【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
屈託のない表情で、けらけらと笑うイザヤを微笑ましくコーラは見ていた。
実際のところ、目の前のように本音で喋ったり、だらしなく裸体でくつろぐ姿を見せるのは、コーラたち気心知れた侍女たちの前だけだ。
それ以外では、絶対に隙を見せず、ほぼ完璧な淑女を演じてみせるのが、イザヤというコーラたちの女大公だ。また、人の心を読むのが上手であり、性の相手が望む女を完璧に演じてもみせる。
だが、素の姿を晒すことは滅多にない。
例外がコーラたち限られた侍女の前だ。
「コーラ以外は、さがっていいわ。もう休みなさい」
部屋には五人ほどの侍女が揃っていたが、イザヤは手を振って人払いさせた。
残ったのがコーラとイザヤだけになる。
「汗を流すわ。一緒に入ろう、コーラ」
ふたりきりになると、さらにイザヤは砕けた口調になった。
裸のまま立ちあがって、部屋の奥に備え付けられている浴槽に向かう。イザヤが戻ったらすぐに入れるように、ほかの侍女たちと準備していたものだ。
コーラはひとりで浴室に向かうイザヤの後を追う。
「まさか、侍女と大公様が一緒に浴槽になんて浸かれませんよ。お体をお洗いしますわ」
「二人きりのときには、砕けた口調で話せと言っているでしょう。一緒に入るのよ。身体なんていい。汗と体液を流したいだけだけよ。自分で洗う」
「女大公ともなれば、ひとりで身体を洗うこともできないものですわ。すべて人の手を使うのです」
「わかってんでしょう。わたしは生まれながらのお姫様じゃないわ。あなたに拾われる前に、五歳で処女を失った最下層の口吻娼婦から叩き上げ。生きるか死ぬかのどぶ暮らしから成りあがったわたしよ。介添えなんて必要ないのは、あなたが一番知っているでしょう。いいから来なさい。それとも、お嬢様、お願いしますって言った方がいい?」
イザヤが振り返って口を膨らませた。
まるで少女のような無邪気な振る舞いにコーラは観念してしまった。
コーラのことをお嬢様呼びするのも、ふたりだけのことだ。いまは女大公としてデセオの筆頭者であるイザヤだが、もともとは最下層の貧民だったことは、ほとんど誰も知らない。
いまは立場が逆転したが、昔はイザヤがコーラに仕える専従の召使いだったのだ。
まあ、もう二十年以上前の話ではあるが……。
「わかりましたわ。ご一緒します」
コーラは諦めた。
「敬語も禁止。命令よ」
「はいはい」
浴室に着く。
床を掘って埋めている浴槽には香料の入った湯が張っている。
イザヤは無造作に身体を浸けた。
コーラは苦笑しながら、自分も服を脱いでいく。
言い出したら、イザヤは引くことはない。
コーラは身に着けているものを脱いで、すでに湯に浸かっているイザヤと向かい合うかたちで浴槽に身体を沈めた。
ひとり用の浴槽なので広くはないが、向かい合ってお互いに足を延ばすくらいはできる。
「こうやっていると、娼館時代を思い出すわねえ。お互いに最高位を競い合って、房事に励んだものだったわ」
「あなたと競い合ったことなんてないわよ。イザヤは常に別格だったわ。媚術でもなんでも、あなたは常にわたしたちのずっと前にいた。わたしはただそれを追いかけていただけ。いまもそうよ」
コーラは口調を砕けたものに変えた。
イザヤとコーラは公設娼館としては同期になり、娼婦になった時期も、年齢もほぼ同じだ。
このデセオという国では、性技こそが高位貴族のたしなむべき技能となっており、性別に関わりなく、高位階級の者は公設娼館に一定期間入らないとならない義務がある。そこで性経験を積み、性技の技を磨くのである。
コーラもまた、その慣習に従い公設娼館に入り、イザヤはコーラの身の回りの世話をする者を兼ねて、それについてきた。
だが、もともとの素質と、なによりも本人の努力により、イザヤはコーラなど遥かに越えて、公設娼館の第一位の娼婦にまで成りあがった。
そして、前大公の相手をして、気に入られて次期大公として養女に迎えられたのである。
デセオでは知らぬ者のない成功物語である。
そうやって、娼婦としての技巧を極めたイザヤは、前大公に見出されて娼館から大公宮に移ったが、そのときにコーラは侍女としてイザヤに一緒に行くことを希望し、それからずっと一緒にいる。
イザヤのことは最初に会ったときから、召使いのように考えたことなどないし、ずっと親友で、家族のような間柄だ。イザヤにとってもそうだろう。
令嬢と召使い、そして、逆転して大公と侍女という関係に変化をしたりしたが、肩書などにはかかわりなく、コーラとイザヤは親友だ。
「それは光栄ね。だけど、わたしじゃなければ、コーラが大公候補として養女に選抜されたのはあなただったのは間違いないわ。少なくとも、わたしはそう評価しているのよ」
「それこそ、光栄ね」
コーラは笑った。
すると、イザヤが不敵そうな笑みをコーラに向けてきた。
「だから、もしも、明日の夜もあのアーサー公が求めてきたら、わたしの格好をして相手を頼むわ。いつものようにね」
「それは構わないけど、一度だけという話だったんじゃないの? 明日も求められると思う?」
「自尊心が強そうだったから、振られた女にしつこく言い寄るとは考えられないけど、万が一のことよ。大した技巧は出してないから、未練も生まれないとは思うんだけど、逆に固執する可能性もないとはいえないし」
イザヤが肩を竦めた。
実際のところ、デセオの女大公は、交渉に際して相手と情交をする機会は結構多い。デセオにとって、情交というのは挨拶であり、友愛の手段であり、交渉の一方策であり、決闘の手段でもあるのだ。
あらゆる物事の機微において、情愛を交わす。
女大公が政治や交易の重要な相手と情愛をするのは大切な役割だ。
だが、逆に簡単には、イザヤが性の相手をすることもない。相手をすることになっても、イザヤの替玉をする者が五人ほどいて、そっちで相手をすることもある。
コーラもイザヤの代わりをする役目を持つ女のひとりだ。
だから、今回も単にしきたりだけのことであれば、アーサー公の性の相手は代わりの者でもよかったのだが、イザヤは自らアーサーと情を交わすことを決めたのだ。
「ところで、どうして、アーサー公を受け入れたの?」
コーラは訊ねた。
「もちろん、これから戦うかもしれない男がどういう男なのか見極めるためよ」
「戦う? 従属じゃなくて?」
「デセオとして、タリオ公国に従属することもまた、戦いよ。どうでもいい話ではないわ」
「だったら、気に入ったということ? アーサー公のことを皇帝陛下と呼んでいたじゃないの」
「現時点でそれ以外の選択肢はないわ。もしも、断れば、彼は次の標的をデセオとするのは明らかよ。かなりの野心家なのは、彼の経歴が物語っているわ。わたしはデセオの大公として、わたしたちの国をカロリックと同じにしたくないもの」
「カロリックとデセオは違うと思うけど。いくら、カロリックをあっという間に征服したタリオ軍でも、パルタス砦の
パルタスというのは、カロリックとデセオを繋ぐ唯一の陸路である山岳街道に築かれているデセオの軍砦である、
デセオ公国は、ローム三公国の中では地理的にほかの二公国とは分離し、歴史的にも隔離している土地とされているが、それを成し遂げているのは、デセオが建国以来保持している公国の国境を守るバルタスの山麓なのだ。
そこには、幼児時代から特別な訓練を受け続けた狂戦士と呼ばれる特別な兵たちが常駐して守っている。
バルタスの狂戦士は「無敵」の代名詞であり、デセオの民にとっては絶対の防壁だ。
「カロリックが滅びたのは戦争に負けたからじゃないわ。獣人族差別が社会不安と治安悪化を大きくし、さらに、貴族同士の内部抗争が公国を弱体化させたのよ。そのうえ、大公相続でもめて、もっとも力のない者が大公になって、しかも、その大公に誰も協力しなかった。カロリックの敗北はその結果ね。どんなに無敵の兵がいても、内部崩壊をすれば滅ぶのよ」
「デセオ公国はカロリックではないわ。あなたも、無能で臆病者のロクサーヌではないし」
「わたしでも、ロクサーヌと同じ状況になれば、無能にもなるし、臆病者にもなるわ。だけど、わたしが言いたいのは、カロリックの亡国の要因の半分以上は、彼ら自身にはあるけど、かなりの部分でタリオの謀略によるものということよ。あのカロリックにできたことは、タリオのアーサー公は、デセオ相手にもできるということね」
イザヤは言った。
デセオ公国は小国だ。
もともと、退廃と享楽の土地と呼ばれるくらいであり、これといった産業はなく、誇るのは性産業だ。
そんなデセオが三公国の一つとして独立を保持しているのは、天然の要害による地形上の分離と、その要害を守るあの狂戦士たち──。さらに、代々の大公に仕える諜報員たちの存在だ。
表向きには、各国に拡がって娼婦を集める女衒たちだが、裏ではデセオ大公の耳目として情報を集める役割を持っている。
その耳目たちから入る情報内容は、イザヤもコーラも変わらないのだが、そこから本質を導き出す分析力がイザヤはすごい。
デセオ大公というのは、その耳目を扱う能力も求められ、決して性技だけの存在ではない。
イザヤの状況分析力をコーラは疑ったことはない。
「つまりは、あのアーサー公のいるタリオには勝てない? それがあなたの判断?」
「というよりも、戦わないでいられるなら、戦わないのが一番よ。彼を皇帝陛下と呼んで、わたしが平伏することで収まるなら、それで問題はないわ。わたしは、デセオの国と民を守るためなら、いくらでも頭も下げるし、なんだったら足だって舐めるわよ」
「舐めるのは、アーサー公のおちんちんじゃなくて?」
コーラは軽口を言った。
「もちろん、なんでもするわよ。そうした方がいいと判断したらね。性愛じゃなく、寝首を掻いた方がいいと思えば、躊躇なくそうするわ。デセオのためなら」
イザヤが笑った。
「彼には勝てるの? ああ、武芸のことよ」
「多分、瞬きするあいだも立ってられないと思うわ」
「あなたほどの者が?」
コーラは驚いた。
もちろん、狂戦士には及びもつかないが、イザヤもまた実はそれなりの戦士だ。そのイザヤが絶対にかなわないと簡単に口にするのだから、アーサーというのは余程の戦士なのだろう。
「だけど、閨においてのことになればわからないわね。少なくとも、彼はわたしを危険だとは思っていなかったわ。どこか、女を完全に見くびっているところはあるようね。だから、性愛の途中で寝首を掻かれることは想像もしてない。つけ入る隙があるとすればそういうところかしら」
イザヤが再び笑い声をあげた。
「そういえば、あなたって、一度も舐めなかったわね。そんな素振りもなかったし。さっきの話じゃないけど、アーサー公のいるタリオが危険だと思うなら、あなたの性技で骨抜きにしてやればよかったんじゃないの。壁越しの気配の感じだと、イザヤの自慢の性技はなにひとつ披露しなかったんじゃないの?」
「ちょっとは、そういうこともしようとしたけど、こっちが積極的になろうとすると、彼の中に異常なほどの怒りの感情が沸くのがわかったわ。数回やって、その全部よ。だからやめたのよ。おそらく、彼は女に主導権を取られるのを異常なほどに嫌うみたいね。彼のもとから、ふたりの大公妃の心が離れたのはそういうところなんでしょうね」
アーサーの二人の妃──。
ハロンドール王国から嫁いだエルザ妃がひそかにハロンドールに帰国していること、大神殿の法王クレメンスの孫娘にして、聖女マリアーヌの妹のエリザベートとアーサーの仲が絶対的な冷戦状態になることは、デセオでも情報を得ていた。
また、力のある女部下がアーサーの下からは主要役職から離される傾向にあることも掴んでいる。
女性にはもてるし、人気があるという観察もあるので、どちらがアーサーの本質かわからなかったが、いまのイザヤの言葉によれば、アーサーが実は女嫌いだというのが本当なのだろう。
「アーサー公は女嫌い?」
「嫌うというよりも、女が彼よりも上の立場になることを極度に嫌うわ。もしも、性愛で彼を圧倒してごらんなさい。彼は怒りの感情を向けてきて、逆に、デセオに攻勢をかけてきたと思うわ。本人は気がついてないかもしれないけど、それが彼の本質ね」
「だから、なにもしなかったの? わざとらしく達してみせたってこと?」
「負けは勝ちよ。さっきの性交では、イザヤという女大公がアーサーという男に圧倒されて、いかされまくった。これで、わたしは彼の敵ではなくなった。デセオも、彼の感情を向けられることはなくなったと思うわ。感情に左右されない冷静な部分では彼は優秀よ。判断を誤らない……。デセオの内部崩壊を工作して、軍隊で征服することに価値を見出さないはずだわ。デセオにそこまでする必要を感じないはずよ。従順でありさえすればね」
「従順でいることが勝ちということ?」
「いまはね」
「いまって?」
「いまはいまよ。現段階では、デセオの一番の得策はタリオ公国に従順であること……。だから、できるだけ彼の自尊心を満足させることにしたのよ。明日の続きの会同では、従属における具体的な条件を求められると思うわ。できるだけ、縛られないようにはしないとならないしね」
「やっぱり、タリオから寝返ることも視野にいれているの?」
「皇帝を名乗ったアーサー公が次に戦う相手は、ハロンドール王国に決まっているわ。わたしたちはそれを見極めないとならないわ。それまでは、わたしも、デセオもアーサー公の従順な犬よ。いくらでもだらしなく、彼に屈してみせるわ」
イザヤは微笑んだ。
「実際、何回達したの? 声だけなら十数回は達していたように思ったけど?」
「さっきも言ったけど、ここぞというときには上手だったわよ。本質的に女を認めたくないと考えている以外は、セックスも下手じゃなかったわ。少なくとも一回は本当にいったかも」
「下手じゃないけど、一回だけ?」
コーラは笑った。
「わたしが本気になるような男なんていたら、悦んで奴隷になるわね。一回だけでも、わたしをいい気持ちにできたんだから、アーサー公はそれなりの男よ」
イザヤは微笑んだ。
彼女は性を交わしながら、その相手の本質を見抜く。
イザヤが評価するのであれば、アーサーは結論としてはそれなりの人物だということだ。
「わかった……。でも、だったら、ちょっと足りないんじゃないの、イザヤ。いい感じに休めるくらいに疲れたいんじゃない?」
コーラは誘うように言った。
すると、イザヤの眼が嬉しそうに大きく開く。
「疲れさせてくれるの、コーラ? いえ、お嬢様」
「昔のようにね……」
コーラは脱いだ服をまとめて置いているところに手を伸ばして、髪を束ねるために使っていた髪紐を手に取った。
身を乗り出すようにして、湯の中でイザヤの身体を抱きかかえる。
彼女の両腕をとって背中に回させ、両方の親指を重ねさせて、髪紐で縛っていく。
「わたしがネコ?」
「そうよ。だって、イザヤが本気になったら、わたしなんてあっという間に返り討ちになるじゃないのよ。今日は黙って縛られなさい」
イザヤの耳元でささやきながら、一方でイザヤの親指の付け根を二本まとめて、固く紐で縛ってしまう。
それなりにイザヤも縄抜けもできるが、できないように紐で結わえている。
コーラは、イザヤの太腿に手を這わせながら、イザヤの唇に唇をを強く重ねた。
舌と舌が重なり、大きな快感が全身に拡がっていった。
「あっ」
一方でイザヤの身体が湯の中で跳ねた。
コーラの指がイザヤの股間に触れたのだ。
「あなたの弱いところは全部知っている……。今夜は観念しなさい……」
指でクリトリスをくすぐり、膣口とアナルを責める。
「あんっ」
イザヤが激しい痺れに身体を脱力させるのがわかった。
「ふふふ、ところで、デセオの偉大なる女大公様は、もしも、タリオとハロンドールが戦うことになれば、どちらに付くべきと分析しているのかしら?」
コーラは、さらに指でクリトリスと膣口とアナルをかわるがわる指で刺激する。
性技の巧みさではイザヤには足元にも及ばないが、コーラだってそれなりの元高級娼婦だ。
あえて抵抗をやめているイザヤから快感を引き出すくらい簡単だ。
「わ、わたしたちはローム帝国の従順な雌犬……。それで、アーサー公から従属に際しての妥協を引き出す……。ああっ、それ、いい──」
イザヤが身体を弓なりにするとともに、甘い声をあげた。