雅也さんと恋人同士になれた私は今の状況が夢なんかじゃないって事を改めて確かめる。
スマホに連絡先に登録してある雅也さんの電話番号を眺めると自然と頬が緩む。
私の初恋はいい結果になった。大好きなひとと両想いに、憧れから恋愛に感情が少しずつ変わっていくのを実感しながら毎日過ごしていた。
あの人と出逢ってそんなに経っていないけれど、日々を過ごすうちに好きになっていった。
私の想いはブレなくてずっと変化せずに今に至る。
だから、自分から雅也さんに告白した時はなったその場から残る逃げてしまいそうな感情を抑え込んでた。
子どもの頃から内気な性格で自分の気持ちを上手く伝えられなくて苦労したのが咄嗟に蘇る。
そんな私が自分から告白なんて大胆な行動をしたのには驚いちゃう。
名前で呼び合うようになってから日は浅いけれど男の人に名前で呼ばれるなんこれまで経験してなかったからとっても嬉しい。
寒い空の下で彼に抱かれて人の温もりを感じたの。やっと片思いでしかなかった私の「恋」が始まった。
喧嘩をしたり相手の嫌な部分も知るんだろうけど、その度に想いを伝えていない時期を思い出そう。
テレビに映るイリュミネーションの美しさ心を奪われる。もう二月だけど冬を感じさせる綺麗な装飾はチカチカと人工の光を放って道行く人を照らしている。
「綺麗……」
「あら、湊はすっかりテレビに夢中なのね」
お母さんはテーブルにお皿を運んで料理の準備を始める。
私はエプロンを付けてお母さんを手伝う為にキッチンに立つ。
「ありがとう。今日は量も多いから手伝ってくれるのはありがたいわ」
「良いよ。私も料理する好きだし」
篠宮家のキッチンからはいい匂いが広がる。夏帆がもう少しした帰ってくる頃だろうから頑張ったあの子にあったかいものを作ってあげよう。
家族と食事をする時間は私にはかけがえのないもの、笑顔の溢れる家庭が好き。将来、私も雅也さんとこんな家族を作れたいいなぁ。
「湊、お昼に作ったケーキはバッチリよ」
「本当? 初めて作ったから上手くできたか不安だった……」
最近では料理以外にお菓子作りに興味を持ってお母さんに相談したり本に載っていたレシピを試しに作ってみたの。
彼女として出来ることは精一杯やっていこうと思うの。
今度また彼を食事に誘う時に食べてもらいたいからー。
私は雅也さんの心を癒したい。彼はずっと十年前の失恋を引きずって来たのだから、私がそばにいて雅也さんの心が安らぐのなら──大好きな人が苦しいのは嫌だから……。
東京に降る雪はいつだって変わらないはずなのに私たちの関係は違っていた。
これからは恋人と過ごす時間が増えて新しい景色を見て初めての体験いっぱいするのかな。
*
恋人へのプレゼントって何をあげればいいんだろうか?
湊ちゃんに喜んで貰えるようなものを贈りたい。東京には色々な店があって選ぶのは苦労しない。
贈り物をする回数はこれから増えて来るだろうから自分のセンスを磨かなくちゃいけない。今度デートした時に彼女が欲しいものを聞いてみよう。
初めてできた恋人を愛おしく感じる。こんな僕でも好きだと言ってくれた後輩の子──もうそうじゃないんだけどね、今はたった一人の僕の好きな人。
あの頃、女の子を好きになった気持ちが十年経って再び湧き上がる。
また「恋」をできるきっかけを貰えた。街照らす街頭は賑やかな光を放ちその眩しさを遠くから眺める。
一人で街中を歩くのは嫌いじゃない、白い息を吐いてポケットに手を入れて歩くスピード緩める。
田舎に住んでいた頃は冬の楽しみ方は積もる雪で雪合戦したり雪の上に寝転んだりして遊んだ。雪が降ると色々な遊びができて楽しかったなあ。
僕がかつて住んでいた場所は雪も雨もたくさん降るところ、子どもの時は当たり前過ぎて気にならなかったけれど都会で暮らすようになって改めて地元が懐かしいと思う感情が湧いてくる。だけど、帰ろうとは思わないんだけどね。
そういえば僕が風邪をひいた時に湊ちゃんと咲希ちゃんがお見舞いに来てくれた事を後で母さんに突っ込まれた。
夜に帰宅した際に流しに食器が重ねてあるのに気づいて母さんに状況を聞かれたから僕が教えた。
息子が女の子を二人も家に招いたのが珍しかったらしい。別に僕が呼んだ訳じゃないんだけど……。
母さんと湊ちゃんはまだ会ったことはないけど、咲希ちゃんとは小学生時代に何度か会っている。
僕と彼女は中学までクラスメートなんだけど、母さんはいつも仕事が忙しくて授業参観とかの学校行事に参加する機会は少なかった。
だから小学生時代の友達の名前は覚えているけど中学からクラスメートになった子たちは全く知らない。
母さんは義之君のお母さんとは仲が良くてこっちに引っ越してからも頻繁に連絡を取り合ってる。
ちなみに僕に恋人ができたっていうのはまだ家族には伝えていない。そのうち機会を見て言おうかなと考えている。
久し振りに僕が子どもの頃の話を始めたので黙って聞いていた。正直、子どもの時の話は聞くたくない……。
なぜかと言えば本当に考えや行動がガキで自分がやった事が恥ずかしくて嫌だからだ。
特に小四の時は咲希ちゃんの事を好きなんじゃないか? と意識し始めた年でその頃から彼女へ接する時はかなり緊張した。
告白したのは中学を卒業してからだけど、僕の咲希ちゃんへの想いはわりと早い段階から芽生えていた。
クラスには他に可愛い子がいたんだけど僕の目には咲希ちゃんしか入って無かった。女の子の成長の速さにドキドキしていた。中学生の頃の彼女はスタイルが良くて体育の授業の際は目のやり場に困った。
髪をポニーテールにして小学生時代から変わって若干大人びたイメージを見せていた。時々見せるはにかんだ笑顔が好きだった。
ずっと片思いをしたまま卒業までその想いを伝えないできた。
そうだ、あの頃の僕は純粋に彼女に「恋」していた。
初めての恋心を大人になりきれていない僕は戸惑う事もあったけれど、咲希ちゃんに好きな人がいないと知った時、彼女に告白しよう決断する。
当時の僕は携帯も持っていなかったし彼女へ連絡する手段は限られていた。電話で伝えても良かったんだけど、もしも親が電話に出た時は告白気まずくなるから結局、手紙を書くことに決めた。
自分でレターセットを買って切手も準備した。
──いざ手紙を書こうとするとなかなかいい文章が思いつかない。
悩んで手紙が手付かずになる事だってあった。勇気を振り絞ってペンを走らせて書いた内容は今でも忘れやしない。
メールやLINEが広まる前は手紙で気持ちを伝えていたんだな。
ラブレターの書き方何て誰も教えてはくれないけれど中学生の僕は自分の気持ちをストレートに相手に届けようと考えていた。
ポストに投函してからは咲希ちゃんからの返事が待ち遠しかった。
もしも両想いになれたらいいなあと思ってた。
──だけど、そんな淡い期待を彼女からの返事の手紙は打ち砕いていった。
〈もう二度と私に話しかけないで!〉
その文章を読んだ時、僕の初恋は終わってしまった。人生で恋愛経験の多いひと、少ないひとそれぞれいるんだろうけれど僕はその日以来「恋」をする事を辞めてしまった。
友達の義之君は咲希ちゃんとはあまりやり取りをしてる訳じゃないんだけど、僕は彼に自分が告白したのは教えた。
義之君は何も言わずに僕の話を聞いてくれた後、気分転換の方法を教えてくれた。
それから十年の間、彼女なんて作らないで好きになれる女の子もいなかった。
そんな僕をちょっとずつだけど変えてくれた子──それが湊ちゃん。
会社でも人気があっていい子が僕と関わりを持ってくれた。
二人で過ごす時間は増えてきて、僕が咲希ちゃんと一緒だった九年間なんてあっという間に埋まってしまう。
というか湊ちゃんの方が親しい関係だと言えるかな。
土曜日にもう一度咲希ちゃんと会う約束をしたけどその時に僕の方から彼女をフル事になりそうだ。フラれたらあの時の僕の気持ちが咲希ちゃんはわかるようになるんだろうか?
例え泣かれても僕は言わなくちゃいけない。
「もう君への想いは冷めてしまったんだから」
と僕の片思いはとっくに終局を迎えたんだから。
咲希ちゃんの告白を断らないとこれからの湊ちゃんとの幸せに支障が出るだろうし。
咲希ちゃんが僕を好きだと言ってくれたのを嬉しくなかったのか? と言えば嘘になる。
女の子から好意を持たれたら誰だってそう思う。
ましてや彼女はずっと密かに想い続けた相手──だけど、彼女が考えている以上にあの時のラブレターの返事が僕らの関係を変えてしまったんだから。
十年間経ちようやく気づいた咲希の本当の想いは儚くも辛い現実を突きつけられる。三人の人間関係に些細な綻びが見え始めたのだった。