【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
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「フォックス卿、こんな夜に女王陛下と面会希望だと、お前の使者と名乗る伯爵が伝えに来たが、事前の約束もなしにか──? まあ、失礼千万な伝言だが、こっちから来てやった。話は独裁官の俺が代わりに聞いてやる。さっさと要件を言え──」
いきなり部屋に突入してきたロウが空いているソファにどっかりと座り込み、尊大な態度でフォックスを見下すように言った。
なんだ、こいつ──と一瞬かっとなったが、ロウの後ろには、確か、エリカ、コゼ、シャングリア、マーズという王都でも有名な女傑たちが並び、さらに十本の指から刃物のような長い爪を出している名前のわからない獣人娘もいる。
そのうえに、十人ほどのエルフ族の女兵が武器を抜いて、こちらを威嚇しているのだ。
フォックスは、怒りを飲み込んで、懸命に状況を探ろうとした。
いずれにしても、仮の拠点としているこの廃屋の外には、雇った護衛たちがいる。
テーブルの上にある呼び鈴を鳴らして、彼らに異常事態を知らせようとした。
「動くんじゃないわ──」
だが、手を伸ばした瞬間、フォックスの手と呼び鈴のあいだに剣が差し込まれた。
「うわっ」
フォックスは慌てて手を引く。
「ひゃあ」
フォックスの正面に座っているコサク伯も悲鳴をあげた。
「やめろ、エリカ。呼び鈴を鳴らしたければ、鳴らさせてやれ。それと全員剣を収めろ。別に討伐にきたわけじゃない。話し合いにきたんだ」
「は、話し合いだと……。あっ、いや、話し合いですか?」
武器を構えておきながら話し合いなどという言い草に、フォックスはかっとなったが、慌てて、その怒りを呑み込む。
ここで意地を張っても、なんの得もない。
殺されて終わりだ。
この状況を作られたことで、このロウ=ボルグにしてやられたと言っていい。
思ったよりも直接行動の男だったようだ。
「無駄な血は流したくないな。フォックス卿については、もしも謀反を企てているとしても、取りあえず、言い分を聞いてやれと、お優しいイザベラ陛下が仰せだ。まずは言い分を聞くか……。あっ、そうだ。連れて来い」
ロウが外に通じる扉に声をかけた。
すると、ふたりのエルフ女兵に連行されるようにやってきたベンガル伯が蒼白な顔で部屋に入ってくる。
いや、ひとりは女兵ではないのかもしれない。
やたらに軍装が派手だし、上級将校らしい粉飾も装着している。
「フォ、フォックス卿……」
ベンガル伯は助けを求めるように、こっちを見る。完全に怯えている感じだ。
なにがあったかはわからない。
ベンガル伯に託したのは、イザベラ新女王とフォックスの面談の申し出を急遽させるためだ。
本当は、あの小娘を呼びつけて面談したかったのだが、砦で武装解除に応じず閉門を続けさせているリンも、そろそろ部下将兵を抑えるのも限界に近いらしいというのも承知しており、また、マイル伯が小娘の動揺を誘うことに成功したと伝えてきたこともあるから、絶対に小娘はフォックスとの会合に応じるはずだと確信したのである。
だから、小娘との面談の場で、リンへの説得の使者をフォックスが派遣することを申し出て、小娘に恩を着せることで、新たな王宮での地位を確保することを考えていたのである。
さらに、ロウと小娘との心の離反だ。
恋にのぼせた娘のようだが、その恋人が思ったよりもくずだと知ったことで動揺し、それに乗じて、簡単に御せられると思っていた。
だが、なんで、こいつがここに……。
いずれにしても、ここは下手に出て、やり過ごさなければ……。
ここで首を切られたら、なにも残らない。
フォックスは背に冷たいものが流れるのを感じた。
「ベンガル伯、そっちに座るといい」
ロウに促されて、まだ顔が蒼いベンガル伯が、コサク伯の隣に腰をおろす。
すると、ロウが顔を後ろに向けて、たったいま入ってきた上級将校らしきエルフ族の女兵を見る。
「ブルイネン、外にいた連中はどうなった?」
「全員転がしてます。怪我すらもさせてません。させることなく制圧できましたので……。ロウ殿のご命令があれば、殺しますが?」
ブルイネンと呼ばれた女が無表情で応じた。
確か、ブルイネンというのは、女王親衛隊の隊長の名だ。ここにはガドニエル女王はいないようだが、ロウはそのガドニエル女王の親衛隊長を顎で使う立場なのか……。
これについても、ロウのことを見誤っていた。
予想を遥かに超えるほどに、エルフ族王家に喰い込んでいるみたいだ。
しかし、それはともかく、それについては、フォックスの承知している情報に対して、少し状況が合わないことがあった。
フォックスは、いまロウとともにやってきたベンガル伯を通じて、今日の昼間にマイル伯を通じてイザベラ陣営に渡したのと同様のロウの不義の告発書を銀録画の証拠とともに渡していた。
ベンガル伯の報告によれば、これについて女王陣営は大層に立腹していて、ロウと女王の仲が険悪になったと知らされていたのだ。
だが、もしも、険悪になっていたのなら、大切な女王親衛隊をこうやって、ロウの手足のように使わせるだろうか。
やや疑念に感じた。
「フォックス卿、腹の探り合いなど面倒だから、こっちから訊ねる。この夜中に約束もなしに、女王陛下に急の面談とはどういうことだ。女王陛下は身重である。その陛下に強引にお目通りをしようというのはどういう魂胆だ?」
「魂胆などとは、物騒な」
フォックスは、柔和な作り笑みを浮かべながら言った。
やろうと思えば、いくらでも道化にもなれるし、思慮の熟したような温和な男にもなれる。
内心の高慢さを隠して、律義者の振りをすることができるのは、フォックスの武器だ。
不用心に少人数の護衛だけで戦場近くにいたのは、フォックスの油断だ。
ここは引きの一手しかない。
「物騒だろう。こそこそと鼠のように動いているようだが目障りだ。まあいい。さっさと要件を言え。こっちも忙しいのだ。ああ、言っておくが、陛下は今後もお前とは会わんぞ。会うなら俺だ。だから、もしも、陛下に伝えたいことがあるなら、俺を通じて言うことだ」
ロウが随分と横柄な態度で言った。
フォックスは怒りが込みあがるのを必死で耐えた。
おそらく、ロウはわざとフォックスを怒らせようとしているのだと思う。そうでなければ、仮にも元の宰相のフォックスにこの態度はありえない。
女王たちの権力を傘に着た狼藉ではあるものの、フォックスが暴発すれば、それを口実にロウは、フォックスたちを斬るだろう。
さっきの物言いなら、すでにフォックスの護衛は制圧されている。
耐えるしかない。
フォックスは身体の横で握りこぶしを作った。
「こ、今夜、面談を陛下に申し出たのは、目の前の戦場のことです。砦にこもって、理不尽にも陛下への武装解除を拒んでいるリンという男は、実は当家に所縁のある者でして。私にお任せいただければ、直ちに使者を派遣して説得を……」
「無用だ、フォックス卿──」
フォックスの言葉の途中で、ロウが遮った。
仮にも侯爵のフォックスに対して、あり得ない侮辱である。小娘の気儘で独裁官という役職を名乗っているが、所詮は成り上がりの子爵でしかないのである。
なんと思い上がった男だろうか。
「む、無用とは……。だが、使者ひとつで同じ王国の兵同士で血を流さずとも……」
「血など流れん。リンは放っておけば、陛下に忠誠を誓っている部下たちに背かれて、明日か明後日中には捕らわれる。内応の呼び掛けもしていて、リンに部下の人望がないのもわかっている。心配いらん」
「いや、しかし……」
「それよりも、リンが捕らわれたときに、誰の指図で女王陛下に背くような馬鹿な真似をしたのか、白状するのか愉しみだな。こっちには、天下一の魔道遣いが二人も三人もいる。あいつが卿の名を出さないことを祈ることだな」
「なっ──。わ、私がリン将軍をそそのかしていると申しておられるのか──」
フォックスは怒鳴った。
「そんなことは言わない。だが、心当たりがあるのか? ただ、これだけは言っておく。もしも、リンがあなたの名前を出したとすれば、そのときは、王家に対する謀反人として処罰する。お前だけじゃない。王家への反逆は三親までの一族郎党の処刑だ。王国の法は知っているだろう?」
「わ、私を愚弄するのか──。私は侯爵だぞ──」
「つい最近に、
ロウが微笑んだ。
フォックスは耳を疑った。
「ま、まさか、そんなことは許されんぞ──」
「なにが許されんのだ。俺は無責任にも職務を放棄して王都を脱出した貴族を許すつもりはないからな。俺が独裁官である限り、王都に戻れることはないと思え。領土を安堵できるだけでも感謝しろ。だが、失策があれば、容赦なく廃位するから覚悟しておけ」
「ぶ、無礼な──」
さすがに限界だった。
フォックスは激高して立ちあがった。
すると、目の前が銀色のようなもので顔の前が遮られた。
それが、ロウの後ろに立っていた女たちが突きつけた剣先だとわかったのは、一瞬後だ。
エリカ、コゼ、マーズ、シャングリアの四人の剣に加えて、獣人娘の爪が喉や顔に突きつけられていた。
「ひゃああ」
フォックスは奇声をあげて、ソファに尻もちをついてしまった。
「いきなり動くなよ。俺の護衛たちが驚くだろう」
ロウが笑い声をあげる。
フォックスは身体が恐怖で竦むのを感じた。
ロウが手をあげる。
女たちが武器をしまう。
「とにかく、命が惜しければ大人しくしていろ。ただ、おかしな小細工をリンにしていたならお前は終わりだ。縛り首を覚悟しておけ。家族を含めてな」
ロウが立ちあがりかけた。
だが、なにかを思い出したように、もう一度座り直す。
そして、宙から何かを取り出すようにして、小さな紙束のようなものを出現させた。
「そうそう、忘れるところだった。これのことだがな」
テーブルの上にロウがそれを放り置いた。
「あっ」
フォックスは思わず声をあげた。
ロウがテーブルに置いたのは、フォックスが、マイル伯や右横のソファに座っているベンガル伯を通じて、イザベラ女王やガドニエル女王に届けたはずの銀録画の束だ。
画にあるのは、ロウが女将校を王都広場で性的玩弄をしている光景であり、ロウの不義の証拠としたものである。
それをなぜ、ロウが持っているのだ──?
「面白い写真……、いや、ここでは、銀録画というんだったな……。とにかく、女王陛下たちと愉しく見させてもらった。面白い写真だから、ほかにもあったら寄越せ。新しい画があれば、特別に陛下にお目通りさせてもいいぞ」
ロウが今度こそ立ちあがった。
机に投げた銀録画は回収していった。
ロウが女たちとともに、部屋を出ていく。エルフ族の女兵たちもそれを追って引きあげていった。
部屋が三人だけになる。
しばらくのあいだ、フォックスはあまりの出来事に呆然としてしまって、声を出すことも、動くこともできなかった。
横にいるベンガル伯やコサク伯も同じだ。
沈黙が流れていく。
「お、お館様……」
すると、部屋に家令が入ってきた。家令は完全に疲れ切った顔をしている。
フォックスは、家令に視線を向けた。
「さ、先程の方々は戻っていきました……。護衛や家人についても、とりあえず無事です。申し訳ありませんでした。武器を突きつけられていて……」
家令が泣きそうな顔で深々と頭をさげる。
その家令を見て、やっとフォックスの頭は回りだした。
家令をそばまで呼ぶ。
「砦には、リンにつけている手の者がまだいるな?」
「あっ、はい」
家令が頷く。
砦にこもっている王軍の指揮官であるリンには、フォックスの命令があるまで、理由をつけて砦の武装解除をするなと指示し、さらに、フォックスの手の者で周りを固めている。
だが、ロウや女王側は、どうやら、砦のリン将軍が武装解除に応じないのは、フォックスの手引きだと間違いなく気がついているみたいだ。
こうなってしまえば、フォックスが間に入って無血開城をさせることで、功績を作りあげようとするような場合ではない。
企てがちょっと稚拙であったか……。
万が一、リンが先に捕らわれれでもすれば、フォックスの名前を口に出しかねない。
その前に処分しなければならない。
一刻を争う。
「リンを始末させよ。すぐにだ」
「かしこまりました。直ちに──」
家令が頭をさげて出ていこうとする。
だが、フォックスは呼びとめた。
「……それとグローの者を呼んでおいてくれ。明日には接触したい」
「承知しました」
グローというのは、フォックスの家であるブライトン家が長年使っている暗殺ギルドのことだ。
腕はよく、報酬さえ払えば、確実に暗殺を実行してくれる。失敗しても雇い主の名を出さないということでも信用できる。
フォックスが考えているのは、ロウの暗殺だ。
あそこまで言われれば、もはや、フォックスを含めた一族が生き残るのは、ロウを殺すこと以外には考えられなかった。
王国のためにはロウの存在が必要なので、ロウの女たちを標的にさせようと考えていたが、もはやロウだ──。
死ぬか生きるかである。
殺さなければ、確実に一族が殺される。
フォックスは確信した。
家令が部屋を出ていく。
再び三人だけになる。
コサク伯はがたがたと震えていて、口がきけそうにないくらいに怯えきっている。
ベンガル伯も顔が蒼白い。
しかし、そのベンガル伯が口を開いた。
「……フォックス卿、このままでは我々は終わりです……。こうなったら、覚悟を決めましょう。生き延びるためには、もがくしかありません」
「もがく?」
フォックスはベンガル伯を見た。
「実は、タリオの工作員の伝手があります……。トリスタンという男です……。間に入ります。その男と話してみましょうよ。私など小者ですが、フォックス卿であれば、彼らは話に乗ると思います。条件次第ではないかと」
「条件? タリオだと? どういうことだ?」
フォックスはきょとんとしてしまった。
「いまのロウの態度を見れば、すでに私たちを処断するつもりなのは明らかです。なにもしなければ、罪を鳴らして処刑される運命があるだけです。それよりも、タリオ公国の助けを借りましょう。王家の討伐に備えて、タリオの軍勢をひそかに領土に入れて王家の討伐に備え、あるいは、場合によっては亡命も視野に入れて話し合うのです。その代償として、宮廷や王国の情報を売れば……」
「俺に王国を裏切れというのか──」
フォックスはびっくりした。
「生き残るためです……」
だが、ベンガル伯はフォックスの決断を迫るように、ぐいと顔を突き出してフォックスの顔を睨んできた。
フォックスは、唸り声をあげてしまった。