恋をした事がない咲希は今の気持ちが一瞬の心の迷いなんじゃないかと思った。
雅也を好きになったきっかけが自分がよく読む恋愛小説みたいな展開じゃない、だからまだ信じられなかった。
*
悩む度に胸が張り裂けそうになる、あの日、肩まで雪の積もった彼が私にこのネックレスを届けてくれた時の事を思い出す。
散りばめられたダイヤが愛情の証でお店でも特別に注文しないと手に入らないものだって教えてもらった。
そんな特別な贈り物を貰えた私は雅也君にとってどういう存在なんだろう?
東京の街で十年ぶりに“再会”してから私たちは昔みたいに友達として接してきた。
ついこの間までそうだったし、これからもそれは変わらないと思ってた。
だけど、今は違う──雅也君とは友達以上の仲になりたい。
こんなに悩むなんて思わなかった……。
私はもう一度電話をかけるために真っ暗な部屋で少しだけ差し込む明かりを頼りにスマホを探した。
「今度こそ出てくれるかな?」
彼に電話をかけると決めたのに急に不安になる……。
さっきかけた時は出てくれなかった、きっとタイミングが悪かったんだと思う。
咲希は雅也の番号を呼び出して通話ボタンをタップした。
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「……好きです、新堂さんの事が」
帰りの電車の中で篠宮さんからの告白を何度も思い出していた。
生まれて初めて女の子に好きだと言われたこと、それが僕が最近気になり始めた相手からだった。
篠宮さんを抱きしめた時、僕は彼女とずっと一緒にいたかった。
咲希ちゃんに振られたあの日以来「恋」をすることに消極的になってしまった自分。
彼女も少しでも僕といたいと言ってくれた、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。
十年前に終わってしまった僕の初恋──あれから咲希ちゃんともう一度会えた、子どもの頃よりは仲良くなれたんだろう?
周りの人はスマホをいじりながら歩いてる、僕の時代に合わないフューチャーフォンはこの風景には馴染まない。
そんな風に思いながら品川駅からホームへ降りて電車に乗り込んだ
いつも億劫に感じる電車での移動もその日ばかりは気にならなかった。
***
「やっぱり出ない……」
今の時間は二十三時過ぎ、もしかしたら雅也君はもう寝ちゃってるのかな?
すれ違い、合わない時間。携帯があるのに連絡が取れない様子はまるで昔のドラマを見ているような感覚。
咲希は不安な気持ちが募ってきた、「恋」を自覚する前は相手の事なんて考えずにいつだって電話できた、だけど今は雅也に嫌われるんじゃないかと思うとあまりしつこくはできなかった。
前に雅也からもらった告白の手紙は返事を書いてから捨ててしまった、書いていた内容も思い出せない。
「酷いことしたなあ……」
酷い自己嫌悪に陥る。私を好きだと言ってくれた人に最低な返事をした、その事もついこの間まで義之君に言われるまで忘れたんだもん。
もしかして私って酷い女なのかな?
ますます自分が嫌になってくる……。
こんな私を雅也君はもう一度好きになってくれるのかな?
彼が風邪を引いた時に看病に行ったんだけどそこには私以外にも女の子がいた、篠宮さんっていうその子は雅也君の会社の後輩で私と同じように彼の様子を見に来たらしい。
あの時は言えなかったけど、篠宮さんはすごく可愛い女の子だと感じた。
年下なのに女の子らしくて一緒に並んでいると私の女子力の低さが目立っちゃうくらい。
十年経ってようやく彼への想いに気づいた私はまだ恋愛に関しては何もわからないの……。
次に雅也君に会う時はどういう顔をすればいいの?
鏡に映る自分の顔を見る、もっと可愛い顔に生まれていれば苦労する事なかったのになぁ、彼好みの女の子になりたい。
雅也君の好きなタイプってどういう子なんだろう? 聞いてみたいけどその勇気が私にあるのかな。
プレゼントされたネックレスは私にはもったいないくらい、とっても素敵だと感じる。
恋愛ってこんなに悩むものなんだー。自分がどんどん変わっていくのがわかる。
初めての体験にドキドキするけど不安な気持ちもある。
あの時の雅也君も今みたいに悩んだのかな?
十年って時間は私達の間に大きな壁を作っている気がする。
でも、私の恋心はまだ始まって数日も経っていない。
こんな気持ちになるならしばらく雅也君には会わない方がいいのかな、だけど、その感情とは裏腹に今すぐにも彼に会いたいっていう気持ちもある。
近いうちに自分の想いを雅也君に伝えようと思う。だけどそれには勇気がいるけどね。
咲希が雅也への告白を決めた頃、雅也自身は湊に対して返事をするきっかけを作ろうとしていた。