僕の部屋には殺伐とした空気が流れている。
ことの発端は風邪を引いている僕のお見舞いに二人の女の子が来てくれたことだ。
咲希ちゃんから電話がある前に先に篠宮さんから着信があった。
今日は家族がいないで一人で過ごしている僕のお見舞いに来てくれた。
二人は偶然にもうちの玄関で鉢合わせ——せっかくだから上がってもらったけれど、なんだか微妙な感じ。
「二人とも座ったら? 立ちっぱなしは疲れるよ」
クッションを二個出して目の前に置いた。
篠宮さんが申し訳無さそうにそれに座ると咲希ちゃんも同じように座った。
「コーヒーでも淹れるよ」
「ダメですよ! 新堂さん風邪引いてるんですから休んでいて下さい」
「だけど——」
「私が淹れて来ようか?」
「悪いね、お願いできるかい? コーヒーの粉は冷蔵庫の横にあるラックの中に入れてあるから」
「わかった」
咲希ちゃんは一言だけ言うとコーヒーを淹れるためにキッチンへ。
部屋に篠宮さんと二人きりなのは気まずい、何か会話しないと。
頭の中で必死に会話カードのどれがいいのか選ぶ。
「今日はわざわざありがとうね。ごほごほ」
「いいえ、大丈夫ですよ」
会話はそれでおしまい。僕は一旦ベッドに横になる。
「お待たせ」
咲希ちゃんが三人分のコーヒーを持って部屋に戻って来る。
僕と篠宮さんはそれぞれカップを受けとってコーヒーを啜る。
沈黙、沈黙、沈黙。部屋にはカップを啜る音だけ——普段なら自分から話出すんだけど今はとてもじゃないけど会話できるような雰囲気じゃない。
咲希ちゃんも篠宮さんも黙ったまま、僕は飲み終えたコーヒーカップを流しで洗ってから寝るためにベッドに戻った。
「咲希ちゃんもありがとうね。色々買ってきてくれたみたいだけど」
「うん」
「悪いけど、ちょっと寝らせてもらうよ思ってた以上に体がきつい…………」
「大丈夫ですか?」
篠宮さんがさっと体を支えてくれた瞬間、彼女と目が合う。
恥ずかしくなってお互い顔を逸らした。
そのあと少し眠ってから夕方までいてくれた咲希ちゃんと篠宮さんにお礼を言う。
「それじゃあ私、帰りますね。新堂さん無理しちゃダメですよ?」
「わかってるよ。今日はありがとうね」
「私も帰るよ」
「玄関までは見送らせて」
熱で火照った体を起こして立ち上がった。
「無理しないで」
今度は咲希ちゃんが僕のことを支えてくれた。
「ありがとう」
「じゃあお邪魔しました」
「お邪魔しました」
二人を見送った僕は部屋に戻って休んだ。
*Point of view Saki*
雅也君の住んでるマンションを出たけど私にはあの子のことが気になっていた。
一緒のエレベーターに乗り合わせてついさっきまで彼の部屋にいた女の子。
誰なんだろう? 雅也君が親しそう話してた相手で彼がふらついた時にすぐに支えてあげていた。
その時に数秒だけど二人が見つめあったのを私は見逃さなかった。
胸の奥が針で刺されたみたいにチクチク痛む。
息苦しさを感じて歩くのをやめて立ち止まる。
「なんとか治った」
数分じっとしてたら良くなってきた——私はまた歩き始めようとしたら。
「あの…………すみません」
誰かに声をかけられた。
「あなたは——」
声の相手は雅也君の部屋にいた女の子だった。
「座りましょうか」
彼女に言われてベンチに座る土曜日だからそこそこ人がいる公園に二人でいる。
私たちはお互いに何か言いたいことがあるのに言い出せない。
彼女は軽く深呼吸をすると、ピンク色の唇を開いて話出す。
「すみません。あなたは新堂さんの知り合い何ですか?」
偶然かはわからないけど、どうやら私とこの子の聞きたいことは同じらしい。
「うん。そうだけど」
「自己紹介しておきますね、私は篠宮湊と言います。新堂さんと同じ会社で働いてます」
「私は浅倉咲希。雅也君とは小学校の頃の同級生」
(じゃあ、やっぱりこの人が新堂さんの『初恋』の人なんだ…………)
「浅倉さんって呼んだらいいですか?」
「うん、あなたは篠宮さんでいいかしら」
「はい、あの一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
「浅倉さんは新堂さんとお付き合いしてるんですか?」
「ええっ!? ないよ! ないない! あり得ないから! 私と雅也君はただのお友達」
(それなら私にチャンスあるんじゃないかな?)
「すみません、失礼なこと聞いて新堂さんが浅倉さんを名前で呼んでたので恋人同士なのかな? って思ってしまって」
「なるほどねー。私たちのクラスは名前で呼ぶのが普通だったから今でも呼んでるのよ」
「そうだったんですね」
「篠宮さんは今日雅也君のお見舞いに行ってたんだよね?」
「はい」
「じゃあ私と同じかー」
「浅倉さんもですか」
「うん、彼が急に風邪引いたなんていうからびっくりしちゃったんだ」
「それで心配になって色々買って持って行ったわけ」
篠宮さんもたまたま電話したら雅也君が風邪を引いたって聞いて心配して様子を見に行ったらしい。
「今日は浅倉さんと話せてよかったです」
「私もだよ。そうだ! 篠宮さんのアドレス教えてよまたお話ししたいし」
私はスマホを出して彼女の番号を教えてもらった。
「登録完了! それじゃあ何かあればいつでも電話していいから」
「ありがとうございます」
「じゃあね」
篠宮さんと別れてまっすぐ家に帰る——夜は寒いからあったかくして寝ないと。
彼女に言った友達の言葉の意味を私はすぐあとに後悔することに羽目になる。
*Point of view Minato*
「友達か…………」
浅倉さんが新堂さんのことが好きじゃないのならこの気持ちをあの人に伝えていいのかもしれない。