【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
あてがわれている部屋で朝食をとっていると、双子のひとりがやってきた。
カロリックを併合したあとに、旧大公府から引き抜いた人材のうち、特に優秀だと評価した人材は新たにタリオ公国府に引き抜いたが、双子はその中でも特にアーサーが評価している者たちだ。
円卓のメンバーに加えることも決めて、今回はデセオ大公との併合協定の話し合いに同行させていた。
双子は、カロリックでは子爵家の出身であり、カロリック府では下級役人でしかなかったようだ。兄はアーマンド=マルティーニで、弟はフランコ=マルティーニという。年齢はアーサーとほぼ同じである。
だが、やってきたのが、兄のアーマンドなのか、弟のフランコなのかは、アーサーにはまだ区別はつかない。
同じ顔なのだ。
「アーマンドです。朝食中に失礼します。緊急の報告が……」
どうやら兄の方のようだ。
「構わん。ところで、食事はとったか?」
「先に頂きました」
「ならば、飲み物でも相伴せよ。話は食べながら聞く」
アーサーは侍っている召使に指示して、彼のお茶を準備させようとした。
だが、アーマンドがそれを制する。
「申し訳ありませんが、人払いを」
「わかった」
アーサーが合図をすると、給仕のためにいた者たちが退出していく。
アーマンドが卓上に傍聴防止の魔道具を置いた。この部屋で話されることを絶対に外に漏らさないようにするために道具だ。
報告は機密を要する内容なのだろう。
重要なことは、どんな状況であろうと最優先でアーサーに報告するように徹底をしている。
それこそ、たとえ、女とまぐわいの最中であっても、諜報に係る者たちは重要案件の報告をしてくる。今回もそれに合致する報告事項のようだ。
「どうした?」
「ハロンドールに潜伏していたトリスタン殿が捕らわれたという情報が……」
「なにっ?」
アーサーは食事の手をとめて絶句した。
トリスタンは、カロリック併合前に円卓のメンバーに抜擢したばかりの男であり、殺されたマーリンに代わって、ハロンドール公国工作を担任させていた。
最近は、あの王国に対する工作行為のために、しばらく王国内に巣くっていたはずだ。
だが、捕らわれただと?
「どこでだ? とにかく、奪回の工作員を至急送りこめ」
アーサーはとりあえず言った。
しかし、アーマンドは渋い顔のままだ。
「向こうにある拠点が十箇所潰され、百人以上が捕らわれてます」
アーマンドが言った。
アーサーは嘆息して目を閉じた。
状況を理解したのだ。
トリスタンは、王国に潜伏している工作員の全部を知っている。そのトリスタンが捕らわれ、工作員の拠点が一度に十箇所もなくなったということは、つまりは、トリスタンは喋ってはならないことを白状してしまったということだ。
現在しているあの王国内の拠点は、すべて使えなくなったと判断していいだろう。
息のかかった手の者も芋づる式に引っ張られる。
「……指示を取り消す。トリスタンの救出は必要ない。残っている諜報員は全員が身を隠すように伝えよ。今の拠点は全部放棄。すべてを刷新する」
「そのように指示しました。新たな要員をとりあえず数十名送りました。これまでの者との繋がりがないものです」
「わかった」
すでに手を打ったということだ。
ならば、精度と量は落ちるが、継続的な最小限の情報は確保できるだろう。
アーサーは、アーマンドの処置に満足した。
やはり、円卓の要員に迎えて問題なさそうだと思った。
「つきましては、例の件についてご許可を。やられたものはやり返さねばなりません。報復を。そのために役に立ちます」
アーマンドは言った。
例の件というのは、少し前からアーマンドとフランコの双子兄弟から提案がされているものであり、諜報というよりは、破壊工作や暗殺を専門とする特殊兵をまとまって王国内に送り込もうという案だ。
だが、その要員に迷いがあり、アーサーが判断を躊躇していたものである。
「もしも、王国に捕らわれて処刑されたとしても、なんの問題もない者たちです。全員を奴隷の刻みで心を縛ってます」
さらに、アーマンドが畳みかけるように言葉を加える。
「奴隷兵ということか」
「諜報要員とともに、まとまって送ります。まずは、今回の報復を」
「わかった。一度見てみる。判断はそれからだ」
「陛下自ら見ていただけるなら、彼らも喜びます。是非ご覧ください。実は、今回の移動でも、その一部を護衛としてつけております」
「護衛? お前たちが提案してきた連中をか?」
「是非に、ご覧ください──」
「わかった」
アーサーは頷いた。
「それと、幾つかハロンドールについて報告があります。それも、よろしいでしょうか」
「続けてくれ」
アーサーは頷いた。
食事のする手を再開する。
アーマンドが再び口を開く。
「イザベラ女王の戴冠式と婚姻式が四十日後に行われると正式発表があったようです。おそらく、今頃はタリオの大公府にも、招待状が届いていると思われます」
「そうか」
一時は第一妃にもと考えたイザベラだったが、すでに当時とは状況が隔離していることは認識している。
あの愚王のルードルフが生きていれば、イザベラを娶って、内側から王国を乗っ取るということも考えられたが、カロリック侵攻と合わせたハロンドール工作でかなりの部分が露見して、しかも、手を打たれている。
辺境侯のマルエダ工作にしろ、王都工作にしろだ。
カロリック侵攻の邪魔をされないことが主目的だったから、謀略工作はうまくいったといえるが、時間をかけて準備していたものが暴露してしまったのは惜しいとも思う。
いまにして考えると、焦りすぎたきらいもあるかもしれない。
さらに、エルザのことも、いまでははっきりと失敗だったとわかる。ロウの子を孕んだイザベラを中絶させようと送り込んだが、そのまま戻ってこない。
監視役につけた侍女たちも、つい最近になって、奴隷として処分されているのが発見されたし、工作そのものが破綻してしまった。
さらに、エルザはそのままハロンドールの王都に向かってしまっていて、さらに、どういう経緯なのは不明なのだが、賊徒を作らせて混乱させてやった王国の南部地区の総督という地位を得て、その地に赴任したようだ。
アーサーに惚れ抜いているエルザがアーサーから離れるわけがないのだが、エルザがその南方総督の立場を受け入れてしまっているのは確からしい。
つい先日、正式に国書を送って、現段階ではアーサーの妃のままであるエルザの帰国と総督任命への抗議文をつきつけたが、まだ返事はない。
いまは、諜報員を接触させて、エルザの意思を確認しようともしている。
あのエルザに限って、アーサーを見限るのは考えにくく、あり得るとすれば操り術のたぐいだろう。もしも、洗脳や奴隷化などの処置をしているとすれば、それもまた非難の材料になる。
「とにかく、イザベラ女王の戴冠式への参加は、ローム皇帝名代として、ランスロットに行かせる」
完全に対立関係になったとしても、現段階では戦争状態にあるわけではなく、それなりの建前の外交は必要だ。
ランスロットには、ハロンドールへの牽制として、ハロンドール王国の辺境侯領に面する地域に軍を展開させるということをさせている。
だが、ハロンドールへの侵攻ルートになる向こうの辺境侯領は、その地の防御責任者が、調略の終わりかけていた辺境侯家ではなく、リィナ=ワイズという女伯爵に一帯の防御責任者が交代しており、状況がすっかりと変わっている。
また、タリオ領とハロンドール領のあいだには、エルフ女王ガドニエルの支配するナタル森林もあり、無暗に侵攻をすれば、ハロンドールのみならず、エルフ族まで敵対することにもなりかねない。
だから、ランスロットは牽制以外の行動は慎むように指示している。
アーサーも、ハロンドール王国への内部攪乱などの謀略なしに、軍の侵攻などできないことはわかっている。
いずれにしても、アーサーの名代として、ランスロットは最適だ。アーサーに次ぐナンバー2であることは知られているし、将来、ハロンドールに侵攻することがあるとすれば、王都までの経路を把握することもできる。
「公都には連絡しておきます。それと言いにくいのですが、エルフ女王のガドニエル陛下ですが、ロウ=ボルグとずっと同行していたということもわかりました。王都で行われたイザベル女王の凱旋に際しては、ガドニエル女王がイザベラ女王やロウと同じ馬車に乗って、民衆に手を振っていたことが確認されています」
「ちっ」
アーサーは舌打ちした。
ガドニエル女王の動向は、ずっと諜報員に探らせていた。
ロウと一緒にいるというのは、未確認情報だったが、幾度か報告にはあがっていた。
かなり仲睦まじいというものもだ。
しかし、認めたくはなかった。
あり得ないと否定し、報告のたびに再調査を指示した。
ガドニエルは、ローム皇帝となるアーサーの妃となるべき者なのだ。
「……先程報告したイザベラ女王の婚姻式では、ガドニエル女王とロウ=ボルグの婚姻も同時に行われると、ハロンドール王国が正式発表したそうです」
「馬鹿な──」
アーサーはテーブルを叩いた。
だが、アーマンドはかすかに、目を上にあげただけで、ほとんど表情を変えなかった。
それで少し冷静になり、憤怒が表に出ることを自重することができた。
「今度は疑いようのない情報です。副王ラザニエルの名で、ナタル森林王国からも同様の発表が行われています」
「エルフ王家として、あの成り上がりを王配にすることを認めたというのか──。しかも、ハロンドールの女王の王配になる男だぞ──。女王ふたりの王配になる平民など聞いたこともないし、エルフ族王家が容認するわけがない。あり得んだろう──」
怒鳴りあげた。
「お恐れながら、ロウは平民ではございません。エルフ王家からは上級貴族の地位を送られておりますし、ハロンドール王家は、ロウを大公位とすることを決めたようです」
「そんなことを言っているのではない──」
さらに怒鳴る。
そして、苛立ちのあまり、目の前のテーブルをひっくり返したくなった。
だが、懸命に心を抑える。
王に不都合な情報を報告した者に怒鳴ったりしていては、これから正しい情報を報告する部下などいなくなる。
あっという間に、愚から皇帝の誕生だ。
とりあえず深呼吸する。
「……すまん。悪かった。怒鳴るべきではなかった」
アーサーは頭をさげた。
「い、いえ」
アーマンドが初めて表情を変え、驚いた顔になる。
「ロウ=ボルグか……」
アーサーは、かつてロウと初めて対面したときのことを考えてしまった。
ハロンドール王国との政略で娶っているエルザを、イザベラ、もしくは、アンと交換しようとしてあの王国の乗り込んだとき、あの男はそれを知って、アーサーの前で堂々とイザベラやアンと乳繰り合ったのだ。
あんなに激昂したことはない。
いま、思い出しても腹が立つ。
しかも、イザベラ女王とガドニエル女王の両方の王配になるだと──?
そんなことあり得るのか──。
認めたくない……。
あいつを認めたくはない……。
だが、くだらない感情だけで、根拠のある情報を否定すべきでもない……。
わかっている……。
それは、わかっているのだが……。
「ハロンドール王家はともかく、エルフ王家側には反発の動きはないのか。そもそも、話が急すぎるだろう。エルフ王家になんの得がある」
「ナタル森林には、大きな勢力の諜報員は入っておりませんが、報告の限りにおいては、慶事であるとして、ナタル森林をあげてのお祝いも計画されているようです」
「だが、エルフ族は選民意識の強い種族だ。かつて、エルフ族が人間族と婚姻したのは、以前のローム帝国時代の皇帝だけだ。それを冒険者上がりの元平民を相手にするのみならず、人間族の男を挟んで、別の女王と正妃の座を分け合うだと──」
どう考えても、エルフ族がそれをよしとすると思えないのだ。
いまだに信じられない。
「そのことですが、婚姻式において、イザベラ女王も、ガドニエル女王も、正妻として婚姻するわけでないそうです。正妻となるのは、エリカ嬢と発表されました」
「エリカ? 誰だ、それ?」
まったく記憶がない。
エリカ──?
やっぱり、わからない。
「ロウ=ボルグの冒険者としての仲間です。ほかにも、今回の婚姻式では、ロウは冒険者のパーティメンバーの全員を妻として女王ふたりと婚姻式をあげるそうです」
「ますます、あり得んだろう」
唖然としてしまった。
だが、相変わらず、アーマンドは無表情だ。
さらに、アーマンドが続ける。
「それと、これは不確かな情報であって、タリオ公都に残っているガラハッド殿ともすり合わせをしている最中なのですが、大神殿内にロウ=ボルグへの異端者認定の動きがあります」
「異端者認定?」
アーサーは呆気にとられた。