【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
クラウディオ=マイルという貴族への評価は、随分と人を喰った男だということだ。
伯爵ということだったが、ノルズの知っているどの貴族とも違っていた。
周りに侍らすのは奴隷ばかりだったが、とにかく、その奴隷たちとの距離が近い。慕われているというよりは、軽く扱われている。もちろん、クラウディオ自身がそれを求めていうのもあるのだろうが、彼の周りにいる奴隷たちは、主人であるクラウディオに言いたい放題だし、扱いもぞんざいだ。
だが、絶対の服従心も持っている。
それはわかった。
しかも、クラウディオの奴隷たちは、その全員が一騎当千だ。武芸に秀で、頭もよく、特殊工作のようなことも平気でこなす。
今回も、ベンガル伯という貴族男やそいつが連れてきた生贄女に成り代わって、トリスタンというタリオの諜報組織の長と、そのトリスタンに接近しようとした元宰相のフォックス卿を見張るという任務を見事にやってのけた。
「マ、マイル伯、これはどういうことだ──」
フォックスが跪いて頭の後ろの両手を載せた状態で怒鳴った。
顔は真っ蒼だ。
当然だろう。
突然に、ノルズたちに屋敷を襲撃されたのだ。
フォックスにしても、トリスタンにしてもわけがわからないに違いない。
「どういうことだというのは俺が訊きたいですよ、宰相殿。いや、元宰相殿。目の前の男は、トリスタンというタリオ公国の諜報員の親玉ですよ。そんな男に王国を売り渡すような真似をするとは、あなたに愛国心というのはないのですか?」
本人自身が愛国心の欠片もなさそうだが、そんなことはおくびにも出さずに、クラウディオは冷たい視線をフォックスに向けている。だが、その態度も、どことなくわざとらしい。
このクラウディオを王国が新たに作ろうとしている謀略組織の核に使ってみろと推薦をしてきたのは、ロウ自らだとケイラは言っていたが、なるほど、そういう仕事に向いている性格をしているのかもしれない。
なによりも、クラウディオが持っている奴隷たちの能力が破格だ。
「ば、馬鹿な……。そんなことは知らん。あ、あり得ない──」
「ああ、知らない振りしなくていいですよ。あんたらの会話は、映録球でしっかりと記録したし、交わした書面も没収済だ。なによりも、そういう大切な話は、家人の前でするのはやめた方がいいんじゃないですか。さっき脅しただけで、もうすぐに白状しましたよ。あんたらが王国を売ったということについて、どこであろうとも証言するそうですよ、フォックス卿」
そのクラウディオは、フォックスと会話をしつつも、一方で、熱心にイヴという自分の奴隷娘の介抱をしている。
イヴは、今回のフォックスとトリスタンに罠を仕掛けるにあたり、トリスタンの特殊性癖を利用して近づけた女であり、イヴへの調教にのめり込んだトリスタンに張り付かせて、ふたりの会話を集めまくらせた。
映録球については、ベンガル卿というフォックスの手下貴族になり済ませたイーザンというクラウディオの奴隷男が記録し続けたが、イヴはイヴでそれだけでは不十分な証拠を、彼女の身体に仕込んだ魔道具の傍聴具で録音する役割を果たしたし、なによりも、神出鬼没のトリスタンの居場所を特定するのに役だった。今回の捕り物が、こんなにも簡単にいったのは、好色者のトリスタンが本来の調略任務よりも、イヴという商家女の調教にのめり込んだからだ。
大手柄である。
その過程において、イヴは幾日もトリスタンたちから拷問のような嗜虐を受け、今日は、足の指に油をかけて燃やされるということまでされたらしい。
その火傷をクラウディオは、丁寧に薬を塗ってあげている。
いずれにしても、本当に奴隷扱いのいい貴族だ。
「国を売るなど……。いや、ちょっと待て──。そもそも、それは、ベンガル卿が持ってきた話で……。いやいや、おかしいぞ──。あっ、もしかして、俺を嵌めたのか? いつからだ──。いつから、本物のベンガル卿と、そいつが入れ替わっていたのだ──?」
フォックスが怒鳴った。
「入れ替わったって、なんのことです? わけのわからない。まあ、ベンガル卿という代官領主様は、もしかして、明日くらいに自殺しているのが発見されるかもしれませんけどね。まあ、そういうことです」
クラウディオが笑った。
そして、手をあげる。
すると、クラウディオの男奴隷が二人、フォックスの身体を掴んだ。
そして、指示を仰ぐように、ノルズの視線を向けてくる。
この屋敷を襲撃するにあたり、二十人ほどの人間を使っているが、半分がクラウディオの部下で、残りの半分はもともとがケイラが集めた諜報業を生業とする者たちだ。
その全部の統括をするのがノルズということになっている。
同行してきたケイラは、いわば、ノルズのお目付け役のような感じだ。
それはともかく、クラウディオは、自分の奴隷たちに、全体の長がノルズだと徹底をしてくれている。だから、クラウディオの奴隷たちも、任務については、直接にノルズの指示に従ってくれる。
実にやりやすい。
「お兄ちゃんには、フォックスはそのまま王都に連行するように指示されているわ。とりあえず、牢に監禁しておいてね。もちろん、家人たちを放り込んだ牢とは別にするのよ」
すると、ノルズの横のケイラが口を挟んできた。
「言われたとおりにしな」
ノルズが告げると、クラウディオの奴隷ふたりは、腰にさげていた縄束を解いて、手慣れた仕草で、フォックスを後手に縛り始める。
ところで、この奴隷たちのクラウディオという貴族男だが、実は奴隷たちとは性的関係でもあるらしく、しかも、縄で縛ったり、縛られたりということを日常的にやっているそうだ。まるでロウのようだ。
とにかく、見る限り、縄扱いは上手そうだ。
あっという間に、フォックスが拘束される。
「な、なにをするか──。俺は侯爵だぞ。無礼な──。やめんか──。そうだ──。嵌めたのだな──。お前たちは、俺を嵌めたのだ──。王国を裏切るつもりなどなかった──。いまもない──。ただ、ベンガルがそんな話を持ってきただけで……」
フォックスは怒鳴り続ける。
「誰が持ってこようと、国を売るのは売国奴だ。元宰相も、侯爵も関係あるか。売国奴として当然の扱いだ」
クラウディオが冷たく言い放つ。
いつの間にか、イヴの治療らしきものは終わっていて、自分が身に着けていた上着をイヴの裸身に被せて抱きしめている。
イヴはうっとりと嬉しそうな顔をしていた。本当に、クラウディオを慕っているということがわかる。
それはともかく、フォックスが怒鳴り散らしていることは、ほぼ正解だ。
今回のことでロウからの指示を直接に受けたのはケイラだが、彼女の言葉をそのままに聞く限り、ロウは王家の求心力が低下している現状を打破するために、マアという女豪商を中心として、王家──すなわち、ロウに従う貴族たちに交易によって利益誘導し、反感を表す相手を物流で追い詰めるということをして、王家の権威を立て直そうとしているらしい。
だが、ロウはただそれだけで、国がまとまっていくとも考えていないそうだ。
ある程度の強権は必要であり、逆らう者には断固とした態度で処断していく姿勢も示すつもりとのことだ。
その生贄として選んだのが、元宰相のフォックスであり、もともと、イザベラやロウの作る新しい王宮に対抗して、上級貴族たちをまとめて反王宮の派閥を作って対抗しようとしていた。
だから、あえて、トリスタンというタリオの諜報を近づけて、王国を売り渡すような話を持ち掛けて、その証拠を集めたのだ。
それが罠だというなら、そうかもしれないが、クラウディオの奴隷男が変装していたベンガル卿という男の仕掛けに乗らなければいいだけのことであるし、入れ替わっていたものの、もともと、トリスタンと本物のベンガル卿が接近していたのは事実なのだ。
本物のベンガル卿がフォックスとトリスタンの仲介をしたのも間違いない。
そのすべての情報を握っていたケイラから受け、ノルズたちが、ノルズやクラウディオを使って、本物のベンガル卿を殺して入れ替わり、トリスタンとフォックスの接近の情報を集めたに過ぎない。
おそらく、フォックス卿は完璧な証拠とともに、国を売ろうとした裏切りものとして、処断されるだろう。
ロウやイザベラが、どれくらいの罰を与えるのかは知らないが、国を裏切る行為は、三族までの連座による死刑のはずだ。
トリスタンのようなタリオの調略者に接近していたハロンドールの上級貴族は、フォックスだけではないから、いい見せしめになるだろう。
目の前のトリスタンも、王国に対する諜者として処刑されるのは間違いないので、これを機に多くの貴族が戦々恐々となって、タリオとの関係を慌てて清算する動きになるのは間違いない気がする。
「くっ……」
そのときだった。
ノルズが連れていた手の者に殴られながら、服を剥ぎ取られて全裸にされたトリスタンがすっと、自分の尻に手をゆっくりと動かしたのだ。
手をかざして、トリスタンの睾丸に電撃を送り込む。
「うぎゃああああ」
トリスタンが絶叫してもんどり打った。
その右手には、自分の尻穴から出した鞘のついた短いナイフが握られていたが、それが手放されて床に転がる。
「ちゃんと、尻穴も調べろって言っただろう──。油断するんじゃないよ。こいつも縛り上げな。いまから拷問して、こいつらの諜報の拠点を吐かせないとならないからね。しっかりと動けないようにするんだ」
ノルズは怒鳴った。
「うわっ、本当にお尻の穴に武器を隠していたなんて……」
「すみません──」
トリスタンについていたのは、クラウディオの奴隷ではない手の者たちだが、ノルズの一喝を受けて、慌ててトリスタンを縛り始めようとした。
だが、ノルズは、それをとめた。
「いや、やっぱり待ちな。そのまま、ちょっと押えとくんだ。こいつにはこれから拷問しなきゃならないからね。拘束は、まずは逃亡も自殺もできないように気力を喪失させてからだ」
トリスタンを改めて跪かせて、頭を床につけるような恰好にさせる。両腕は後ろに引っ張って伸ばさせた。
その体勢に固めるのに、四人ほどがついている。
「ふ、ふざけるなよ……。王国の犬が……」
窮屈な恰好にさせられているトリスタンが呻くように悪態をついた。
いい傾向だ。
さっきまで比較的大人しかったから、おそらく、ずっと逃亡の機会を窺っていたのだろう。
それが悪態をついた。
つまりは、追い詰められているということだ。
「王国の犬かい。あたしたちには誉め言葉だよ」
数多くの女たちが、ロウの寵愛を争って、ロウの「雌犬」になろうとしのぎを削っている……。
いや、競ってはないか……。
ロウは恋多き男だ。寄ってきた女の全員を愛してくれる。
ノルズは、そんなことを考えながら、トリスタンの二の腕を左右の手でそれぞれに掴む。
魔道で自分の身体を一時的に身体強化をして、トリスタンの左右の腕を一気に粉砕する。
「おぎゃああああ──」
トリスタンが絶叫して身体を反り返らせた、
膝で蹴り飛ばして、死なない程度に背骨の骨を折る。
「うがああああ──」
これで、もうトリスタンは二度と立ちあがることもできない。
全裸姿のトリスタンの全身の毛穴という毛穴から一斉に脂汗が噴き出し、剥き出しの男根からは失禁による放尿が流れだした。
「勝手に小便するんじゃないよ。仰向けにしな」
ノルズはトリスタンを抑えている者たちに指示する。
トリスタンが裏返しにされる。
「ほがああああ──」
背骨を折られたために動くだけで激痛が走るのか、トリスタンは涙を流して悲鳴をあげている。
ノルズのこれまでの経験でも、どんなに屈強な男でも背骨を折られれば、泣き出して許しを乞う。
トリスタンも例外ではないようだ。
「あとで背骨の痛みだけは、魔道で消してやるよ。悲鳴をあげるのに急がしくて、訊問もできないだろうからね。だけど、それはたっぷりと拷問を受けてからだ。お前への訊問は明日からしかやらない。さんざんに、イヴを苛めたんだ。やられる方になっても、立派な態度でいな」
懐から準備していた水分をたっぷりと吸わせた革紐を取り出して、トリスタンの男根の根元を固く縛ってやった。
これで小便を出すことはできないだろう。
しかも、濡れた革紐は、乾けばどんどんと収縮する。
明日になるまでに、一物が千切れ落ちるかもしれないが、まあ、訊問に問題はないだろう。
この男を生きて本国に戻すことはないのだ。
「ちょ、ちょっと待って。訊問はあたしにもさせてくださいよ。こいつには散々に苛められたんですから」
すると、クラウディオに抱きしめられてるイヴが声をかけてきた。
立ちあがって、裸身にクラウディオの上着だけを身に着けている。表面を燃やされた足の指については治療が終わったようだ。
「じゃあ、頼んでいいかい。二の腕だけは粉砕したけど、ほかの手足の骨も全部砕いとくれ。あとは好きにしていい。だけど、殺すのはだめだ。それ以外はなにをしてもいい」
「任してください、ノルズの姐さん。ディオが水樽を運んできてくれましたからね。あたしにやろうとしたことをやってあげますよ」
このトリスタンがイヴにやろうとしていたことというのはわからない。
ノルズたちがこの地下室に来る直前には、ノルズたち全員でこの屋敷の一階層以上の制圧をしていたのだ。
捕えた家人も外回りの護衛も、全員捕まえて、地下牢のひとつにぎゅうぎゅうに押し込んでいる。
「水樽をどうするんだい?」
ノルズは笑って訊ねた。
「無理矢理に全部、飲ませるんです。姐さんが小便の出口を縛ってくれから丁度いいです。大量の水を飲ませて、小便をさせないんです。苦しめるだけ、苦しめてやりますから──」
イヴが張り切っている口調で言った。
ノルズは肩を竦めた。
「まあいいや。じゃあ、ちょっと任せていいかい、マイル卿? あたしは、家人の方を見てくるよ。大したことは知ってないと思うけど、一応訊問してくる」
「呼び捨てでいいですよ。それとも、ディオとでも。俺のボスになるんですから、いいように扱ってください」
クラウディオが気さくな感じで言った。
やっぱり変な貴族だ。
こんなノルズのような女の下につけと言われたのに、まったく反感のようなものを示さない。
むしろ、喜んで動いているように見える。
「あんたらについては、これからも問題なさそうね。じゃあ、あんたら組織の最初の任務よ。しっかりとやってちょうだい。マイル伯のことも、お兄ちゃんには適材だと伝えておくわ。表向きの役職は、王宮内の適当なものが与えられると思うけど、本当の仕事は、ノルズの下で諜報組織の幹部として働いてもらうわ」
「ありがたい。あの独裁官殿の庇護がもらえるなら、なんでもしますよ。よろしく伝えてください」
クラウディオがにこにこしながら言った。
本当に変わった貴族だ。
「ところで、ノルズ、ちょっといいかい?」
ケイラがノルズを呼び廊下に導いた。
トリスタンへの拷問をクラウディオたちに託して、ノルズはケイラとともに廊下に出る。
ケイラがノルズに身体を寄せてきた。
「……実際の話、とりあえず片が付くまで、何日くらい必要?」
ケイラだ。
訊ねているのは、トリスタンに部下の拠点に関する情報を吐かせて、その拠点を急襲して潰すという仕事にどれくらいかかるのかということだ。
もともと、トリスタンについては、しばらくのあいだ泳がせると聞いていた。
その方針が変わったのは、タリオとは、明確に敵対の態度をとるということで新王宮の方針が決まったからだそうだ。
この意思決定ののろしとして、まずはトリスタンという男を捕縛することになったということだ。
この間抜けだが、これでもタリオでは、円卓のメンバーとやらのひとりであり、かなりの重鎮らしい。
「まあ、十日もあればね」
ノルズは答えた。
拷問による訊問そのものは、三日もあれば、トリスタンに頭の中にある全てを表に出させる自信がある。
残りの時間は、白状させた拠点に手の者を送って潰すための時間だ。
それ以上の時間は必要ない。
全部を一度に襲撃できないし、幾つか襲撃した時点で、情報が漏れたことを悟って、既存の拠点は場所を変えるだろう。
あとは、いたちごっこだ。
タリオの諜報組織と、ノルズとクラウディオが新しく作る王国の諜報軍との戦いが続くことになるだろう。
「わかったわ。お兄ちゃんには伝えておくわ。ところで、あんたらが作る諜報組織の名前は考えた?」
ケイラが笑いながら言った。
組織の名前などどうでもいいが、考えろと言われていたので、ノルズはそれをクラウディオに丸投げしていた。
その結果、クラウディオが言ってきたのは、「スレヴズ軍団」という名前だ。
スレヴズには「奴隷たち」という意味があるらしく、クラウディオの直接の部下が自分の奴隷だからだろう。
ノルズも了承した。
なにしろ、自分だってロウの奴隷だ。
そのために、ノルズの命はある。
「
ノルズは、ケイラに説明した。
「スレヴズ軍ね。それもわかったわ。さて、ところで、これを渡しておくわ」
すると、ケイラが小さな紙片を押し付けてきた。
そこには、五人ほどのハロンドールの上級貴族の名前が書かれていた。
「なんだい、これは?」
ノルズは訝しんだ。
「この五人の名を暗記して。覚えたら、紙は燃やして」
ケイラが言ったので、ノルズはすぐに魔道で紙を燃やして灰にした。五人程度の名前はあっという間に頭に入る。
「消したよ。それで?」
「フォックスのほかにも、お兄ちゃんの覇道の邪魔になる者たちよ。お兄ちゃんは物流と交易の力で王国をまとめようとしているけど、お兄ちゃんの素晴らしいところは、そんな綺麗なものだけじゃあ、混沌化した国をまとめることができないと知っていることよ」
「それで?」
「だから、フォックスという一罰百戒の生贄を作った。さっきのリストは、ほかにもいなくなった方がいいと思う名よ。なんだかんだで、人というのは群れを作れなければ、反対勢力には成り得ない。さっきのは、その群れの核に成り得る者たちよ」
「ほう、つまりは消せということかい」
「そんなことは言わないわ。ただ、いなくなれば、お兄ちゃんの助けになる。それだけのことよ。フォックスに追加してさっきの五人……。もしもいなくなれば、少なくとも、いまお兄ちゃんたちに逆らおうとする勢力は、この王国からはしばらくは集まらない。だって、核になる者がいなければ、派閥なんてできないもの」
「なるほど。わかった」
ノルズは言った。
このケイラがそう言うなら、その通りなのだろう。
ロウのためになる──。
知るのはそれだけでいい……。
「それと、いまの話はお兄ちゃんは知らないわ。当然に、あの女王様もね」
「いちいちくどいね」
ノルズは鼻を鳴らした。
ケイラがくすりと笑う。
「あら、ごめんね。じゃあ、こっちは、お兄ちゃんからの伝言……、いえ、命令を伝えるわ。十日後、必ず王都に戻り、お兄ちゃんのところに出頭しなさい。今回の任務の成果について報告するのよ。あんた自らね」
ケイラが言った。
「ええ──?」
ロウの名を出されて、ノルズは一変に緊張してしまった。
自然と直立不動の姿勢になってしまう。
ノルズにとって、ロウというのは神様も同じだ。
そのロウに呼び出された──。
急に頭の中が真っ白になった。
「ふふふ、あんたって、やっぱり面白いわね。そのときには、一対一でデートもするそうだから、そのつもりでいろと言っていたわよ。そして、これは間違いなく伝えろと言われたけど、一切の下着は禁止だそうよ。それと、ここよりも長いスカートははいてこないこと……。これは絶対の命令だそうよ」
ケイラがにこやかに告げるとともに、ノルズの膝から股の付け根の半分よりも、ちょっと上の位置を指で突いた。
この場所よりも短いスカート──?
そうすると、かなりの短い丈になる。
しかも、下着なし……。
ノルズはかっと身体が熱くなるのを感じた。
「じゃあ、伝えたわね。明日の夜には、一度、わたしのところに報告をしにきなさい。それと、お兄ちゃんの命令の準備も早めに手を付けるのよ。このマイムにも、短い丈のスカートを扱っている服屋はあったわよ。覗いてみるといいわ。よければ、お兄ちゃんの好みとか教えてもいいけど」
ケイラが片手を振って、ケイラの前から立ち去っていく。
それはともかく、十日後のロウとの面会を想像して、ノルズの心臓は痛いくらいに激しい鼓動を繰り返していた。
ロウとのデート……。
どうしよう……。
どうしたらいいんだろう……。
ロウの好み……?
そういえば、さっきケイラが相談に乗ってもいいというようなことを喋った?
緊張していたので聞き逃したが、それは教えてもらわないと──。
「ちょ、ちょっと待ちな──」
ノルズは慌ててケイラの後を追いかけた。
(第10話『凡人、悪人、変人』終わり)