【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
一郎が強引に独裁官につくこともなく、一郎が王家に加わらないことで、エルフ族王家とハロンドール王国との深い同盟は成立する理由もなく、また、官僚軍団として参加予定の「性教徒」たちも、王家を支えていません。
*
夢を見ていた。
向かい合っているのは、マアだ。
とても疲れた様子であり、別れの挨拶を交わしているところのようだ。
場所は、一郎たちの屋敷らしい。
以前から「幽霊屋敷」と呼ばれていた場所で、シルキーの能力が向上して、外観を焼け焦げた景観に見せているので、名実ともに幽霊屋敷である。
「しばらくのお別れですね、ロウ殿。でも、必ず、お支えします。このおマアにお任せください」
向かい合っている椅子に座っているマアが頭をさげた。
マアは疲れている。それは向かい合っているロウにもわかる。この一郎が手を出すのを憚れるほどに、マアは心身ともに疲労困憊だ。
「わかっているよ……。さすがに、ここまで国が荒れるとねえ……。まともな商売もできないか」
一郎は嘆息した。
国が乱れているのだ。
ハロンドール王国のあちこちでは、重税をかける領主に対する反乱が起き、また、一部の領主による他の領主への武力侵攻が起こったりという具合であり、まるで「戦国時代」の様相だ。
イザベラも頑張っているが、とにかく、周りの貴族たちが悪い。
経験のない少女王であることをいいことに、好き勝手にやっている。一郎の子を産み、どうしても直接に国政から離れることが必要だったことも、イザベラから権力を奪うことになった。
その結果、イザベラの周りの貴族たちが好き勝手をして、その下の役人にもそれが及んでいる。イザベラに求心力がないのもあるが、とにかく、性質のよくない周りが多い。切り捨てることの少ないイザベラだから、処罰も緩くなりがちであり、それが役人たちを図に乗らせている。
その結果が民衆の疲弊というわけだ。
疲弊をした民は賊徒になり、乱れに乱れている。
王都から遠い西側から、ローム国への加入を宣言する領主が増大していて、王国からの離反も徐々に増えている。王家は認めてはいないが、領主たちの離反を阻む能力はいまの王家にはなく、事実上、放置状態だ。
いずれにしてにも、マアも、さすがにこの王国ではこれ以上の商売はできないと決心した。
財と従業員を守るために、ついに、ローム側に拠点を再び移し直すことに決心したというわけだ。
「小さな商売なら目をつけられないでやる方法もあるんだけど、ここまで賊徒が横行しては、ちょっと大きな商売をすると賊徒が目を付けるのよ」
「そんなにも賊徒が?」
横から口を挟んだのはコゼだ。
「賊徒なのだか、賊徒を装った領主なのか……。役所でも商会でも里でも、いまは、なにもかが襲撃の対象よ。まあ、世が乱れたら乱れたで、商売のやりようもあるわ。穀物の値は上がるし、馬も、武器もいる。そういうものを動かしているのは、みんな商人だしね。だから、ロウ殿に財のことで不足をさせることはないわ。それだけは約束する。だけど、従業員の安全が……」
マアは悲痛な表情だ。
いまのハロンドール王国から出ていくことが、一郎を見捨てるような気持ちになっているのかもしれない。
「俺たちのことはどうでもいいよ、おマア。自分たちの安全のことを第一に考えてくれ」
「ごめんなさいね、ロウ殿」
マアは立ちあがった。
見送りは不要というので、ロウはそのままでいた。
するとマアは、進みかけていた歩みを止めて振り返った。
「今更だけど、イザベラ様が女王になったとき、アネルザが言ったとおりに、あなたも新しい王国を動かす立場につくべきじゃなかったかしら」
「俺がか? そういえば、あの頃には、確かにアネルザもそうして欲しいと言っていたけど、まるで素人の俺だよ? そんなのは無理だろう」
一郎は笑った。
しかし、マアは小さく首を振った。
「あたしはそうは思いませんけどね。イザベラ様は真面目で勉強家だけど優しすぎるのよ。そのために周りの者が力を持ちすぎて、勝手なことばかりやっている。そういう点では、ロウ殿は勘がいい。幾つかある選択肢の中で必ず、あなたは最良の選択をする。厳しい判断もできる。施政者に必要なのはそういうことだと思うけどねえ」
「買いかぶりすぎだよ。俺はそこまでの能力はない。それに面倒だ」
一郎は頭を掻いた。
だが、正直にいえば、一郎自身もイザベラの女王としての治政には歯噛みのようなのも感じる。
しかし、アドバイスをする立場でもないし、イザベラもそれは望んでないだろう。
男女の関係であることと、政務のパートナーであることは違うのだ。
「そうですね。おかしなことを言いました。いずれにしても、もう過ぎたことですね。現状では、これからロウ殿が宮廷の中に権力者として入りこむのは、難しいですしね」
マアが微笑みながら嘆息した。
イザベラが女王になったとき、権力の中枢に行くのを嫌った一郎は、イザベラとアンが生んだ子の父親であることを隠した。
隠したといっても、ふたりの王女の父親が一郎であることは、貴族界どころか、庶民でも知っている事実であるので、公式になにもしていないというだけだ。
一郎としても、もしも、あのときに、王配としての地位を確保することをしていれば、いまごろは、多少なりとも、政務のことでイザベラを助けることができただろう。
助けるだけの知恵が一郎にあればのことだが……。
とにかく、いまとなっては、マアの言うとおりに過ぎたことだ。
今更、一郎が宮殿の政務に割り込む方法はない。むしろ、混乱するだけであり、そんな前例を作れば、ただでさえ混乱している傾向のある宮殿人事を大混乱にする。
そもそも、イザベラやアネルザが認めても、周りは絶対に認めない。イザベラが女王になった混乱時期ならともかく、現状では、反対者を皆殺しにするくらいのことをしなければ、ロウが権力に加わることは無理だ。
助けてやりたいとは思うが、それをする気概もないし、その能力が一郎にあるとは思わない。
所詮、SM好きの好色者だけの男であり、女を性で悦ばせる自信はあるが、
「では、しばらくのあいだ、お元気で」
マアが出ていく。
一郎の女たちの中で、一郎から離れる方向に行動をとった最初の女だと思う。
淫魔術で支配はしているので、彼女を残らせるように判断を変えることは可能だが、いまのハロンドール大国の情勢では、マア自身が口にしたように、彼女の従業員の生命が危うくなる。
実際、かなりの犠牲者もいるらしい。
「ロウ様、元気出してください。わたしにはなにもできませんが、ロウ様が元気でなければ、わたしたちは悲しくなります」
エリカだ。
一郎は肩を竦めた。
「俺は元気がないように見えるか?」
「見えるな。このところ、なにか落ち込んでいる。でも、姫様には悪いが、姫様の政治がうまくいっていないのはロウのせいじゃない。ロウにできることなんてない。わたしたちは、王家でもないし、上級貴族でもないのだ」
シャングリアが白い歯を見せた。
彼女の割り切り方は、正直頼もしい。
でも、一郎には、もっと上手なやり方もあったのではないかとも思ったりする。
「もうすぐガドのところ向かう時期になっていますけど、早めますか?」
コゼが横から言った。
ハロンドール王国の女王となったイザベラと、ナタル森林国の女王ガドニエルの両方を愛人にする一郎は、両国を行ったり来たりして生活をするということを続けていた。
だいたい、三十日間隔くらいだ。スクルドがこっそりと展開した移動術の隠し施設で、移動だけは短い時間でできる。
本当は、ガドニエルのナタル森林国をもっとイザベラの強力な後ろ盾にしたいのだけど、表向きには、ガドニエルとイザベラには直接の繋がりがない。そのため、国レベルでの関係は小さいのだ。
これもまた、一郎が権力の中枢に入ることを嫌った一郎の決断の弊害かもしれない。
イザベラとの正式の婚姻をしなかったので、ガドニエルとの婚姻も避けたが、あっちについては、元老院議員のひとりとしての議席もあり、なによりも、女王の権限がイザベラとは比べものにならないほどに強いので、いつの間にか、女王の政務の中心人物のひとりとしての位置づけができつつある。
望まれてもできることなどないので、ほとんど口を出すことはないが、あのガドニエルは、政務のときに一郎が隣にいるだけでご機嫌なのだ。
それは一郎の権力に結びつつあって、気がつくと、あっちの国における一郎の影響力はそれなりになっていた。
一郎の意見が功を奏したことも多く、諸改革も進行中であり、副王のラザニエルによれば、ナタル国は空前の繁栄に向かって飛翔しているそうだ。
ふと思うのだ。
イザベラについても、なにもできないと遠慮するよりも、なにができるのかを考えればよかったのではないだろうか。
もしかしたら、もっとエルフ国の力をイザベラの権力基盤と結びつけ、マアの財力や交易力を政務に反映させていれば、いまの状況とは絶対に違うものになったはずだ……。
「また、考え込んでいるな、ロウ──。できないことを悩むな──」
また、シャングリアが言った。
すると、エリカがすっと立ちあがった。
「仕方ないですね……。シルキー、下から魔道遣い連中を呼んできて──。そして、ロウ様、なにをしてもいいです。だから、もうなにも、考えないでください」
「かしこまりました」というシルキーの声だけが響く。
すると、エリカが両手でスカートの裾を持ち、下着が完全に露出するまでたくしあげる。
「あら」
「ほう」
コゼとシャングリアだ。
「へえ……」
一郎も微笑んだ。
一方でエリカは、恥ずかしそうに膝をちょっと折り曲げて、小さな下着を隠そうとしている。
これには、苦笑するしかない。
恥ずかしいなら、無理しなきゃいいのに……。
それはともかく、ちょっとだけエリカの股間を見ていると、白い下着に丸い染みがすぐに浮かびあがった。
本人は頑なに認めないが、実はエリカには露出癖の傾向があり、こうやって見られると、それだけで興奮して性感があがってしまうのである。
「相変わらず、見られるだけで濡れるのか。大した淫売だ」
わざと汚い言葉を使ってエリカを揶揄する。
そして、エリカの白い内腿をすっと手で撫でる。
「はんっ」
エリカがびくんと身体を反応させる。
しかし、避けない。
じっとスカートをまくった姿勢を維持している。
下着の染みがさらに大きくなった。
「おっ、エリカにしては珍しいな。じゃあ、恥ずかしいが、わたしもやろう。ロウ、元気出せ。わたしも好きにしていい。乱暴にしてもいいぞ」
シャングリアが笑いながら、エリカと並んでスカートをめくった。
「よーし、あたしもよ──」
コゼがさっと横に立ち、半ズボンの前を開いた。
半ズボンそのものは腰から落ちていないが、下着は露出する。むしろ、完全に脱ぐよりも色っぽいかもしれない。
とにかく、一郎が元気がなければ頑張って、いつでも、こうやって元気づけしようとしてくれる。
一郎には勿体ない女たちだ。
「ご主人様──」
「ロウ様──」
「ああ、なにか用事? うわっ、なにやってんのよ? またくだらないことをわたしたちにさせるつもり?」
すると、スクルド、ミウ、ユイナがやってきた。ほかにイットとマーズもこの屋敷に住んでいるが、ふたりは一緒ではなかったようだ。
「いいから、あんたも参加しなさい、ユイナ──。ミウとスクルドもよ──」
エリカがスカートめくりをしたまま怒鳴る。
ある意味、変な光景だ。
一郎は笑い声をあげた。
そのときだった。
目の前に、通信球が出現した。
遠方から魔道遣い同士が連絡をやり合うために使うものであり、上級魔道遣いにしか遣えないが、一郎の周りにいる魔道遣いたちが優秀なので、頻繁にやり取りに使っている。
そもそも、なぜか魔道遣いでもない一郎にも受け取ることだけはできるのだ。
淫魔師の淫魔術と、魔道遣いの魔道は相性がいいらしい。
『アネルザ王妃が視察場所で襲撃されました。現在、細部確認中です。亡くなったという情報も──』
発信者はシャーラだった。
だが、アネルザが襲撃──?
一郎はびっくりした。
確か、アネルザはいまは南域の視察に向かっていたと思う。もともと、キシダインの権力基盤だった南域は、意図的に流通が荒れるままに放置されていたことがあり、そのため、気がつくとかなりの不安定な場所になっていた。
アネルザはそれを立て直すために、幾度となく南方などの地方に足を運んでいた。
ルードルフ王の正妻だったアネルザは、かなりの不人気な存在ではあったが、イザベラを支える人材は乏しく、どうしてもアネルザが表に出ざるを得ない情勢なのだ。
それはともかく、どういう状況なのだ──。
一郎はそれが知りたい──。
「すぐに、王宮に向かおう──」
一郎は大声をあげた。
「あっ、待ってください。すぐに調整します」
エリカがめくっていたスカートをおろして、スクルドを呼んで指示をし始める。
思い出したが、いつもの夜這いとは違う。
一郎が自由に出入りするのは、夜這いのための寝室だけであり、そこについてはスクルドが跳躍施設で繋いでいるが、いまはイザベラは執務用の正殿だろう。
一郎がそこに乗り込むには、それなりの準備と調整が必要だ。
くそ──。
どうしてこういうことになったのか──。
なにがよくなかったのか──。
どうするべきだったのか──。
いや、そういうことを考えることを一郎は放棄してしまったのだ──。
その結果、王国はどんどんと泥沼に陥るように、悪い方向、悪い方向へと傾いた。
今となっては、一郎にもできることは少ない。アネルザも以前とは異なり、権力を握れとは言わなくなっていた。
むしろ、一郎たちを遠ざける感じだ。
そのアネルザが……。
「くそおっ」
一郎は大きな声で悪態をついた。
“ご主人様──。ご主人様──”
身体が揺れる。
ぐらぐらと誰かに揺すられるような……。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
ガドニエルの声だ。
そして、目が覚めた──。
眼を開けると、ガドニエルの顔と剥き出しの乳房があった。
心配そうに一郎を見下ろしている。
そうか……。
夢か……。
また、ガドニエルがなにも服を着ていないのは、夕べ、乱交をしてそのまま寝入ったからだろう。
身体が重い──。
ふと左右を見る。
右横にエリカ、そして、股間を枕にするうように、足のあいだにミウとコゼが寝ている。ガドニエルは左横に寝ていたのだろうが、いまは心配そうに、座って一郎を見下ろしている。
全員が毛布を身体にかけているが、その下は全裸である雰囲気だ。
ほかの女たち……マーズ、ユイナ、イットも、好き勝手に天幕に敷き詰めたマットの上で適当に場所を見つけて丸くなっている。
あっ、ベアトリーチェもいた。彼女だけは服を着て寝ていた。
また、イザベラはいないみたいだ。
女王であるイザベラには、別に宿営だけの天幕があり、そっちに移ったのだろう。
当然に、シャーラ、ヴァージニア、侍女三人もそっちだと思う。この天幕内には見当たらない。
そして、シャングリアもいない。
この陣では騎馬隊の一隊を率いている彼女は、フォックスを襲撃した後には隊のところに帰り、夕べはこの天幕には泊まらなかった。
イライジャもそうだ。兵站施設地域に寝泊まりをするということで、一郎たちに挨拶だけをして、早々に戻っていった。一番忙しそうだった。
そして、亨ちゃんもいない。亨ちゃんについては、どこで寝ているのかは知らない。
天幕の入口の隙間から外を見る。
どうやら、かなりの早朝みたいだ。
夜は辛うじて明けている感じたが、まだまだ薄暗い。
「どうした、ガド?」
一郎は横になったまま、ガドニエルにささやいた。
身体を起こそうと思ったが、そうすると一郎にくっつているみんなを起こすことになる。
だから、横になったままでいた。
「苦しそうでしたので……。なにか、嫌な夢でもみられましたか? それに、魔力のようなものがご主人様から発散されてましたし……」
「えっ、魔力?」
一郎は訝しんだ。
もちろん、一郎は魔道遣いじゃないから、魔力を発散するということはない。しかし、淫魔師である一郎は、能力を使うときに淫魔師としての力の源である淫気を発散しているらしい。
それが魔道遣いたちからすると、魔力を発散しているように感じるようだ。
それはともかく、もしかしたら、無意識に、なにかの淫魔術を使っていた?
しかし、なにかが変わっているようにも感じない。
眠っている女たちも、すやすやと寝息をかいている。
「もしかしたら、さっきの夢かな?」
妙にリアルな夢だった気がする。
いまでもはっきりと覚えている。
ただし、突っ込みどころ満載の夢でもあった。
なんだ、あれ?
一郎が権力の中枢に加わらなかったときの未来?
でも、ありえないだろう。
あそこまで王国が荒れて、それまでずっと放置するなど……。
だけど、なにかの暗示として、一郎のなんらかの能力が、そんな架空の未来の夢を一郎にみさせた?
なんのために?
「あっ……、ロ、ロウ様? 起きられたのですか?」
エリカだ。
剥き出しの乳房を一郎の胸に載せるような感じで、一郎に抱きついて寝ていたが、目を覚ましたみたいだ。
「ああ、おはよう、エリカ」
「そうですか……。申しわけありません……」
エリカが身体をあげて覆い被さり、一郎に唇を重ねてくる。
舌を一郎の口に差し入れて、ねっとりと舐め回す。
最初に会ってからずっとやっている朝の儀式だ。
一郎はエリカを下から抱きしめつつ、エリカの舌を舐め返す。
エリカの鼻息が荒くなり、声に甘い響きが混じってくる。
「あ、ありがとうございます」
口を離すと、すっかりと顔が赤くなっているエリカが呆けた感じで言った。手で隠しきれずに、こぼれている乳首が固く勃起していた。
一郎は微笑んだ。
「あっ、わたしともです……」
ガドニエルが慌てたように口づけをせがんできた。
同じように口づけをしてやる。
ねっとりとガドニエルの口を舐め回し、ガドニエルの股間から女の匂いがたっぷりとするまで刺激してやった。
「ふう……。はあ、はあ……。あ、ありがとうございました、ご主人様……。す、素敵でした……」
一郎が口を離すと、ガドニエルが荒い息をしながら礼を言う。
だが、いつも思うが、どうして、一郎の女たちは一郎から悪戯されたあとで、礼を言うのだろうか?
礼を言うべきは、愉しませてもらった一郎なのだが……。
まあ、いいか……。
「コゼはまだ寝ているんだな」
口づけを済ませた一郎はゆっくりと身体を起こして、一郎の股を枕にしているコゼたちを見た。
いつもは、一郎が起きると一番に口づけを強請るコゼだが、珍しく起きない。寝る前にかなり責めてやったら、まだ疲労がとれないのかもしれない。
すると、一郎が起きたことで、すぐにもうひとり身体を起こした者がいた。
「あ、あのう……、て、天道様……。お、おはようございます」
ベアトリーチェだ。
彼女については、軍装姿だ。
ただ、せわしなく身体をもじつかせている。とても落ち着きがない感じだ。
一郎はほくそ笑んだ。
「おはよう。どうかしたか、ベアトリーチェ? 苦しそうだな」
ほかの者を起こさないように、小さな声で返事する。
なにを困っているのかはもちろんわかっている。
わざわざ訊ねるのは、ちょっとしたいやがらせだ。
「あっ、は、はい……。あのう……。できれば、朝の小尿をお許し願えたらと……」
ベアトリーチェが遠慮気味に言った。
彼女には、まだ放尿を自由にすることは禁止しているし、放尿は一郎の目の前に限ると申し渡していた。
もしかしたら、一郎が目を覚ますのをずっと待っていたのかもしれない。
実は、ベアトリーチェには、昨日から小便を我慢させたままなのだ。そして、小便を許さずに、我慢させたまま寝かせた。
どうやら、朝になったということで、耐えていた放尿の許可を受けたいようだ。
思い出したが、なんだかんだで、いつもはさせるおしめもさせてない。
寝小便でもすれば、また懲罰の理由ができて面白いと思っていたが、見たところ寝小便をした気配はないみたいだ。
なんとか、ひと晩、耐えきったのだろう。
「ああ、そうか。じゃあ、放尿といくか。一緒に外に来い。後手に手錠をかけてな」
一郎は亜空間から手錠をひと組出して、ベアトリーチェに渡す。
「はい……。よろしくお願いします……」
ベアトリーチェが手錠を受け取った。自分で後手に手錠をかける。
さて、今朝はどんな風に、ベアトリーチェの放尿で遊んでやろう。
ミウとコゼを起こさないように、そっと身体を離して立ちあがる。
静かに服を着る。
エリカとガドニエルが手伝う。
「同行します」
「わたしも一緒ですわ」
ベアトリーチェを連れて天幕の外に出ようとすると、急いで服を身につけたエリカとガドニエルがついてきた。
四人で天幕の外に出る。
やはり、まだ薄暗い。
日の出まではしばらくあるだろう。だが、明るさはある。十分だ。
ベアトリーチェをどこでおしっこをさせようか?
この薄暗さだと、遠くからではわからないので、周りの味方の陣地から見えるくらいの場所でもいいかもしれない。
破廉恥な姿を晒させたところで、ベアトリーチェやナールやラスカリーナたちについては、一郎の性奴隷であることを公然する予定なので、全く問題ない。
すると、ブルイネンがこっちにやってくるのが見えた。
「あっ、もう起きられましたか。おはようございます、陛下、ロウ様。エリカさんとベアトリーチェさんも」
ブルイネンが目の前まで来て言った。
それぞれが挨拶を交わす。
「ブルイネン、なにか用事ですか?」
ガドニエルだ。
「あっ、はい……。ロウ殿に」
「俺?」
「ええ、実は、お客様が来ておられまして……。人間族の貴族です。領主隊を率いてやって来た者のひとりで、まだ、寝ていると伝えたところ、起きるまでここで待たせてくれと言って立ち去らず……。とりあえず、ロウ殿には報告だけはしておこうと思いまして」
一郎たちの直接の警備をしているのは、ブルイネン以下の親衛隊の女兵たちである。
だから、一郎たちに訪問をしようと思えば、その警備のブルイネンたちに最初に接触することになる。
それにしても、誰が来たのかは知らないが、こんな早朝に?
「こんな非常識な時間に、誰なのです?」
エリカも怪訝そうだ。
確かにとんでもない時間だ。
「マイル伯と名乗っています。どうしても、ロウ殿に話したいことがあると言っております。緊急とのことです。砦のことで言っておきたいことがあると」
砦?
振り返って、距離のある対陣している王国軍の外郭砦を見る。
特に変化はない。
昨日からは、これといった動きもなく、お互いに膠着してにらみ合っている状況が継続している。
一郎は昨日合流しただけだが、この対陣状態になってもう五日だ。
これを作為しているのは、フォックスであり、夕べはさんざんにそのフォックスを脅してやったから、そろそろ動きもあると思うが現段階では変化はない。
「そうか。マイル伯って、イザベラにおかしな書面をもってきた貴族か。まあ、行ってみるか」
一郎は決めた。
そして、マイル伯のことも思い出した。フォックスの指示でイザベラに、くだらない写真──ここでは“銀録画”というのだが──を持ってきた領主であることを思い出したのだ。
シャーラによれば、とんでもない弱虫で情けない小者だと説明していたが、多分、フォックスの息のかかった貴族のひとりだろう。
なんの用事なのか?
まあ、会うか。
どうせ、暇だ。
それに、ベアトリーチェを揶揄って、そのマイル伯の前で粗相とさせるのも愉快かもしれない。
ちょっと、意地悪を思いついてしまった。
「ベアトリーチェ。小便は後だ。一緒にそのまま来い」
一郎は意地悪く、手錠をしたままのベアトリーチェに命令し、ブルイネンに案内をするように指示した。
後ろからついてくるベアトリーチェが辛そうに息を吐くのが聞こえた。