【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「お待ちしておりましたわ。随分と遅起きですのね、ゼノビアさん。ふふふ、だから、ロクサーヌさんたちはさらわせていただきました」
ゼノビアは呆気にとられた。
部屋の中には、いるはずのロクサーヌとルカリナはおらず、その代わりに顔にフードを被った女がひとりだけ、寝台を椅子代わりにして座っていたのだ。
どこかで見たことがある?
しかし、思い出せない。
いや、そもそも、顔を認識できない。
なんらかの認識阻害の魔道か?
それはともかく、ロクサーヌたちをさらっただと?
「ちっ」
一瞬にして、間を詰めて、抜いている短剣を突きつけようとした。
だが、近寄った瞬間に、突如として身体が潰された。凄まじいほどの重さが全身に襲い掛かったのだ。
それだけじゃなく、身体に重量物を括りつけられたのように、手足が動かなくなってしまった。
「うわっ」
ゼノビアはその場に蹲ってしまった。
「あら、申し訳ありませんわ。一応、結界を張っておりましたので。いま解きますわね」
女はなんでもないかのように、ゼノビアの手から短剣を奪うと、自分が座っていた寝台の上に置く。
すると、急に身体が軽くなって、動けるようになった。
ゼノビアは大きく息を吐いた。
そして、どっと背中に冷たい汗が流れるのを感じだ。
どうやら目の前の女は、かなり上級の魔道遣いみたいだ。
また、背中側になった廊下との扉が元通りに閉められる。これもまた、魔道だ。
しかし、本当に誰なんだ?
だが、かなりの実力だ。ゼノビアはいったん抵抗を断念した。
立ちあがりながら、もう一度顔を見る。
すると、まるで霧でも晴れたように、女の顔がはっきりと視界に入った。
女がフードを外す。
「わっ、あんた──。あっ、いや、あなた様は──」
思わず声をあげた。
そこにいたのは、第三神殿の女神殿長にして、ルードルフ王に処刑されたうえに辱められたというスクルズだった。
髪の色は記憶と違うが、間違いない。
スクルドが実は生きているというのは、カロリックで出会ったターナ=ショーという不思議な女が口にしていたが、どうやら真実なのだと悟った。
また、このスクルズが神官長でありながら、あのロウに昵懇であり、ロウの下僕にも等しい女であることをゼノビアも知っている。
つまりは、ロクサーヌは、ロウに保護されたということだ。
「わたしは、ただのスクルドでございますわ、ゼノビアさん。ロウ様というご主人様に可愛がってもらっている雌犬です。丁寧な言葉使いをなさる必要はありませんわ。それに、お仲間ではないですか」
スクルズ……いや、スクルドがにこにこと微笑みながら言った。
「雌犬ねえ……」
ゼノビアは嘆息した。
そもそも、ゼノビアはロウやその女たちと仲間になった覚えはない。まあ、いちいち口に出すと、面倒なので反論はしないが……。
「じゃあ、ざっくばらんに話させてもらうよ。ロクサーヌ殿たちは、すでにそっちで預かったという認識でいいんだね、スクルドさん?」
「その通りですわ。イザベラ陛下のご命令です。直ちに保護せよということでしたので、申し訳ありませんが、夜中のうちに、王宮に移動してもらいました。ロクサーヌさんたちはくれぐれも、ゼノビアさんたちによろしくということでしたけど、お取込み中のようだったので、お声はかけませんでした」
スクルドがころころと笑った。
しかし、昨日の夜のことか……。
確かに、昨夜はちょっとはっちゃけてしまい、シズと激しく百合遊びに興じていた。
そのときに、ロクサーヌたちが連れていかれたのか……。
「まあ、安全が保障されるなら、それに越したことはないさ。でも、一応の責任もあるしね。できれば、取り込み中だったとしても、声くらいはかけて欲しかったね」
ゼノビアは不満を言った。
「それは申し訳ありませんでしたわ。ゼノビアさんたちについては、ご主人様がそのままでいいというので、そうしてしまいました。申し訳ありません」
スクルドは微笑みを浮かべたまま言った。
ちっとも悪びれている様子はない。
それはともかく、今、聞き捨てならないことを耳にした気がする。
「いま、ご主人様って言った? ご主人様って、ロウ殿のこと?」
「はい、その通りです」
「ここに来たの? 夕べ?」
「ええ」
スクルドはにこにこしながら頷いた。
だが、冗談じゃなかった。
夕べのあの狂態の真っ最中に、ロウがすぐ隣の部屋を訪れていたなど……。
ゼノビアはぞっとした。
そのとき、廊下の扉が外から叩かれた。
「シズさんのようですね。入ってもらいますね」
扉が開く。
振り返ると、服装を整え終わったシズがいた。
「えっ?」
シズもまた、部屋の中の様子に面食らっている。
とりあえず、部屋の中に入れて、事情をシズにも説明した。
シズは、困惑していたが、ロクサーヌが王家に保護されたということについては安堵した様子を見せた。
ただ、夜にこの部屋に、ロウがやって来ていたということについては黙っていた。シズがロウに強烈な苦手意識を持っていて、怖がることがわかっているからだ。
「とにかく、皆さんを呼ぶ前に、まずはミランダから話があるということですので呼びますね」
スクルドが言った。
そして、立ちあがって魔道の操作をする素振りを示し始める。
目の前の空間が揺らぎ始め、移動術を展開しているのだと悟った。
一瞬、目の前のスクルドが消え、すぐにそのスクルドとミランダが一緒に現れる。
「ああ、ご苦労だったね、ゼノビアにシズ……。逃亡の女大公殿を保護して連れてきたというのは驚いたけど、さすがは、あんたらだ。大したものだ……。ああ、そのままでいい。シズも座っておくれ」
現れたミランダは、ゼノビアたちを認めると開口一番にそう言った。
また、ミランダとスクルドは、ゼノビアたちが座っている寝台の向かい側に、ふたりで並んで腰かけた。
「ああ、大変だったよ。大変なんてもんじゃなかった。それと、昨夜もギルドの通信具で連絡したけど、元々のクエストだったテレーズ伯爵母娘は見つけたし、一度は保護もしたんだ。ただ、戻りたくないというのは、あいつらの強い意志でね。それを証明する手紙も預かってきている。それをもって、クエスト成功として欲しいね」
ゼノビアは言った。
タリオに占領されたばかりのカロリック公国の闇娼館のような場所で見つけたテレーズ女伯爵母娘だったが、どうしても王国には戻りたくないというのは、本人たちの強い希望だった。
本当は無理矢理にでも連れ帰らないと、クエストに不都合だったのだが、成り行きでロクサーヌ女大公の王国への亡命の手助けをすることになったこともあり、テレーズ女伯爵たちは、あのターナ=ショーという女に託した。
これを証明する手紙も本人に書かせたので、とりあえず納得して欲しい。
「あとで提出してくれればいいさ。まあ、もともと、連れ帰ることが目的というよりは、王国の失敗の落とし前をつけたかっただけだしね。無事が確認できて、本人たちが望むなら、帰国しないことも仕方がない。こっちで裏が取れれば、クエストは成功扱いにするよ。デセオに行ったということなら、向こうのギルドを通して情報を確認するから、ちょっと待っておくれ」
「ありがたいねえ。時間がかかる分は問題ないさ。当分は王都を拠点にするつもりだしね。なあ、シズ?」
ゼノビアはシズを見る。
「ええ、問題ないわ」
シズも頷いた。
「それと、カロリックの女大公のことについては、別に報奨金が出る。こっちはクエストではないので、ギルドからは払えないけど、王家が支払う。大公が亡命してきたことについては、まだ公にはできないけど、旅にかかった経費も含めて報奨金を払うと、姫様から言葉を預かっている。それで呑んでおくれ」
「そっちも問題ないよ。別段、こっちは勲章とか欲しいわけじゃないしね。賞金が支払われるなら十分だ。それでどういうかたちでもらえるんだい? なにしろ、かなり金をばらまきながら、安全を買ってここまで来たんだ。かなり懐が寂しくてね」
半分本当で半分嘘だ。
かなりの金が手元からなくなったことは事実だが、これまでの冒険者生活や傭兵生活で貯め込んでいるものは、色々な形でまだまだ残っている。
シズとふたりで、数年遊んで暮らしてもなくなるというものじゃない。
「すぐに払う。とりあえず、経費分に相当する額については、ギルドで払うさ。もともと、クエストでそういう約束だったしね……。まあ、その……。クエスト失敗の罰が終わったらね……」
ミランダが言った。
ゼノビアは首を傾げた。
「んん? いま、変なことを聞いた気がしたんだけど、クエスト失敗とか言わなかったかい? 聞き間違い?」
「そうね。言ったわ。クエストは成功扱いでいいんでしょう、ミランダ?」
シズも言った。
すると、ミランダが困ったような顔になる。
「まあそうなんだけど……。冒険者ギルドとしては、成功認定するさ。それに見合う報酬も準備する。ただし、クエスト条件は、テレーズ女伯爵を保護して連れ帰るということなんだから、クエスト失敗の罰は受けてもらうことにはなるね。まあ、成功扱いにするから、それは了承してくれ」
「いやいやいや、意味わからないんだけど。成功扱いなんだろう? だったら、なぜ、失敗として罰を受けるんだい?」
ゼノビアは抗議した。
まったくもって、意味不明だ。
だが、よく見れば、ミランダもちょっと困った表情だ。
ちょっと言葉に歯切れも悪い気がする。
「そもそも、失敗の罰ってなんですか、ミランダ? 追加クエストを無料で受けるみたいな?」
シズが言った。
「いや、そういうんじゃないんだけど……。まあ、なんというか。うるさくってね……。失敗扱いにしろってね……。そのう、だから、ちょっと付き合ってももらえないかい……。ギルドとしては成功扱いで処理するから、まあ、なんだ。罰についてだけは、受け入れて欲しいということさ……。悪いね。じゃあ、決定事項ということで……」
ミランダが話は終わりという感じで立ちあがる。
しかし、ゼノビアはミランダの腕を掴んだ。
「待ちなって──。ちゃんと納得のいく……。んっ?」
ゼノビアは肌にぴりつくような違和感を覚えて、意識をなにかの気配がする方向に向けた。
移動術?
またしても、空間が揺れていた。
「わっ」
「ひいいいっ」
そして、ゼノビアとシズは、その場で悲鳴をあげてしまった。
驚愕することに、今度はロウがそこに現れたのだ。さらに、エリカ、さらに、確かイライジャというシズの幼馴染もいる。
「話は終ったか、ミランダ?」
ロウが上機嫌な様子で言った。
「あ、ああ……。話はしたよ。だから、もういいだろう。罰の内容までしてないけど、それはお前から説明しておくれ」
ミランダだ。
「そうか。とにかく、久しぶりだな、ゼノビアとシズ。戻ってきたと耳にしてな。懐かしくて会いにきたぞ。とにかく、クエスト失敗の罰は、俺との一日デートだ」
ロウが言った。
だが、全く意味がわからない。
なんで?
そもそも、どうして、この一件にロウが出てくるのだ。
「シズは、わたしたちとよ」
「そうね。懐かしいわね。三人でなんて。一日愉しくやろうね」
エリカとイライジャだ。
だが、シズも呆気にとられて、絶句している。
「い、いや、ちょっと、なにがなんだか……。どういうことなんだい、ミランダ? ロウとデート? はあ?」
ゼノビアはミランダを見た。
しかし、ミランダはゼノビアたちに向かって、謝るような仕草をした。
そして、ミランダはロウに視線を向ける。
「も、もういいだろう。言われた通りにしたよ。もう堪忍しておくれよ」
「まあ、いいだろう。そら」
ミランダの哀願なような言葉に対して、ロウが愉しそうに笑った。
次の瞬間、ミランダのスカートの中で金属音のような音がして、一瞬でミランダが真っ赤な顔になった。
「うわっ、ひっ」
すると、ミランダのスカートから、ディルドが二本ついた革帯のようなものが落ちてきた。
ディルドはてらてらと濡れて光っていて、たったいままで、ミランダに装着されていたのは明らかだ。
「ど、どういう……」
硬直していた感じのシズがやっと、我に返ったようになって口を開く。
「さっき言った通りだ。ゼノビアは俺と。シズはエリカとイライジャと一日デートをする。それがクエストを成功扱いにする条件だ。ミランダの采配だ。嫌とは言わないよな」
ロウが笑い声をあげた。