【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
パリスは勢いよく扉を開いた。
すると、目の前に飛び込んできたのは、ラタン椅子に腰かけた素裸のアスカが、股を開いて腰に跨がせている美しい少女と口づけを交わしている光景だった。
いや、少女と思ったが、よく見れば、その股間には立派に勃起した男性器そのものがある。
ふたなりか……。
しかし、その股間にはしっかりとした男性器があるものの、その胸には少女らしい小ぶりの乳房もあるし、アスカの指はその少女の男性器をしっかりと握りしめつつも、一本の指だけは少女の勃起した肉棒の下にある膣穴に入り込んでいる。
それにしても、まだ、太陽が中天に差し掛かるほどの昼間だ。
淫乱体質のアスカとはいえ、お盛んなものだ。
「あ、ああっ、アスカ様、そんなにされては……。だ、だめ、出ちゃう。出ちゃいます」
アスカの腰に乗っている少女が喘ぎ声をあげだした。
「どっちが気持ちいいんだい、エマ? 女の穴かい? それとも、男の性器かい」
アスカが少女の股間で動かす手を速めながら言った。
「あっ、ああっ」
やがて、エマと呼ばれた少女の乱れ方がかなり激しくなった。
そして、ついにアスカが擦っている男性器の先端から白濁液が勢いよく飛び出す。
それがアスカの白い腹に飛び、アスカの肌にどろりと垂れ乗る。
「駄目じゃないかい、エマ。今度は男の方は我慢して、女の方で気をやれと言ったろう。ちゃんと言いつけを守れないと、わたしの愛人は務まらないよ」
「も、申しわけありません。あ、あの、汚れたものを……」
エマが申し訳なさそうな表情で、アスカの腰から降りる気配をした。
しかし、それをアスカが手でとどめる。
「そんなものは後でいい。それよりも、もう一度だ。今度こそ、男の方は我慢して、女の穴だけで気をやるんだ。うまくいくまでやめさせないよ」
「そ、そんな……。もう、勃ちません。出したばかりなんです」
すると、エマが泣きそうな顔になった。
「心配いらないよ。お尻をお出し。男の性器は、尻の穴と快感が繋がっていて、そこに男の一物の勃起を引き起こす秘密の場所のようなものがあるんだ。そこを刺激すれば、いくらでも勃つさ。ほら、腰をあげな」
アスカが言うと、エマが恥ずかしそうに腰をあげた。
だが、パリスは小さく舌打ちした。
エマはともかく、アスカは、パリスが入ってきたことに気がついているはずだ。それなのに、知らないふりをして続けるつもりなのだ。
パリスは大きく咳払いをした。
「きゃあ、パ、パリス」
エマがびっくりした声をあげた。
ほんの数名の真の腹心以外のときは、少年の姿のパリスは、アスカの従者ということになっている。だから、エマもパリスには敬語は使わない。
このところ、少し本国に戻っていたので、このアスカ城から離れていたが、どうやら、このエマは、その間に作ったアスカの新しい愛人ということのようだ。
「なんだい。取り込み中だよ、パリス」
アスカがにやりとこっちに意地の悪そうな笑みを向けた。
やはり、気づいていたようだ。
「重大な要件です。お人払いを、アスカ様」
パリスは静かに言った。
やっと、アスカがエマを離した。
「調教室で待っておいで、エマ。また、魔道の稽古をつけてやろう。それから、召喚術の修行だ。もちろん、ふたりきりでやるよ。なにひとつ身に着けることなく、素っ裸で待っているんだ。いいね、エマ」
アスカが優し気な口調で言った。
「はい、アスカ様」
エマは床に落ちていた薄物をまとうと、上気した顔のまま部屋を出ていく。
扉が閉じて、ふたりきりになるとパリスは口を開いた。
「いまのは、お前の新しい愛人か、アスカ?」
パリスはつかつかとアスカのところに歩み寄った。
この部屋には、アスカが腰かけていたラタン椅子ひとつしかない。
ほかには絨毯をしきつめてある床があるだけだ。
パリスがやってくると、アスカがしぶしぶという感じで立ちあがる。
当然のようにパリスは少年の身体をそこに埋めた。
「ちっ、随分と女くせえなあ。一体全体、どれだけ、ここで乳繰り合ってんだ、アスカ」
「ほんの朝からだよ……。いや、昨夜からかねえ。ずっとふたりで愉しんで、そのまま床の上に抱き合って寝て、起きてから、また愛し合ってたんだ」
アスカがにやりと笑みを浮かべた。
「呆れたぜ。将来のあったエルフ女王候補が、いまじゃあ、こんな辺鄙な深淵の城で淫行三昧かい。ここまで落ちぶれたくはねえもんだね」
「ふん、お前に言われたくないね。お飾りの城主魔女としては、愛人の娘と乳くり合うくらいしかやることはないものでね。それとも、いい加減にわたしをこの城に監禁するのをやめてくれるのかい、パリス?」
「あと百年くらいしたら、考えてやるよ。影が外に出る分は許可してるだろうが。それよりも、俺の幹部部下をタリオから連れてきている。いつものように相手しろ。命令で強要して欲しいか? それとも、命令なしで股を開くか?」
「夕食の後にしな。それまではエマと愛し合いたいんだ」
アスカが不機嫌そうに言った。
なにがあっても、どんな命令でも、このエルフ女はパリスに逆らえない。そういう支配の刻みをしているのだ。
かつては、娼婦の真似事をしてパリスの直接の部下の相手をしろと言えば、自尊心が傷つくのか、烈火のごとく怒っていたが、最近では観念してるのか大人しい。
パリスとしては、アスカができるだけ嫌がることを強要したいので、もっとこいつがパリスを憎むようなことをさらに考えようかと思った。
こいつが、もっとパリスに恨みを抱くような……。
エマか……。
ふうん……。
「ふん、それで、あれは男か、それとも女か? どうせ、お前が魔道で身体をいじったんだろう」
「エマは女だよ。見た通り人間族のね。ただ、わたしが魔道でふたなりにしてやったんだ。あたしの腹心にする代償さ」
アスカは床にあったローブを身に着けると、椅子に座るパリスの前に胡坐に座った。
「腹心? つまりは、新しい召喚士の候補ということか? それにしては、魔力が足りない感じがしたな」
パリスは思い出して言った。
以前に召喚士候補だったエルスラというエルフ女が逃亡してから、アスカは自分の手伝いをさせる召喚士を作ってはいなかったが、どうやら、やっとそれを見つけたようだ。
もっとも、この馬鹿女は、召喚士としての高い魔力があるかどうかを気にせず、愛人として気に入るかどうかで人選したらしい。
どう見ても、あのエマは大した魔道遣いではない。
以前の召喚士候補だったエルスラも、魔道遣いとしては実力不足なところがあり、それを特殊な杖を持たせることで能力を上乗せしていたが、あのエマは遥かにそれ以下だろう。
「だから、お前たちの能力でエマの身体に魔瘴石を入れてやっておくれ。そうすれば、高い魔力を帯びれるようになるんだろう? それで召喚士としての素養ができる。あとはわたしがなんとかするさ」
「魔瘴石を?」
パリスは言った。
確かに魔瘴石を身体に入れると、身体に蓄える瘴気の影響により、魔力もまた大きな向上を見せる。それをすれば、あのエマだって、召喚士にするくらいの魔力を得させることができるかもしれない。
「まあ、いいだろう。ただ、それだけでは不足だな。だったら、召喚士として、エマが仕事をするたびに、洩れ出る瘴気をお前の身体側に蓄積させるようにさせてもらう。もともとの魔力の素質が乏しくては、召喚による瘴気の洩れをあいつじゃあ、支えられないだろうしな」
パリスは言った。
もちろん、そんなことは出鱈目だ。
召喚術を遣うのに、瘴気の発生を身体で支える必要などない。
体内に魔瘴石がある限り、召喚により発生する瘴気は、勝手に魔瘴石が吸い込むのだ。
このアスカは知らないが、アスカの役割がまさにそれだ。
アスカのもともとの大きな魔力の素質を生かして、巨大な瘴気の蓄積場にする。
それがパリスが「道具」として選んだアスカの役割だ。
アスカには、「冥王」の復活をもくろむために、召喚によって発生する瘴気をアスカ城周囲にばらまいているのだと説明しているが、真実は、限界を超えるまでの瘴気を集めているのは、まさにアスカの身体そのものだ。
アスカを生きた巨大な瘴気の特異点にしようとしているのだ。
この城の周りに洩れ出ているのは、アスカの体内にある魔瘴石で集積できなかったわずかな瘴気が自然に洩れているだけにすぎない。
実際のところ、アスカの身体にある魔瘴石とアスカの身体は、いまや信じられないくらいの瘴気を集めている。
このまま、アスカへと瘴気の吸収が進めば、おそらく早晩、アスカは生きた巨大特異点になる。
無論、そのときには、最終的にはアスカは自我をも失って、事実上、死んだも同然になるだろう。
もともと稀代の魔術遣いであるアスカは、その体内に信じられないくらいの魔力を蓄積できるが、それを利用して魔力ではなく瘴気を蓄積させているのだ。
つまり、瘴気体に変えてやるのだ。
それで、大きな特異点体にアスカがなれば、アスカと異世界にある瘴気が繋がり、そのアスカをどこにでも連れていくだけで、そこが瘴気をだくだくと垂れ流し続ける瘴気の発生源にすることができる。
生きている特異点は、当人が死ねば終わりだが、幸いにもアスカは魔力が高く、簡単には死なない身体でもある。
動く瘴気の発生体とするには、うってつけの実験台だ。
召喚術は瘴気発生には効率がいいが、大きな魔道を必要とするし、召喚可能な星の位置が限られているので、アスカへの瘴気蓄積はゆっくりとしか進められないが、アスカだけでなく、エマの召喚により発生する瘴気もアスカ側に集めることにしてやれば、アスカの中の瘴気の蓄積速度は、これまでの二倍になる可能性もある。
「もちろん、いいさ。まあ、よろしく頼むよ」
なにも知らないアスカがにこにこと微笑んだ。
知らないとはいえ、自分の命を縮めることになる取引に、アスカは喜々として応じた。
やっぱり愚かな女だ。
「それよりも、わざわざエマとの愉しみを邪魔したのは、わたしに、お前の部下の接待を指示するのが目的かい?」
パリスは、その言葉でやっと用件を思い出した。
「そうだった。いい知らせだ。あのイチの行方がわかったぞ。どうやら、イチはハロンドール王国の王都に身を隠していたらしい。そこでちょっとした事件があってな。それでわかったんだ」
パリスは言った。
知らせが入ったのは、つい今朝のことだ。
それで急きょ、皇帝家の私領のあるタリオ公国から、移動術で跳躍して、ここに戻ったのだ。
知らせを届けたのは、ハロンドールの王宮に潜り込ませているパリスの直接の手の者だ。
それによれば、ハロンドール工作を担任させていたパリスの部下のノルズは、任務に失敗したようだ。
ノルズに命じていたのは、いずれ、パリスたちが冥王の力を借りて蜂起することになるとき、その邪魔をしないよう、ハロンドール国内に騒乱を起こさせるための魔族軍の出入口を作ることだ。
つまり、パリスたちの計画とは、かつて人族を征服しようとした魔族の王である冥王を復活させ、その力を借りて皇帝家が本来所有すべき版図と権力を取り戻すことだ。
そのために、冥王を復活させて、魔族軍を皇帝軍として操る。
それが一応、パリスの属する皇帝家の闇組織の企みだ。
まあ、一応、そういうことになっている。
冥王を言いなりにするための皇帝家伝承の秘宝は、代々皇帝家に伝わっているそうだ。皇帝家は冥王を復活させて、その力を利用することができると言っている。
パリスに言わせれば、人族が冥王を操るなど世迷い事もいいところだが、まあ、馬鹿どもは勝手に踊ってくれればいい。
あいつらは、パリスの真の目的のために役に立つ。
とにかく、ノルズには冥王を利用して、皇帝家の権力を取り戻すための「同志」として、パリスがここでアスカを利用してやっていることと、同じことをさせようとしていた。
すなわち、大きな魔力を持つ人族の個体を探して、魔瘴石を宿させ、移動する瘴気の発生体としてしまうことだ。
ただ、ノルズは失敗した。
ノルズの工作はハロンドールの宮廷に明るみになってしまったらしい。ノルズ自身がどうなったのかは現段階では不明だが、ノルズにつけた手の者もほとんど捕らえられてしまったようだ。それを魔道の通信手段で知らせたのは、ノルズとは別にハロンドール王宮に潜ませているパリスの直属の手の者だ。
いずれにしても、これで、パリスが伸ばしていたハロンドールへの工作はいったん潰えた感じになってしまった。
そして、それでわかったのだが、そのノルズの計画を見破り、パリスの企てを失敗させたのは、どうやら、以前、このアスカから逃亡した外界人らしいのだ。
アスカの愛人だったエルスラも一緒であり、ふたりは冒険者ギルドに所属する冒険者となっていて、それで今回のことに関与したようだ。
「イチ? 誰だい、それ? わたしの知っている男かい?」
しかし、アスカは首を傾げた。
これには、さすがのパリスも呆れ返ってしまった。
「もう忘れたのか、アスカ。お前から逃亡した外界人の奴隷だろうが。エルスラというエルフ女をたらしこんで逃亡した……。あのとき、お前は怒り狂って、すぐに追っ手を差し向けてやるとか息巻いていただろうが──」
パリスは大きな声をあげた。
アスカがやっと大きく頷いた。
「ああ、あの奴隷かい。イチなんていう名だったかねえ。へえ、エルスラも一緒かい。あいつら、まだ生きてたのかい?」
アスカが声をあげて笑った。
パリスは呆然としてしまった。
「お、お前、興味ないのかい、アスカ。それと、いまはロウと名乗っているらしいぞ。とにかく、お前をひどい目に遭わせた憎たらしいふたりだろうが。そいつらの居場所がわかったんだ。追わなくていいのかよ?」
パリスは怒鳴った。
「追う? そういえば、あのときは腹も立ったし、殺してやろうとも思ったけど、まあ、昔の話だからねえ……。それよりも、エマのことさ。可愛い娘だろう。なんといっても、寝屋でよがるときの表情が最高なんだ。しばらくは、エマのことで忙しいから、連中のことはそれからにするさ。とにかく、エマに植えつける魔瘴石のことは頼むよ。エマは引き立てるからね。このアスカ城の重臣にするんだ。そのためには、まずは、あいつに大きな能力の源になる魔力を与えないと……」
アスカがにこにこと言った。
なにが昔の話だ。
まだ、半年前の話だろうに……。
パリスは嘆息した。
いずれにしても、エマか。
アスカが幸せそうだと腹が立つ。
ちょっと、ちょっかいでも出してやるか……。
パリスは舌打ちした。
「……じゃあ、ロウとエルスラのことはいいんだな? まあいい……。そっちは俺の方で処置する。お前の部下の外界人の奴隷を二、三人借りるかもしれないぞ。ちょっとばかり、俺の仕事を邪魔されたんで、懲らしめたいんだ」
「誰のことだい? ああ、エルスラと、その男のことだったね……。好きにしな。ただ、奴隷にした外界人は、とりあえず、わたしの直接の命令にしか従わないからね。お前の部下として使えるようにするには、ちょっとばかり手間暇かかるかもよ。わたしも忙しいんだ」
「お前、ぶん殴るぞ。とにかく、どの奴隷をあの外界人への刺客にするかは、俺が見繕う。お前は、それを俺の命令に従うように、操りを変更するんだ。わかったな」
「はいはい。そのうちにね。それよりも、エマのことはちゃんとやってくれるね。本当に可愛い娘だろう。とても、いい娘なんだ。このわたしにすっかりとなついてねえ……」
アスカがエマのことを語り始める気配を示した。
パリスは馬鹿馬鹿しくなって、荒々しく席を立つと、アスカを置き去りにして、この部屋を後にした。
*
「奇妙なことだな、ミランダ。一体全体、これはどういうことになっておるのだ? 数日前に大きな話題になった三巫女のことは、わたしだって耳にしておる。それで、ギルドの報告書を読むことにしたのだが、この記録には、クエストを解決した冒険者の名が存在のしない冒険者の名で記録されておるのう……。おかしなこともあるものじゃな。三巫女事件を解決した冒険者の名が、お前が記録した名とはまったく異なるということは、もう調べ済みじゃ。嘘をついても無駄ぞ、ミランダ」
目の前の人物が屋敷に呼び出したミランダを前にして、皮肉のこもった口調で言った。
ミランダは背に冷たい汗が流れるのを感じた。
「そ、それについては理由が……。申し開きをさせてください、姫様……」
ミランダは言った。
すると、相手が不快そうに大きな音を足で床を踏んで鳴らした。
「姫様と呼ぶなと、いつも申しておろう」
「失礼しました、ギルド長」
ミランダは慌てて訂正をした。
そして、困ったことになったと思った。
もちろん、ミランダが名を伏せて、別名でギルドの記録に載せたのは、ロウのやったクエストだ。
ロウは、ある事情があり、ハロンドールだけでなく、冒険者ギルドであれば、世界に散らばるすべてのギルドで閲覧可能な魔道の記録に自分の名を掲載するのを嫌がってるのだ。
それで、そのロウに懇願されたミランダは、ロウたちパーティの仕事については、存在しない架空の冒険者の名で記録に載せていたというわけだ。
だが、それがギルド長である目の前の相手にばれた。
ギルドの仕事など、大して興味のないお飾りのギルド長だが、たまたま興味を引いてしまったのだろう。
今回の事件は、それくらい影響が大きすぎたのだ。
それで、これまでのことも併せて、辻褄の合っていない部分を記録に見つけられ、こうやって呼び出されて詰問を受けているところなのだ。
いずれにしても、困ったことになったと思った。
「……今回のことだけではないな。最近、ギルドでは特異点解決のクエスト報告が立て続けにあがっていたが、そのいずれも架空の冒険者の名じゃな、ミランダ? しかも、全部別々の名じゃ。記録改竄はギルドの掟では、絶対にやってはならんご法度じゃ。どうして、こんなことをした?」
「そ、それは……」
ミランダは返事に窮した。
懸命にうまい言い訳を考えようとしたが、どうしてもそれを思いつかない。
ミランダ自身が、どうして、ロウの言いなりになって、そんな大それたことをやったのかわからないくらいなのだ。
すると、突然に目の前の相手が笑い声をあげた。
ミランダは呆気に取られて、相手の顔を見た。
「……まあよい。いままで真面目に、わたしやギルドに尽くしてくれたミランダのことじゃ。それなりのわけがあるのじゃろう。それが、ロウという男とねんごろになり、ついつい、そいつの言いなりになってしまったという理由だとしてもな」
相手が笑いながら言った。
ミランダは愕然としてしまった。
やっぱり、全部調べ終わっている。
そして、もやは、観念するしかないと悟った。
「そ、そのロウについては、ギルド法に触れるようなことはしていません。罪はこのミランダにあります。どうか、ロウについては……」
ミランダは言った。
ロウには、自分の功績をどうにかして隠してもらいたいと頼まれていたが、すでに相手はロウのことを知っている。もはや、隠そうとすることは無意味だ。
こうなってしまっては、せめて罪がロウに及ばぬように処置するしかない。
ミランダは、もう自分自身のことは諦めた。
だが、なんとかロウたちだけは……。
しかし、目の前の相手は当惑したように首を捻った。
「ほう……。あの伝説的な冒険者でもある怪力無双のミランダが、ロウという人間族の男に完全にたらしこまれたというのは本当のことなのじゃな。驚いたのう……。いや、そんな顔をするな。わたしは、そのロウについても、ミランダについても、別に責めを負わそうと考えているわけではない。ロウという冒険者は、なんといっても、この国の危機を救っていくれた恩人でもあるしな。ミランダについても、これまでの功績については、ギルド長のわたしが一番よく知っておる。とにかく、もう記録のことはいい。これは不問にする」
「あ、ありがとうございます……、ギ、ギルド長」
ミランダは“姫様”と口にしそうになり、慌てて“ギルド長”と言い直して、相手に頭を下げた。
目の前のハロンドール国王の娘にして、第三王女のイザベラ姫に──。
まだ十六だが、前ギルド長であり、タリオ公国に公妃として嫁いだ第二王女のエルザから、二年前にその地位を譲り受けた正式のギルド長だ。
冒険者ギルドは、ハロンドールにおける一大勢力とも呼べる実力集団の組織だが、王家の権威の外にある組織であり、それだけに宮廷政府から敵視されやすいという性格がある。
従って、宮廷政府から不要な危険視をされないよう、代々、ギルド長は王家の一族から推戴を受けるのを慣例していた。
つまりは、ギルドの最高権力者を王家の者にすることで、制度上ではなく、実質的に王家の傘下に入ってしまおうということだ。
それにより、冒険者ギルドとしては王家の権威を活用することができるし、王家としても、冒険者ギルドのもつ実力を王家の自由にできるという利点がある。
それで、いまのギルド長は、この若い第三王女が受け継いでいるというわけだ。
とにかく、イザベラ姫がこうやってミランダを呼び出したのは、ロウの記録に関する工作が発覚したことによる処罰のためではないようだ。
ミランダはほっとした。
「……ただし、許すには、条件がある」
すると、イザベラが言った。
その顔が不敵に笑っている。
ミランダは不審に思った。
「条件とは?」
ミランダは言った。
「そのロウという男に興味がある。一度、忍んでおうてみたい。その手配をせよ。問題はない。わたしについては、名も隠すし、ギルドにある変身リングで顔も変える。一介の冒険者として、一度、そのロウとパーティを組む。適当なクエストを準備せよ、ミランダ」
イザベラが言った。
ミランダは驚愕した。
同じようなことをして、いまやすっかりとロウの愛人のひとりになってしまったシャングリアのことを思い出したのだ。
この王女が気まぐれで、好奇心が強いのはよく知っているし、言い出したら、他人の忠告など相手にしないわがまま娘だということもわかっている。
ただ、なんの気まぐれかしらないが、ロウと一緒にしばらくすごしたいなど、この姫君が危なすぎる。
「そ、それはなりません。実は、ロウは希代の女たらしなのです。姫様として会われるならともかく、ただの冒険者として会うなど危険すぎます。はっきりと申しあげます。姫様の美貌であれば、あのロウは姫様に手を出します。なりません」
しかし、イザベラは声をあげて笑った。
「ますます愉しみじゃ。わたしも年頃じゃ。いずれは、適当な高級貴族の婿をあてがわれるかもしれんし、あるいは、どこかの王族に嫁ぎ、政略結婚の道具になるかだ。大切にする貞操でもないし、その前に処女を捨てておくのもよい。いいから、手配せよ。絶対に、わたしのことを教えてはならんぞ。わたしは、ただの冒険者として、そのロウに接するからな。余計なことをすれば、ミランダもそのロウもただではおかん。ギルドの掟に従い、厳しく処分する。よいな、ミランダ」
「ねえ、姫様、お願いでございます」
ミランダは困って言った。
「そう呼ぶなと申したであろう──」
すると、イザベラが再び足で床を踏んで、怒鳴り声をあげた。
(第16話『冥王のしもべ』終わり)