【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「んごおおお──」
ロクサーヌは、床に固定されている椅子に針金で四肢を縛られた状態で、絶叫しながら身体を暴れさせた。
カロリックの公都郊外の獣人地区のコロニー内に臨時で作られた軍施設の中である。
そこで訊問という名の拷問を受けているのだ。
おそらく、丸一日くらいはが経っていると思う。窓のない部屋なので、実際の時間はわからない。ただそう思うだけだ。
そして、いまやられているのは、電撃を発生する魔道具の棒を全裸姿の腹に当てられる拷問だ。
いまも電撃は続いている。
かなり長い。
ロクサーヌは、必死に首を横に振りながら、全身に走る不快な電撃の激痛に耐えた。
また、何度目かわからない失禁が股間から流れて、座らされている椅子を濡らしていく。
やっと、電撃棒が腹から離される。
「頷く気になったな、お嬢ちゃん。お前は、あの獣人女にさらわれて毎日暴力を振るわれていた。それを認めて、この調書に触れて口にしろ。それで魔道が結ばれて証言したことになる。それが終われば、釈放してやろう」
脱力しているロクサーヌの髪を掴んで、カロリックの兵が顔をあげさせる。
ロクサーヌは、気力を振り絞って顔を横に振る。
暴力など受けるはずもない。
ルカリナは優しい人だ。なんの繋がりのないロクサーヌのことをただ可哀想だという理由だけで匿い面倒を看てくれた恩人なのだ。
彼女に酷い目に遭わされたことなど、ただの一度もない。
また、ロクサーヌに強要されているのは、ルカリナが獣人の子供を奴隷として売っていたという証言もだ。そんなこともあり得ない。ルカリナは奴隷狩りから居住しているコロニーの獣人たちを守っていたのであり、そのルカリナが闇奴隷業をしていたなど荒唐無稽も甚だしい。
「ちっ──。おい、釘──。左手にもう一本だ。ほんと、子供のくせに、しつこいなあ」
この部屋でロクサーヌの訊問に当たっている兵は三人だ。
壁際に置いた椅子に座っていた兵が金槌と太い釘を持ってくる。
ロクサーヌはそれに気がつき、涙目でも「もう無理だ」という意味を込めて、必死で首を横に振った。
すでに、左の手のひらに釘が打ちつけられて、椅子の手摺りに打ち付けられている。その横に新しい釘が手の上から打ち込まれた。
「おがああああっ」
ロクサーヌは絶叫した。
「声をあげるなと言ってるだろう、ガキ──。喋っていいのは、“わかりました。その通りです、兵士様”だけだ──」
釘を打って動かせない手の指に、金槌が振りおろされた。
悲鳴をあげれば、指を金槌で打たれることになっているので、ロクサーヌは必死に口を閉じるのだが、そんなことできるわけもない。
口から悲鳴が迸ってしまう。
「うるせい──」
すでに骨が砕けてしまって、動かすことができなくなっている指に金槌が打ちつけられる。肌が破れて骨が見えている指に金槌で打撃され、指の半分はほとんどなくなってしまっている。
とにかく、ロクサーヌができるのは、首を横にして否定することだけだ。
絶対に首を縦に振らない──。
それだけはできない。
朦朧としている頭にあるのはそれだけである。
「まったく強情だぜ。そらよ」
電撃棒が臍の下に当てられた。
またもや凄まじい電撃──。
「むむむううっ、くうう……」
顎を突き出す格好でロクサーヌは電撃に耐える。
しかし、今度はなかなか終わらない。
気絶をするまで続けるつもりないのか。あるいは、このまま殺すつもりか……。
ロクサーヌはだんだんと気が遠くなるのを感じていた。
この拷問で求められているのは、ロクサーヌがルカリナに不当に扱われていたことと、闇奴隷の主犯であることを証言することだった。よくわからないが、彼らは闇奴隷狩りで人間族に反撃して相手を殺したことだけでなく、奴隷狩りそのものの罪も上乗せするつもりのようだった。
彼らは魔道を帯びた調書というものを持ってきていて、それに指を置いて、彼らが言っていることが正しいと口にすることなのだ。そうすれば、印が結ばれ証言として、数日後に行われる評定に使われるということだった。
あの洞窟の前で捕らわれたのは昨日のことだが、あれから、ルカリナがどうなっているのかわからない。
ルカリナ、ロクサーヌ、さらに三人の獣人の子どもは、兵たちに捕らわれてこの施設まで護送されたのだが、ロクサーヌはひとりにされて、こうやって訊問を受けている。ルカリナを含めて、ほかの者がどうしているかはわからない。
もっとも、最初はこんな拷問ではなかった。
ルカリナに乱暴を受けて、監禁をされていたと証言しろと口で強要されただけだった。
しかし、ロクサーヌが断固として拒否したので、身に着けているものを全部はがれて、こうやって拷問が開始されたのだ。
そのとき、自分は大公弟の娘だとすぐに言った。
失踪してすぐのときには、少なくとも探してくれていたはずなのだ。ロクサーヌがここにいて、そのことを知れば、釈放の手助けくらいはしてくれると思ったのだ。
だが、兵たちはせせら笑っただけだ。
そして、嘘の証言の強要と、それに次ぐ拷問が始まったということだ。
「ああ、やめてええ──。もおういやあああ」
終わらない電撃に、ロクサーヌは禁止されている言葉を叫んだ。
頭が焼き切れて、毀れていくのがわかる。
ロクサーヌはただただ、哀願をしながら首を横に振ることを繰り返した。
*
ルカリナと再会したのは、二日後の評定のときだった。
獣人族のコロニー内の広場に作られた簡易な評定場であり、机が並べられていて、そこには役人らしき人間族が四人座っていて、その周りを兵が取り囲んでいた。
また、広場全体に縄が張られていて、そこにも兵が立っていた。
そして、多くの獣人族の住民は、まるで余興を見物するかのように、その外側に集まっている。
ロクサーヌは、昨日の夜まで拷問され、最小限の治療を受けてから粗末な貫頭衣を与えられて牢の中で寝ることを許された。
調書への証言だけはしなかった。
それだけは必死に拒否した。
また、砕けた指では服を着ることも難しかったがなんとか身に着けて、あとは泥のように眠った。
食事として、なにかを与えられた気もするが、食べてはいない。
そして、少し前に、牢の中で蹴り起こされて、革枷を手首に装着されてここまで連れてこられたのだ。
陽は中天にあった。
この際、身体が衰弱して自分では歩けなかったので、大人の兵ふたりに引きずって連れてこられた。
いまは、評定の行われる地面に膝をついて這いつくばされている。
結局、ルカリナにさわられたのだと認めなかったロクサーヌは、ルカリナの共犯者として裁かれることになったのだ。
そして、ルカリナが運ばれてきたのだ。
ルカリナは、布切れ一枚身に着けていない全裸だった。そして、手足をひとつに束ねられて金属の枷と鎖で拘束されて、数名がかりで板に載せられて運ばれてきたのだ。
「ああ、ルカリナ──」
板から放り投げられて地面に置かれたルカリナには生気はなく、ロクサーヌが呼び掛けても全く反応がない。
眼はうつろでもしかしたら、強力な薬剤でも使われたのかもしれない。ルカリナに顔を近づかせると、ぷんと刺激臭が息に混じっているのを感じた。
そして、なによりも驚いたのは、傷だらけの身体だ。
裸の全身には、無数の鞭痕と火傷があり、熱湯でもかけられたのか、顔の半分が焼けただれていた。
指には全部の指には爪がなく、それどころか、十本の半分も指が残ってなかった。指のない場所はすべて強い力で引き千切られたような痕になっている。
「喋るな──」
棒で打たれてロクサーヌは黙らされた。
そして、評定が始まった。
だが、それは全くの茶番だった。
調書により、ルカリナは役人の連れてきた兵を殺害しただけでなく、獣人のコロニーから獣人族をさらって闇奴隷として売り飛ばしたとういう罪状が読みあげられる。
その後、証人が次々に連れてこられた。
洞窟の前でルカリナを罠に嵌めたトムやジェルだけでなく、一緒に連行された三人の子供も、ルカリナにさらわれて乱暴を受け、闇奴隷に売られそうになったと発言をした。
ほかにも、見覚えのある獣人族の住人たちがルカリナの罪を主張していった。
ロクサーヌは信じられない思いだった。
強要されているとはいえ、あんなに獣人たちのコロニーで尽くしたルカリナを、その獣人たちが糾弾するのは悲しかった。
一方で、ルカリナもロクサーヌも、発言の機会は与えられない。
もっとも、ロクサーヌはともかく、ルカリナは呻き声さえあげられない状態なのだ。喋ることは不可能だったろう。
ルカリナについては、四肢切断のうえ、晒し刑による処刑──。
ロクサーヌについては、広場に設置した檻の中で、死ぬまで晒し刑による処刑──。
それが判決だ。
すぐに刑は執行され、その場でルカリナは四肢を切断されて、治療薬で止血され、準備されていた直柱に鉄の首枷に繋がった鎖を結びつけられた。
ロクサーヌは、その横に置かれた檻の中に放り込まれる。
見張りの兵が立ち、刑の執行となった。
ロクサーヌは、ルカリナに何度も呼び掛けたが、ルカリナが意識を取り戻すことはなかった。
そして、その夜のことだ。
もちろん、陽が落ちたところで、兵はいなくならないが、少し離れたところに移動していった。
すると、獣人の男たちが大勢現れて、ルカリナを凌辱し始めたのだ。
ロクサーヌは声をあげた。
だが、兵は遠巻きで笑うばかりだ。
もしかしたら、その兵たちに獣人男たちがけしかけられたのかもしれない。
ルカリナはほとんど無反応だったが、時折、感じているような声を出すことがあった。
それで生きているということはわかった。
それがひと晩のあいだ続いた。
*
状況が変わったのは、翌々日のことだ。
檻に入れられてるロクサーヌは、喉の渇きと飢えで衰弱しているものの、まだ死ぬような状況ではなかった。
一方で、ルカリナは瀕死だった。
一晩中犯され続け、それがふた晩だ。
むしろ、まだ息があるのが不思議なくらいだった。
そこに、人間族の一団がやってきて、見張りの兵たちになにかの書状を見せて、ロクサーヌを解放させたのだ。
後でわかったのだが、それはロクサーヌの父親である大公弟の家人と私兵だった。
ロクサーヌが晒し刑になったことで情報が入り、ロクサーヌを確保しにきたのである。どのような紆余曲折があったのかはわからないが、ロクサーヌは手続きらしい手続きもなく、迎えの馬車に乗せられた。
それだけだ。
突然のことだった。
このとき、ロクサーヌは最後の力を振り絞って金切り声をあげ、ルカリナも一緒にと叫び続けた。
大公弟の家人は迷っていたようだったが、その場にいた兵と交渉をして、ルカリナも馬車に乗せたのだ。
そうやって、ロクサーヌたちは救出され、会ったことのない父親の屋敷に行くことになった。
そして、半月──。
ロクサーヌは連れてこられた屋敷の一角の小さな建物に入れられていた。母屋ではなく、敷地内の隅にある小さな平屋の建物だ。
父親だという者は現れなかった。ほかの家族もだ。
そして、治療のすえ、ロクサーヌ自身はなんとか動けるようにはなったが、ついにルカリナは意識が戻らないまま死んでしまった。
そのあいだ、ロクサーヌは、ルカリナと離れることなく世話を続けた。
ルカリナが息をしなくなった晩は、ロクサーヌは壊れたように泣きじゃくった。
そして……。
……ロクサーヌは目が覚めた。
悲鳴をあげ、そのロクサーヌの悲鳴にルカリナの叫び声か重なった。