※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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【カロリック公国勢力図(2)】


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 第18話  ある少女公主の物語(3)─【15歳】
995 第二継承順位者【15歳】


 ロクサーヌがあてがわれているのは、宰相政務室と呼ばれている部屋だ。

 机の上は書類で溢れていて、さらに別の大きなテーブルには、業務の種類別に区分された書類の山が積みあがってもいる。

 ここで、ひとりで書類と戦い続ける。

 十数人いるばずの同僚もいない。だから、その十数人分の仕事をたったひとりでこなす。

 

 当然に仕事が回るわけもない。

 恒常的な業務だけでも遅れがちだ。

 だが、うまくいかない政策運営への不満は、それをあてがわれているロクサーヌに集まる。

 ゼルの養女にして、かたちだけの第二継承順位者だから、要職についているだけの無能だと、大公宮のあちこちで蔑まれているのも知っている。

 

 好きでやっているわけじゃない。

 実務のできる部下が周りにいないゼルに、「命令」されて、「全力」を尽くしているだけなのだ。本当なら投げ出したい。誰が理不尽な無能呼ばわりされながら、激務だけを与えられたいか──。

 ゼルが「大公代理」として事実上の大公位になってから一年足らず──。

 それが、いまのロクサーヌの状況だ。

 

 ロクサーヌは、呼び鈴を鳴らした。

 しばらくしてから、政務官室付の部員の若者がふたり入ってきた。

 

「処置の済んでいる書類を各部局に回してください。こちらに部門別になっています」

 

「ああ、これですね」

 

 ふたりがロクサーヌが準備した書類の束を手に取る。

 部屋に入ってきたとき、ふたりの息が軽く酒臭かった。昼間から待機室で酒盛りでもしていたのかもしれない。

 不謹慎とは思うが、いまの大公宮はそれを容認する雰囲気がある。

 本当は、彼らのような者をうまく使えば、もう少し業務は進む。だが、ロクサーヌにはその気もないし、正直に言えば、業務が停滞して、ゼルの政権が危うくなれば、それはロクサーヌの望むところである。

 

「ところで、昼食が届いていません。担当従者に伝えてもらえますか」

 

 出ていこうとする二人にロクサーヌはさらに声を掛ける。

 昼食を食べにいく余裕はないので、大抵はここに運んでもらうのだが、政務官室を担当している女従者はしばしば、それを忘れるのだ。

 今日も、本来昼食を運んでくる時間はかなり過ぎているが誰も来ない。

 

「ああ、来てませんか。わかりました。会ったら声を掛けておきましょう」

 

 ひとりがそう応じ、ふたりが退出していく。

 ロクサーヌは小さく嘆息した。

 会ったら伝えるではない……。伝えよと指示をしたのだ。まあ、おそらく、伝言をするつもりもないのだろう。

 まあ、いつものことだ。

 ロクサーヌは、部屋に設置してある茶器室で自ら茶を入れると、政務に戻った。

 

 ともかく、朝から晩まで、こうやって働き詰めになって、この大公宮で書類仕事をこなす。

 寝るのもここだ。だが、予知夢を見るために、この仕事場の一角で性的嗜虐も強要される。

 このところ、ずっと続いているロクサーヌの生活だ。

 もっとも、予知夢を見るには、相手がルカリナでなければならないということになっているので、そのときだけは、ルカリナを返してくれるので嬉しい。ルカリナとの破廉恥な行為は、いまのロクサーヌには救いだ。

 ただ、色々あって、日中の時間はルカリナは、大公代理のゼルの護衛をしていて、ルカリナはそばにはいない。それはとても寂しい。

 しかも、護衛任務は夜まで続くこともあり、そんな日はルカリナに会うこともできない。

 ゼルは、自分に隷属している──と思っている──ルカリナ以外の護衛はあまり信用しておらず、ルカリナを護衛として拘束する時間は格段に長い。

 ロクサーヌは寂しく思っている。

 

 ロクサーヌに与えられている大公宮における役職は「政務次官」である。

 宰相に直属する文官が政務官と政務次官であり、政務次官は本来は、数名いる政務官の指示に従って業務をするはずの役職なのだが、いまは、本来の政務官と政務次官がことごとく、粛正されるか、自ら下野してしまっていた。抜けた穴には、ゼル大公代理が獣人の解放を訴えた「人道宣言」の一環として、政務官や政務次官に獣人族が抜擢されたのだが、その彼らもいつの間にか、なぜか登庁しなくなり、いまや、ゼルの指名した新宰相とロクサーヌだけが、宰相業務を支えている状況である。

 

 しかも、その新宰相も、ロクサーヌに言わせれば、ゼルの獣人解放宣言に迎合しているだけの小者であるが、彼もまたほぼ業務をしないので、実際の業務は、ロクサーヌひとりに集中することになる。

 だが、ロクサーヌは、自分でも思ってもみなかったが、文官としての才能があったらしく、なんとかそれなりに、業務はかたちにしている。ただ、さすがにロクサーヌも、その場その場をしのぐだけで、中長期的視野による政策運営など不可能だ。

 

 そもそも、十五歳になったばかりのロクサーヌに、公国の中枢に関わることを一手に任せている状況は、ちょっと怖さもあるが、ゼルは気にしてない。

 業務が回っていればいいだろうという感じであり、いまの状況を問題視している気配はない。

 いや、正直、こうやって大公宮の業務に関わってくるようになると、施政者としてのゼルの手腕には、疑念も感じるようになっている。

 もっとも、この危うさについて、ロクサーヌはなにも言わない。主張するつもりもない。

 ゼル政権の傾きは、ロクサーヌの望みなのだ。

 失敗すればいい。

 崩壊すればいいのだ。

 そうすれば、ロクサーヌもルカリナも自由になれる。

 ロクサーヌは、いまは淡々と仕事をこなしながら、そのときがくるのをじっと待っている。

 

 ともかく、彼は、いわば、既存のものを毀すことには才能を発揮する「破の人」ではあるが、「護りの人」ではないのかもしれない。

 ロクサーヌは、一年程前には、大公弟の娘としてかなりの高等教育を受け、さらに元気な頃の現大公の外政に随行などをしていたとはいえ、まったくの素人に近いのだが、一年も政務の中心で業務をしていると曲がりなりにも、わかってくることもあるのだ。

 いずれにしても、こういう状況を生んでいるのは、すべてゼルという極端な改革者の作ったことである。

 

 一年前、当時、次期大公を争っていたカートン公とビンス公、そして、それぞれの支持者を謀略によって一気に暗殺すると、ゼルは瞬く間に、カロリック公国の事実上の最高権力者の地位に昇ることになった。

 現大公は、病床のまま身体を起こすことのできなくなっているが、いまのところ、まだ死んでいないので、ゼルはまだ「大公代理」という役職ではある。

 だが、実際的には、ゼルは大公という最高権力者だ。

 

 おそらく、現大公は近いうちに、ゼルに正式に大公位を譲位するか、あるいは、無理矢理に崩御させられるだろう。

 ゼルが現大公を殺さないのは、すでになんの力もなく、無害であるからにすぎない。もしも、現大公をなんらかの政治的利用をする勢力が現れれば、ゼルは躊躇なく、「処分」すると思う。

 ただ、ロクサーヌのみるところ、病床の現大公をなにかに利用するには、彼があまりにも弱りすぎている。

 ゼルがまだ、現大公を処分していないのは、一応は父親のビンスが死去して一年経たないと戴冠式の慶事ができないので、喪が明けるまで、残しておいてもいいかの気儘の範疇でしかない。

 

 一年前、ゼルは、大公代理として最高権力者に昇りあがると、「人道宣言」と発表し、獣人族に制限されているさまざまな自由を解放することを宣言した。

 まずは、獣人族の居住地域の自由解放、公職の解放などだ。

 さすがに、大きすぎる改革には反対も多かったが、その反対派が次々に「事故死」あるいは「自殺」していくと、表立って反対の声をあげる者はいなくなった。

 大公宮の政務官などに、獣人族があてがわれたのも、この頃である。

 

 だが、実際には、十分な教育を受けておらず、経験も不足する獣人族たちが、急に公職で能力を発揮するには無理があり、公職解放は早々と頓挫した。

 しかも、政務関しては素人同然の彼らなのだが、ゼルという最高権力者の後ろ盾をもらい、大公宮に入ってきた獣人たちは、元からの人間族の役人たち敵視して、かなり尊大に行動していた。

 奴隷のような身分差別に遭っていた者たちとはいえ、決して従順でもなければ、大人しくもなく、賤民扱いから解放されたことに対して感謝もしていなかった。

 あちこちで衝突が起こり、ゼルは獣人の肩を持った裁定することが多く、もともとの人間族の役人たちは、理由をつけて大公宮から離れてしまった。

 残ったのは、能力はないが、権力の甘い汁を吸いたい腐った役人たちばかりだ。

 

 その結果、あっという間に実質的な人手不足に陥り、そのときには、ゼルの養女として大公宮内に生活の場を移していたロクサーヌは、ゼルの命令で、まずは手紙の処置などの簡単な仕事をあてがわれ、すぐに外交文書や治政に関わる書類に触れるようになって、ロクサーヌが文官としてそれなりの能力があることがわかると、政務次官として、職務を与えられてしまったということだ。

 

 また、それが大公宮で受け入れられたのは、ロクサーヌの立場の背景もある。

 なにしろ、一年前は、大公家の一族としては、傍系側の妾腹でしかなかったロクサーヌだが、予知夢の能力欲しさに、ゼルが強引に養女としたことにより、まだ婚姻をしていないゼルの唯一の子になったのである。

 だから、大公位継承者順位は、事実上の大公である代行代理のゼルが第一位であり、ロクサーヌは継承順位だけは、第二位になったというわけだ。

 ならば、十五歳になっているロクサーヌが中枢政務に関わるのは、まったく不自然ではない。

 

 一方で、公職以外でも、公国内での混乱は続いている。

 解放された各種の職域を獣人族たちがうまく行うことは難しく、現実的には獣人族の自由拡大には繋がっていない。

 むしろ、獣人族たちの居住地域として固定されていた「コロニー」が施策として解体されたことで、獣人族たちが都市部に流入し、しかも、彼らは固定した職を持たないため、都市部の中で無法人になるしかなく、治安が悪化し、人間族の獣人族に対する忌避感は一気に増大する結果となった。

 地域によっては自治として、流入してくる獣人たちに暴力を与えるところもあるようだ。

 逆に、これまでコロニーに分かれていたとはいえ、それなりの秩序を保っていた人間族と獣人族の関係は悪化し、獣人族が暴力の対象になっているのである。

 

 しかも、コロニー解体のあおりを受けた力のない獣人族たちは、居住域とともに保証されていた職まで失う者も多く、公国の獣人解放の新政策には、反対している者が大半みたいだ。

 要するに、獣人解放はうまくいっていないのだ。

 これもまた、現実なのである。

 ロクサーヌは、「政務次官」として職務を任せられるようになり、あがってくる報告などに接することで、そういう「現実」も目の当たりにするようになった。

 はっきりと言えば、ゼルの突然の「人道宣言」は、かなりの失政として、公国全体でうねりのような悪評を生んでいる。

 

 だが、そんな情報はロクサーヌは、ゼルには伝えない。また、ほかの者もゼルにあげることはない。そんなことをして、政務を正しく支えようという気概の者は、いまはいない。

 ゼルは多分、一度に多くの殺しすぎたのだ。

 

 とにかく、ロクサーヌがゼルに公国の危険な傾きを伝える義務はないし、それをどうしようとも思わない。

 ロクサーヌはするのは、与えられていることは最小限はするが、積極的にはなにもしないということだ。

 なにもしなければ、ルカリナはロクサーヌに戻ってくる。

 なにもしなければ……。

 

 そのときだった。

 

「ひゃん」

 

 突然に、身につけさせている股間の革帯の内側が振動を開始した。

 誰の悪戯かもわかっている。

 ゼルのいまの「恋人」であるエルヴェラ夫人だ。

 

 十日前から彼女から渡されている帯状の革下着であり、内側には無数の突起があって、強く締めつけて装着しているので、その突起がクリトリスや陰部の入口、お尻の穴にしっかりと喰い込みぎみに当たっているのである。

 一応は、小尿だけはできる構造にはなっているので、装着前に厠が終わってから嵌めれば、なんとかなるが、油断すれば突起が敏感な場所を擦って、邪魔で仕方がない。

 しかも、大公宮内ならエルヴェラ夫人が持っている操作具で、こうやっていつでも振動させることができる仕掛けになっている。大公宮内限定の魔道具なのだ。

 最初の数日は、面白がって、数瞬置きに振動をさせられて、そのたびに悶えてしまって始末に終えなかったが、このところ飽きたのか、かなり振動の間隔が開くようになっていた。

 今日など、ずっと振動はされてなかったが、久しぶりに動かされて、思わず声をあげてしまった。

 ロクサーヌが業務の際に、人を近づけさせないのは、こういうこともあるからである。

 

「くっ、くくく……」

 

 ロクサーヌは、椅子に座ったまま、両手でスカートの上から股間を押さえて、振動が収まるのを待つ。

 そして、とまる。

 ほっとしたのも束の間、再び、動き出した。

 

「あくっ」

 

 脱力していた身体をまた硬直させて、机に突っ伏す。

 同じことをもう一度やられた。

 連続三回の長目の振動──。

 

 呼び出しだ。

 

 ゼルの新しい恋人になったエルヴェラ夫人には、ゼルの手配で王宮内に客室を与えられている。

 最初に、この革帯の下着を渡されたとき、幾つかの「合図」を教えられたが、呼び出しの合図もそのひとつだ。

 これをされた場合は、半ノス以内にエルヴェラ夫人のところに行かなければならない。

 それを怠れば、最大出力で連続振動ということになっているのだ。

 まったく、業務の邪魔だというのに……。

 

 しかし、エルヴェラ夫人の「命令」に逆らって、勝手に帯下着を外すことはできない。

 彼女に「命令」をされているのは、朝、業務を開始するまでにこの革帯を直接に股間に喰い込ませ、夜の就寝前まで勝手に外さないことだ。身体を洗うときには、外していいことにはなっている。

 これに逆らうことはできない。

 ロクサーヌは、ゼルからすれば、ルカリナを通じて、隷属の命令は効くことになっていて、そのゼルが「ロクサーヌはエルヴェラ夫人の言葉に従わなければならない」という命令を与えているのだ。

 もしも、ロクサーヌが革帯装着の命令に背けば、ゼルにロクサーヌが、本当は隷属などかかっていないことが暴露されてしまうのだ。

 

 鈴を鳴らす。

 ちょっと経ってからやってきた部員に、エルヴェラ夫人のところに向かうことを告げて部屋を出る。

 ゼルの愛人として滞在している彼女が、しばしばロクサーヌを呼び出すのは、いつものことなので、その部員も慣れたものでなにも言わない。

 そして、多分、要件もわかっていると思う。

 ロクサーヌが、エルヴェラ夫人の性的調教を受けていることは、公然の秘密のようになっていて、そういう呼び出しであることを見抜いている気配だ。

 

「わかりました。ごゆっくり、ロクサーヌ様」

 

 その部員もにやにやと好色そうな顔を向けてきた。

 

「ええ……、くっ」

 

 いきなり、クリトリスに当たっている突起が激しく振動をした。

 呼び出しの「合図」の後で、悪戯を与えられることを予想していなかったロクサーヌは、備えてなく、思わず露骨によがってしまった。

 

「おや、どうしました?」

 

 やはり、「調教」を受けている立場であることを知っているのだろう。

 目の前の部員の顔が好色に染まるのがわかった。

 しかし、手は出さない。

 以前に、ロクサーヌに露骨に迫った男の部員がいたことがあったが、ゼルの知るところになり、怒ったゼルによって、その日のうちに首を切られたことがあったからだ。

 比喩的表現ではない。

 言葉のとおりに、斬首されたのだ。

 

「な、なんでも……ありません……」

 

 すぐに振動はとまる。

 ロクサーヌは、エルヴェラ夫人が寝泊まりしている客室に急いだ。

 そのあいだも、短いが強い振動をたびたび受け、そのたびに、ロクサーヌは大公宮の廊下で身体を硬直させるということしてしまった。

 

 ともかく、なぜ、エルヴェラ夫人がこんなことをロクサーヌ相手にするのかというと、ゼルがそれを許すからだ。

 ロクサーヌが予知夢を見るのは、ルカリナを相手した性愛による性的興奮の際だというのは、ゼルは完全に認識している。

 だから、どうにか、ルカリナ以外が相手のときにも、予知夢を見れないかと、ゼルは時折、ほかの女にもそれを試させるということする。

 

 最初は、モイラという女工作員──。

 次いで、チムルという一年前まで、ゼルの恋人だった獣人女性──。

 チムルを遠ざけてから、ゼルは近寄ってくる女を次々に抱くようになったが、エルヴェラ夫人は、ゼルの「恋人」と認識されるようになった人間族の女性だ。

 そのエルヴェラ夫人もまた、今回「試し」をすることになり、モイラ、チムル、に次ぐ、三人目の試しの相手になったということだ。

 いまのところ、彼女たちを相手に強要される「調教」で深い絶頂感に襲われても、予知夢は見ることはない。

 ただ、エルヴェラ夫人は、これまでの試しの中でも、もっとも積極的であり、ロクサーヌが「マゾ」の性癖だということを認識すると、こうやって日中の時間を使っても、ロクサーヌを調教するようになった。

 ゼルには、そのうちにロクサーヌを堕してみせると豪語しているようだ。

 

 一応は、ゼルは、ロクサーヌの予知夢の秘密をエルヴェラ夫人に語るにあたり、得た知識を誰かに喋れないという魔道盟約を結ばせたみたいだが、それでも、予知夢のことを簡単に誰かに喋るなど、最高権力者になったゼルは、用心深さを忘れてしまった感がある。

 そもそも、ロクサーヌが「マゾ」の性癖であるなどと、べらべらと愛人に教えてしまったことも、迷惑極まりない。

 ロクサーヌは、マゾかもしれないが、それはルカリナ専用だ。

 本当は、苛められたいのは、ルカリナだけなのだ──。

 

 いずれにしても、ゼルは変わったと思う。

 ロクサーヌは当時は知らなかったが、一年前にふたりの競合相手を派閥ごと抹殺してまで、次期大公の地位を手に入れようとしたのは、愛人だった獣人女のチムルのためだったそうだ。

 しかし、そのチムルをあっさりと遠ざけた。

 まあ、それについては、ロクサーヌが関与していたというのは間違いないのだが……。

 

 そして、新たに恋人になったのが、エルヴェラ夫人というわけだ。

 ゼルが大公代理となってから、夜会で知り合ったらしく、独身だが自身が中級貴族の地位を持ち、もともと、派手な外観の美貌と巧みな会話で有名な女性だったらしい。

 だが、以前からの獣人女性のチムルを遠ざけたゼルは、夜会で誘惑されて、あっという間に夫人が気に入り、すぐにそばに置くようになったという。

 ただ、年齢は三十を超えているということであり、ゼルよりも十歳以上の年上ではある。

 噂によれば、デセオ公国の娼婦あがりということであり、抜群の性技でカロリック公国の重鎮たちが幾人も彼女の虜になったそうだ。

 そして、ゼルもまた、彼女に墜ちてしまったということだ。

 しかし、ゼルの前に現れたタイミングを考えると、もしかしたら、ゼルの獣人解放施策を嫌う旧勢力が送り込んだ色仕掛けの刺客ではないかと勘ぐりたくもなり、なんとなく、胡散臭さも感じるが、まあ、それも知ったことではない。

 だが、こうやって、やたらに、ロクサーヌに関わってくることだけは、閉口ものだ。

 

「うっ」

 

 何回目かの革帯による翻弄に遭いながらもやっと、エルヴェラ夫人の部屋の前に到着した。

 護衛が五人ほど立っていて、取り次ぎを頼んだ。

 ただ、護衛が五人とは、随分と厳重な警戒なのだなとは感じた。

 許されて部屋に入る。

 

「あら、やっと来たわね」

 

 そこには優雅な雰囲気でテーブルに向かって、お茶を愉しんでいるエルヴェラ夫人がいた。

 驚いたことに、そこには、ゼルもいて、ふたりが向き合ってお茶を愉しんでいるところだった。

 それはともかく、ゼルも一年前に比べれば、かなり太ったと思う。研ぎ澄まされたような鋭さもない。

 権力の座がそうしてしまったのだろうか……。

 まあ、それもまた、どうでもいいが……。

 

 また、ゼルの少し後ろには、武具を身につけて彫像のように立っているルカリナもいた。

 ルカリナは、ロクサーヌに接しても、まったく姿勢を変えず、目も向けない。もちろん、無表情だ。

 悲しいとは思うが、これは演技であることを知っている。

 ロクサーヌとルカリナの仲をゼルは承知しているが、なんとなくだが、ゼルはなるべく、ロクサーヌをルカリナから離したいと考えている気配なのだ。やっぱり、予知夢をもっと直接に利用したいようなのだ。

 ルカリナを隷属しただけでは、まだ足りないと思っているのだろうか。

 ともかく、引き離されることを警戒し、だから、話し合ってゼルの前ではなるべく親しくしないようにしている。

 

「ルカリナを残して、部屋の外に出よ」

 

 部屋には、ルカリナ以外にも五名ほどの護衛の衛兵がいたが、ゼルの指示で全員が外に出された。

 ロクサーヌ、ゼル、エルヴェラ、そして、ルカリナだけになる。

 

「ロクサーヌ、話がある」

 

 ゼルがふたりの前に立ったままのロクサーヌを見た。

 椅子もないし、座れても言われないので、このままなのだろう。

 

「待って、ゼル。わたしから話していいかしら」

 

「ああ、わかった」

 

 ゼルが鷹揚そうに頷く。

 すると、エルヴェラがなぜか、ロクサーヌの足もとの床にことんお茶受けの皿を置いた。

 そして、自分の目の前にあるお茶をとり、それを皿に向かって上から注ぐ。

 当然に、お茶は皿にも溜まるが、床にも飛び散って床に散らばる。

 

「えっ?」

 

 ロクサーヌは呆気にとられてしまった。

 

「実はねえ、あなたのお母さんになることになったわ。さっきプロポーズされたのよ」

 

 エルヴェラがにっこりと微笑んで言った。

 

「えっ……。あっ、いえ、おめでとうございます」

 

 慌てて言った。

 

「ありがとう。だから、つまりは、今日から、あなたの躾も世話も正式にわたしがすることになったの。なにしろ、お母さんなんだもの」

 

 エルヴェラが笑った。

 

「は、はい……」

 

 とりあえず、そう返事をした。

 

「だから、それを飲みなさい。あなたのお茶よ。こぼさないようにね。床に落ちたのも全部、舌できれいにするのよ」

 

 そして、エルヴェラが酷薄そうな笑みを浮かべながら言った。

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