熱が大分下がってきて随分と楽になってきた。
僕はベッドから身体を起こして部屋のカーテンを開ける。
まさか篠宮さんと咲希ちゃんが見舞いに来てくれるなんて思いもしなかった。
二人の女の子から看病されるなんていうのは僕が好きなゲームでよくあるような展開だけど実際はそんな事考えている暇はなかった。
そのまま見送ったけれどあの後大丈夫だったのかなあ。
篠宮さんは咲希ちゃんが僕の「初恋」相手だというのは知らないだろうし。
誰かに頼れるっていう事は幸せな事かもしれない。
元気になったら篠宮さんにはお礼を言うつもり。
僕の中で彼女の存在が少しずつだけど大きくなっていくのだった。
*Point of view Saki*
雅也君のお見舞いを終えて家に戻ってきた。
今日はいつもより疲れちゃった…………。
私だけが彼の親しい女「友達」と思っていたけどそれはちょっと違ったみたい。
彼が住むマンションに来ていた女の子──篠宮湊さん。
彼女は雅也君の会社の後輩、それだけの相手なのに何故だか気になる。
篠宮さんは落ち着いた感じの大人しめの子だという印象を持った。
長く伸びた髪が綺麗で羨ましい。
そこら辺を歩いていたら男の人に声をかけられそうな可愛さもあった。
篠宮さんと話をしている雅也君は熱が出て辛いはずなのにどこか楽しそうな雰囲気。
私には見せたことがない自然な表情。
彼があんな風に笑ったところなんて一度も見たことがなかった。
小学校からの同級生だけど当時はそんなに話すような関係じゃなかったし私は雅也君が苦手だった…………。
だけど、どうしてだろう? あの時の私は篠宮さんに嫉妬していた。
嫉妬? なんでそんな気持ちになったのかな?
雅也君が誰と仲良くしようと私には関係ないはずなのに。
胸にチクリとした痛みを感じて私は呼吸を整える。
彼に貰ったネックレスを付けると自分が特別だと思えてしまう。
「雅也君どういう気持ちでこのネックレスを選んだんだろう」
私には勿体ないくらいに綺麗なアクセサリー。
家族以外の人から何かを貰う事なんて今まであまり経験無かった。
「ちゃんとお礼を言わなくちゃね」
嬉しくてお風呂に入る時以外はこのネックレスを外さない。
鏡の前で自分の姿を見ていると携帯が鳴る。
「誰だろう」
私はすぐに電話に出る。
「あ、咲希? 私、明日奈だけどー」
「明日奈? どうしたのよ」
「今、話しても大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「良かった! ねえねえ、これからアンタの所に遊びに行ってもいい?」
「遊びって…………まあ、私も予定無いしいいわよ」
「やったー! それじゃあ今から向かうわね」
「はいはい」
電話を切った私は彼女が来てもいいように部屋の中を軽く掃除した。
「おっ待たせ! いやー外は寒いねー」
明日奈は「お邪魔します」と靴を脱いで部屋に上り込む。
「もう! ちょっとは落ち着いたらどうなの?」
「あははーごめんごめん」
「今、あったかいコーヒー淹れるから座って待ってて」
「ほーい」
私は台所からカップを二つ準備してインスタントコーヒーの粉とお砂糖を入れてポットからお湯を注いだ。
「はい! 寒かったでしょう? これ飲んで温まろう」
「ありがとう」
私もクッションの上に座って暖房を入れる。
「あのさーあたしさっき気になってる事があるんだけど聞いてもいい?」
「なに?」
「咲希さーそのネックレスどうしたの?」
「これ? これはー」
「めっちゃ綺麗じゃん! それアンタが買ったの?」
「違うよーこれはその」
「なによーあたしらの仲で隠し事なんて辞めてよね」
「……うん、これは貰ったものなんだ」
「なになに、詳しく聞かせて」
私はネックレスをプレゼントされた経緯を明日奈に話す。
「へえーそうなんだ」
「まあ、元々は私が彼と一緒に水族館に行く約束だったんだよね」
「あの水族館チケット取れないのによく二人分用意できたわね」
「なんて言ったっけ? その彼」
「雅也君? 新堂雅也君」
「もしかしてその彼が中学の頃に咲希に告白したっていう」
「そうだけど…………」
「なにそれ! 昔好きだと言ってくれた相手と十年ぶりに再会するなんてドラマみたいじゃん」
「アンタにそのネックレスをプレゼントした新堂君に会ってみたくなっちゃった」
「もう! なんでそんなに嬉しそうなのさ」
「実は今日、彼のお見舞いに行ってきたの」
「お見舞い? どういう事」
私はネックレスを探して風邪をひいてしまった雅也君の話を明日奈に聞かせてあげた。
「そのネックレス探すためにあんな寒い夜の中頑張ったんだ」
「うん、私のせいで雅也君風邪引いちゃったわけだからお見舞い行ってきた」
「咲希は彼とは友達なんだよね?」
「そうだけど」
「そっか、ただの友達の為にそこまでやるかなーしかもネックレスをプレゼントするなんてね」
その日、明日奈はうちに泊まっていったんだけど私には雅也君の事を色々聞いて来た。
今度会わせてほしいなんて無茶な事も言ってたけど…………。
私は彼から貰ったネックレスを身につけて眠りについた。
このネックレスの本当の意味を知るのは少し後の事だった。