篠宮湊は家族と過ごす時間をとても大切に感じながら自分の中にある想いと向き合い「恋」の始まりを告げる一ページ目をめくるのだった。
二〇一六年 十二月二十二日(木)
白くてふわふわした雪が街に降り注ぐ中、私は一人駅のホームに立っていました。今年も残すところあと僅か──仕事納めが近づいて行く中で世間はもうすぐやって来る聖なるイベントの話題で賑わいでいました。
もう数すら数えなくなってしまったクリスマスを私は家族と過ごす予定になっていました。
妹からは毎回「彼氏はできた?」って聞かれるのがうんざりするけれど、温かい我が家が私の心の休まる場所でもあります。
お母さんのお手伝いでクリスマスの為の料理を作らなくちゃいけないだろうし、家族へのプレゼントも準備しなくちゃね。
そんな事をあれこれ考えて電車に乗る、車内のクリスマス向けの広告やニュースとかをぼんやりと眺めながらふと会社の先輩の事が頭に浮かぶ。
私の初恋の人【新堂雅也】さん。同じ会社で働いている私より年上の男の人。今まで恋愛に縁が無くてこの年まで彼氏すらいなかった私が今では一人の男性に想いを寄せている訳です。
きっかけはほんの些細な出来事だったけど、そんな小さな偶然が積み重なって行くうちに私はあの人に好意を持つようになりました。
何分初めての経験なので私自身も色々と悩んでいるわけです。彼は周りの人と適度に距離を置いていてあまり深く関わろうとはしていないようでした。
実際に新堂さんに「彼女がいるんですか?」と聞いた事は無いし、あの人もそんな事をペラペラと喋るタイプじゃありません。
私の片思いですし、恋人になれた良いなぁとは思っています。けれど新堂さんの自分に対する評価や今までの接し方を変えるのはなかなかに難しい……。
周りの人が恋愛の話で守る上がる中で頑なに会話に参加しようとしないのはきっと何か理由があるんじゃないかと。
「ただいま」
「あら湊。おかえりなさい、丁度良いタイミングね、着替えたらちょっと手伝ってくれない?」
「分かった。着替えてくるから少し待ってて」
自分の部屋に入って着替えを済ませる──机に置いてあるスノードームには積もった雪を眺めてから「ふぅ」と深呼吸する。
「今年の料理は豪華にしようと思ってるのよ。私だけじゃ大変だったから湊が手伝ってくれて本当に助かってるわ」
「良いよ別に、毎年の事じゃない。それに私もお料理するの好きだしさ」
「そう。もう少ししたらお父さんも帰って来るって連絡あった」
「お父さんはしゃいで怪我でもしないと良いけど……」
「そうね。家族みんなでクリスマスを過ごすって言うのはあの人が言い出した事だけどお母さんもその方がすごく楽しいと思ってるのだからこうして仕事を早めに終わらせて帰ってきたわけだしね」
「毎年恒例だけど私はみんなで過ごす時間を大切にしたいなぁ」
「あんたは良い加減彼氏でも作らないとね。来年こそは湊の彼氏さんも入れて一緒にお祝いしたいわね」
「それ去年も言ってた……」
「あんたが恋人すら作らないからお母さんもお父さんも心配してるのよ。昔から聞き分けは良かったし、ワガママも言わない子だったから手はかからなかったけど、その分内気な性格で友達を作るのにも随分と苦労したじゃない?」夏帆ぐらいの明るさがあればすぐにでも仲の良い子ができたんだろうけど、あんた達姉妹は性格が真逆だからねえ」
私と妹は反対の性格をしている。妹は社交的でいつもクラスの中心にいるようなタイプで部活や勉強に一生懸命で同級生からの評判も良い。
どんな時でも前向きなお父さんに似たのかも……。
逆に私は内気で周りに自分から積極的に関わって行くタイプじゃ無くていつも教室の隅で一人でいる事が多かった、社会人になってからは会社の人と上手く話せるようにはなったけど、これと言って仲の良い友人とかはいません。お母さんは優しくて素敵な人だけど、どうやら私はその性格は受け継いでいないらしい。
反対の性格をしていても私たち姉妹は仲が悪いわけじゃない。むしろ逆ですごく仲の良い姉妹だと思います。
妹は偶に私をからかうような事を言うのだけど、それはあの子の性格から来るものだし私も上手く受け流している。
昔は妹みたいに明るい性格になれたらなんて事も考えていたけど私とあの子は姉妹でも別の人間、お互いの良いところ悪いところを理解して上手くやっているからもうそんな事で悩むことも無くなりました。
私は家族をとても大切に思ってます。それはこれから先もきっと変わらないでしょう。
来年こそは新堂さんに想いを伝えられたら良いなぁ。十二月の空に白い雪が降り優しく街を包み込む──そんな光景を見ながら新しく始まる「恋」の一ページ目をめくり始めるのでした。