【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
ロクサーヌが家宰とともに母屋に戻ると、今度は執務室ではなく異母兄アントワークの私室に案内された。
入口の扉に対して正対するように大きな机があり、それに面してアントワークは腰掛けていた。
家宰は、すぐに部屋を出るように指示され、部屋はアントワークとロクサーヌだけになる。部屋にはソファなどもあるが、座るようには指示されなかったので、ロクサーヌは立ったまま、すぐに口を開いた。
「アントワーク様、すぐにルカリナの解放をお願いします。あれではひどすぎます。せめて、人らしい扱いを……」
「人らしく? 獣をか?」
ロクサーヌの言葉を遮って、アントワークが嘲笑した。
ぐっと歯噛みする。
「ル、ルカリナは、わたしの大切な友人です」
「だろうな。なら、しっかりと、これから告げる仕事を果たすことだ」
アントワークが一枚の手紙を机を滑らすようにして、机の前に放る。
ロクサーヌは、歩み寄ってそれを拾いあげた。
宛名を見る。
ロクサーヌ宛だった。
しかし、すでに封は切ってある。中身を確認した。
次期大公筆頭候補の筆頭であるカートン公の正妻であるシャルルからの茶会の招待状だ。
茶会の日付は今日の午後である。
しかし、この招待状そのものは、数日前に届いていた気配だ。
「あの……これは……?」
ロクサーヌ宛の手紙を勝手に開かれて読まれたことはいい。
しかし、アントワークがなにを求めているのかが疑念だった。だが、嫌な予感がする。
現在の大公はすでに病床であり、次期大公の座を巡って、死んだ第一公子の嫡男のカートン公と、そして、現大公の第二公子のビンス公が後継者争いを激しくさせているのは承知している。
ロクサーヌには興味もないが、甥と叔父の後継者争いということだ。
そして、このギストン家は、第二公子のビンス派に属している。
だが、ロクサーヌ個人については、ビンス派でありながらも、個人的な関係として、カートン公の正妻のシャルルが開くサロンのメンバーでもあるのだ。
この屋敷でこそ、蔑ろにされて立場の弱いロクサーヌだが、実のところ、病床に倒れる前の現大公からは可愛がってもらっており、たびたび大公宮にも呼んでもらったし、外政にも連れていってもらったこともある。
その縁で、カートン公やその正妻のシャロンと親しくさせてもらっていて、ロクサーヌについては、どちらかというと中立の立場に近いのだ。
もっとも、まだ十三歳でしかなく、政治的な権力も皆無なので、派閥の垣根を越えた付き合いをしても、誰も気にせず咎めないので、許されているということだけではあるのだが……。
「すぐに支度をして、これに参加をしろ。茶会の場所はシャロンの暮らす別宮だ。そのとき、これをどこかに置いて来い。絶対に見つからない場所にな。お前がするのはそれだけだ」
アントワークが机の上に、手のひらに載るほどの大きさの箱を置いた。
ロクサーヌは、それを受け取るために、机に近づいた。
そして、ぎょっとした。
いままで距離があったので気がつかなかったのだが、アントワークの机の下の足元に誰かが蹲っていたのだ。
えっ?
まさか?
ロクサーヌは、箱を受け取ろうとして手を伸ばした格好で硬直してしまった。
「気にするな。早く、とれ」
アントワークが小馬鹿にするような口調で言った。
慌てて、箱を手に取る。
だが、ここからだと、机越しだがアントワークの足元にいる者がなにをしているか見えるのだ。
わずかに覗く頭は女の頭髪だろう。
そして、顔はアントワークの股間に密着して前後に動いていて、ぺちゃぺちゃと水音のようなものも耳に入ってくる。
ロクサーヌは、わざとアントワークがロクサーヌに見せつけているのだろうと推測した。
とりあえず、箱の蓋を開く。
中身はかなりの大きさの魔石だった。薄っすらとだが、内側や表面に複雑な文様が刻まれている。
ロクサーヌには、魔道は遣えないし、魔道の文様の心得もないので、これがなにかということはわからないが、なにかの効果を発揮する魔石具なのだろうということくらいはわかる。
しかも、この魔石はロクサーヌの握りこぶしほどの大きさもある。
それだけのものとなれば、かなりの大きな魔道効果を発揮するだろう。
これを敷地内に隠して置いてくる?
どうして?
「あのう、これはなんなのでしょう?」
ロクサーヌはアントワークに視線を向けた。
「はぎいいっ」
その瞬間、右腿に衝撃が走って、ロクサーヌはその場に蹲ってしまった。
アントワークが手元にあった衝撃棒という武器で衝撃波をロクサーヌの右脚に発射したのだと悟ったのは、ロクサーヌがしゃがみ込んでからだ。
だが、魔石については両手で握っていたので、なんとか落とさないで済んだ。
しかし、右足には力が入らない。
おそらく、最小限の出力だとは思うが、魔道武器を向けられたのは初めてであり、ロクサーヌはびっくりしてしまった。
「お前は、なにも知る必要はない。言われたことをすればいいだけだ」
アントワークが侮蔑の表情をロクサーヌに向けている。また、アントワークが右に手に握っている衝撃棒の先端も、真っ直ぐにロクサーヌを差している。
「わ、わかりました……。で、でも、こういうものは、茶会の会場の出入りで改められます……。どうやって、持ち込めば……」
茶会の会場となっていたのは、カートン公の正妻シャロンの屋敷であり、それは大公宮内の敷地内にある。
これだけの魔石ともなれば、おそらく、大公宮の防護設備に探知される可能性が高い。
ロクサーヌには、どうやって、それをかいくぐればいいのか見当もつかなかった。
そもそも、そんな怪しげなものを簡単に大公宮内に持ち込めるなら、宮廷施設内の警備など無防備もいいところだ。
だが、いきなり、ロクサーヌの足元に衝撃波が飛んだ。
「きゃあああ」
ロクサーヌは悲鳴をあげて尻もちをついた。
「そんなことは自分で考えろ──。その年齢でも、女には変わりあるまい。女には隠す場所がいくらでもあるだろう。まさか、ギストン家の令嬢を全裸にして身体検査まではするまい。見つかったとしても、適当に誤魔化せ」
「ア、アントワーク様は、わたしにこの魔石を股に隠していけと言われるのですか?」
ロクサーヌは驚愕してしまった。
「失敗すれば、お前の獣人奴隷は、盗みの罪で処刑する。家長代理の権限でな」
アントワークが酷薄な口調で言った。
ロクサーヌは、その表情を見て、それが単なる脅しではなく、ロクサーヌがこの命令に失敗すれば、おそらく、そうするのだろうと思った。
背に冷たいものがどっと流れた。
気がつくと、魔石を持つ手ががたがたと震えていた。
「……出すぞ。全部飲め」
アントワークが呻くように言った。
ロクサーヌに対する言葉じゃない。アントワークの足元にいる女に向かっての言葉だ。
次の瞬間、アントワークの身体がかすかに震え、つんと異臭が漂ってきた。
ごそごそと机の下にいる女が動く。
「いいぞ、立て」
アントワークが足のあいだの女の頭を軽く叩いた。
すると、ひとりの女が机の下から這い出て立ちあがる。
メイドの装束を身に着けている。
ロクサーヌは、目を見開いた。
「あっ、あれ?」
思わず声もあげてしまった。
「この女をルカリナの代わりに、お前につける。メイドとして侍るが、見てわかった通り、俺の愛人でもある。常に見張らせる。少しでもおかしな行動をとれば、ルカリナは処刑する」
アントワークは言った。
ロクサーヌは、自分が次期大公争いの抗争のための、なにかの道具にされるのだということを悟って、ぞっとしてしまった。
「あまり母屋以外にはいかないから、知らないかもしれないけど、最近、この屋敷で働くことになったモイラよ。よろしくね、妾腹のお嬢ちゃん」
すると、モイラと名乗った彼女が精液や陰毛で汚れた自分の口元を手で拭きながら近づくと、いまだに右脚の痺れで立てないロクサーヌを蔑むように見下ろしてきた。