【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
王都郊外の原野である。
まだ朝といえる時間であるが、白々と夜が明ける頃に王都外門を出てから、一ノスほど過ぎているので、見渡せる原野は昼間の明るさになりかけていた。
一郎は、ひとつの丘の上に建てられた幕舎の外に並べられている椅子のひとつに座っていた。椅子の前には大きめのテーブルがあり、そこには地図が拡げられている。ほかに、エリカ、コゼ、ガドニエル、スクルド、アネルザがいて、エルフ族のブルイネン以下の親衛隊が直接の警備のために周囲を取り巻いているという状況である。
そして、ここは王軍の演習場だ。
ここで王軍大演習という大きな演習が最後にあったのは、もう一年半ほど前になる。あの“キシダイン事件”のときだ。
一郎たち自身は演習場そのものには入らなかったので、一郎がここにくるのは初めてだ。一郎たちは、ここに来る途中にあるダドリー峡谷という場所でキシダインの私兵と戦ったのだ。
そして、いま一郎たちがいる場所に、王族貴族のための幕舎があって、ここでキシダインが捕縛されたのだそうだ。
もちろん、いまはすべて片付けられていて、ただの小高い丘の頂上でしかない。
「しかし、驚いたねえ。わたしがスクルドから移動術で転送してもらったから、てっきり、お前も同じ手段でここに送ってもらったものと思ってたんだけど、自分で馬に乗ってきたとはねえ。そろそろ、長い付き合いになるけど、お前が馬に乗れたというのは、とんと耳にしかかったからねえ」
一郎の隣に腰掛けているアネルザが半分揶揄うような口調で言った。
その通り、あのキシダイン事件のときには、一郎たちは馬車で移動していて、一郎には騎馬技術などなかった。そもそも、騎馬などというのは、専ら人間族の貴族の技術であり、当時の一郎のパーティメンバーで馬を操れたのはシャングリアのみだった。奴隷あがりのコゼはもちろん、森の民のエルフ族には乗馬の習慣がなく、エリカもだめだった。
まあ、エリカについては、いつの間にか騎馬術を取得していたが、一郎が馬に乗れるようになったのは、正真正銘、今回最初だ。
そう説明すると、アネルザが目を丸くしていた。
「これが初めての乗馬だって? それでここまで来たのかい。そりゃあ、大したものさ」
「それほどでもないさ。実のところ、俺は馬から落ちないようにただ座っていただけでね。向かいたい方向を軽く首でも叩いて知らせるだけで、ただ馬が連れて行ってくれる。それだけだ。簡単なものさ」
一郎は笑った。
「へえ、そんないい馬なのかい?」
「まあ、そういうことになるのなあ?」
すると、言い淀む一郎の代わりに、横にいるコゼが首を傾げる仕草をした。
「そういうことなんでしょうね。ロウ様の言葉だけを理解し、ただ指示するだけで、自在に動くんですから。まさか、あんなことが成功するとは思いもしませんでした」
エリカだ。
半分苦笑している。
まあ、一郎も同じ気持ちだ。あれだけのことで、こんなにも馬が言うことをきくようになるというのは、一郎としても想像の外だった。
「なんだい。なんだい。勿体ぶった言い方をして。どういうことだか、からくりを教えな」
アネルザが探るような物言いをする。
「まあ、功労者は間違いなくスクルドだ。おかげで、俺も苦労することなく、騎馬で移動することができるようになった。正直、俺も独裁官だしなあ。いつまでも、馬車移動じゃあ様にならないなあとは思っていたから、今回のことは感謝しかない」
一郎は笑った。
「ふふふ、ありがとうございます。結構なご褒美もいただきまして感謝しておりますわ。これからも、性奴隷で雌犬のスクルドをよろしくお願いしますわ」
すると、頭の上に重たいものが乗った。
スクルドの乳房だ。後ろにいるスクルドが一郎の頭の上に胸を乗せたのだ。相変わらず大きな胸だ。
一郎は手を上に伸ばして、頭の上のスクルドの胸を軽く揉んでやる。さらに、ちょっとした悪戯も加えて、一郎の指が触れる場所にスクルドの性感帯の全部が移動するように細工もした。「性感帯移動」という一郎だけの特殊技能だ。
つまり、一郎の指が動くのに応じて、全身の性感帯がさわさわと移動する感じだ。
「ひゃ、ひゃああ」
背中側のスクルドが奇声をあげて腰を抜かしたようになった。
一郎は身体を半身だけ回して、崩れそうなスクルドの腰を捕まえて支えてやる。だが、さっきの機能がそのままなので、一郎が触れたところに、性感帯の集中が起きて、スクルドの性感が一気に暴走する。
「ひゃああああ、あああああ」
腰を掴まれたまま、スクルドががくがくと身体を震わせて、あっという間に絶頂した。
一郎は「性感帯移動」を切断すると、スクルドの身体を粘性体で包んで、前側に持ってきて膝の上に横抱きで乗せてやった。
「ほら、しっかりしろ。立てるか?」
「ああん、腰が抜けて立てませんわあ」
すると、スクルドが虚ろな表情のまま、一郎の首に両手を回してしがみつくような仕草をした。
「くううっ、ず、ずるいですわ。エルフ族には騎乗の習慣がありませんもの。だから、乗馬術では、ご主人様に貢献するのは難しいんです」
一方で、コゼを挟んで一郎と並ぶ椅子に座っているガドニエルが口惜しそうな声を出した。
ちなみに、並んだ椅子に座っているのが、一郎のほかに、アネルザとガドニエルとコゼだ。エリカ、スクルド、さらに親衛隊長のブルイネンについては、後ろに立っている。
「あんなのは、乗馬術に関係ないわよ。試そうとも思わないわ。まさに、淫乱巫女ならではの発想ね」
コゼが茶化すように口を挟む。
「いい加減に教えておくれよ。なにをしたら、ロウ殿がいきなり乗馬ができるようになったんだい?」
アネルザが言った。
「ご主人様の精液ですわ」
すると、一郎の膝の上のスクルドが応じる。
「精液?」
アネルザが怪訝そうに言った。
「こいつ、もしかしたら馬にもご主人様の淫魔術が効くんじゃないかと言って、ご主人様の精を溜めて、雌馬の餌に混ぜたんです。そうしたら、信じられないくらいに、馬が従順になって、ご主人様の言葉になんでも従うようになったということなんです」
コゼだ。
「はああ? そんなことで急に乗馬ができるようになるのかい?」
アネルザがびっくりした声を出す。
「なるんだから不思議ですよねえ」
エリカが言った。
なんとなく、全員でどっと笑う。
ひとしきり笑ったところで、急にアネルザが急に真面目な表情になった。
「ところで、ロウ殿、今日の野外演習が終わったら、時間を作ってもらえるかい。イザベラを交えて、急いで協議しなければならないことがあってね」
「怖いねえ。アネルザの手に余ることか?」
一郎はお道化て言った。
独裁官などという役職を作り出して、内政外政、さらに軍事大権を含めて、ほぼハロンドール王宮の全権力を一時的に握っている一郎だが、実際の実業務は、目の前のアネルザに丸投げの状態だ。
処刑したルードルフ王の王妃ということで、表向きには、アネルザは権力の座から離されて、どこかに幽閉されていることになっているのだが、実際には王宮の一画で、すべての業務を取り仕切っている。手足になっているのは、フラントワーズがまとめている新教団の教徒である令嬢や令夫人たちであり、彼女たちは一郎の性支配を受けたことで、ことごとく、官吏としての飛躍的な能力向上があり、まだ十日に満たないが、すでに新王宮の重要戦力になっている。
それはともかく、アネルザには独裁官たる一郎の名を使って、すべてを任せているのだが、そのアネルザの判断に余るということならば、それなりの重大事項であるに違いないのだ。
「昨日の夜に、二通の書簡が王室に届いたのさ。魔道便を使った公的書簡だ。ひとつは、ローム帝国皇帝アーサーだね。そして、もうひとつは、クロノス教会教皇クレメンスの名だ。返信は女王としてイザベラの名でするけど、内容はお前の意見をきけ必要がある」
タリオ大公のアーサーがローム新皇帝を名乗ったのは、つい数日前のことだ。
アーサーがカロリック公国を征服するとともに、旧皇帝家を追放したことで、ローム三公国と呼ばれる三つの大公国からは、形式上の宗主はいなくなっていた。
その状況で、もうひとつの大公国であるデセオ公国がタリオ公国の従属を誓ったことで、タリオ公国がこれまで分かれていたローム地方と呼ばれる土地を統一することになったのである。
戴冠式は後日ということであるが、タリオからは新皇帝アーサーの名でローム帝国建国に書簡が正式に届いていた。
ハロンドール王国としては、それに対して、なんの反応もしていないが、アーサーが皇帝の名で書簡を送ってきたのは、これが二回目ということになる。
また、もうひとつのクロノス教会というのは、この王国にも拡がっているクロノス神を最高神と仰ぐ大陸宗教の最高教会であり、この大陸では人族最古の国家であるエルフ森林王国と並ぶ権威だ。
この王国中にもクロノス教会の教会が拡がっていて、実はその支配は、ハロンドール王室ではなく、いまはタリオ内にある大神殿が握っているということだ。
一郎が独裁官に就任以来、その教団でしか許されていないらしい暦の設定に、勝手に王国独自のものを加えたし、王国内でフラントワーズが代表となる新教団の設立を認めたりした。
アーサーにしても、教皇クレメンツにしても、一郎に好意的な書簡を送ってきたとはとてもじゃないが思えない。
まあ、その両勢力から、なんらかの反応がイザベラの戴冠式前に来るというのは予想はしていた。
一郎は肩を竦めた。
「ローム新皇帝のアーサーと、ローム教皇か。もしかして、イザベラやガドの合同婚姻祝福とかかな?」
一郎はお道化て言った。
アネルザが横で鼻を鳴らす。
「そんなわけないだろう。祝福の言葉なんて、儀礼としても、一文字も書いてなかったよ。まあ、予想通りだとは思うよ。要約すれば、アーサー新皇帝からは、公妃エルザの返還だ。正式には離縁手続きは進んでなくて、勝手に里帰りして、戻ってない状態だからね。そのエルザをイザベラ女王の任命する南方総督にしたことを猛抗議してきているよ」
「エルザ殿を? 今更だろう」
「まあ、今更だけどね。こっちの不当を訴える種としてはいくらあってもいいということかもね」
「ふうん。それで、もうひとつの方は?」
「教皇からは具体的にはなにもないよ。ただし、十日後に教皇名代の枢機卿が王都にやってくるらしい。重要な話し合いをしたいということを上から目線で書いてきたさ」
「仮にも一国の女王を相手の書簡に上から目線か?」
「それだけの権威があるからね。そして、力も持っている。クロノス教会は、この王国全体に拡がっていて、臣民の信仰を握っている。しかも、地方においては、魔道遣いの素質のある子女を事実上独占していて、いまは、魔道遣いといえば、教会の神官という状態だ。その教団にそっぽを向かれれば、ハロンドール王宮であっても、臣民の忠誠はあっという間に離反するのは間違いない。少なくとも、連中はそう思っている。ハロンドール王室ごときに、上から目線はおかしくない話さ」
「なるほどねえ。まあ、そのどっちも、独裁官であるこのロウ=ボルグに任せてくれるか」
「任せるのはいいけど、その前に、どうするのかを教えてくれるんだろうねえ。そうじゃないと、王宮としてもどう対応していいかわからないというものさ」
「もちろんだ。アネルザの言ったように、今日の演習の後で、イザベラを交えて話をしよう」
「頼むよ」
アネルザが言った。
そのときだった。
幕舎の立っているこの丘の下に、演習場の左右方向から、二頭ずつの騎馬がやってきた。
すでに展開している二個勢力の将軍とその副官たちである。
すなわち、一方はラスカリーナとナール。もう一方は、もともと、ハロンドール王軍の第一将軍だった将軍とその副官だ。
「来ました、ロウ様」
エリカが声をかけた。
「時間通りだな。じゃあ、スクルド、おりてくれ」
一郎はスクルドを膝からおろすと、思考を今日の対抗演習に切り替えた。