【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
目が覚めたときには、すでに外は明るかった。窓から入ってくる日差しは、いまが朝どころか、
「これは寝過ごしたようだ」
フォックスは、ひとりで苦笑するとともに、呼び鈴を鳴らして家人を呼ぶ。
すぐに三名ほどの侍女が家令とともに入ってきて、寝台の横に洗面用のお湯や食事などを並べだした。
ひとりがフォックスの顔をお湯を絞った布で拭き始める。食事用の台も寝台に準備される。
「ティル殿から伝言が来ております」
家令がメモのような手紙を盆の上に載せて差し出してきた。
ティルというのは、トリスタンの偽名だ。家人には大切な客人だとだけ説明していた。
ここは、フォックスがマイムの城郭に準備した別宅である。
王都屋敷を没収されたかたちになっているフォックスが、急遽、王都に隣接するマイムの城郭内で買い入れたものであり、やや手狭だが上級貴族用に造られている建物だ。
あの王都の騒乱を契機に、家族は王国中央地区の領土に戻したが、貴族工作をしなければならないフォックスには、どうしても王都近傍に拠点が必要なので、ここを確保して、十人ほどの家人を寄せて基盤としていた。
二階建てであり、特に都合がよかったのは地下に数個の牢があることだ。
最初は、地下の使い道については考えてなかったが、あのトリスタンから女奴隷候補を預かることになり、いまはそこに監禁させている。
調教という名の洗脳を行うには、非常に重宝する場所だ。
「ティル殿が今日も訪問する。昼過ぎには来ると思うので、そのときは地下に案内しろ。俺は朝食後から、すぐに地下にこもる」
「かしこまりました」
家令が頭をさげる。
トリスタンからの伝言は、今日の昼過ぎにここに顔を出すという簡単なものだ。フォックスにしかわからない表現を使って、フォックスに対するタリオからの便宜についての更なる話し合いをしたいという趣旨のことが記されているが、十中八九、あの男の興味は、フォックスが地下に預かっているイヴだろう。
フォックスの息のかかっているベンガル卿がトリスタンへの饗応として連れてきたイヴという商人の若妻だったが、驚いたことに、トリスタンという男が手を変え品を変えて加えた拷問のような責め苦に耐えきり、結局、隷属の誓いを結ぶことができなかったのだ。
隷属の誓いは心からの本人の屈服が必要だ。つまりは、あの弱々しそうな女だと思っていたイヴは、思いのほか心が強いようなのだ。あるいは、それほどまでに夫への操が強いのか。
トリスタンはむしろ狂喜し、これほどに躾がいのある獲物なら、是非とも、徹底的に時間をかけて洗脳をしようということになった。
ただ、長く監禁をするための適当な場所がトリスタンには準備できず、丁度いいのでフォックスのマイムの別宅で預かることになったのだ。
昨日から預かっているので、今日で二日目ということになる。
「奴隷の様子はどうだ?」
フォックスは、寝台の上に準備された朝食を口にしながら家令に訊ねた。
まだ、隷属には成功していないので、正確には奴隷ではないのだが、首には隷属の首輪は装着しているし、家人たちには奴隷だと説明している。
領土屋敷は労働奴隷も十人程いるので、奴隷を新しく連れてきたこと自体には、家人たちもなにも思わないだろう。ただ、やっていることは、明らかに性的嗜虐だ。
奴隷女を拷問して愉しむなどということは、かつてやらなかったことなので、この家令がどう思っているかわからない。
だが、まあ、文句を言うこともないだろう。
侍女を含めたほかの家人にも、しっかりと口止めをしている。この別宅のことが外に洩れることは間違いなくない。
「ご命令の通りにしております。誰も牢には近づけておりません。いまのところ、身体に異常はないかと。まあ、元気だとは言えませんが」
家令が表情を変えることなく淡々と言った。
侍女たちは、マイムの別宅を入手するときに雇入れた者たちがほとんどだが、家令については領地から連れてきた男だ。
感情を表さない性格なので、なにを考えているかわかりにくいが、実直で頼りになる男である。
「洗脳の第一段階だ。とことん身体を弱らせるとともに、徹底的に孤独にするのだ。あれが人に会うのは、調教を受けるときだけだ。そうやって、心を折っていく」
「承知しております。一切、誰にも近づけさせておりません。昨日と同じ見張りをふたりつけておりますが、それについては徹底しております」
家令の返事にフォックスは満足して頷く。
もっとも、洗脳のやり方など、トリスタンからの受け売りだ。
今回のことで、女を調教して言いなりにするという遊びに興味を抱いたフォックスは、トリスタンと意気投合として、その方法というものを伝授してもらうことになった。
それもあり、本来はトリスタンへの接待として準備されたイヴという商家の女をフォックスがこの別宅で預かることになったのだ。
食事が終わって、屋敷用の軽装に着替え終わったところで、フォックスは地下室に向かった。
廊下にいた見張りたちに調教室の扉の鍵を開けさせて、室内に入る。
中はむっとするような熱気がこもっていた。夜のあいだ火を焚いて熱気で充満させるように指示していたのだ。
「暑いな。火を消せ」
廊下の見張りに入らせて、とりあえず火を消させた。
地下の調教部屋にはなにも置いておらず、その中心に両手を長い棒で水平に伸ばして拘束され、床に跪かされている素っ裸のイヴがいる。
両腕を拘束している棒には両端に鎖があり、それぞれに天井の金具に繋がっていた。イヴは全身を真っ赤に火照らせ、まるで水でも被ったかのように身体を汗で濡らしていた。
また、脚と脚のあいだには、汗ではない水たまりがある。
そこからは強い尿の臭気がたちこめていた。
「また、小便を漏らしたのか、イヴ?」
フォックスは嘲笑しつつ、イヴに施していた目隠しを外した。
イヴが顔をあげて、恨みしそうな表情をフォックスに向ける。
「み、水を……。お、お願いします……。水を……ください……」
イヴが息も絶え絶えに言った。
これもまた、トリスタンに言われていたことだ。一晩のあいだ、火を室内に焚かせたのは乾き責めにするためである。
これだけの汗を掻いたのだ。
さぞや、全身は水分を求めて苦悶しているに違いない。
「布を貸せ。起き抜けの一発といくか」
見張りから布を渡してもらい、匂いのするイヴの股間を拭く。
「あっ、やめて……ください……。くっ……」
真っ赤な顔でイヴが羞恥に顔を歪める。
股周りを簡単に拭いたところで、布を投げ捨てた。
そして、鎖を操作させて短くしてイヴを立たせる。
そのあいだに、ズボンを下着ごとおろして、自分の男根を露出させる。
「いくぞ」
ぐったり倒れそうなイブの片足を抱きかかえ、おもむろに怒張を侵入させた。
夕べ、この状態に放置する前に、トリスタンとフォックスで代わる代わる犯すだけでなく、後ろにいる見張り役の男ふたりにもイヴを凌辱させた。
その精液がまだ生乾きで残っていて、前戯もないわりには、侵入は難しくなかった。
「あぐっ、ひっ、痛い──。ひぐううっ」
しかし、やはり痛いのだろう。
イヴが呻き声をあげた。
構わず抽送を開始する。
イヴの押し殺したような呻き声が漏れ出てきた。快感なしに犯されるのはかなりの苦痛だろう。
とても苦しそうだ。
だが、繰り返し律動しているあいだに、その声に次第に甘い響きが混じるようになり、だんだんと女の反応を示すようになっていく。
「あっ、ああっ、あがっ、ああ……」
そして、いつしかはっきりとした嬌声を喘がせるようになる。
反応するようになると、フォックスの興奮も込みあがる。なによりも、あのトリスタンの性的拷問に耐え抜いたほどの貞節な人妻を凌辱しているのだと思うと快感も昂ってくる。
「うおっ、おっ」
痙攣が走り、フォックスはイヴの股間に精を噴出した。
「あっ、ああ……」
怒張を引き抜くと、イヴがぐったりと脱力した。
フォックスは、部屋の隅に待機させている見張り役の男たちに命じて、もう一度イヴの両腕を水平に拘束している棒に繋がっている鎖を緩めさせて、再び床に跪かせる。
「はあ、はあ、はあ……。お、お願いします。水を……」
イヴが息を荒げたまま顔をあげる。
フォックスはにやりと笑った。
「そうだったな。喉が渇いているのだったな。水なら目の前にある。まだ、起きてから厠に入ってない。新鮮だぞ。これでよければ飲ましてやろう」
「えっ? ど、どういう意味……ですか?」
イヴは顔を険しくしている。
フォックスの言葉の意味はわかっているだろう。しかし、信じられなかったから問い返したのに違いない。
「俺の小便なら飲ませてやろう。それ以外の水はやらん」
フォックスは冷酷に言った。
実のところ、少なくとも昨日から、このイヴには一切の水分を与えていない。唯一の水分らしいものは、無理矢理にさせた口奉仕で飲ませたフォックスたちの精液だ。
その状態で、さらに一晩暑い部屋に放置したのだ。
喉の渇きは限界を越えているはずだ。
「そ、そんな……。お、おしっこだなんて……」
「なら、やめだ。せっかく、貴族の俺が慈悲をかけてやったというのにな」
フォックスは、一物についていたイヴの体液をイヴの髪に擦り付けて拭くと、下着とズボンを身に着け始めた。
「ああっ……。ま、待って──。お待ちください。飲みます──。おしっこで結構でございます。飲ませてください」
すると、イヴが慌てたように言った。
「口を開けろ」
フォックスはもう一度一物を出す。
射精したばかりなので、半勃ちだ。
大して躊躇することなく、イヴは大きく口を開けて、フォックスの男根を咥えた。やはり、喉は限界まで乾いていたのだろう。
フォックスが放尿を開始すると、むさぼるようにイヴは尿を飲み続けた。
「けほっ、けほっ、けほっ」
しかし、放尿の勢いがよすぎたのか、しばらくするとイヴが咳き込み始めた。飲むことができなかった尿がイヴの顔や胸に当たる。
とりあえず、やっと全部の尿を終えたところで、フォックスは改めて服装を整えて、股間をしまった。
そして、項垂れているイヴの頬を力一杯に張った。
「ひぎっ」
イヴが悲鳴とともに、身体を揺らし、吊られている鎖のために身体を戻す。
「その態度はなんだ──。貴族の小便を飲んだのだ。礼はどうした──」
もう一度反対の頬を張る。
「ひぶうっ、あ、ああっ、ありがとうございました──」
「遅いわ──」
乳首を掴んで力任せに捩じってやる。
「いぎゃああああ」
イヴが全身をのけぞらせて絶叫する。
フォックスはイヴから離れた。
見張りが外の廊下から椅子を持ってきた。それを壁際に置かせて腰掛ける。
「昨日の続きだ。宙吊りにして前後から鞭打て──。もしも、気絶すれば、指を一本ずつ焼いてやれ。魔道のこもった治療薬はある。ある程度のことをしても構わん」
フォックスは命じた。
イヴの顔が引きつる。
見張り役の男たちが好色に染まるのがわかった。
好色の顔をしたのは、この鞭責めのあいだの休憩時間には、見張りたちがイヴを犯すのを許すからだ。
数はあえて決めないが、だいたい五十から百回の鞭打ちをさせてから、男たちに犯させる。
そして、終わったら鞭打ちをして、また犯す。
これを繰り返すのだ。
それもまた、トリスタンから教授のあったことだ。
昨日もそうだったが、限度を越える苦痛が続くと、人というものは自分が苦痛で狂うの防ぐために、苦痛を和らげるために快感を覚える分泌物を体内に発生するのだそうだ。
しかも、そのときの快感は、心を泥酔させるほどの気持ちよさらしい。
これを身体に仕込みこませる。
そうすると、今度は快感を求めて、苦痛を欲しがるようになる。
こうやって、洗脳するのだろうだ。
なかなか、面白いと思った。
昨日は時間が足りずに、イヴの心を折るところまでは行きつかなかったが、今日か明日には、完全に屈服させてみせよう。
「ああ、もう、それはいやああ」
イヴが悲痛な声をあげる。
だが、見張りをしていた男たちによって、容赦なく鎖が巻き上げられて、イヴの足の指が宙に浮かぶ。
さらにイヴに革布で目隠しが装着された。
二人の男たちがイヴの前後につく。
「じゃあ、俺が後ろにつくか」
「なら、俺が前だな」
見張り男たちが腰に丸めていた一本鞭をそれぞれに抜く。
まずは、前側の男が鞭をすっと上にあげた。
イヴの乳房から腹にかけて、鞭が炸裂する。
「ひがあああっ」
視界を奪われているイヴには、鞭打たれる方向がわからない。それもまた、イヴの恐怖をあおるようだ。
イヴが身体を暴れさせて、獣のような悲鳴をあげた。
「ひいいっ」
すかさず後ろから鞭打ち──。
イヴの背中に鞭が炸裂して、鞭傷が走る。
間髪入れずに、再び後ろから鞭打ちだ。
フォックスが指示しているのは、鞭打ちのときに、交互に打つというように決まった順番にしないことだ。
連続で後ろからだけのときもあるし、逆もある。
決して備えさせない。
そうやって、ちょっとでも心を追い詰めていく。
それもまた、トリスタンに教えてもらったことだ。
「ひがあああっ」
今度は、前からの鞭がイヴの股間にまともに炸裂したのだ。
そうやって、しばらくあいだ前後からの鞭打ちが続いた。
やがて、イヴの股間からじょろじょろと放尿が始まった。おそらく、二十発くらいのときだろう。
「せっかく飲ませた水分をもう外に出したか。勝手に漏らした罰だ。とりあえず、一本目だ。足の指にするか。どちらかの親指に火をつけてやれ」
失禁の始まったイブを見て、フォックスは命じた。
イヴの顔が引きつるのがわかった。
「な、なにをするというのですか──。やめて……やめてください──」
鞭責めは昨日もしたが、火責めは加えなかった。
外に準備していた道具をひとりが運び入れて、暴れるイヴの足首と足首を肩幅ほどの棒の両端に縛ってしまう。
肌の表面を燃やすのに適している特別な油を小瓶を使って、イヴの右足の親指が濡らされた。
蝋燭の載った燭台も近くに寄せられる。
「ひやあああっ、いやああああ──。お許しを──」
暴れようとするイヴの脚が後ろから足首を掴まれてとめられる。
棒で開脚拘束されたこともあり、それだけでイヴの抵抗は封じられる。油が垂らされた足の指に、もうひとりの男が蝋燭の炎を近づけた。
「ひがああああ」
右足の親指に炎があがった。
男ふたりは離れるが、火はあがったままだ。
イヴが宙吊りのまま身体を暴れさせる。
しばらくあいだ、イヴの苦悶の舞いが続く。
だが、だんだんと暴れ方が緩慢になる。
体力も消耗したのだろう。
炎が消える頃には、イヴはほとんど脱力した状態になった。
「どうだ。そろそろ、股が濡れてきたか?」
フォックスは訊ねた。
トリスタンの言葉によれば、苦痛を越えたところで、女は快感を覚えてくるはずなのだ。
結局、昨日はそういう状態にはならなかったが、一晩放置して完全に心身を消滅させている。
すでに屈服しようとしている可能性がある。
「まだ、乾いてますね」
部下がイヴの股間に触れながら笑った。
「ああっ、あがっ、も、もういやああ……」
イヴがぼろぼろと涙を流し始める。
そのときだった。
調教室の廊下が騒がしくなった。
振り返ると、家令に案内をされたトリスタンが入ってきた。ベンガル卿も一緒だ。
「やってますな」
トリスタンは、早くも相好を崩した。
家令は男の家人を数名連れてきており、調教室の中に小さなテーブルを運び込ませて、さらに椅子を二脚運び込ませた。
あっという間に、調教室の隅に三人分のテーブルと椅子が設置された。
フォックスを中心として、両側にトリスタンとベンガル卿が腰かける。すでに上機嫌のトリスタンに対して、ベンガル卿は相変わらずの無表情だ。
「では、ごゆっくり。すぐに軽食と飲み物をお持ちします」
家令はフォックスたちに頭をさげ、一緒に連れてきた家人を連れて出ていく。
調教室は、イヴのほか、フォックスとトリスタンとベンガル卿。そして、ふたりの部下となる。
「閣下に言われた通りにしておるぞ。なかなか、濡れるまでにはいきつかない。先は長そうだ」
フォックスは笑った。
そして、昨日からのおおよその調教の経過を説明する。
トリスタンは大きく頷いた。
「ちょっといじってみますか。おい、愛撫しながら、股間に指を入れてみろ」
トリスタンが指示する。
責め役にさせている男のひとりがイヴの股間に指を挿入した。ほかの指はイヴの股間を淫靡に動き回っている。
「ううっ、くううっ」
イヴの身体が小刻みに痙攣を始めた。
指がイヴの股間を出入りする。
ねちゃねちゃと水の音が聞こえてきた気がした。
「おっ、お館様、やっと濡れてきたようです。新しい蜜を出し始めてますよ」
指で犯している男が愉しそうに報告してきた。
「やっとですね。そろそろ、苦痛を快感に変え始めたようです。もう少し続けましょう。おそらく、今日中には堕ちるでしょう」
トリスタンだ。
一方で、イヴははっきりとした嬌声も迸らせだしている。
「よし。続けろ。また、鞭だ──。イヴ、今度、失禁をしたら、また足を燃やすぞ。それがいやなら、漏らさないことだ」
フォックス笑いながら言った。
「ほう、漏らしたら火責めの罰ですか。それは面白い。持ってきた荷の中に利尿剤の粉があるのですよ。たまたま、持ってきたのですが、それを大量の水と一緒に飲ませましょう。その方が効果がある」
すると、トリスタンが口を挟んだ。
目隠しをしているイブの顔が恐怖で歪むのがわかった。
「ちょっと、その荷を持って参りましょう。侍女に申し付けて水も準備させます。この家の家人を使ってよろしいですか?」
ベンガル卿が無表情で立ちあがる。
「おう、悪いな。頼む」
フォックスは頷いた。
相変わらずの無表情のまま、ベンガル卿が一度、地下室を出ていった。
「とりあえず、水と薬草が来るまで鞭打ちだ」
フォックスは言った。
再び、部下ふたりによる前後からの鞭打ちが再開する。
イヴの苦痛の踊りが再開する。
やがて、外がかなり騒がしくなった。
ベンガル卿が戻ってきたのだろうと思うのだが、それにしてはやたらに賑やかな気がする。
人の気配もひとりやふたりじゃない。
十人はいる気もする。
もしかして、この別宅の家人を全員連れてきたのかと思うほどだ。
不思議に思って、フォックスは廊下に目をやる。廊下との扉は開け放たれたままだ。
やはり、廊下は喧噪が続いている。
この地下にはほかにも、牢のような部屋があるのだが、そこが開かれて、悲鳴とともに、幾人もの人間が続けて放り入れられるような声や物音がした。
「なんだ?」
フォックスは驚いて立ちあがった。
「んっ?」
トリスタンもやっと違和感を覚えたみたいだ。
イヴへの鞭打ちから視線を廊下側に移動させている。
「待たせましたな」
ベンガル卿が調教室に入ってきた。
五人ほどの男女も一緒だ。
一緒に来た男女が二台の台車に大きな木樽を二つずつを載せて入ってきた。
それはともかく、五人とも見知らぬ者だ。フォックスの家人ではない。
五人のうち、少年のような男がひとりで若い女が四人──。間違いなく知らない顔だ。
「大人しくしな。ゆっくりと跪いて、両手を頭の上に載せな──。すぐにだ──」
短くて黒い髪の女が突然に怒鳴った。
すでに、フォックスたち四人には、入ってきた男女によって、剣を突きつけられている。
フォックスは唖然とした。
「な、なんだ、どういうことだ──。ベンガル卿──、気で狂ったのか──」
フォックスは大声をあげた。
「ぎゃあああ──」
そのとき、隣のトリスタンが悲鳴をあげた。
見ると、右手にナイフが突き刺さっていて、手放している小さな羊皮紙に、手のひらから滴った血がこぼれている。
フォックスは目を見開いた。
「移動術の魔道紙で逃亡しようとしたかい。だが、観念しな。この屋敷にはエルフ族の手も借りて、逃亡防止の結界もかけている。どこにも逃げられやしないよ。通信魔道でどこかに連絡することも不可能さ。無駄な手間をかけさすんじゃないよ──」
さっきの黒髪の女がトリスタンの髪の毛を掴んで、思い切り顔面をテーブルに叩きつけた。
「んがあっ」
トリスタンが床に崩れ落ちる。
「こいつをひん剥きな。おかしなものを持っている可能性もあるから、一応、全部見るんだ。しっかりと、尻の穴も確かめな」
倒れたトリスタンの右手からナイフを抜いて、女が顔を蹴り飛ばす。
フォックスは呆然としてしまった。
なにが起きているのかわからない。
「あたしの名はノルズ──。お前ら、死ぬまでの短いあいだ、名前だけでも憶えときな」
黒髪の女が言った。
この女が誰なのか、こいつらがどういう存在なのかわからない。
フォックスは途方に暮れたままでいる。
「こ、このう──」
「誰だ──」
一方で、やっと我に返った感じの部下ふたりが剣を抜いた。
「そいつらは消していい」
ノルズと名乗った女が事もなげに言った。
次の瞬間、部下の男たちは喉から血を流して崩れ落ちていた。大量の血が床に拡がるとともに、倒れたふたりはぴくりとも動かない。
すでに絶命しているのは間違いない。
フォックスはぞっとした。
「お前、あたしの最初の言葉を忘れたかい?」
ノルズがまだ椅子に座ったままのフォックスに剣を向ける。
慌てて、フォックスは、その場に跪き、両手を頭の上に載せた。
「おう、やってるねえ」
入口から明るい声がした。
またもや、別の者たちが入ってきた。
男がひとりと、もうひとりは豊満な身体をしたエルフ族の美女だ。さらに三人の女……。
しかし、フォックスは新たにやってきたその男を見て、驚愕してしまった。
「マ、マイル伯、なぜここに──?」
そこにいたのは、数日前に外郭砦の戦場でフォックスに歯向かってきたマイル伯だった。
どうして、ここにいるのか──?
「お前らご苦労だったな、イーザンにイヴ。特にイヴはな。いま、拘束を解いてやるぞ……。怪我もしてるんだな。ちょっと待ってろ」
マイル伯が宙吊りのイブに寄っていく。
イヴは、「ディオ様──」と甘えた声を出して泣いている。
それはともかく、イーザン──?
誰だ、それは?
「全くです。頑張りましたよ、ディオ様。ご褒美が欲しいですな」
ベンガル卿が笑いだして、自分の髪を掴んで床に捨てた。
びっくりした。
かつらだったのか?
だが、次の行動でさらに驚いた。
首の後ろに手をやり、まるで頭と顔の皮を取るように顔から薄物を剥ぎ取ったのだ。
そこには、ベンガル卿とは似ても似つかぬ別人の若い男の顔があった。
「な、なにがご褒美よ、イーザン──。お前はただ、なにも喋らずに座っていただけじゃないのよ──。ふざけんじゃないわよ──」
怒鳴ったのはイヴだ。
すでに、拘束を解かれて、跪いた体勢で裸の身体をマイル伯に抱きしめられている。
「もちろん、ふたりともご褒美をやるよ。今夜はふたりが俺の夜伽だ。特にイヴは可愛がってやる。だから、へそを曲げるな」
「ほ、ほんとですよう……」
「ああ、約束だ。そのとき、イーザンを責めさせてやろう。こいつの四肢を拘束するから、ふたりしてくすぐり責めしてやろう。な?」
「はあ、ならいいです……。そういうわけだからね。イーザン、今夜は覚悟なさい」
「そんなあ。俺はなんにもしてないじゃないですか。言われたとおりに、ベンガルとかいう貴族に、数日間もなりすましたんですよ。トリスタンに付くはずのイヴがフォックスに付くことになったら、ずっとトリスタンに張ってたし」
イーザンという若者が困ったように笑った。
「当たり前でしょう。あたしは監禁されてんのよ。むしろ、あんたがそうならないようにしなさいよ」
イヴがいまにも噛みつかんばかりの剣幕で怒鳴った。
フォックスはわけがわからなかった。