※この作品はR-18です。

初恋と忘れられない想い   作:南雲悠介

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序曲3 中学生時代最後の思い出は──

 夕暮れの校舎を見上げながら僕は家に帰るために舗装されたアスファルトの上を歩いている、簡素な田舎の駅に来るディーゼルエンジンの汽車は黒い煙を吐き出しながら線路を走っていく。

 中学最後の文化祭の準備も終わってみんなが明日のイベントを心待ちにしていた、仲の良い友達同士で体育館で行われるレクリエーションの話題を大きな声で話していた。

 僕は友人の義之君と色々話はしたけど、明日は別行動を取ることになった。

 一人で文化祭を回るのなんてもう三度目のはずなのにどうしてだろうか今年はなんだか寂しく感じた。顔を上げると少し先にあの子が肩にバッグをかけて歩いている。

 歩くスピードはそこまで速くないからすぐにでも追いつきそうな距離だった。

 

 僕が彼女に片思いをしているなんて言うのは当の本人は気付いていないんだろうなあ。恋愛には興味なさそうだし、ポニーテールに纏めた髪から見える頸に目が行く。

 好意を持ってからいつも彼女のことを目で追いかけていた、僕から送られる視線なんて気にも留めていないのか真っ直ぐに前だけを見て歩いている。

 

 駅のホームに設置された椅子に座って彼女は図書室で借りた本を読んでいる、そうだ、小学生の頃からこの子は読書が好きで色々な本を読んでいた。感性はとても繊細で他人を思いやることのできる子、彼女に対して素直な態度を取れなかった僕にも他のクラスメイトと同じように分け隔てなく接してくれた。

 

 あの子の横を通り過ぎるとふわりとしたいい匂いがした。女の子って皆こんな良い匂いがするんだろうか? そんなことを思いながら彼女の座っている椅子の二つ先に腰を下ろす。

 僕が座っても全く反応せずに本のページを捲る。

 いやあ、参っちゃうよね本当に、こっちは二人きりで彼女のことを意識しざる得ないっていうのにさ。

 僕らの間に沈黙が続く。読書をしているのを邪魔しちゃいけないけど彼女と話したい自分もいた、葛藤しながらあれこれ考えていると他の友人たちが駅に集まり始める。

 僕は「はぁ」と溜息ついて椅子から立ち上がった。間も無く彼女と仲が良い女子が近づくと本を閉じて細やかな会話を始める。

 

(僕が来た時には無反応だったのにな)

 

 そう、彼女にとって僕はきっと取るに足らない存在なんだろう、そう思えてくるとなんだか寂しく感じる、夕暮れに染まる空は変わらない、秋の終わりから冬を迎えようとする十一月初旬、文化祭の話題で盛り上がる中、僕はひとり明日が来るのが憂鬱だった。

 

 

 

 文化祭の二日目──中学最後の文化祭ってことで思い出を作ろうと張り切るクラスメイトを他所に僕は体育館で行われるレクリエーションの事で頭がいっぱいだった。

 下級生がバンドを組んで参加するなかで僕はひとりでの出演を決めていた。

 もちろん誰かを誘おうとも考えたけれど、付き合ってくれる相手がいなかった。まあ、ひとりで出た方が気持ちが楽だからいいや。なんて強がりを言ったけど、心の奥底では緊張でマイナス思考に捉われていた……。

 

 小学生の頃はあまり人の前で喋ったりするのが得意じゃなかったけど、中学になってからはそんな気持ちも薄れていった。

 最後くらいは楽しい文化祭にしたいと思ってレクリエーションへの参加を決めた。

 ちなみに何をやるかと言うとみんなの前で一曲披露すると言うものだ。

 多くの人に馴染みがあるような曲は逆に知らないから僕は自分が好きなゲームの主題歌を歌うことに決めていた。まだネットで物を買うのが主流じゃなくてなかなか音源が手に貼らなくて苦労したな……。

 それでも何とか手に入れて前日のリハーサルには十分に間に合った。

 僕が歌う曲を知っているひとはおそらくいない。

 

 少しは変わった自分をあの子に見せられたら良い、体育館に全校生徒が入りなんだか騒がしくなってきた。僕は自分の出番が来るまで舞台袖の控え室と言うのは簡素な場所で待っていた。

 出番は最後から二番目──最初のバンドの演奏が始まると会場は大いに盛り上がりを見せる、多くの人に馴染みのある曲だからこそあそこまで盛り上がれるんだろう。僕は演奏されている曲は全く知らないからテンションを上げることができなかった。

 ボルテージが最高潮になる会場では大きな歓声が聞こえてきた。

 

「そろそろ準備お願いします」

 

 係の生徒に声をかけられて深呼吸してから舞台の脇まで移動する──あの子が見ていてくれるなら嬉しい。終わった後に一言でも「良かったよ」なんて言葉をかけてもらえたら出場した意味もある。

 中学最後の文化祭で思い出を作る為、僕は自分らしくない行動をして順番が来るのをドキドキしながら待つことに。

 

 

 *

 

「……演奏すごいよね」

 

 隣に座っている子が小声で話しかけてくる、ライブ中は盛り上がっているけど、準備中は皆静かに待っていた、私は周りの人ほど楽しめていないけどこの盛り上がっている会場の熱に絆されたのか体も熱くなる。

 

「次の演奏始まるよ」

 

 お喋りを辞めてレクリエーションに夢中になる。下級生が中心に三年生を楽しませようと色々頑張っている姿を見ると何だか良いなぁっ感じる。

 

 二日に渡って催される。文化祭は初日はバザーとかクラスの出し物が中心で二日目は体育館でのレクがメインイベントになっていた。

 

 今日の為に遅くまで残って練習したんだろうなと分かるような演奏に自然とテンションが上がって来る。

 手元にある文化祭の栞でレクに出演している生徒の名前を確認する。

 

「……えっ?」

 

 そこには意外な名前があった。

 

【新堂雅也】

 

 何度見直しても間違いなく彼の名前が載っていた。彼がこんなイベントに積極的に参加するのは意外だったし、びっくりした。

 だって、一年と二年の時は全くそんな気配はなかったし……。

 て言うか朝教室で顔を合わせた時にも自分が出るなんて事は言って無かった。

 意外な参加に驚きを隠せない私はせっかくの演奏も楽しむことが出来なかった。

 熱気に包まれていく体育館でのイベントも残すところあと二人になった。

 幕は一旦降りて次の出演者の準備まで3分程のかかるとのアナウンスがされると皆は椅子に座ってじっとしてる。

 個人で参加しているからメンバー名だけをアナウンスする司会の子、いよいよ始まる次の演出に全校生徒が一斉にステージに注目する。

 

 幕が上がりステージの後ろに大きなスクリーンが準備されている──彼はその舞台の真ん中でマイクを握っていた。

 冷やかしか応援か分からないクラスメイトからの歓声に右手を上げて応えるとチラッと舞台脇を見る。

 大型スクリーンに映像が流れ始めると見た事のないキャラクターが登場して会話劇が始まる。

 黙ってそれを聞いていると場面が切り替わり曲が流れて始める。

 そうすると彼はマイクを持ってステージの中央に移動し始める。

 

 映像に合わせて歌詞が表示される、次々と切り替わる映像を目で追うのがやっとの中、私の知らない曲を歌う彼の姿がある。

 

 さっきのライブとは比べ物にならないくらいに会場は盛り上がりを迎える、クラスメイトの男子達は彼の名前を叫び応援する、その様子を女子たちは冷ややかな反応で返す。

 彼は仲の良い友達が多いわけじゃないのに、クラスの男子みんなが盛り上げる。

 

 サビの途中に映った映像では可愛い女の子が涙ながらに何かを訴えていた、ステージのボルテージは最高潮を迎えて曲もいよいよ終盤に差し掛かる。

 雅也君は真剣な表情でマイクを握り歌に魂を込めていた。彼との付き合いは小学生の頃からだけどこんなにがんばっている姿は初めて見たかも。

 

 歌が終わり会場に向かって一礼すると割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。

 しばらくプログラムが進んでから雅也君が自分のクラスに戻って来る。

 男子生徒達と握手をしていてみんなが彼の頑張りを称えていた。

 中学生時代最後の文化祭は大成功で担任の先生も大喜び、教室に戻ってからはクラスメイトが彼の歌の感想を口にする中で私も聞かれた。

 

「特に何も……」

 

 と返事をしたけど本当はどんな感想を言えば良いのか分からなかった。文化祭の為に頑張ってきた雅也君に同じクラスメイトとして労いの言葉をかけてあげても良かったのかもしれない。

 

 文化祭が終わってもしばらくは彼の歌の話題で持ちきりだった。それでも気取らず周りの人に感謝していた様子を見て私は雅也君を少しだけ見直した。

 

 

 **

 

「特に何も……」

 

 あれだけ頑張って歌ったのに彼女の反応は淡白だった、まあ、素直な感想だろうから受け止めるけど、ある意味でショックでもあった。

 周りには言ってなかったけれど、僕は咲希ちゃんの為に歌った、選曲もじっくりやったし、歌の練習にも真剣に取り組んだ。

 クラスメイト達からの評価は純粋に嬉しい──そりゃあもう涙が出るくらいにだ、けれども、一番欲しかった人のあまりにも素っ気ない態度に僕はがっかりした。

 

 まあ、僕が勝手に彼女の為に歌うと決めて参加したことだし、当の本人はそんなことは知る由もない。当然といえば当然の反応なんだろうけど……。もう少し何かあっても良くない? 

 

 中学時代最後の文化祭はいい思い出を作ることができた。あの子に少しでもかっこいいところくらいを見せることができたんだろうか? 

 

 もしも、あの時君が褒めてくれたのなら僕は──

 

 ひとりでそんな事を考えながらまだ文化祭の余韻が残る校舎を後にするのだった。

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