【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
やってしまった……。
アーサーは、心の中で舌打ちした。
目の前で繰り広げられるイザヤと侍女の痴態の光景に対する心の動揺はさておき、アーサーは隠し撮りをした映録球のことを交渉の口に出すつもりなどなかったのだ。
口にしてしまえば、卑劣にも大公のイザヤほどの貴人を監視していたことを公言したことになってしまうし、タリオ側の施設への訪問者になるデセオ大公側の私的な行動を勝手に映録球の記録に収め、しかも暴露しようとしているということになる。
映録球のイザヤたちの痴態は醜聞であろうが、そういう盗撮行為をタリオがしていたということもまた醜聞だ。
それはわかっていたから、ちょっとしたいやがらせに留めて、困り顔でも眺めてやるくらいのつもりだったのだが、あまりにも動じていないイザヤの様子に苛立って、思わず口に出してしまった。
口に出してしまえば、逆に醜聞はアーサーたち側に生まれてしまう。
失敗した──。
アーサーは後悔していた。
しかも、そもそも、相手が応じることができないような数量の魔石の引き渡しを条件として要求するなど……。
交渉にならない条件を提示するなど、こっちが話し合いを潰したいのだととられても仕方ない。
我ながら、愚策に過ぎる──。
そのつもりなどなかったのに、思わず感情に走ってしまった。
アーサーは自己嫌悪に陥りそうだった。
それはともかく、目の前の女ふたりの痴態の淫靡さはどうなのだろう。
侍女……確か、コーラだったか?
そのコーラに両手を背中で組んで立っているように命じ、イザヤはここにいる全員の目の前で、堂々と彼女のスカートの中に手を入れ、胸を揉み、口づけをして愛撫を続けている。
元娼婦らしい恥じ入らずの行動だといえばそれまでだが、イザヤと侍女の痴態には、なぜかアーサーたちを圧倒させるような不思議な迫力がある。
デセオの者にとって、性愛は果たし合いでもあると口にしたイザヤの言葉がなんとなく理解できるような気までしてきた。
とにかく、まるで魅せつけるような行為に、アーサーは唖然としてしまっている。ほかの者も同様だろう。
いや、実際に魅せつけているに違いない。
美しいイザヤと侍女の愛の行為は、どこまでも淫らで、猥褻で、ふしだらだ。
だが、ぞくぞくするほどに色っぽい。
アーサーだけでなく、繰り広げられる美女ふたりの卑猥な行為に、タリオ側は全員が声を失ってしまっていた。
「あ、ああっ、イ、イザヤ、だ、だめえ、ああっ」
侍女の全身から力が抜けて、腰が落ちそうになったのがわかる。
しかし、イザヤがその侍女の腰をしっかりと支えて、しゃがみ込むのを許さない。
「しっかりと立つのよ、コーラ。足に力を入れなさい」
スカートに隠れていて見えないが、かなり激しくイザヤの手は侍女の股間で動いているのだろう。
イザヤが腕を入れているために、侍女のスカートがまくれあがり、内腿まで侍女の脚が覗いているが、そこにつっと侍女の愛液が伝い落ちてきたのが見えた。
「だ、だめええ──」
やがて、侍女ががくがくと身体を痙攣させて、ぐっと身体を伸ばすような仕草をした。
絶頂するのか……。
だが、イザヤが微笑み、すっと愛撫の手を静止させた。
「あんっ、な、なんで……」
またもや脱力しそうになった侍女が切なそうな声を出す。
すると、イザヤやくすくすと笑い声をあげた。
「いやらしさが足りないわ。こういう女同士の絡み合いを隠し撮りするのが、タリオ公国の皆様はお気に入りのようよ。もっと見せてあげましょう」
侍女ががくりとなったことろで、イザヤが再び愛撫の手を再開する。
「ああ、いやああっ」
侍女が泣くような声をあげた。
しばらく、再び淫靡な光景が続き、またもや侍女が快感を極める素振りを示す。
だが、またしても、イザヤはぎりぎりで刺激を中断してしまった。
「ああ、ああああっ」
侍女が口惜しそうに大きく身悶える。
結局、侍女が全員の前で気をやったのは、寸止めを四回繰り返した後の五度目だった。
焦らし抜かれての絶頂は、かなりの快感だったのか、侍女は派手に嬌声をあげつつ、今度こそその場に崩れ落ちてしまった。
それでも、背中で握った手首は離さない。
イザヤは、妖艶な笑みを見せつつ、アーサーたちに振り返った。
「こんなものでよろしければ、いつでもお見せしますわ。わたしたちの国のデセオでは、情交などというものは醜聞にはなりませんのよ。挨拶であり、貴人同士の儀礼であり、果し合いの手段ですの。人前での性愛を恥ずかしがるものはおりません。先ほどの映録球ですが、もらってよろしいのですか? わたしとコーラは恋人同士でもありますので、記念に頂きたいですわ。いい映像だったので、複製を作って家人たちにも配りたいし」
イザヤの顔は微笑んだままだが、アーサーに対する蔑みの色があった。
アーサーは、自分が失敗したのをはっきりと悟った。
「し、失礼いたします……」
そのとき、しゃがみ込んでいた侍女がやっと立ちあがり、一礼をして退出していった。
イザヤはちょっとだけ彼女に視線を送っただけで、視線をアーサーたちに戻す。
そして、何事もなかったかのように、アーサーと向かい合う席に座り直した。
アーサーは自戒とともに嘆息した。
「……顧問団の派遣費にあたる魔石による支払いを先程の要求の十分の一にしよう。ただし、定量以上の取引きをデセオ側に義務付けるものとする。そして、デセオの交易先は、帝国として認める相手に限るものとする」
もともと、これが交渉に載せようとした条件だった。
馬鹿みたいな苛立ちで、十倍の量の無償引き渡しを要求したのは、つくづく失敗だ。
下手をすれば、デセオとまとまりかけているローム帝国併合の交渉が破綻するところだ。
すると、イザヤの表情が変化した。
やや、眉間にしわを寄せ考えるような仕草にもなる。
「ご存じのように、デセオの商業ギルドはすでに崩壊して、自由取引体制となって数年がすぎています。管理交易をする体制にありません。全ての取引を公国が統制するというのは難しいというのが現状です」
「難しいというのはできないということではないということだな。デセオもカロリックもタリオも、帝国というひとつの国になる。国内取引を外国取引に優先するのは当然のことだ。不可能でないなら、条件を整えてもらうしかない」
「関税は? 魔石をタリオの支配域に持ち込むのに、関税の設定はどうなりますか? 同じ帝国ということであれば、関税をかけるのはおかしいですよね。関税を零とすることを要求します。それであれば、帝国政府の統制する相手にしか魔石の交易をしないことを公国として統制します」
「定量の確保を約束できれば、それに応じてもいい」
アーサーは言った。
タリオとしてとにかく優先したいのは、安定的な定量の魔石の確保だ。ハロンドール王国とは近年のうちに戦争になる。
そのときまでには、どうにかして、ナタル森林国とハロンドール王国の関係を裂きたいが、両国の蜜月が続いてしまったならば、ナタル森林から入れているクリスタル石が入手できなくなるのが十分に考えられる。
ハロンドール王国は、今回の婚姻施策でナタル森林王国との同盟関係となるのだ。
そのため、ナタル森林以外からの魔石の確保を、デセオからだけではなく、沿海州や北方諸種族を相手に模索している最中だ。
「応じます、皇帝陛下──。その条件で──」
イザヤがにっこりと微笑んだ。
「わかった」
アーサーも大きく頷いた。
*
「ああ──、やってしまったわ。失敗したああ」
部屋に戻るなり、イザヤは机に突っ伏して頭を抱えた。
あんなどうでもいい映録球の映像ごときでむきになって、アーサーに怒りを向けるなど……。
折角、いい感じに示していた恭順の態度が全部無駄になった。
一応は交渉がまとまったことで、タリオのアーサーは、表向きにはデセオを従属した身内として扱うだろうが、派遣されるであろう顧問団にしても、さらに予想される諜報員にしても、容赦なくデセオの国力を落として牙を削ぎ、力のない家畜のようにしてしまおうとするだろう。
あのアーサーは、そういう男だ。
特に、あれは、女に負けるのがなによりも嫌いだろう──。
さっきは向こうが妥協したが、冷静になれば、あのアーサーは負けのまま終わる男ではない。
きっと報復にくるだろう。
そして、それはデセオの民を苦しめることになる。
だから、あのアーサーには、デセオの女大公のイザヤなど、弱々しい女であることを示す必要があったのだ。
腹を立てて意地を見せることなど、なんの意味もない──。
わかっていた……。
わかっていたのに──。
「なにを悔いておられるのですか、イザヤ様? 交渉はうまくいったではないですか」
コーラが慰めるように言った。
あてがわれているイザヤの執務室である。
あの映録球が置かれていたのも、この部屋だ。
イザヤの周りには、コーラのほかに五人ほどの官僚や侍女がいる。信頼のできる人間であり、こうやって弱いイザヤを見せることに躊躇はない。
いや、大公としてのイザヤは、いつもこんなものだ。
周りに助けられ、頼り、守られている。
「意味がないと言っているのよ。アーサーは女に負けるのが嫌い……。というよりも、蔑んでいるの。自分よりも強い立場の女など認めない。本人に自覚はないけど、女を認めたくない余りに、強い立場の女を力づくで排除するの。あのとき、決して怒るべきではなかったのよ」
「でも、おかげで、いきなり妥協案を提示してきたではないですか。最終合意については満足できるものでした」
「あれがなくても、最終的にはそこに行きついたわ。わたしが悔いているのは、あのアーサー殿に負けたという気持ちを抱かせてしまったことよ。怒ってもしかたがないところで、怒ってしまった。デセオの大公としてのわたしは、アーサーに恭順をして、弱々しく振る舞い、それで、公国として都合のいい条件を勝ち取らないとならなかったの。怒鳴ってアーサーを怒らせるなど、愚策中の愚策よ」
イザヤは嘆くとともに、顔をあげる。
すると、コーラはにっこりと微笑んでいた。
「でも、イザヤ様の啖呵にはすっとしました」
「みんなの前で辱めたのに?」
「気持ちよかったですわ」
コーラがにっこりと笑う。
その気楽そうな顔に力が抜けてしまった。
「結界を。防音も二重掛けにして」
イザヤは表情を改めて姿勢をただすと、部屋にいる者を密着する。
いずれにしても、あんな映録球があるというのは、それだけの諜報能力があるというタリオの誇示でもあるだろう。
逆に、ここがタリオの施設内であるとはいえ、ああも簡単に映録球の記録を残されてしまうというのは、デセオ側の警戒能力がそれだけ低いということでもある。
大公のイザヤの首くらい、いつでも奪えるということだ。
まあ、ほかの公国とは異なり、前大公の養女にすぎないイザヤを殺しても、それほどデセオ公国を混乱させることができるとも思えないが……。
魔道具が準備され、イザヤたちの周りに結界が厳重に刻まれる。
これで、少なくとも、ここでの会話が外に拡がることはないはずだ。
「タリオとはひと先ずは従属関係となったわ。デセオ公国はアーサー陛下の建設する帝国の一部となる。だけど、気を許してはならない。間違っても、身内とは思わないこと。それを肝に銘じなさい」
イザヤは表情を改めて言った。
全員が真顔になって頷いた。
さらに口を開く。
「……敵の敵は味方」
周りが怪訝な顔になる。
「敵の敵とは?」
そして、コーラが代表するように疑念を口にした。
「ハロンドール王国で独裁官となったロウ=ボルグ……。彼についての情報を集めなさい。心情、嗜好、女の好み……。とにかく、ありとあらゆることを。弱点はなにか。そして、どうして、一流の女たちが彼のところに集まるのか……」
イザヤは言った。
ロウ=ボルグという男に面識はない。
デセオとしての関わりもない。そもそも、ハロンドール王国とデセオ公国との国交も利害関係も現段階でほとんどないのだ。
しかし、イザヤのみたところ、おそらく、ハロンドール王国と新ローム帝国は近いうちに敵対関係になる。
少なくとも、アーサーは、はっきりとハロンドール王国を次の狙いに置いているだろう。
そのときこそ、デセオは見極めねばならないのだ。
どちらが生き延びるために手を組むべき相手なのかということを……。
「場合によっては、ハロンドール王国と手を組むということですか?」
コーラだ。
イザヤは首を横に振った。
「手を組むなどおこがましいわ……。わたしたちは小国……。わたしたちにできるのは、見極めるだけよ。生き残るためには、どこが従属すべき相手であるかを……」
「わかりました。ひそかに、あの王国に耳目の者を派遣します。だけど、ロウという男は随分と女たらしだそうですね。噂によれば、ハロンドールの王女たちも王妃も、そして、エルフ族のガドニエル女王までも、彼に夢中だとか……」
コーラが愉快そうに笑った。
デセオとして持っている情報は、そんな噂話程度のことだ。
その実態はわからない。
「そのようね。もしも、会うことがあれば、わたしも彼に堕とされないよう気をつけないと」
イザヤは笑った。
もちろん、冗談である。
性技に長け、艶道を究めたデセオ公国のイザヤが、ひとりの男に堕とされるなどあり得ることじゃない。
それはみんなわかっているので、イザヤの軽口に一斉に笑い声があがった。
「イザヤ様が本気になれば、堕とせない男などあり得ません。そのときこそ、本気で堕としてください。デセオ公国のために……」
コーラが笑って言った。
イザヤは肩を竦めた。
「いずれにしても、調略の糸は張りましょう。ハロンドール王国には伝手はないけど、エルフ族の水晶宮にひそかに私書を送るわ……。コーラ、引き受けてくれる? 誰にも知られないように、手紙を届けて欲しいの。将来への投資として、万が一のときの繋がりを作っておきたいのよ。細い糸でも、糸は糸よ」
イザヤはコーラを見た。
コーラが頷く。
「わかりましたが、相手は誰です? イザヤ様はエルフ族の水晶宮の誰かに知古が?」
「副王のラザニエル殿にわたしの私書を送りましょう。彼女は会うわ。わたしの名で、これから口にする言葉をラザニエル殿に伝えればね」
「そんな都合のいい言葉があるのですか?」
「あるわ。こう伝えるのよ……。“お前の秘密を知っている”とね」
イザヤは笑った。
「なんですか、その殺伐とした言葉は?」
コーラが呆れた声をあげる。
「多分、効果はあるわ。いいから、デセオ大公のイザヤから、ナタル森林の水晶宮のラザニエルに書を持っていきなさい」
イザヤは笑い声をあげた。
(第11話『新ローム帝国の誕生』終わり)