※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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931 獣人族の殺人部隊

 騎馬が十。徒歩兵が四十という編成だった。

 陣形を組んだ中心には、アーサー役に見立てた赤い布を首に巻いた騎馬の兵がいる。

 デセオ大公との会談の会場になっているカロリックの国境向こうの山岳に面した城塞の敷地内の露営地である。

 

 今日の会同は(ひる)から昼食を挟んでとなっており、それまでの時間を利用して、マルティン兄弟が見せたいという特殊兵を査閲することにしたのだ。

 中心に露営地を貫く道路があり、道路の左右は膝上ほど高さの雑草が茂っている──。そんな場所だ。

 ただし、アーサーとマルティン家の双子については、護衛隊とは少し離れて立っている。

 

「獣人兵は十人です。護衛隊は本気で武器を使っていただいて問題ありません。むしろ、その場で殺すつもりで防いでください。そのうえで、ひとりでもアーサー陛下に見立てている騎馬の場所まで辿りつけば、獣人隊の勝ちとさせていただきます」

 

 アーサーの横には、アーマンド=マルティナとフランコ=マルティナの双子がいるが、ずっと喋っているのは弟のフランコの方だ。

 もともとは、カロリックの下級役人で、能力を見込んでアーサーが新たに円卓の要員に加えた二人だが、この獣人兵を編成したのは、弟のフランコの方のようだ。

 そして、この獣人兵というのが、今朝、兄のアーマンドを通じて提案のあった諜報工作の専門要員なのである。

 アーマンドの言葉を借りれば、破壊工作や暗殺を専門とする特殊兵というものらしい。獣人族の身体能力はほかの種族とは比べ物にならないほど優れている。それを利用して、特殊任務の専門兵に仕立てたのだそうだ。

 ただ、獣人というところが引っかかってアーサーは躊躇し、とりあえず、実力を確認するということにしたのである。

 

「中心に辿り着くどころか、接触する前に討ち取られるだろう。五十もの護衛隊を十人で突破できるわけがない。こいつらは、どこの軍にも負けない精鋭部隊だぞ。無理をさせず、それなりの実力を見せてくれればいい」

 

 アーサーは笑った。

 

「いえ、本気で立ち向かわせてください。逆に、獣人兵には護衛兵に大きな負傷をさせないように命令しております」

 

「まあよい。そこまで言うなら、力を見せてみよ」

 

「はい。それに、たとえ調練であろうとも、ここで失敗すれば、彼らのみでなく、人質として確保している彼らの肉親が皆殺しにされることになっています。親、姉や妹、妻や恋人……。そういう者を死なせないために、死に物狂いで連中は任務を遂行します。失敗は自分たち自身だけじゃなく、人質の死ですから」

 

「隷属だけでなく、人質も確保しているのか?」

 

「隷属の主人と離れて動くことも想定しておりますので……。隷属を解除できる魔道遣いにかかれば、隷属を外されて向こうに転向する可能性もあります。捕らわれたら自殺するように命令を与えてますが、万が一、捕らわれても、人質を取っていれば、裏切りの可能性は低くなります」

 

「なるほど、考えてはいるのだな」

 

 ハロンドール国内に潜入させるとなれば、確かに隷属だけでは足りないだろう。獣人族の忠誠心など微塵も期待していないが、人質を確保しているとなれば、死の物狂いに任務を遂行するかもしれない。

 

「始めよ──」

 

 フランコが手をあげた。

 護衛兵側も緊張を走らせるのがわかった。

 一方で、かなり遠い場所に、犬を思わせる三人の獣人族が上半身を草の上に出した。

 弓兵の射程のぎりぎりくらいだ。

 

「弓構え──」

 

 護衛隊長が怒鳴る。

 だが撃たせはしない。さすがに、ここまで離れると射ても避けられる。

 引き寄せてから攻撃させるつもりだろう。

 

「動かないな……」

 

 護衛隊と獣人たちをじっと見守っているアーサーは呟いた。

 身体を草から出している獣人たちが動かないのだ。

 

「護衛兵には人数までは教えておりませんが、潜んでいる獣人兵は、先程申しました通り全員で十名です」

 

 フランコが横で愉しそうに言った。

 

「んっ、どういうことだ?」

 

 アーサーはフランコに視線を向けた。

 いや、もしかして、見えてない残りの七人は潜んでいるということか?

 

「陛下、そろそろ、決着がつきそうです」

 

 すると、アーマンドが小さな声で言った。

 慌てて視線を護衛兵と獣人たちに戻す。

 

「おっ?」

 

 そして、アーサーは思わず声をあげた。

 突然に、徒歩兵の一部がばたばたと倒れだしたのだ。

 

「なっ、構え──」

 

 護衛隊長の慌てた怒声が周囲に響く。

 しかし、次の瞬間、草から飛び出した小柄な獣人が護衛隊長の横のアーサー役に見立てた赤い布の騎馬兵に跳びかかる。

 

「うわっ」

 

「えっ」

 

「おおっ」

 

 護衛隊が騒然となる。

 そのときには、跳びかかられた騎馬兵は草むらに引きずり込まれていた。

 護衛隊の騎馬が驚いて棹立ちになった。

 

「やめええ──」

 

 フランコが大声で怒鳴る。

 護衛隊は騒然となっている。

 その中からひょいひょいと獣人たちが立ちあがって姿を現した。

 

「これは驚いた。やはり、事前に潜んでいたのか?」

 

 アーサーは訊ねた。

 

「どうなのだ、リック?」

 

 アーマンドが後ろに向かって声をかけた。

 

 えっ?

 誰に向かって──?

 

「いえ、最初に注意を引き寄せるために立ちあがった三人と同じところにおりました。そこから草の中を動いて、中心の騎馬の位置まで辿り着いたのです」

 

 声は横にいる双子からでなく、真後ろからだった。

 

「なに──?」

 

 振り返る。

 驚愕することに、そこに、やはり犬を思わせる獣人の青年が立っていた。

 アーサーは目を疑った。

 全く気がつかなかった。

 これが敵だとすれば、アーサーの命はなかっただろう。

 

「リック、よくやった。お前を残して撤収だ」

 

 フランコが獣人族の青年に声をかける。

 

「かしこまりました」

 

 青年が懐から小さなものを出して口に持っていく。

 笛のようだ。

 ただし、音はしない。もしかして、犬笛か?

 散らばっていた獣人たちの姿が草の中に消滅する。

 まるで、何事もなかったかのように草の中に隠れて、もう完全にわからない。

 残された護衛隊の連中は呆然としている。

 

「これは、護衛隊の錬成をやり直しさせる必要があるな」

 

「いえ、足元が草に隠れているような、獣人の特殊兵に都合のよい条件で戦いました」

 

 アーマンドが言った。

 

「それでもだ。ここまで歯が立たないとは不甲斐ない」

 

 アーサーは嘆息した。

 いずれにしても、大したものだ。

 すると、獣人族の青年がその場に両膝を地面につけて頭をさげた。

 いわゆる、奴隷の挨拶だ。

 だが、見たところ、首に奴隷の首輪はない。おそらく、身体のどこかに、隷属の紋章を刻んでいる紋章奴隷なのだろう。

 

「直答させてもよろしいですか?」

 

 アーマンドだ。

 

「許す。名を言え」

 

 アーサーは獣人族の奴隷に向かって声をかけた。

 

「はっ、ヘルヘイム隊の十人隊長のリックと申します。ウルフ族であります」

 

「犬に風貌が似ていると思ったがウルフ族、つまり、狼か。それはさておき、ヘルヘイム隊とは?」

 

「彼らに名付けた隊の名です。ヘルヘイム、冥界の意味です。彼らは、城郭に潜入し、戦場に潜み、農村に紛れて、敵を惨殺します。また、特殊工作から、暗殺、攪乱、偵察、謀略などなんでもします。まさに冥界に敵を引きずり込むのです。これを手始めに三百人。いずれはもっと増やしていきたいと思います」

 

 フランコが横から言った。

 

「死は突然にか。それをこいつが率いるのか?」

 

「リックのような現場指揮官が十人にひとりおります。基本的には十人一組で動きますが、必要によりもっと多くの人員で動くこともあります。リックは三百人全員で動くときでも全体の長ができます。そのような長が五人ほど。ヘルヘイムは通常の軍のように固定した編成はとりません。任務に応じて臨機応変の編成をとります。ただし、全体については俺が統制をします」

 

「なるほどなあ……」

 

 アーサーはリックに視線を向け直す。

 

「いずれにしても、大した腕だ。真後ろに立たれて気がつかないなど初めてだ」

 

「ありがとうございます。娼館から引き上げてくれ、俺を戦士として使ってくれるフランコ様の恩に報いるためにも、立派に活躍してみせます」

 

 リックが嬉しそうに言った。

 

「いま、なんと言った? 娼館と言ったか?」

 

「リックはもともと、娼館で男娼奴隷をしていたのです。ですが、見出して訓練をさせ、ここまで育ちました。拾いものです」

 

 フランコだ。

 

「男娼なあ……」

 

 確かに獣人にしては美青年だ。

 この顔なら性の相手に好む人間族の中年の女も大勢いそうだ。

 それにしても、前歴が男娼か……。

 

「それと、どうやら、このリックは、ロウ=ボルグが婚姻で妻にしようとしている獣人娘を見知っているようです。それで一応お目通りをさせました」

 

 アーマンドが横から言った。

 獣人族の娘……。

 確か、イットとかいう獣人娘か。

 昨日の報告で、ロウ=ボルグがいま教会から不審の眼を向けられていて、異端者認定の動きまであると受けた。

 その理由のひとつが、ロウがエルフ族女王ガドニエルや、ハロンドール王国の女王イザベラと同列の地位の妻として、獣人族のイットと婚姻を結ぼうとしているということらしい。

 教会は獣人族を罪ある種族として蔑んでいる。

 それにも関わず、獣人を女王たちと対等に並べるロウの態度は気に入らないらしい。

 本当は、教団の不満はガドニエルやイザベラにも向けられているのだろうが、表向きにしているのは、ロウだけのようだ。

 そのロウは、独裁官を称しており、その権限で教会の専管である暦法に手を付けたり、王国内に新興宗教を認めたりもしているようだ。

 これら一連のことが教会の反感を買っていて、大きな対立のかたちになりそうな状況らしい。

 アーサーとしては朗報だが、さすがにハロンドールほどの王国でも、教会にそっぽを向かれては国が傾くだろう。

 異端者認定を受けた者を民衆が権力者として認めるはずもないし、そもそも、教会は魔道遣いをほぼ独占していて、医療をはじめとした人々の生活に密着した活動により、彼らの存在は生活に不可欠だ。

 田舎であればあるほど、その傾向が強く、もしも、教会が全教会を王国内から引き上げるともなれば、間違いなく暴動が連発する。

 タリオとしては喜ばしいが……。

 それはともかく、ロウの妻になる予定のひとりのイットを知っているだと──?

 

「イットという獣人娘とはどういう関係だ?」

 

「いえ、大した関係ではないのです。ただ、知っているというだけで。同じ奴隷商で調教されてました。そのイットの初めての性の相手は、俺だったというくらいの関係です」

 

 リックが顔をあげて白い歯を見せた。

 

「それを利用して罠にかけることもできるか? 場合によっては殺すこととかだ」

 

「任務ならやりますし、うまくもやります。俺のことは覚えていると思うし、多分、油断もすると思いますので」

 

「わかった。うまく使ってやれ」

 

 アーサーはアーマンドとフランコを見る。

 二人が頷いた。

 

「獣人隊のことについては了承だ──。フランコ、お前に細部の運用は任せる。トリスタンに代わって、ハロンドール内に入れ。ヘルヘイム隊と一緒にな」

 

「はっ」

 

 フランコが敬礼をした。

 アーサーは頷いた。

 

「リック、さっきの物を陛下にお渡ししろ」

 

 アーマンドがリックに声をかけた。

 すると、リックが懐から子供の拳ほどの透明に球体を取り出して、アーサーに両手で差し出す。

 

 魔道具……。映録球か?

 目の前の場景を記録して、立体映像で再現する道具だ。

 アーサーは手に取る。

 映録球に魔力を通した。

 こうやれば、立体映像としてではなく、術者の頭の中だけに記録した映像を再生することができるのだ。

 

「な、なんだ?」

 

 現れたのはデセオの女大公のイザヤだ。

 そして、見知らぬ女──。イザヤがコーラと呼んでいる女も登場する。ふたりとも裸だ。

 浴室のようだ。

 そして、アーサーは唖然とした。

 そのふたりが浴槽の中で愛し合っている映像が頭に現れたのだ。しかも、どうやら、イザヤは両手を背中で拘束されているようだ。

 その状態でイザヤは、コーラという女に乳房を吸われ、股間を愛撫され、口づけをされ、とにかく喘ぎまくっている。

 ちょっと眺めているあいだだけで、一度だけではなく、二度も達していた。おそらく、さらに連続で絶頂する感じだ。

 アーサーは、魔力を注ぐのを中断した。

 

「これはどうしたものだ、リック?」

 

 アーサーはリックに目をやった。

 

「はい──。我々の実力をお見せするために、準備したものです。夕べのデセオ大公の姿です。相手は侍女のコーラのようです」

 

「ちょっとした醜聞だな。侍女と乳繰り合う女大公か」

 

 アーサーは笑ってしまった。

 

「彼らにできることのひとつとしてさせました。ちょっとした余興です。これは処分します」

 

 アーマンドがアーサーから映録球を受け取るために手を差し出す。

 だが、アーサーは首を横に振った。

 そして、映録球をリックに戻す。

 

「面白い。余興ついでに、今度はこれをイザヤ大公の控えの間に、ひそかに置いて来い。すぐに発見できるようにな。午後からの交渉はひとつ、それで揺さぶってやろう。よい脅迫になるだろう。こちら側がデセオ大公の醜態の映像を保持しているのだ。せいぜい、揶揄ってやろう」

 

 アーサーは言った。

 考えていたのは、昨日の性愛の最後でアーサーの婚姻の申し出を躊躇なく断ったイザヤの姿だ。

 小ばかにされたままでいるのは性には合わない。

 もはや、あの年増を妃に迎える気は失せたが、多少のいやがらせはしてもいい。

 朝貢はしないという話で進んでいたが、これを材料に定期的な朝貢品の献上を条件に追加してもいいかもしれない。

 あのとき、ちょっとは可愛げのある反応をしていれば、これまでの話し合いのまま、ただ従属の誓いだけでよかったかもしれないが……。

 

「デセオ大公には、このようなもので恐喝の材料になるとも思いませんが……。これは、単に彼らの諜報能力をお示ししたいためだけにやらせたもので……」

 

 すると、アーマンドが困惑気味に口を挟んできた。

 

「別に恐喝などしない──。だが、侍女と乳繰り合う映像など、醜聞中の醜聞だ。さぞや、狼狽するだろう。その顔だけでも見たいだけだ。複製は必要ない。ただ置き戻してくるだけでいい。今度も気がつかれずに戻せるか?」

 

「造作はありません」

 

 リックが映録球を懐にしまい駆けだしていった。

 アーサーはほくそ笑んだ。

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