※この作品はR-18です。

初恋と忘れられない想い   作:南雲悠介

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醜い感情

 許せない! 

 帰りの電車の中で私は初めて人に対して怒りという感情を持った。

 今日は雅也さんと会って二人きりで時間を過ごした。告白をしてからも私達の関係はいつも通りだけどそれが安心する。

 きっと彼は私に返事をするつもりだったんだろうなぁ。

 色々と悩んでようやく新しい恋へ進める雅也さんを側で支えてあげたい。初めて人を好きになってから分かった事も多いの。

 いつか私がおばあちゃんになってもずっと一緒にいたいって思えた人に出会えた事、そのひとの為なら何でもできるって、雅也さんとこれからの人生を歩いていきたいって。

 結局告白の返事は貰えなかったんだけど、私はいつまでも待つつもり。

 

 だけど今日の彼はどこか普段と違う感じがしたの。苦しそうで無理に笑顔を見せていたからすぐにわかった。私といてもあんまり楽しそうじゃなかった。

 私への返事が雅也さんを苦しめていたら嫌だなって思う……

 私は無理している彼にちゃんと分かっている事を伝えて抱きしめた。

 

 あの人は恋愛に対して忘れる事が出来ない辛い経験がある。

 初恋の人に振られた事——それが十年もの間雅也さんをずっと苦しませていた。

 だから、雅也さんはもう人を好きになるのは諦めているのかも。

 それでも私は雅也さんが好き。これは誰にも譲れない気持ちだし。

 

 雅也さんと別れてから駅の外へ出た瞬間に私は声をかけられる。

 呼ばれた方へ振り向くと浅倉さんがいた。

 

「ちょっと良いかな?」

「浅倉さん? 偶然ですね、私に何か用ですか?」

 

 浅倉さんは私の言葉に何も答えずにさっき雅也と一緒にいた公園に私を連れて行った。

 

 なにやら大事な話があるらしい。私達は公園のベンチに座り私は大分暗くなって来た空をぼんやりと眺めた。

 

「大事な話って何ですか?」

 私の方から浅倉さんに用を尋ねると彼女は聞きづらそうな表情をして話題をなかなか切り出せない様子。

 実は私も浅倉さんには聞きたい事があった。前に雅也さんとはただの友達だって言ってたけどそれは本当の事なのかな? 

 

「そうだ! 篠宮さんに言われて私好きな人に告白したよ」

 彼女は本質から逸れた話題で会話を続けようとする。

 浅倉さんも好きな人に告白したんだーお互いの恋が上手くいけばいいなぁ。

 二人とも告白の返事は貰えていない——本当なら私は雅也さんから私の気持ちへの応えが分かる日だったかもしれない。

 浅倉さんはウンウンと頷いてリアクションを取っていた。私はどうしても気になって仕方がない疑問を彼女にぶつけてみた。

 

「私も浅倉さんに聞きたい事があるんですけど聞いてもいいですか?」

「何? 聞きたい事って」

「私が聞きたいのはあなたと新堂さんの事です」

「私と雅也君の事?」

 

 私が告白した相手が雅也さんだって事を彼女に伝えた。

 そして浅倉さんの告白した相手が雅也さんだと知った時、私の心の中には言葉では言い表せないような醜い感情が沸いてきた。

 十年間ずっと彼を苦しめていた人が今になって好きだなんて流石に図々しいと思った。

 初めて人が許せないと思った。目の前にいる相手に強い怒りを覚えた。

 

 気がついたら私は彼女の事を引っ叩いていた。

 私達は公園の中で言い争う、絶対に許さない! 雅也さんがどれだけ悩んでずっと初恋を引きずっていたのを、彼の気持ちを断っておきながらそれを正当化しようとしている浅倉さんが私は許せなかった。

 

 同じ人を好きになってしまったのは何かの偶然? ねぇ、恋の神様教えてよ! 

 自分の中にある彼への気持ちをぶつける、想いの強さなら絶対に私の方が上だし! 

 だって私はこんなにも雅也さんの事が好きなんだから。

 何とか感情を抑えこんで家の帰りつく。普段と違う雰囲気の私に家族は心配していたけど何も言わないで自分の部屋に入った。

 

 

 *

 

「何やってんだ僕は」

 湊ちゃんに告白の返事をするって決めたはずだったのにそれができなかった。

 もう自分の中では応えが出ていたのにどうして言えなかったんだろう? 

 湊ちゃんと一緒に過ごすようになって僕は少しずつ彼女に惹かれていた。

 あの時以来人を好きになる気持ちを持つのはやめようと思っていたけどそんな僕を彼女は変えてくれた、この子ならと僕自身もそう思った。

 告白の返事をしようとした時に思い浮かんだのは咲希ちゃんの顔だった。

 

 何で咲希ちゃんは僕に好きだなんて言ったんだろう……。

 あの子の本心がわからない。だって僕の初恋は十年前のあの日に終わってしまったのだから——また咲希ちゃんを好きになるって事は無いと思う。

 咲希ちゃんの部屋で一夜を過ごしたけどそれは彼女のワガママに付き合っただけ、一時気まぐれに感情を揺さぶられちゃいけない。

 きっと一人暮らしで寂しかったんだろう、だから自分の気持ちを落ち着かせる為に僕を部屋に呼んであんな事をしたんだろう。

 

 僕を好きだって言ったのも寂しい気持ちを紛らわせる為、依存できる相手なら誰でも良かったんだろうなー。咲希ちゃんが本気で誰かに恋をするなんて想像つかないし。

 そう自分に言い聞かせて納得する。湊ちゃんへの返事は近いうちにしなくちゃいけない。

 いつまでも待たせるのは相手にも失礼だから。

 

 雅也は次に咲希に会った時に本心を確かめようと思った。

 これから起こる展開に雅也自身気が休まる暇がないというのを。

 咲希と湊はそれぞれの想いを秘めて行動に移していくのだった。

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