に三人の女が土下座の格好で蹲っていた。
床に正座をして、頭をぎりぎりまでさげて両手を床につけている。
一郎から見えるのは背中側だが、そこにはなにもない。すべて肌が露出している。
そして、腰に小さな布を巻いている。アドリーヌとエリザベスが赤い布なのに対して、目の前で蹲っている三人については青い布だ。身に着けているものといえば、それくらいだ。
また、三人の首には黒い首輪のようなものが巻かれていた。
炸裂環か……。
イットが巻き付けられていたものと同じものだ。
一郎たちが建物内に入ったところで、入口の扉を少女たちが閉めた。
「フラントワーズ様、天道様をご案内してきました」
アドリーヌが言った。
「わかりました。ご苦労様でした。みんなのところに……。エリザベスもご苦労様でした」
真ん中の女が頭をさげたまま言った。
アドリーヌとエリザベスが一郎に頭をさげ直して奥にさがっていく。
奴隷宮の入口のホールで、一郎とベアトリーチェと三人の女だけになった。
“ラジル=ボリニャック
天道教神官
ボリニャック侯爵夫人
人間族、女
年齢47歳
ジョブ
官吏(レベル12)
神官(レベル7)
生命力:35
魔道力:20
経験人数:男2
淫乱レベル:B
快感値:270
状態
魅了による軽洗脳状態(軽)
装着
炸裂環(起爆準備終了)”
“フラントワーズ
天道教教祖
元グリムーン公爵夫人
人間族、女
年齢49歳
ジョブ
神官(レベル21)
官吏(レベル15)
生命力:45
魔道力:100
経験人数:男1
淫乱レベル:D
快感値:200
能力
魅了術(軽)
状態
魅了による軽洗脳状態(軽)
装着
炸裂環(起爆準備終了)”
“ランジーナ=ポートワール
天道教神官
ポートワール侯爵夫人
人間族、女
年齢51歳
ジョブ
官吏(レベル15)
神官(レベル9)
魔道遣い(レベル2)
生命力:35
魔道力:100
経験人数:男2
淫乱レベル:B
快感値:200
状態
魅了による軽洗脳状態(軽)
装着
炸裂環(起爆準備終了)”
右から、ラジル、フラントワーズ、ランジーナ……。
フラントワーズはやはり真ん中の女か……。だが、天道教の教祖だと? しかも、神官ジョブのレベルが不自然なほど高い。
また、全員に、アドリーヌたちと同様に、“魅了による軽洗脳状態(軽)”の表示……。
そして、なによりもフラントワーズのステータスに、「魅了(軽)」の能力がある。
こいつ自身が魅了の術を?
訝しんだが、レベル2であるものの魔道遣いのジョブがあり、魔道力も“100”だ。能力レベルは高くないが、ちょっとした魔道ならこなせるくらいの力はあるのかもしれない。
「天道様、ご帰還並びに独裁官へのご就任にお慶び申しあげます。また、サキ様たちの救出に感謝します。そして、このたびは申しわけありませんでした。しかし、わたしたちはどうしても、天道様に話を聞いて頂きたかったのです。ここの娘たちの努力を……。彼女たちの願いを……。どうか、お願いします。話を聞いてください──」
フラントワーズが身体の下から小さな箱を出して、土下座をしている頭の前に置き、その蓋を開いてから再び土下座の視線に戻る。
「わたしたち三人の首に巻いている炸裂環の起爆具です。それを握ってしばらく熱を与え続ければ、炸裂環が作動して、わたしたち三人の首が千切れます。そうでなくても、わたしたち三人は、話を聞いて頂いた後で、罪を償って自殺します。ですから、どうか話を聞いてください。お願いします──」
フラントワーズが頭を床につけたまま叫ぶように言った。
一郎は嘆息した。
「命を差し出します……。だから、なんだ? それで俺の女をさらった罪が償えると? 言っておくが、俺は自分の女に手を出した相手には寛大にはなれないぞ。どんな理由があろうともだ──。俺の女たちの敵は俺の敵だ。あいつらに手を出した時点で、お前たちは俺の敵だ──」
一郎はフラントワーズに近づくと、力いっぱいにその後頭部を踏みつけた。
差し出されている炸裂環の起爆具は一瞬にして、亜空間に収容してしまう。魔道具を使った爆発具は、起爆具がなければ、爆薬そのものにいくら衝撃や魔道をかけても爆発しないことは教えてもらっていた。つまり、起爆具さえ取りあげれば逆に安全なのだ。
だから、遠慮なく乱暴をしてもいい。
「ぐふっ」
ごんという音がして、フラントワーズが呻き声をあげた。
「話は聞いてやる。その代わり、一度、ここで謝罪しろ。そして、アネルザとエリカは無事なんだろうな? かすり傷のひとつでもつけていてみろ。お前らの命だけは済まさないぞ」
一郎はフラントワーズの頭の上から足をどける。
ただ、正直なところ、これからの話し合いには大して興味はない。確認したいのは、エリカとアネルザが無事であることだけだ。
そして、時間を稼ぐ。
それだけでいい。
別働隊のコゼたちが必ず二人を救出してくれるだろう。
「もちろん無事です。で、では、奥に天道様をお迎えするために準備した部屋が……」
フラントワーズがほっとしたように顔をあげた。
五十に近い年齢のわりには、若くてまだ美しい顔立ちだ。
そして、いま気がついたが、炸裂環の下に青いチョーカーをしている。
青印ということか……?
そういえば、アドリーヌやベアトリーチェたちは、赤印とか言っていたか……。赤は性奴候補ということだろう。そういえば、ベアトリーチェがそんなことを言っていたような気がする。
さしずめ、青色は指導者層か?
まあいい。じゃあ、せいぜい遊ばせてもらうか……。
一郎は、フラントワーズの肩を蹴り飛ばした。
「きゃあああ」
フラントワーズが脚を拡げたみっともない姿で仰向けにひっくり返る。
布の下の性器が露わになった。まだきれいな性器だ。ちょっとねっとりと濡れているか?
「あっ、フラントワーズ様──」
「フラントワーズ様──」
両側のふたりが驚いてフラントワーズに駆け寄りかける。
「俺の話を聞いていたのか、フラントワーズ──。話を聞く代わりに、もう一度、ちゃんと謝罪をしろと言っただろうが──。両側のふたりは立て──。謝罪はフラントワーズひとりでいい──」
一郎は怒鳴った。
「は、はい」
「ひっ」
ラジルとランジーナのふたりが竦みあがって硬直した。
「お、おふたりは立ってください。わたしは天道様に謝罪をし直します」
フラントワーズが身体を起こして、土下座の姿勢を取り直す。乳首に吊っている鈴が揺れてちりんちりんと可愛らしい音を奏でた。
「どうか、申しわけ……」
一郎は最後まで言わさず、フラントワーズの肩を脚で押して、もう一度身体をひっくり返してやった。
「きゃああ」
「ずぼらをするな。一度立ってから土下座をしろ、ちゃんと謝罪ができるまで、何度でもさせるからな……」
一喝する。
さあて、どうなるか……。
一郎はわざと怒りの態度を作って、フラントワーズの前で腕組みをして仁王立ちになった。
「も、申し訳ありません」
フラントワーズが立ちあがり、すぐに腰をおろして土下座をする。
「天道様の女性たちを監禁したことは謝ります。でも、話を聞いて欲しかったのです。どうしても、わたしたちの思いと願いを……」
フラントワーズが頭を床につけたまま、喋り続ける。
一郎は容赦なく、その後頭部を踏みつけた。
「ぐっ」
フラントワーズが呻き声を漏らす。
一郎が足をどけると、フラントワーズすぐに頭をあげようとした。そこを再び体重をかけて後頭部を踏みつける。
「あごっ」
ごんと音がして、フラントワーズの身体が一瞬止まった。
もしかしたら、軽く脳震盪でも起こしたかもしれない。一郎はそれでも力いっぱいにぐりぐりを頭を踏みにじる。
フラントワーズの鼻が床に密着して捩じれているのを感じた。
「話が長い。余計なことを言わなくていい。ただ謝罪の言葉だけを言え」
一郎は頭を踏み続ける。
「聞こえないのか、フラントワーズ──」
怒鳴りつける。
「き、聞こえてます……。や、やり直しをさせてください」
一郎が力いっぱいに顔を踏んづけているので、フラントワーズの声は床に唇が当たってくぐもっている感じだ。
「わかった。じゃあ、やれ」
足をどけてやる。
フラントワーズが立ちあがり、またすぐに土下座の姿勢になった。
「こ、この度は申し訳ありませんでした」
「一度噛んだな。完璧にできるまで、やり直せ──」
床につけた頭を力いっぱいに踏む。
「うぐっ、や、やり直します、天道様──」
フラントワーズが再び立ちあがり、土下座をする。
「声が小さい──。もう一度だ」
しかし、一郎は難癖をつけてやり直しをさせる。
同じことを十回近くやった。
その都度、「気持ちがこもってない」とか、「聞き取りにくい」とか文句を言う。五回を超えた頃からは、「それで完璧のつもりか」と怒鳴るだけにした。
だめなところを指摘せずに、ただひたすらやり直しを繰り返させる方が精神的には堪えるのだ。
さすがに、十回に達したときにはフラントワーズはふらふらになり、全身は真っ赤に火照りきり、滝のように汗が流れたようになっていた。
また、ほかの者たちは、一郎の迫力と場の緊張感にしんと息を呑んだようになっている。
「天道様、申し訳ありませんでした──」
フラントワーズの十一回目の謝罪だ──。
「それがお前の本当に心を込めた謝罪なのか、フラントワーズ? それが完璧か? なんでずっと俺がだめだと言っているのか本当にわからないのか?」
一郎はぐりぐりとフラントワーズの頭を踏みつけながら言ってやる。
「う、うう……。お、教えてください。な、なにが悪いのでしょうか……」
フラントワーズが泣くような声で言う。
「自分で考えろ──。もう一度──」
一度足をあげてから、後頭部に足を踏み落とす。
「んぐうっ」
フラントワーズがまたもや呻き声をあげた。
そして、しばらく動かない。
もしかしたら、軽く失神したかもしれない。
「て、天道様、わたしにも謝罪をさせてください」
「わたしもやります」
ラジルとランジーナのふたりが我に返ったように叫んだ。
一郎の返事も待たずに、ふたりが土下座をする。
「余計なことをするな──。話を聞く代わりに、俺はこの女の謝罪を要求してるんだ──。フラントワーズ、立て──」
フラントワーズの肩を蹴り飛ばす。鈴の音とともに、彼女がひっくり返った。
だが、そろそろいいか?
もうかなりの時間はかけてやっただろう。
「あっ、も、申し訳……」
フラントワーズがはっとしたように身体を起こそうとした。
しかし、自分の汗で滑ってしまい床に倒れる。
それでも、すぐに立ちあがった。
もうふらふらだ。
「お、お怒りはごもっともです。でも、わたしたちの話を聞いてください、天道様」
「お願いでございます」
一方で、ラジルとランジーナのふたりは頭を床につけたまま言ってきた。
そのとき、一郎はいつの間にか、部屋の外から歌が聴こえていることに気がついた。
いつから?
フラントワーズをいたぶるのにかまけていて、歌に意識がいかなかったのか?
「申し訳ありません。話をきいてください、天道様……」
一度立ち、土下座の姿勢になったフラントワーズの謝罪──。
話を聞く……?
そうか。話を聞くのだ……。
まあ、そろそろいいか……。
確かに、もともとちょっとは話を聞くつもりだったのだ……。
「わかった。もう謝罪はいい。立て、フラントワーズ」
一郎は言った。
「あ、ありがとうございます」
フラントワーズが頭を床につけたままがくりと脱力したのがわかった。
「ああ、ご苦労様でした、フラントワーズ様──」
「さあ、お掴まりください……」
ラジルとランジーナがフラントワーズに駆け寄る。
相変わらず、歌が聴こえて続ける。
とても気持ちのいい声だと思う。
ずっと聴いていたくなるような……。
なんだか、頭がぼうっとするような……。
“わああああ──。うわあああ──。ご主人様、しっかり──”
頭の中に、クグルスの伝心の大声が破裂するように響いた。
一郎は我に返った。
一瞬にして、頭がはっきりする。
しまった──。
魅了か──。
“この歌だけは危険だよ。すっごく強力な魅了がかかってる”
クグルスの伝心だ。
唖然とした。
まさか、こいつらは魅了を──?
この歌か──。
そして、それを知ったとき、一郎の中に本物の憤怒が沸き起こる。
「目障りな歌をやめろ、お前ら──。俺を洗脳しようしたかああ──」
ありったけの怒声を浴びせる。ますます、頭がはっきりした。しかし、これは確かに危険だ──。
そうか。
もともと、スクルドの強い言霊がこいつらによって、増幅して強化されているのだろう。
だが、一郎までかかりかけるとは、なんという強い魔道だ。
ベルズとガドニエルを亜空間から出した。亜空間側からふたりが外に出せと騒いでるのにも気がついた。
「部屋に防音を張る──。外からの声は遮断される。陛下は防護結界をお願いします」
出現するや否や、ベルズがすぐに防音の結界を張る。
「了解です」
それと同時に、ガドニエルがベアトリーチェを含めた四人の周りに防護結界も張る。一郎たちの周りがきらきらと金色の塵のようなもので覆われた。
一方で、フラントワーズたち三人は顔を蒼くして立ち尽くしたままだ。
すでに、壁の向こうからの歌声はなくなっている。
「……フラントワーズ殿だったな。どういうことだ? 話し合いではなく、攻撃をしようとしたとみなしてよいな。相手に魅了術をかけようというのはそういうことだ。わかっていると思うがな」
ベルズが一郎の前にすっと出て言った。
「……ご主人様」
ガドニエルが一郎に視線を向けてくる。指示を受けたいのだろう。
一郎はガドニエルの肩に手を触れさせた。
「俺がはっきりと命じるまでなにもするな……。だが、次に歌が聴こえたら、容赦なく壁ごと歌の根源を吹っ飛ばせ。何人死のうと構わん。だが、許可なく撃つなよ。絶対にだ」
一郎ははっきりと言った。
「お任せください──。いつでも、ここを木っ端微塵にしますわ」
「するなよ。壁の向こうの集団だけだ。それについては最悪皆殺しでも構わんが、エリカとアネルザがここには監禁されているんだ」
一郎は言った。
ただ、これは脅しのつもりではない。本気だ。
「お、お待ちください、天道様──」
フラントワーズの蒼い顔がさらに白くなる。
そして、ガドニエルの衝撃魔道を阻むかのように、一郎やガドニエルの前に身体を出してきた。
「なんだ? 文句があるのか? 人を魔道で攻撃しておいて、まさか、仕返しをされることを想像していなかったとは言うまいな」
一郎はフラントワーズを睨む。
「……わたしは話を聞いて欲しかっただけでございます。どんな手段を使ってもです……。ここでわたしたちは終わるわけにはいきません……。それだけはできないのです。わたしたちの信仰を……」
「信仰なあ……。いずれにしても、話し合いはない──。それはお前たちが放棄した。お前らが魅了魔道で攻撃しようとしたことで、その機会を失ったと思え……。まあ、もともとそのつもりはなかったけどな。俺は洗脳されておかしくなった女は奴隷にしない。まずは正気に戻ってからだ」
「わたしたちは正気ですよ。どこまでも」
「どうかな。いずれにしても、話は終わりだ」
一郎はきびすを返そうとした。
しかし、その瞬間だった。
突然に、フラントワーズが声をあげて笑ったのだ。
ぎょっとなった。
それくらいに、気味の悪い笑い声だったのだ。
だが、ラジルとランジーナは冷静だ。しっかりとこっちを観察している。そして、フラントワーズと並ぶように再び両脇に立つ。
「ふふふふ、失礼いたしました。やはり、天道様は思った通りのお方でした。もしも、わたしたちごときの魅了術にかかってしまったのなら、そのまま都合のいい開祖様にでも祀りあげてしまうつもりでした。でも、やっぱり天道様は違うのですね。安心いたしました」
そして、フラントワーズが言った。
「貴様、狂いおったか?」
ベルズがフラントワーズを睨みながら言った。
「狂う? もちろんです。とっくの昔に。ところで、天道様、お帰りにはならないでくださいね。わたしたちが王妃様とエリカ殿を人質にとっているのは変わりないのですよ。天道様は話を聞かなければなりません」
「ほう……。健気に謝罪を繰り返しておったかと思ったら、一転して脅迫か? ロウ殿の物言いは理不尽かと思ったが、そうではなかったのだな。心がこもっておらん謝罪というのはまさにそのとおりではないか」
ベルズだ。
「なんとでも……。なら、言い方を変えましょう。天道様、わたしたちが天道様のお役に立てるということを示したら、わたしたちをお認めになりますか? わたしたちに証明をさせてください。わたしたちは天道様にお仕えするだけの価値があります。頭のおかしな役立たずではございません」
すると、フラントワーズが言った。
一郎は首を竦めた。
「役に立とうが、立つまいが、そんなことで俺は女を選ばない。さっきも言ったが、洗脳状態の女を無理矢理に支配しない」
「矛盾してますね、天道様。そこにいるベアトリーチェは性奴隷にしたではありませんか。天道様がわたしたちを性奴隷にするつもりはないという天道様と王妃様の会話にどれだけわたしたちが絶望したかわかりますか? それなのに、ベアトリーチェは性奴隷に迎えられている……。おかしいではありませんか」
「あ、あの、わたしは……」
ベアトリーチェがなにかを言おうとしたもの、結局、言い淀んだ。
フラントワーズがすぐに遮る。
「あっ、ベアトリーチェ、あなたが天道様にお仕えすることになったのは、心から嬉しいのですよ。誤解のないようにね」
「心の狂った者はいらん」
一郎は明確に言った。
「ほほほ、この狂った奴隷宮の中で狂っていることこそ、正常の証でありましょう。天道様、わたしたちは天道様のやろうとなさっていることのお役に立てます」
「俺は、特になにをしようとも思ってないよ。ただ、俺を慕ってくれる者たちを守ろうとしているだけだ」
「わたしたちも天道様を慕っております。それこそ、狂うほどに……。そして、あの娘たちはわたしたちの命です。絶対に幸せにしてみせます。そのためには天道様と信仰が必要なんです」
「いずれにしても、話は終わりだ、フラントワーズ。エリカとアネルザは力づくで取り返す。ただし、最初に言ったとおりだ。傷のひとつでもつけていれば、お前たちの全員を許さない。きっちりと報復する。首を洗って待ってろ」
一郎はもう本気で立ち去ろうとした。
これ以上は無意味だ。
とれる情報など存在しないし、情報をとったところで役に立たない。
こいつらは狂信者だ──。
まともな話などできない……。
「では、これだけ……。先ほどの歌声は魅了術だけの目的ではないのです。わたしたちにだけしかわからない伝言でもあるのです。すでにふたりは捕らえました。残りひとり……。必ず、天道様の前に運んで参ります。ベアトリーチェのように役に立つことがわかってもらえれば、天道様もお認めになりますよね?」
「ふたり? 残りひとりだと?」
一郎は眉をひそめた。
すると、フラントワーズが合図のような仕草をした。
奥側の扉が開き、黄色い布を巻いた三十代女ふたりが、二個の四角い籠を持ってやってきた。
一郎に向かって深々と一礼して、その籠を一郎の前に置く。
やはり、乳首に鈴を吊っていて、ちりんちりんと音が鳴る。
「あっ、これは──」
「えっ? あれ?」
ベルズが声をあげ、ガドニエルも首を傾げた。
一郎もまた、はっとした。
ひとつの籠に入っていたのは、黒いローブとその内側に身に着ける上下の服だ。さらに下着まである。両側を紐で結う“紐パン”だ。
この下着は、まだ世間に売りだしているものではなく、一郎の女たちしか身につけていない。
また、ローブもほかの衣類も潜入させたスクルドに渡したものに間違いない。
もうひとつの籠の中身はミランダが身につけていたものだ。やはり、紐パンも籠に入っている。
「すでに残りひとりです……。もちろん。危害は加えませんが、わたしたちの力をお見せするために捕らえてみせました。このように、すでに救世主様とミランダ様はわたしたちの捕虜です……。そして、残りはコゼ殿ですよね。すぐに捕まえてみせますわ」
フラントワーズがまたもや笑い始める。
その笑いは、まさに狂信者のそれに間違いなかった。