【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
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やって来たのは、マイムの城郭内にある高級娼館だった。
ここまで随分と手の込んだ入り方をした。
つまりは、フォックスは、まずは家紋のない馬車を離れた場所に停めさせ、そこから護衛数名に守られながらベンガル伯から受け取った手紙に書いてあった通りに、一軒の商家に入ったのだ。
もちろん、フードで顔を隠したままである。
そして、その商家で出迎えた男の案内により、商家を素通りして裏から抜け、路地を跨いで向かいの小さな家に入った。
そこに地下に降りる階段があり、そこから地下通路を使って、この娼館までやって来たのである。
ここには、顔を隠して入る者や、隠れて入りたい者のために、こんな仕掛けもしているらしい。
娼館ではあるが、別段、ここで女を抱きにきたわけではない。
秘密が守られ、訪問したことが発覚しない場所ということで、ベンガルが選んだ場所だ。
フォックスは、この場所である人物と面会をすることになっているのだ。
とにかく、娼館にやってきて案内をされたのは、四周を閉鎖されたレストランの個室のような場所である。
護衛は別室に待たせた。
すでに、ベンガル伯は待っていて、フォックスを認めると立ちあがって恭しく頭をさげて挨拶をしてきた。
フォックスは、軽く手をあげてそれを受け、円卓の奥側に座る。
すぐに、下着が見えるほどの異常に短いスカートの美女が三人ほど入ってきて、ベンガルとフォックスの前に、それぞれに泡の立つ酒と五皿ほどの小皿に乗せた肴を運んできた。
「呼び出すまで誰も来るな。料理も酒も持ってこなくていい」
ベンガルが無表情で女たちに告げる。
女たちが頭をさげてから去り、部屋はフォックスとベンガル伯のふたりだけになった。
「わざわざ、ご足労をありがとうございます。失礼ですが、誰かに見られている可能性は?」
「俺を誰だと思っておる、その心配はない」
フォックスは吐き捨てた。
ここで面会をする予定の人物というのは、タリオ公国の諜報員のトリスタンという男である。
仲介をしたのは、目の前のベンガル伯であり、迷った末にフォックスは彼と会うことにした。
これが王国に対する裏切りとは思わない。
フォックスが生き延びるために必要なのだ。
独裁官を僭称しているロウ=ボルグが王権を簒奪するために、フォックスを追い落とそうとしているのはわかっている。
おそらく、そうするのだろう。
いまは、まだフォックスに手を伸ばしてはいないが、いまやっている凱旋式が終わり、新女王とともに王宮に入るとともに、すぐにフォックスの捕縛に移行するであろうというのは予想がついている。
ベンガル伯を通じてだが、その手配もしているという情報も握っている。
冤罪ではない。
リンを使って、イザベラに抵抗をさせたのはフォックスであるし、南域の動乱にイザベラの出兵をけしかけて、罠の誘導したのもフォックスのしたことだ。
十分な女王に対する裏切りだろう。
そもそも、旧貴族たちに手を回して、反女王の派閥作りをしようとしている。
その対抗として、ロウから示唆されたイザベラが、フォックスを処断しようとするのは明白だ。向こうは王権に握ったのだ。いくらても好きなように罪を鳴らせる。
だから、生き延びるためには、タリオに王国を売ってでも、フォックスと一族を守るための算段をするしかないのだ。
フォックスは、自分が追い詰められているのを自覚している。
「よかったです。ところで、コサク伯は?」
ベンガル伯が訊ねてきた。
フォックスは不機嫌を隠すことなく鼻を鳴らした。
「体調がすぐれんそうだ。あの臆病者は、すっかりとあの成り上がりを怖がって、屋敷から出てこんのだ」
吐き捨てるように言って、目の前の酒を口に含む。
一時は、完全に集約できるのかと思っていた反女王の派閥だが、イザベラの一連の行動を通じて、どうやらエルフ族女王のガドニエルが本当に後ろ盾になっているのが明らかになってくると、一気にその勢いが消滅してしまっていた。
ロウの台頭に不満を抱く大貴族の者たちも、少し様子を見ようという態度の者が大半になってきた。
まあ、このベンガル伯や、ここに来なかったコサク伯に限っては、フォックスから離れることはあり得ないとは思うが、そのコサク伯までもが引きこもりを続けている状況は、面白いものではない。
「……わかりました。いずれにしても、随分とマイムの城郭も閑散としたものですね。この娼館に来るのに、ほとんど人には会いませんでしたよ」
「あの成り上がりが、まるで王のように振る舞って凱旋しているのかと思うと、腹も煮えくり返りそうになるがな」
フォックスは言った。
ベンガル伯の手引きでタリオの諜報組織の長であるトリスタンという男と、このマイムで会う日が、王都で行われるイザベラ女王たちの凱旋式の日に合致したのは偶然ではない。
マイムは、副王都という別称があるほどに、王都に近い。
そのため、王都で行われる凱旋式には、多くの住民が王都に集まるし、警備の兵も王都に集約される。
だから、マイムではタリオの諜報員が動きやすくなるのだそうだ。
ベンガル伯に言わせれば、それもあり、トリスタンはフォックスとの会合を、今日のこの日にし、場所もマイムに指定してきたのだということだった。
「ところで、そのトリスタンという男はいつ頃来るのだ?」
この部屋で待っていたのは、ベンガル伯だけだった。
身の安全の保障を頼む立場とはいえ、待たされる側になるのは、フォックスとしては愉快ではない。
「あっ、いえ、もう来ております。ただ、別室で接待を……」
すると、ベンガル伯がちょっと言いにくそうに告げてきた。
「接待?」
「ちょっと困った趣味の男でしてね。我々の面談に応じる代わりに、ちょっとした余興を要求されました。まあ、その程度で気分がよくなって、こちらに有意な話し合いが望めるというのであれば安いものなので、好きなようにさせてます」
「ちょっとなにを言っているかわからんな。つまりは、そのトリスタンとやらは、すでにここに到着しており、別室で待っているということか?」
「待っているというか。愉しんでいるというか……。まあ、ちょっと倒錯した性癖のある男のようで……。欠点というか、御しやすいというか……。とにかく、行きましょう。向こうの条件は、新しい女奴隷候補の提供でしてね。奴隷集めが趣味の男なのです。だから、接待として、女を提供しているというわけでして……」
「女? 娼婦をあてがっているということか?」
「いや、このマイムにある中級どころの商家の若い夫人です。手を回して、夫を捕縛させました。その夫人には、トリスタンをマイムに駐屯している王軍の大物と思わせてます。まあ、そんな細工を……。とにかく、奴隷集めが趣味の好色な男なのです。だから、女をね」
「はあ? わからんなあ。それでなにをするのだ?」
フォックスは首を傾げた。
よく理解できない。
「そのトリスタンという男は、ただ女を抱くのではなく、とことん追い詰めて、嗜虐しながら抱くのが趣味なのです。そして、性奴隷にしてしまうのですよ。まあ、そんな趣味の男でして……。別室で、あてがった平民の夫人を抱けば、満足するんですよ。とにかく見物に行きましょう」
ベンガル伯が横の台から顔の半分が隠れる飾り付きの仮面を取り出して、フォックスに渡してきた。
フォックスがそれを受け取って顔に着けると、ベンガル伯も装着する。
ベンガル伯の案内で立ちあがり、フォックスが入って来たとは反対側の扉に向かう。
そこを開けると、驚いたことに、全く同じような円卓のテーブルがあり、フォックスたちと同じような仮面を顔につけた男が座っていた。
彼がトリスタンなのだろう。
そして、テーブルを挟んで女が立っていて、フォックスたちを認めて、慌てたように身体を動かした。
なかなかの美人だ。年齢もまだ三十にもなっていないだろう。
「おっ、来ましたね。先に愉しんでますよ。どうぞそちらに……。詳しい話は後で。とにかく愉しみましょう」
トリスタンだと思われる男がフォックスたちを認めて上機嫌にテーブルにある席を勧める。
テーブルには四個の椅子があり、食事や酒がテーブルにびっしりと載せられている。
フォックスは会釈とともに、簡単な挨拶をすると、トリスタンを挟むように席に着く。
「……ところで夫人、なにを勝手にスカートをおろしているのだ。あんたの主人の命は俺が握っていると説明したはずだがな。俺の命令には絶対服従。それとも、お前の夫が牢でどうなってもよいなら好きなようにするがいい」
すると、トリスタンが若い女に冷たい口調で声をかけた。
「ああ、そんなあ」
女が泣きそうな顔になり、震える手でスカートの裾を握り直す。すると、女が羞恥に顔を歪めながら、スカートの裾をあげ始める。
なるほど、そういう設定なのかと思った。