【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「どうした、シャーラ?」
書状に含まれていた「銀録画」を一見して、声をあげたシャーラにイザベラは、声をかけた。
すると、シャーラが嘆息とともに、それを差し出す。
イザベラは受け取って一瞥した。
「わっ、なんだ、これは……?」
そして、思わず首を傾げてしまった。
銀録画に写っていたのは、ロウの姿だ。そして、見知らぬ女がいる。二十代前半を思わせる若い女であり、服装は軍装だと思う。おそらく、近衛兵の将校ではないだろうか。
ただし、ただの銀録画ではなく、ロウとその女将校が口づけを交わしているのだ。
場所は、王都広場ではないかと思う。周りに、その風景と王都住民らしき者たちも写っている。
しかも、女将校は屈んでいて、足もとには失禁を思われる水たまりがあり、その女将校に対して、ロウが身体を屈めて口づけをしているのだ。どう見ても、ロウがその女将校を王都広場で「調教」をしている画像だ。
また、これは想像であろが、この女将校のことは知らないものの、多分、死ぬほどの尿意を催しているにもかかわらず、あのロウから厠を許してもらえずに、そのまま王都広場に強制的に連れて行かれたのではないかと思う。
気の毒なことだ。
イザベラは、ずっと以前に、ロウから手錠で椅子の脚に拘束されて、みんなの前で失禁されられたことを思い出した。
あの男は、のべつ幕なしに、そういうことをして女を辱めるのだ。
まあ、それが「調教」というものらしいが……。
「あっ、先生」
マーズがちらりと、銀録画を覗き込みながら呟いた。
「えっ、ロウ様?」
「ロウ様ですか?」
「ロウ様?」
すると、敷居幕の向こうに隠れていた侍女たちが一斉に飛び出してきた。
「わっ、ロウ様です」
「この女の人は新しい方ですね」
「あっ、多分、近衛兵団のナールさんですよ。見覚えがあります。へええ、ナール様も仲間になったんですねえ」
三人が銀録画を囲みながら口々に騒ぐ。
「なにをしている──。客人の前だ──。さがれ──」
シャーラが一喝した。
三人が慌てたように、奥に引っ込もうとする。
すると、呆気にとられたみたいになっていたマイル伯が慌てたように口を開いた。
「あっ、いや、さがらなくてもいい。そのままいればいいじゃないか。だけど、意外な反応だった。ちょっと驚いてしまった。しかし、仲がいいようだ。これが素の姿なら、そのままでいいですよ。こんな私の相手じゃないですか」
マイル伯は笑っている。
「いえ、申し訳ありませんでした」
三人を代表するように、トリアが頭をさげて謝罪する。ほかの二人も一緒に頭をさげた。
「もういい、そこにいよ」
イザベラも嘆息した。
「ヴァジーには、よく報告しておくわ」
シャーラが不機嫌そうに言った。
三人が顔色を変えたのがわかった。
すると、マイル伯はまたもや笑い声をあげた。
「なんだ?」
イザベラは不機嫌さを隠すことなく、マイル伯を睨む。
「いえ、失礼。さっきも言いましたが、意外な反応だったものですから。しかも、随分と侍女たちに慕われているのですね。仲がよさそうなのがわかります。それにしても、もっと動じるのかと思いました。特に動揺する感じでもない」
マイル伯が頬を緩ませたまま応じる。
すると、シャーラが剣を抜き、そのマイル伯にまたもや剣を突きつけた。
「ひあっ」
マイル伯が悲鳴をあげた。
「どうやら、さっきの話は嘘のようだな。どうやら、フォックス卿から書状の中身をお主は知っていたようだな。知っていて知らないと応じたようだ。じゃあ、こっちの手紙のことも、実は承知しているのだろう? さっさと言え。なんのために、このようなものをフォックス卿は送ってきた──?」
シャーラがマイル伯にすごむ。
また、シャーラは剣を持っていない手で、手にしていた手紙をイザベラに寄越した。
さっきの銀録画とともに同封されていた手紙なのだろう。
「わっ、わっ、ま、待ってください。知っていたって、なんで……」
「つべこべ言うな──。知っていたから、陛下の態度が意外だとか、思ってもいなかった反応だったとかいう感想だったのだろう。くだらぬ駆け引きなどしたくない。さっさと言わんか──。なにを企んでいる──?」
シャーラが怒鳴りあげる。
「ま、待ってくれって──。企みなど──。わっ、わっ、わっ──。い、言う──。本当のこと言うから──。なにを企んでいるかだなんて知らない──。だが、封を切らずに手紙の中身を知る方法など、いくらでもある。だから、ちょっと垣間見ただけだ。俺のような意気地なしで、評判の悪い三流貴族を、宰相殿ほどの大貴族様たちが仲間にするわけがない。ただ、領主として檄に応じて参戦すれば、必ず陛下と直接に面談するはずだから、その書状を渡せと命令されただけです。本当です──」
椅子に座ったまま剣を突きつけられているマイル伯が顔を蒼くして言った。
その雰囲気はなにかを隠しているという感じではない。
シャーラに脅され、その気迫に汗をびっしょりとかきだしている。
イザベラは、シャーラから渡された手紙を一瞥した。
「はあ? 不義?」
手紙に書かれていたのは、書状に同封した銀録画は、イザベラの伴侶になるはずのロウ=ボルグであり、不義の証拠と書いてある。
また、ロウは、ほかにも多くの女と不義をしており、王妃アネルザ、冒険者ギルドのミランダ、同じ冒険者仲間で女騎士のシャングリアなどとも肉体関係があるとも記されていた。
信じられないかもしれないが事実であり、もしも、直接に会ってもらえれば、確かな証拠をお見せすることができる──。まあ、そういう趣旨のことが書いてある。
イザベラは呆れてしまった。
「そこにある手紙の内容が確かな証拠だ──。フォックス卿は、陛下との直接の面談を求める趣旨のことを書いているが、そこには、なにもない。おそらく、陛下の態度次第で、なにかを交渉するように言われているのだろう──? そうだな──?」
シャーラがマイル伯に突きつけていた剣を一度引いて、思い切り前に出して突き刺した──。
マイル伯が座っている椅子の背もたれに──。
「ひいいいっ、わ、わかった──。わかりました──。こ、これだ──。これです──。陛下が泣いたり、喚いたり動揺するようだったら、渡せと言われている書状がもうひとつある。ありますうう──」
マイル伯が震える手で懐から別の書状を取り出す。
シャーラが剣を抜いてひったくる。
「マーズ殿、こいつを見張っていてくれ。おかしなことをすれば、躊躇なく、刺し殺していい」
シャーラが剣を収めて、書状を開く。
「な、なに言ってんだ──。刺すな──。刺さないでくれよ──。これでも、意気地なしの弱虫なんだ。剣で刺されれば死んでしまうよ──」
マイル伯が哀れな声で泣き叫んだ。
イザベラはあまりにも、情けなさそうな姿に、完全に呆れかえってしまった。
ただ、マーズは無言でマイル伯の横に立つ。剣は抜いていないが、ちょっとでもおかしなことをすぐに斬れる位置だ。
それはともかく、イザベラは、マイル伯の物言いに、思わず噴き出してしまった。
意気地なしかどうかに関係なく、刺されれば死ぬだろう。
いずれにしても、おそらく、マイル伯が口にしていることは本当なのだろう。これだけ情けない男が、イザベラに対して、なにかの罠に嵌めるような企みをするとも思えない。
本当に、伝書鳩として、フォックス卿の書状を運んできたのだと思う。
だとしたら、そもそも、この書状の意味はなんだろう?
銀録画にロウが女将校と口づけをしている画像があって、それがなんだというのだろう?
アネルザやミランダやシャングリアが、ロウの身体の関係があるからと、イザベラに教えることで、どういう反応を期待しているのかが、さっぱりとわからない。
「陛下、これには、フォックス卿の求める会合の場所と時間が書かれています。できるだけ、少ない人数で来て欲しいとも記されていますね」
シャーラが言った。
その書状にも眼を通す。
場所は、この陣営から少しの距離にある廃小屋のようだ。そこで会いたいと書かれていた。
時間は今夕だが、連絡をくれれば、時間と場所を合わせるともある。
イザベラは、二通目の書状を最初の書状とともに、テーブルに置く。
「本当に、フォックス卿に書状を渡されただけなんだな、マイル伯?」
イザベラは訊ねた。
「え、ええ、その通りです。なんにも知らないんですよ──。本当です。もしかして、疑ってますか? だったら、なんでも質問してください。なんでもお教えします。だけど、フォックス卿が俺なんかと相手にしなかったのは真実ですよ。あの人は、伯爵ごときをまともには相手にはしません」
マイル伯だ。
それから、幾つか質問したが、これといって情報はとれない。
最終的には、またフォックス卿から接触があれば、必ず報告するように脅して、天幕から追い出すことになった。
「あ、ありがとうございます……。あ、あのう……。それで、フォックス卿の書状に書いてあった場所に、陛下が行くなんてことありませんよねえ……?」
すると、マイル伯がちょっと怯えた顔をしながら訊ねてきた。
「そなたに関係ないであろう──。さっさと去れ──」
シャーラだ。
「すみません──」
マイル伯は、慌てて頭をさげって、天幕から逃げていった。
そして、イザベラたちだけになると、シャーラに向かって、改めて口を開く。
「結局、この書状の意味はわからんなあ。どういう意味があるのだ?」
「そのう……。つまりは、姫様を動揺させ、そこに書いてある場所に来させたいのではないでしょうか? 意味不明の行為ですが、多分、たまたま姫様がショックを受けるような銀録画の画像を入手したので、交渉の切っ掛けとして、利用しようとしたとしか……」
シャーラも半分、首を傾げながら言った。
「ショック? なにをショックを受けるのだ? なにか、その画像にそういう要素が?」
もう一度、銀録画に目をやる。
まともな画像とは言えないが、まあ、ロウならば日常のことだ。特段の珍しさは感じない。
イザベラが動揺する要素というのが思い当たらない。
「ああ、つまりは、ロウ様がほかの女と、まあ、破廉恥なことをしているから……」
すると、ちょっと離れて並んで立っている三人の侍女のうちトリアが口を出す。
「ほかの女と破廉恥なことをしているというから、なんだというのだ? ロウはいつもそういうことをしているし、わたしもされている。もしかして、わたしも、それをされているということを知っているぞという脅しか? だが、不義とか書いてあったな。しかし、なにが不義なのだ?」
「あっ、あのう、普通は姫様のお相手が別の女性と性的関係を持っているというのは、姫様に対する裏切りなので……」
すると、今度は侍女のうちモロッコがおずおずとした口調で言った。
「なにが裏切りなのだ。ロウ殿は最初から、たくさんの女と性的関係があったし、そのロウにお願いをして、調教を受ける代わりに、女にしてもらったのはわたしだ。それなのに、不義というのがわからん──」
「いえ、そんなこと、フォックスは知らないし……」
「それがなんの関係がある──?」
イザベラはわけがわからなくて怒鳴ってしまった。