【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
98 突然の緊急クエスト
二日ぶりに屋敷に戻ったのは、そろそろ太陽が西の空に傾きかけていはいるが、夕食にはまだまだ時間があるという刻限だった。
「おかえりなさいませ、シャングリア様。馬は世話をしてから
屋敷内の前庭に入ったところで、シルキーが目の前に出現した。
シャングリアは馬から降りて、手綱をシルキーに渡す。
しかし、出迎えた屋敷妖精のシルキーの姿に驚いた。
上半身はきちんとしたメイド姿なのに、スカートの局部の部分が丸くくり抜いてあり、そこからはっきりと局部が丸出しになっているのだ。
もちろん下着もない。
童女というよりは、まるで人形のような亀裂がはっきりと露出している。
「どうしたのだ、その恰好は?」
思わず、シャングリアは訊ねた。
「旦那様の言いつけです。今日の午後は、みんなで“破廉恥ふぁっしょんしょー”をなさるということで、全員に趣向に富んだ、いやらしい格好をするようにお命じになられたのです」
シルキーがにこにこしながら言った。
「ふぁっしょんしょー?」
聞いたことのない言葉だ。
外界人であるロウはときどき、おかしな発想でなにかを思いつくことがある。
今回もそうなのだろう。
「はい、つまりは、旦那様がお喜びになるような奇抜な装束を身に着けて、旦那様を愉しんでもらうのです。旦那様がお気に入りなされば、ご褒美にお情けがもらえます」
シルキーがにこにこしながら言った。
よくわからない。
だが、なんだか愉しそうなのは確かだ。
もちろん、シャングリアも参加するつもりだ。
ロウがそれで愉しいのなら、どんな格好でもやってあげたいし、ロウが悦ぶとシャングリアも嬉しい。それに、恥ずかしい恰好も破廉恥な行為も、ロウと一緒にやるとなぜか快感に変わる。
夜通しの演練で疲れてはいるが、そんなときほど、ロウに抱き潰されて休みたい。
シャングリアは、すでにぞくぞくとした期待感に襲われている自分に気がついていた。
「なるほど……。それで、わたしもその格好をした方がいいのか?」
次いで、それを訊いた。
それにしても、シルキーが身に着けているのは、遠目ではまともなのに、近くに寄ると卑猥このうえない。
相変わらずの好色なロウだと思った。
「これは、わたくしめの言葉が足りませんでした。旦那様がお命じになられたのは、旦那様が悦ぶような恥ずかしい恰好を考えて披露することです。どんな格好をするかは皆様のご判断です。でも、それに応じて、旦那様はたっぷりと可愛がってくださります。それと、どんな服装をなさるかお決めくだされば、わたくしめが魔道で作らせていただきます」
「ああ、そういうことか。それが、ロウが悦ぶような趣向を凝らすということか?」
なんとなくわかってきた。
「そういうことです。次が三度めになるのですが、一回目も二回目も、旦那様には随分と喜んでいただきました。おかげで、旦那様はわたくしめにも、たっぷりと精をくれました」
シルキーがにっこりと微笑む。
「今度が三回目?」
「そうです。同じ恰好をしてはならないのです。とにかく、旦那様を悦ばせる格好です。旦那様が合格と判断すれば、精をいただけます。実は、これはわたくしめは、一回目のときの装束です。まだ三回目は始まりませんので、一回目のものを身に着けているだけです。二回目のときには、裸にぎざぎざに切り刻みを入れた召使いの装束にしました。いずれも喜んでいただき、精をいただきました」
シャングリアは屋敷に戻りかけて、立ち尽くして考え込んでしまった。
ロウが悦ぶような恰好とはなんだろう。
どうやら、それに知恵を絞らなければならないようだ。
「エリカやコゼはどんな格好をしたのだ?」
訊いてみた。
「コゼ様は、最初は裸に紅白の布紐を巻いて、まるでコゼ様がなにかの贈り物のようないでたちをなさいました。次には、お乳首のところがくり抜かれている胸当てと、ものすごく短いスカートをおはきになりました。いずれも、旦那様は満足されて、コゼ様はわたくしめと一緒に旦那様にお情けをもらうことができました」
「エリカは?」
「エリカ様はまだもらわれてないと思います。最初は下着だけの恰好をなさって、旦那様は普通だと言ってお認めになりませんでした。次は素裸になられたんですけど、やはり旦那様は、もっと破廉恥な恰好をしろと言われて……」
シャングリアは唸った。
なるほど、ロウを悦ばせるのは、ただ裸になればいいということじゃないらしい。
馬鹿になったつもりで、思い切り恥ずかしい恰好をするということか……。
「とにかく、まだお時間がありますので、部屋にお入りになってからお考えください。それとも、お休みにならなくてよろしいのですか? 旦那様は、徹夜で騎士団の演練にご参加なさったシャングリア様まで、ご強要する様子はありませんでしたが」
「なにをいう。参加するぞ。ひと晩くらい寝なくても問題ない。もともと、騎士として鍛えていたし、ロウの女になってからも、体力だけはついた」
シャングリアは笑った。
実をいうと、ロウと出逢って三箇月というところだが、騎士団の訓練に明け暮れていた時期よりも、余程に体力がついたと思っている。
なにしろ、ロウの女の抱き方はすさまじく、毎夜にわたって抱き潰されるまで交合を求めるのだ。これは誇張ではない。
本当に気絶するまで抱かれる。
特に、「三巫女事件」とロウが称した王都三神殿の筆頭巫女が揃って魔瘴石を体内に埋められた事件以来、さらにロウの好色の度が激しくなった気もして、毎夜どころか、朝に、昼に、晩に、夜にと求めてくる。
少し前までは、三人で夜伽の順番のようなものを作っていたが、この半月は毎回三人がかりだ。
しかも、ロウの抱き方は特殊なので、女側も体力を使う。
まあ、そのロウの鬼畜がシャングリアは大好きなのだが……。
「いずれにしても、三回目には時間がございます。実はミランダ様がお越しなのです。なにやら、緊急クエストということでございまして……。それで、皆さまはお話し中です。よければ、広間にどうぞ」
「ミランダがわざわざか? ここに? しかも、クエスト?」
シャングリアは驚いた。
実のところ、三巫女事件の後、一度クエスト報酬の話に行ったとき、しばらくは、クエストは回さないし、受けさせない。
しばらくは休暇を取れと、半ば強制的な当面のギルドへの出入り禁止を申し渡されたのだ。
まったくわけがわからなかったが、三巫女事件の懲罰というわけでもなさそうだ。
報酬の支払いは受けたし、ギルドからの特別報酬もあった。後日、神殿側からも礼金が支払われるということだったし、あのクエストが成功扱いだったのは確かだ。
そもそも、失敗扱いを受ける理由などない。
スクルズの名誉も回復され、神殿と王都に忍び込んでいた危機も排除された。
ギルドへの出入り禁止を申し渡される理由などないのだ。
もっとも、あのときのミランダの様子は、なにか焦っているみたいであり、ロウにギルドに来てもらいたくない別の理由があるようだった。
ロウも不審がっている様子もあったが、当面は休暇ということについては不服もないようであり、そういうことになった。
だから、シャングリアも、定期的な参加を義務づけられている騎士団の演練参加の日程を入れたのだ。
だが、あれから十日も経たないのに、また緊急クエストとはどういうことだろう。
しかも、ミランダがわざわざ来るとは……。
とにかく、シャングリアは、立ち話をやめて、屋敷の中に入った。
果たして、屋敷に入ってすぐの広間の奥側にある向かい合うソファには、ミランダとロウが卓を向かい合いに座っていた。また、エリカとコゼもいる。
エリカとコゼは、ロウの両隣にいるのだが、ロウとミランダが普通の服装なのに比べれば、エリカとコゼはどうやら、裸身に大きめの布を巻いているだけのようだ。
身体にぴったりの幅と長さしかないようであり、乳首のぎりぎり上から股間の付け根までしか布は隠していない。
まるで、全裸でいるところを突然にやって来られて、急遽裸身を覆ったという感じだ。
まあ、実際にそうなのだろうが……。
「あら、お帰り、シャングリア」
「お帰り、お疲れ様」
シャングリアに気がついたエリカが声をかけてきた。
話をしていたロウとミランダも、シャングリアを見る。
「おお、戻ったな、シャングリア。夜通しの演習も大変だったろう。地下室の湯は、シルキーのおかげで年中無休だ。汗を流して休んだらどうだ?」
ロウがシャングリアを手招きした。
少し離れた長テーブルで具足を外していたシャングリアは、とりあえず鎧類を外して、上下布地の軽装になると、ロウに寄っていった。
すると、手を取られ、ロウの顔に向かって前屈みになるような体勢になるように腕を引っ張られた。
ロウの唇がシャングリアの口に重なり、舌を入れられる。
「んふっ」
思わず声をあげた。
ただ口の中を舌でくすぐるように舐められるだけなのに、身体が蕩けるような愉悦が一気に走ったのだ。
そして、素肌が焼けるように熱くなり、腰から力が抜けて、しゃがみそうになった。
ロウがシャングリアを支え直して、唇を離す。
「口づけひとつで、腰が抜けたか? 淫乱な騎士様だ。それとも、やっぱり疲れているか?」
ロウがからかうように笑った。
シャングリアは、息を整えながら、ロウに向かって首を横に振る。
「ロウが上手すぎるのだ……。それと、休息はいい。シルキーから聞いたけど、面白いことをしているそうじゃないか。わたしも参加するぞ。休むのはそれからでいい」
シャングリアはロウたちが座っている長椅子に座ろうとした。
だが、すかさずコゼとエリカがロウにぴったりと密着するように身体をずらして、シャングリアが割り込む隙間を無くしてしまう。
仕方なく、小柄なコゼをぐっとロウ側に押し、強引に同じ長椅子に座り込む。
もともと三人掛けに椅子に四人も座るのだから、ぴったりと四人でくっつく感じになる。
長椅子はまだ空きもあるから、反対側のミランダが少し呆れた顔でこっちを見ていた。
「だんだんと仲良くなるわね、あんたたち……。ところで、いないと思ったら、シャングリアは騎士団の訓練に参加だったのね。ご苦労さん」
ミランダが声をかけてきた。
シャングリアは頷く。
「大伯父との約束だからな。完全に騎士団から席を抜かないのが、冒険者になる条件だ。騎士団長とは、月に一日から二日程度演習に参加すればいいと言われている。その予定を入れていてな……。ところで緊急クエストか? 当面は休暇じゃなかったのか?」
シャングリアは訊ねた。
すると、ロウが横で笑った。
「俺たちもちょうど同じことを言ったところだ。まあ、ほかならぬミランダの頼みだから、クエストを受けることについてはやぶさかじゃないんだが、条件が変わっていてな。それで理由を訊ねようとしてるんだが、このミランダは話そうとしないんだ」
「話したわ──。急いでいるのよ──。とにかく、すぐに王都から離れてちょうだい。それが今回のクエスト条件よ。詳しいことは現地で確認して……。もともと、地方クエスト案件だったから、こっちでは、あまり詳細を把握してないのよね。向こうのギルドには、直接に依頼主とあんたたちが交渉することについては了承してもらっているわ。とにかく、遅くとも明日の朝には出発してちょうだい」
ミランダが言った。
確かに様子が不自然だし、ミランダに似つかわしくなく、なんだか焦っている感じだ。
なんだろう……?
「クエストの場所は、王都でないのだな?」
「ガラヴィという馬車で二日くらいの小さな里だそうよ、シャングリア。細部は向こうで訊ねないとならないみたいだけど、その里の近くに廃神殿があり、そこで不審な事件があったんだって……」
エリカが簡単に説明してくれた。
それによれば、ちょっとした調査クエストのようだ。
里から離れていたこともあり、ずっと誰も近づかない廃神殿があるらしいが、少し前に、そこに盗賊のような集団が数名住みついたのだそうだ。
それで困っていたら、その盗賊たちが姿を現さなくなり、しばらくしたら、記憶を失って素っ裸で呆けている盗賊たちの集団が森の中で発見されたのだという。
気味が悪いので、簡単な調査依頼を冒険者ギルドに出したところ、今度はそれを受けた冒険者が廃神殿から戻って来なかったということのようだ。
「なんだ、そのクエストは? それが緊急クエストなのか? いまのところ、犠牲になっているのは、盗賊たちと冒険者ということか? 住民に被害はないのだな?」
「これから被害が出るかもしれないのよ、シャングリア。戻って来ない冒険者たちはとにかく、廃神殿から脱走してきたと思う盗賊たちの見つかり方が問題なのよ」
ミランダだ。
「問題?」
シャングリアはミランダを見た。
「彼らは完全に正気を失っていたらしく、結局何も情報が取れなかったみたいだけど、裸で森の中で呆けているのを発見されたとき、大量の金貨や宝石の入った袋をひとりずつ持っていたらしいわ。彼らが廃神殿に入り込むまでの状況から、それが彼らの元々の荷ではないことは確かなの。それで、あの廃神殿には、大量の宝物があるんじゃないかと噂になっているみたいで……。里長は住民には近づくのを禁止したようだけど、噂が噂だけに、危険を賭して入り込む住民がいないとも限らないとかで……」
「それで、なにかが起きる前に、調査をしておきたいということか。クエストランクはどのくらいだ?」
クエストランクというのは、クエストの困難さに応じてギルドが付与する位置づけのことだ。
これは冒険者ランクに対比していて、最大級に困難なクエストは、
もちろん、ランクが上位であるほど、成功報酬も大きくなる。
また、受けられるクエストは、保有する冒険者ランク以下となっていて、シャングリアたちのパーティは、
まあ、ミランダが持ってきた強制クエストなので、ランク的に受けられないということはありえないが……。
「クエストランクは、、
コゼが横から言った。
すると、ミランダが顔を赤くする。
「だ、だから、人助けでしょう──。これから、犠牲になる者がでるかもしれない。あっ、それに、うまく解決してくれれば、廃神殿内にあるかもしれない宝物を自分たちのものにするのは認めさせるわ。どういう謂れのものかわからないから、確約はできないけど、まあ、それでもあたしの力で……。それで依頼料の不足は補填して」
ミランダが焦ったように言った。
やっぱり、態度が不自然だ。
「だけど、それも捕らぬ狸の皮算用じゃないか。調査しなければ、そもそも宝物があるかどうかもわからない」
ロウが笑っている。
あの顔はどうやら受けるつもりだろう。
ミランダの態度の不自然さも感じているようだが、どちらかというと、問い質そうというよりは、いつもと違うミランダを愉しんでいる様子だ。
「それを調査するのが依頼よ。いずれにしても、遅くても明日の朝に出立──。それから、これが大事だけど、クエストが早々と片付いても十日以内には王都には戻らないで──。戻っても冒険者ギルドには来ないこと──。伝言を寄越してちょうだい。あたしがここにやって来るから」
ミランダの言葉にはシャングリアもびっくりした。
なんだそれ?
「なっ、おかしなクエスト条件だろう? そもそも、ミランダはいつから、クエストを御用聞きみたいに、冒険者のところまでやって来るようになったんだ? しかも、十日も戻らずに、クエスト完了報告はギルドにはいかずに、伝言を寄越せっていうんだからな。しかも、さっきから脈絡もない理由を言うばかりで、説明もない。つまりは、クエストだとは言っているけど、俺たちを王都から離したいというのは、よくわかるんだけどね」
ロウが我慢できなくなったように噴き出した。
ミランダの顔がますます赤くなる。
「う、うるさい……。い、色々とこっちは苦労して……。とにかく、ギルド権限で強制クエスト発動よ。出立は明日の朝で、十日は戻らず、当面はギルドに接近しない──。その理由を訊ねないのも、クエスト条件よ──。拒否は認めないわ」
ミランダが開き直ったように声をあげた。
「そんなに怒鳴らなくても、まあ、応じるよ。ミランダには借りもあるしね。なにかあるようだけど、わかったよ。理由も聞かない。明日の朝、そのガラヴィとやらに出発するさ」
ロウが笑いながら言った。
ミランダが目に見えて、ほっとした表情になる。
シャングリアも呆気にとられた。
「……その代わりに……」
すると、ロウがさらに口を開いて、なにかを言いかけた。
ミランダががばりと立ちあがって、ロウを睨んだ。
「ご免よ──。これでも死ぬほど、忙しいのよ──。あんたのくだらない思いつきの、破廉恥なんとかには参加できないわ──。言っておくけど、あんたの怪しげな術であたしを無理矢理に引き留めたら、許さないわよ。ここでこうやっている時間だって惜しいんだから──」
ミランダが吠えるように言った。
「破廉恥ファッションショーだ」
ロウが応じる。
ミランダがきっとロウを睨んだ。
ロウはにやにやと笑ったままだ。
すると、コゼが横から、口を開いた。
「死ぬほど忙しいなら、あたしたちを呼びつけたらいいじゃないのよ、ミランダ。あたしたちは、全員が死ぬほど暇よ」
「とにかく、緊急クエストを頼んだわよ、ロウ」
ミランダがコゼの言葉を無視して、そのまま屋敷を出る仕草をする。
そのとき、シルキーが突然に姿を現した。
「旦那様、スクルズ様が魔道で跳躍をしてこられます。いつものとおり、ここにお通しします」
屋敷妖精のシルキーが言った。
「あいつ、また来たの──?」
コゼが大きな声をあげた。
「コゼ、失礼よ。スクルズ様なのよ──」
エリカがたしなめた。
コゼがわざと鼻息を鳴らす。
「なにが失礼なのよ。毎日、毎日、ご主人様にべったりと……」
コゼが不満そうに言った。
「毎日って、スクルズって、毎日ここに来ているの?」
ミランダだ。
ちょっと驚いているみたいだ。
「毎日どころじゃないわ。移動術で一瞬にして跳躍できることを利用して、一日に二度も三度も来るわ」
コゼが面白くなさそうに言った。
シャングリアも苦笑した。
実際の話、あの三巫女事件以来、スクルズがほとんど入り浸るように、毎日理由を作って、いや理由がなくても、ロウに会いに来る……。
というよりは抱かれに来る。
コゼとしては、スクルズが来るたびに、ロウにくっつく時間が減るので、最近少し苛立ち気味だ。
そして、シルキーが立っている場所の横の空間が揺らいだと思った。
すぐに、筆頭巫女の装束に身を包んだスクルズが出現した。
「ロウ様、ご機嫌いかがですか? 今日の午前中に、神殿にいる巫女が修行の一環として、貧しい子供に配るための菓子を焼いたのです。それでお口に合えばと思いまして……」
スクルズがにこにこしながら、なにもない空間から、油紙に包んだ温かそうな砂糖餅を出して、ロウの前の卓に置く。
収納魔道というやつだ。
かなりの高等魔道であり、スクルズは数日前から急に使いこなせようになったと言っていた。
亜空間に物を収容して、いつでも好きなときに取り出すことができるという魔道らしい。
もちろんシャングリアは、そんな高等魔道に接するのは初めてだったので、見世物小屋の手妻かと思ったくらいだ。
「筆頭巫女様って、本当にお暇なんですね……。それに、わざわざ、お菓子を持って来るために、高等魔道の移動術をお使いになるなんて、魔道の無駄遣いじゃないですか」
コゼが皮肉っぽく言った。
エリカがロウ越しに、コゼをたしなめた。
「いえいえ、コゼさん。決して暇ではありませんが、なんとか二ノスほどの空き時間を作りました。だから、それまでご一緒させてください。それと、この屋敷とわたしの神殿の私室には、移動ポッドを繋げさせていただいております。ほとんど、魔道は遣いませんのよ。これは双方向ですから、ロウ様やコゼさんたちがやって来ることもできますわ。いつでも遊びにいらしてください。よかったら、今夜にでも……。あっ、そういえば、一昨日はウルズのことありがとうございました、ロウ様。やっぱり、ロウ様に抱かれると調子がいいようです……。できれば、また……」
スクルズはコゼの皮肉に気を悪くする気配は微塵もなく、愉しそうに微笑んでコゼ、次いでロウに笑いかけた。
コゼは嫌な顔をしている。
ウルズのことと言ったのは、一昨日のことだが、このスクルズの移動術で神殿の奥の部屋に全員で跳躍して、幼児返りしてしまったウルズに会いに行ったのだ。
向こうでは、ウルズととももに、スクルズとベルズが待っていた。
ミランダはいなかったが、まあ、ロウの新旧の女がやっと初会合したかたちだ。
そのときには、シャングリアも改めて驚いたが、ウルズの中身は完全に幼児であり、外見は大人の成熟した美女だが、中身は赤ん坊ということになっていたのだ。
よくはわからないが、魂に密着していた魔瘴石を強引に剥いだため、ウルズのこれまでの人生で大きくなっていた魂の表面を一緒に剥ぎ取ったかたちになったらしく、それで生まれて間もない幼児のような魂に戻ってしまったようなのだ。
ああなったら、スクルズの治療術でも、ロウの淫魔術でもどうしようもなく、もう一度育ち直すしかないらしい。
それはともかく、ウルズがずっと赤ん坊のように泣いてばかりで、ちょっと困っていたスクルズとベルズだったが、ロウの顔を見た途端に、突如としてウルズがご機嫌になり、さらに、結果的にはだめだったが、淫魔術でウルズの幼児退行を回復できないかと目論んだロウがウルズを抱いたところ、ウルズの心が目に見えて安定し、それでスクルズたちのことを受け入れてくれるようになったみたいなのだ。
だから、ふたりは、これからも定期的にウルズを抱いてあげて欲しいと、ロウに頼み、まあ、そういうことになった。
また、移動ポッドというのは、スクルズの移動術の魔道紋を常続的に繋いで、いつでも誰でも魔道で瞬間移動できるようにする魔道のことのようであり、術者がいなくても移動術が活用できるという移動術よりも遥かに難しい魔道らしい。
それがなぜかできるようになったとスクルズが言いに来て、地下にある姿見とスクルズの私室にある姿見を移動ポッドで繋げてしまったのだ。
だから、スクルズがいなくても、地下の姿見を潜れば、そのままスクルズの私室の姿見から出現できるようになっている。
スクルズはそれを私室の寝室の横に置いているようなので、いつでもロウに夜這いに来てくれと口にしているようなものだ。
ここまで、あからさまだとシャングリアも、この筆頭巫女殿が可愛く思えてくる。
コゼは逆に苛立つようだが……。
「スクルズ、あんたって、毎日来ているの、この屋敷に?」
屋敷を出ていこうという仕草だったミランダが声をあげた。
スクルズが目を見開いた。
「まあ、ミランダ、ミランダもここに? どうして……、あっ」
スクルズがはっとしたように、口に手を当てた。
ミランダもまた、ロウの女のひとりであることについては、すでにスクルズたちには説明している。
おそらく、淫らなことを想像したに違いない。
シャングリアも、この敬虔で清楚な見た目のスクルズが、実はかなりの好色体質であることがわかってきた。
もっとも、スクルズもまた、ロウ限定のようだが……。
それよりも、ミランダに気がつき、急にスクルズがそわそわしだした。
スクルズは、やっとエリカとコゼが布一枚を裸身に巻いただけの姿なのに気がついたみたいで、そっちを眺めてから、立っているミランダに視線を戻したのだ。
「も、もしかして、途中でしたか……? わたしが邪魔を……? で、でも……。あっ、そうだ。だったら……。いえ、わたしはご一緒でも気になりませんが、やはり、ミランダは一緒は嫌なものですか……? だけど、わたしも二ノスしかありませんし……。ここは、一緒というのは……」
ミランダが顔を真っ赤にする。
「な、なんか変なこと想像してるんじゃないでしょうねえ──。あ、あたしは、ロウにクエストを依頼に来たのよ。緊急クエストよ──」
ミランダが赤い顔のまま言った。
シャングリアはくすりと笑ってしまった。
どうやら、スクルズはミランダがロウに抱かれようとしている直前だと思ったようだ。
かといって、ロウを譲る気はあまりないようであり、一緒に抱かれるのはどうかと提案しかけたらしい。
「どうして、あんたは抱かれる気満々なのよ──。ご主人様は、なにもおっしゃっていないのに──」
コゼが怒鳴った。
エリカが目を丸くした。
「コ、コゼ、なんて口をきくのよ──。スクルズ様なのよ──」
エリカが声をあげた。
だが、コゼが頬を膨らませる。
「ただの淫乱巫女よ──。神殿の午前と午後の務めの間隙に、ご主人様に抱いてもらいに来るような女よ」
コゼが爆発した。
「落ち着けよ、コゼ」
すると、ロウがすっとコゼのお尻に手を動かすのが見えた。
「あんっ」
コゼがびくりと身体を伸ばして、甘い声をあげた。
よくわからないが、ロウの手がコゼのお尻のあたりで、もぞもぞと動いている。
悪戯をしているのだろう。
ほんの少しの時間だったが、ロウが手を引っ込めたときには、コゼががくりと脱力したみたいになった。
しかも、無意識なのか、ロウの手がなくなっても、ぎりぎりのところが布で覆われただけの内腿を擦り合わせるような仕草を続けている。
顔も真っ赤なままだし、息も乱れている。
さすがはロウの愛撫だ。
シャングリアも唾を飲んでしまった。
「心配しなくても、コゼのことはしっかりと可愛がるよ。だけど、コゼは毎日毎日、ずっと俺と一緒だけど、スクルズ殿はそうじゃないんだ……。スクルズ殿、俺でよければ、もちろんお相手させてもらいますよ。ちょうど、破廉恥ファッションショーの真っ最中でしてね。よければ、時間の許す限り、ご一緒はどうです?」
ロウが言った。
最初こそ、王都でも高位貴族に匹敵する立場の筆頭巫女のスクルズが積極的にロウに抱かれにくることに面食らっていた感じのロウだったが、こう毎日ともなると、さすがにスクルズへの遠慮も消滅したようだ。
この数日は、ロウのスクルズへの扱いも、シャングリアたちと同じようになり、容赦もないし、鬼畜度もあがっている。
スクルズも、ロウなら鬼畜の方が嬉しいようであり、ますます積極的に通ってくる。
コゼが愉快でないのは、そうやって、かなりのロウの時間をスクルズが奪っていくというのもあるが、これだけの身分の筆頭巫女のスクルズが、ロウに意欲的になることで、危機感のようなものを感じているのかもしれない。
「ええっと……。破廉恥ふぁっしょんしょー……とはなんでしょう?」
スクルズが首を傾げている。
ロウが簡単に説明した。
スクルズが目を輝かせた。
「だ、だったら、ちょどいい魔道具が……。取りに行かせてください、ロウ様。きっとご期待に添えると思います。すぐに戻ります……。ああ、でも調整が……。ううん……、午後の務めの準備もあるし……」
スクルズがちょっと高揚気味に言った。
なにか考えていることがあるようだ。
ちょっと食いつきが違う。
シャングリアは思わず微笑んでしまった。
「ねえ、ロウ様なら、きっと喜んでくださる魔道具があるんです。でも、ちょっと魔道の調整に時間が……。わたしの回については、明日というわけには……。あれをロウ様好みに調整するには、やっぱり時間が……。夜の務めが終わって、夜中を使って、朝までには調整を終わらせますので、明日ご披露させていただけませんか?」
スクルズが懸命の口調で言った。
「夜中って、どれだけ一生懸命なのよ……。どっちにしても、残念ですけど、巫女様。あたしたちは、明日の朝からクエストです。少なくとも十日は留守にするので、この屋敷に来てもいませんから」
コゼが皮肉っぽく言った。
スクルズが飛びあがらんばかりに驚いた声をあげた。
「十日も? そんな、そういえば、クエストとか……。ねえ、ミランダ、どんなクエストなのです?」
ミランダは、ちょっと足止めを喰らっていたみたいになっていたのだが、スクルズの権幕に逆に面食らった表情になる。
「ガラヴィという里の廃神殿に調査クエストです」
エリカが口を挟んだ。
スクルズがエリカに顔を向ける。
「ガラヴィ……? あっ、もしかして、廃神殿に巣食った盗賊がいて、奇妙なことが起きたとかいう事件のことですか?」
スクルズが言った。
どうやら、スクルズも事件のことを知っているようだ。
そうだと、ミランダが言うと、スクルズが少しだけ怪訝な表情になる。
「でも、あれは、王都の冒険者ギルドで扱うクエストになったのですか? 確か、里に近い地方ギルド扱いになったと耳にしましたが……。それに優先順位も高くなかったような……。どうして、あのクエストをロウ様たちが?」
「い、色々とあるのよ──。とにかく、これは緊急クエストなのよ。それよりも、スクルズ、あたしを王都まで送ってよ。移動ポッドだと、あんたの寝室に出るから不都合だけど、転送先を変えるくらいなら、どうということもないでしょう? 案件を抱えたまま、ここに来たから、少しでも早く戻りたいのよ。あたしを送りなさい」
「それはいいですが、ちょっと待ってください──」
スクルズが顔をミランダからロウに向け直した。
「ロウ様、その事件はわたしも報告書を読んだばかりですが、多少は事情を承知しております」
「報告書? 冒険者ギルドの案件なのに?」
シャングリアは口を挟んだ。
スクルズが大きく頷く。
「一応、廃神殿ではありますが、かつては教会の持ち物だったのです。だから、王都の神殿にも報告書が来ていました。もっとも、その手の報告など、通常は受けて、それで書類に綴じて終わりですが、ロウ様が赴くということであれば、事情は変わります。神殿からの代表ということで、わたしもお供させてください。神殿長にはいまから戻って、許可を受けますので」
スクルズが言った。
これにはシャングリアも驚いた。
「あ、あんた、クエストにまでついてくる気なの?」
コゼが声をあげた。
かなり、失礼な物言いだが、今度はエリカもコゼを叱らなかった。コゼ同様に、スクルズの申し出にびっくりしている。
「もちろんです、コゼさん。仮にも地方のこととはいえ、その廃神殿は教会にも関わりがあることですから……。わたしが代表として同行するのは義務のようなものでしょう。ロウ様、ついていかせてください。もしかしたら、浄化魔道のようなものが必要となる可能性もあります。わたしは光魔道が一番得意なのです」
「それは構わないというか、むしろ、ありがたいですが……。今日の明日で、大丈夫なのですか?」
ロウが苦笑しながら言った。
すると、スクルズが破顔した。
「なんとかなると思います……。というか、なんとかします。今日はもう戻ります。これから、急ぎあちこちと調整をしないとなりませんので……。残念ですが、これで失礼します。その代わり、明日からよろしくお願いします。旅の支度をして、ここに参ります……。さあ、王都に戻るなら、行きましょう、ミランダ。こうなったら、忙しいです」
スクルズが言った。
ミランダも目を丸くしている。
「スクルズ、あんた本気なの? 定期的な祭祀だってあるんでしょう? 筆頭巫女でなければならない務めとか……」
ミランダが言った。
スクルズは首を横に振る。
「なんとかならない務めはありません。どうしてものときには、ベルズに代行をお願いもします。さあ、行きましょう」
「やっぱり、筆頭巫女って暇なの?」
唖然とした口調でコゼがスクルズに言った。