【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
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「申し訳ございませんでした──。そして、お願いします──。この通りです──」
清々しいまでの土下座だった。
地面に額をこれでもかと擦りつけ、およそ伯爵ほどの地位のある貴族が簡単にする格好じゃない。
とにかく一郎は困惑していた。
困惑している理由は大きく三つだ。
ひとつは、やはり、このとんでもない時間だ。
およそ、人を訪ねてくる時間ではない。白々と夜こそ開けかけているが、まだ夜に近い刻限だ。
緊急の要件だと、目の前の土下座男……つまりは、このクラウディオ=マイルがブルイネンに告げたみたいだが、やってくれば、いきなりの土下座の謝罪だ。
訳がわからない。
いや、お願いとも言ったか?
もしかしたら、そっちが本命?
いずれにしても、出会っていきなり土下座をされれば、誰だって困惑するだろう。
しかも、こいつは、一郎の敵だと思っていた相手だ。
困惑のふたつ目の理由は、こいつの連れの奴隷に対する態度だ。
この世界の奴隷に対する態度は酷いものだ。
奴隷に「人権」など存在せず、主人の支配する「物」として扱われる。もちろん、人間として大切にする主人もいるが、自分の奴隷になにをしても罪にはならない。
このクラウディオは、五人の男女の奴隷を連れていたが、クラウディオ自身が地面に頭を擦りつけたときに、跪いていた奴隷たちは、慌てて同じように土下座をしようしていたが、クラウディオはそれを叱ったのだ。
これは主人である自分のすることであり、お前たちはなにもしなくていいと怒鳴ったのである。
奴隷たちも困惑した様子だったが、それだけを見ても、この伯爵と奴隷たちの関係性がいいことがわかる。
それだけで人間性を判断できるわけじゃないが、そのときのちょっとしたやり取りに接しただけで、クラウディオと奴隷の仲がすごく気安いのがわかった。
あえて、そうしている気配は皆無であり、ものすごく自然だ。
ともかく、そういうわけで、目の前のクラウディオが土下座をして、後ろの五人の男女の奴隷は膝をついて困った表情だという光景になっている。
その違和感が困惑のふたつ目──。
そして、三つ目の困惑は、このクラウディオ=シモンのステータスだ。
こいつのことは耳にしていた。
フォックスからの書簡とやらをわざわざ運んできた小者だと聞いていた。怒ったシャーラが剣で脅したら、恥も外聞もなく泣き叫んだと言っていた。
だから、気にもしていなかったが、こいつが弱虫だと?
“クラウディオ=マイル
伯爵(王領代官)
人間族、男
年齢30歳
ジョブ
戦士(レベル50)
施政力(レベル20)
交易力(レベル20)
調教師(レベル25)
攻撃力:1500(剣)
魔道力:20
経験人数:男25、女50
所有性奴隷
男5 、女15”
戦士としてのレベルは、魔道戦士としてのシャーラやエルフ族親衛隊長のブルイネンよりも上だ。
剣でも攻撃力も、“1500”とあり、これだけの剣技の持ち主はそういない。
それなのに、この男はシャーラに小者の弱虫と思わせる態度をとることができ、こうやって土下座だって躊躇なくできるのだ。
これは、大した男である。
一郎は確信した。
領主としての治政や交易の能力も高い。
なによりも、“調教師”のレベルが“25”だと──?
面白い──。
こっちは、愉快な困惑だ。
いずれにしても、その困惑の相手は、ひたすらに頭をさげている。
「ああ、俺に面談希望ということだったけど間違いないか、伯爵?」
一郎は、とりあえず言った。
ブルイネンによれば、この伯爵は一郎に面談を希望しているということだった。しかし、いままでイザベラに面談を希望しても、一郎に寄ってくる者などない。
夕べのフォックスのときも、イザベラに面談を希望するのを一郎が強引に割り込んだのだ。
これからについては、ほとんどの者をそのように対応するつもりである。
だが、この男は最初から、一郎を面談者に指名してきた。
それはともかく、一郎の粗雑な物言いは、意図的なものだ。こうやって、イザベラの味方を慎重に見極めているということもあるし、貴族たちの敵意を一郎に集める狙いもある。
この男はどうだろうか?
「もちろんです。独裁官閣下に庇護を求めます。そのために来ました。そして、謝罪します。昨日、俺は女王陛下を怒らせましたが、本意ではなかったのです。私の預かる領地は、フォックス侯爵領に近く、その傘下に入らねば、領民を守ることができません。しかし、私は徹頭徹尾、王女派、いえ、独裁官派です──」
グラディオスが地面に頭をつけたまま怒鳴るように叫ぶ。
一郎は感心していた。話の中身はともかく、こいつは、やろうと思えばどこまでも下手に出れるみたいだ。
独裁官だといっても、強引に名乗っているだけで、貴族からすれば成り上がりのしかも子爵でしかない。
だが、実際には、隠している実力……。
こいつは、多分食わせ者だ。
一郎は確信した。
「とりあえず、立ってくれるか。話もできない」
「ありがとうございます」
グラディオスが立ちあがる。
顔には、人懐っこそうな満面の笑みを浮かべていた。
「まあいい。それで話というのは、俺の庇護に加わりたい。それだけでいいか。なら、それは了承した。わざわざ、挨拶に来てくれたことだしな」
「えっ、そんな簡単に?」
すると、グラディオスは逆に呆気にとられた顔になる。
「不満か?」
「いや、だって、女王陛下や、シャーラ護衛長殿は、散々に怒っていたし、まあ、それも仕方ない状況でもありましたし……。だから、言い訳もたくさん準備して、土産話も……。あっ、そうだ。武装解除に応じない砦の主のリンは、フォックス卿と通じております。その情報を手土産にしようと……」
よく喋るやつだと思った。
まったく伯爵ほどの身分らしくない。
一郎は苦笑した。
「いい情報だ。感謝する、伯爵」
一郎は微笑んだまま言った。
「あれ? もしかして、知ってました?」
「知っていたし、手は打っている。城内には投降をしたがっている者もいくらもいる。リンを殺すか捕らえるかすれば、罪には問わないと、夕べのうちに話を入れてみた。そろそろ変化があってもいい頃かな」
一郎は事も無げに言った。
フォックスを脅迫するとともに、ピカロを使って、幾人かの砦内の要人に狙いを付けて、一郎の署名の入った文書を作って届けさせた。
もっとも、この国の文字の読み書きのできない一郎なので、実際に“ロウ=ボルグ”の署名を書いたのはエリカなのだが……。
いずれにしても、もうその情報が流れたところでどうでもいい。
それに、おそらく、こいつは信用できる。
根拠はないが勘だ。
味方にして損はない男だと思う。
なによりも、“調教師”のジョブ……。
一郎と同じ趣味か……。
そんな男と縁ができる機会を大事にしないわけがない……。
「これは……お見それしました」
グラディオスはちょっとがっかりした顔になる。
彼としては、重要な情報として密告し、手柄のようにしようと思っていたのかもしれない。
それはともかく、こっからが本題だ……。
「とにかく、庇護ということなら、伯爵が裏切らないなら使ってやる。褒賞が欲しいのなら、功績をあげてくれ──。じゃあ、話は終わりでいいか? 小便を待っている女がいるんでな。漏れそうな小便を昨日から我慢させている。これ以上待たせると漏らすかもしれない」
一郎はわざと言った。
「て、天道様、そ、そんな──」
ちょっと後ろに立って待っているベアトリーチェが真っ赤な顔になった。必死に後手手錠がばれないように隠して立っているが、ばらしてしまえば、ベアトリーチェが不自然に足をそわそわともじつかせているのも、両手が背中側から動かないことも、わかるだろう。
一郎はほくそ笑んだ。
「えっ、もしかして……。調教中……?」
グラディオスがはっとした顔になる。
初めて、一郎以外の者たちに視線を向ける。
そして、ベアトリーチェだけでなく、ガドニエル、エリカの美貌にも接して、ちょっと目を丸くしている。
「ああ、同好の士だ」
一郎はにやりと笑った。
すると、グラディオスが破顔した。
「あれ? もしかして、そこにおられるどちらかは、ガドニエル女王陛下ですか?」
グラディオスがエリカとガドニエルの両方を見て言った。
どちらかが女王ではないですかというのは、随分と失礼な物言いだが、この男が言うと、それを感じさせない。
思わず笑いたくなる。
「えっ、わたしは違います」
エリカが首を慌てて横に振る。
「わたしは、ご主人様のただの性奴隷ですわ」
ガドニエルだ。
基本的には、顔を出さないことになっているので、ガドニエルなりに、しらを切ったのだろう。
「ええ、性奴隷? 本当に? 本当? だったら、是非、一度そちらの趣味についてもゆっくりと話を」
「それについては、こちらこそ、お願いしたい」
一郎は握手のために手を出す。
そういうことを話のできる男には初めて接した。辺境候のところのシモンも同じ性癖の語り相手といえばないことはないが、あっちは一郎を師匠呼びしていて、対等の相手という感じはない。
一郎の性癖の話ができるなら、こんなに嬉しいことはない。
「ああ、こちらこそ──」
グラディオスが慌てたように一郎の手を両手で包む。
「へえ……。じゃあ、一度手合わせでもしましょうよ。俺の性奴隷に手を出したら、たとえ、独裁官閣下でも容赦しませんけど、目の前で調教比べでもしませんか。俺の奴隷たちは優秀ですし、俺には絶対服従します。しかも、淫乱で可愛い連中です」
「手合わせ? へえ、面白いな。是非とも──。もちろん、俺の女に手を出せば、生まれたことを後悔するような目に遭わせるが、調教比べというのも愉快だ。やってもいい」
一郎は握手を交わしながら言った。
「ロウ様──。しません──。しませんよ、そんなこと──」
エリカが真っ赤な顔で怒鳴った。
「わかった。だったら、調教比べの最初はエリカだ。愉しみにしてろ」
一郎は大笑いした。
「やったら、やです──。他の人の前なんて、絶対です──」
エリカがさらに声をあげた。
「ははは、まだまだ、調教が足りないじゃないですか。それに比べて、俺の奴隷は俺のためなら、なんでもしてくれますよ。それに強いし、頭もいいし……」
「それなら、俺の女たちも同じだ。エリカは照れてるだけだ」
「照れてません──。嫌って、言ってます」
エリカだ。
「拒絶してますよ、独裁官閣下」
「それを無理矢理に従わせるのが愉しんだろう。それが調教の醍醐味だ」
「まあ、確かにそうですねえ……」
グラディオスがちょっと真顔になって考える仕草になる。
もしかして、こいつちょっと面白いかも。
一郎は愉しくなってきた。
「いずれにしても、独裁官閣下が同じ性癖とは嬉しいですねえ。じゃあ、ちょっとした余興をお見せしますよ。庇護に加えて頂くお礼です。持ってきたネタは大したことなかったみたいなんで、その代わりですよ……。ピア、ちょっと来い──」
グラディオスが後ろを振り返って、跪いている五人の奴隷の中からひとりを呼んだ。
ひとりの膝丈のスカート姿の少女が駆けてくる。
「なに、ディオス?」
ピアと呼ばれた少女がやって来た。
このグラディオスの奴隷のはずだが、言葉使いはぞんざいだ。
グラディオスが彼女を一郎の前に出す。
「うちの兵站責任者です。とても頭がいいんですよ……。さて、ピア、命令だ。スカートをめくってお見せしろ」
そして、グラディオスが言った。
「えっ──。だ、だって、あたしは……」
ピアという少女の顔が真っ赤になった。
それはともかく、どうやら調教合戦か。
面白いことになったかもしれない。
これは受けて立たないとな。
さて、じゃあ、一郎としては、誰をどうしよう。
一郎は三人の女を見回した。