「明日奈に聞いてほしい事があるんだ」
「何? どんな話」
彼女は注文したコーヒーに一口口をつけるとカップを置いて私の方へ向く。
「あのね、私、雅也君に告白したの」
「マジ? 咲希にしてはやるじゃん」
「私にしてはってどういう意味よ!」
「まあまあ怒らない怒らない」
頼んでいた料理に手をつけ始める明日奈をよそに私は今日まであった事を話した。
「へえー。あたしが知らないうちにそんな事になってたんだ」
「……うん」
「咲希の話を聞く限りかなり厳しい戦いになりそうね」
「やっと好きな人ができて一世一代の告白をしたけど失敗したと」
「まだ失敗してないもん」
「わかってるって、で? どうなの? 良い返事はもらえそう?」
「わかんない。もしも良い返事を貰えなかったらどうしよう……」
途端に不安になって俯く私に明日奈はさらっとした言葉を返す。
「新堂君が先に別の子から告白を受けてて、その子は彼とすごく仲が良いんだよね?」
「……そう」
「そっかー。正直なところあたしもこういう経験無いからどんな風に言えばいいのかわかんないけど、咲希がもう一度彼に好きになってもらえるかがポイントじゃない?」
一番気にしている事をさらりと言う明日奈に私は小さく頷いて肯定する。
今の私がもう一度雅也君に好きになってもらうにはどうすればいいのか何度も考えていたから。
彼は私のどこを好きになってくれたんだろ? あの時にちゃんと聞いていればこんなに悩む事なんてなかったのに……。
自分でも知らない部分に惹かれたのかな?
初めて「恋」をしてわかったのは私が考えていた以上に複雑で思い通りにはいかないって言う事。
前に読んだ恋愛小説のヒロインみたいな女の子に私はなれっこない。
今まで私を好きだと言ったのは雅也君だけで、私自身も異性と積極的に関わっていくタイプじゃないから恋愛とは無縁だと思っていた。
逆に私は彼のどこが好きなんだろう? 顔ならもっとイケメンな人はいるし、なんなら私の好きな俳優の方が数倍もカッコいい。
男性としての魅力を感じて惹かれてた訳じゃない。
でも、気づいたの……。人を好きになるのに外見で判断しちゃダメって。
こういうのはごく自然と巡り合う形で訪れるものじゃないのかな。
あの時、私が駅で落とし物をしなければ私達が再び巡り合うきっかけもなかった。
私も彼も違う時間を過ごしてそれからはいつもと変わらない日々を生きていく。
それが何の運命かもう一度私は雅也君と出会った。
これはきっと偶然なんかじゃなくてそうなるべくしてなった結果だと思うの。
だってそうでしょう? 十年も会っていなかった相手とまた会えるなんて言う出来事が現実で起こったんだから。
私達は結ばれる運命にあるんじゃないかな? 夢見がちだと思われてもいい、私はそう信じているから。
ただ、それなのに現実はままならない。私が雅也君への想いを自覚した頃、篠宮さんは彼に好きだと伝えていた。
本当だったら私達はすぐにでも恋人同士になって今頃は二人で同じ時間を過ごしていた。
私に気を遣って篠宮さんと会うのを隠してた彼。
──私と彼女の差はどんどん広がるばかり。
一番欲しいものってなかなか手に入らないって言うのは聞いた事があるけど、本当にその通りだと思う。
というか私自身がもっと積極的になるべきなんだ。そうしないと雅也君を篠宮さんに取られちゃう。
「これから私はどうしたらいいんだろう……」
「咲希がもう諦めてるならそれでも良いんじゃない? ただ、あたしが思うに今諦めたらあんたは一生彼氏ができないわよ」
明日奈の言葉が胸に突き刺さる、これまで私なら彼女の言葉何て軽く受け流すのに今はそんな余裕もない。
「深刻だね、正直、咲希が恋愛の事でこんなに悩むなんて思いもしなかった」
「自分でも驚いてる『恋』をすると女ってこうも変わるものなんだなって」
「良い傾向じゃない? 今までの咲希は恋愛なんか全く興味示さなかったわけだし」
「こういう事を相談出来る友達は明日奈しかいなくて」
「まあ、あたしもそんなに恋愛経験が豊富って訳じゃないけどね。咲希よりは多いかなー。でも、まだ付き合ってるひとはいないんだよねぇ」
「いっぱい悩んだらいいと思うよ。初めての体験なんだしさ、正直あんたが恋愛で苦労するなんて考えもしなかったしね」
「今まで経験して来なかったから色々と不安なの」
「友達としてあたしに出来ることは咲希の恋を応援するって事かな。あんたが意中の彼と上手くいくように出来る限りは力になるわよ」
「ありがとう」
「ちょっと! これくらいの事で泣かないでよ!」
明日奈の言葉が嬉しくてつい泣いちゃった私を落ち着くまで宥める。
それからはこれから先どうしたらいいのか二人で話し合う。
──もう一度雅也君にちゃん会って話をすること、自分が彼と関係を変える為に行動しなくちゃいけないこと、明日奈は真剣に考えてくれた。
応援してくれる彼女の為に頑張ろうと思う。
二十三時を過ぎても東京はまだどこも明るい、雪がチラつく中しっかりとした足取りで家に向かう。
冷え切ってる手でスマホを操作して一つの電話番号に電話した。
*
「ん? 電話か」
枕元に置いてある携帯へ手を伸ばして通話ボタンを押す。
「もしもし。誰?」
まだ完全に起ききれていない頭で寝ぼけ気味に着信相手に尋ねた。
「もしもし雅也君、咲希です。今大丈夫かな」
着信相手からの声が届いたのを確認してから僕は聞き手とは逆の手に携帯を持ち替えて通話を続けた。
「咲希ちゃん? どうしたのこんな時間に……」
丁度目の前にあるデジタル時計で時刻を確認すると〇時を過ぎていた。部屋の中は冷え切っていて携帯の明かりで顔が照らされる。
息を吐いたら白かった。暗い部屋がパッと明るくなって一瞬目を細める。
「もしかしてタイミング悪かった?」
ちょっと涙声で言う咲希ちゃん。
「〇時って大抵は寝てる時間だと思うんだけど……。それで何の用なの?」
少し不機嫌にそう言って彼女からの要件を聞く。
「あのね、今度の土曜日空いてる?」
「土曜? 特に予定はないけど」
「だったら会えないかな?」
「また急だね、ていうかこの間会ったばかりじゃん」
「……うん。そうなんだけど」
「会うだけで特に用があるわけじゃないんだよね?」
「ちょっと話したい事があるの」
「電話じゃダメなの? 改めてかけてくれたら話は聞くけど」
「電話じゃ嫌。直接会って話がしたいの」
どんどん涙声になる咲希ちゃんに良心が痛んだ。昔から彼女のこういうところには弱かった。
僕は電話を耳に押し付けたままふぅと大きく息を吐いた。
「わかった。いいよ。僕も咲希ちゃんに話さないといけない事があるし」
それは僕が湊ちゃんと付き合うことになったということだ。咲希ちゃんが僕を「好き」だと言ってくれた事が未だに信じられないけど、僕は自分の気持ちをはっきりと彼女に伝える必要がある。
まっさらで何も予定が無かった土曜日に外せない用事ができた。
咲希ちゃんと会う約束をしてからもう一度寝る為に目を閉じた。
この間見た夢は見る事がなく僕は訪れる睡魔に抗わずに身を任せた。