家に帰り着いてからは疲れがどっと押し寄せて来た。
あの後、僕は帰りの電車の中で考え事もせずに真っ直ぐにマンションにたどり着いた。
「あれで良かったのかなあ」
泣いている咲希ちゃんの顔を思い出すと胸が痛む、自分で決めたはずなのにな。
携帯に登録してある彼女の電話番号を削除しようとキー操作をする。
他人との関わりを断つ際に僕がやるのはその人に関わる全ての情報を自分の元から消す。
例えばとあるゲームを二度とプレイしないと決めたらそのゲームに関する情報をシャットアウトする、Twitterとかで繋がりのある人とはフォローを外して相手のツイートをタイムラインに表示されないようにして自分の目に留まらないようにする。
だから、もう咲希ちゃんとは関係を持たないと決めたのなら彼女に関する事を切り離さなくてはいけない。
アドレス帳を開いて彼女の番号を消去する為にキー操作。
〈OKボタンで削除します〉
ディスプレイに表示される無機質なメッセージしたにある、OKボタンのにキーカーソルを合わせる。
一度大きく深呼吸すると携帯の決定キーを押す──
〈削除しました〉
連絡先の削除を知らせるメッセージを見た僕は携帯を閉じて横に置いた。
(これ良いんだ)
そう自分に言い聞かせる。良いんだ、だって僕はもう咲希ちゃんには会わないんだから。
後悔も何も無い。彼女との関係はあれっきりなんだから。
僕の初恋の相手、【浅倉咲希】ちゃん。
十年前の片思いは実ることが無い「恋」だった。
彼女に振られた日から僕の中での彼女に対する想いは消えてしまったのだから。
もう一度咲希ちゃんを好きになるなんてあり得ない。
彼女は十年経った今頃になって自分から本当の気持ちが分かったようだ。
もしもあの時の僕に今と同じ感情を抱いていたのなら僕らの関係は変わったんだろうと思う。
どんなに咲希ちゃんからの愛情を受けたとしても僕には彼女の気持ちが信じられない。今の関係から恋人同士になるなんてイメージが湧かないし第一に僕自身がそういう関係を望んでいない。
失恋すれば僕が受けた悲しみとか理解できるだろうし、咲希ちゃんにとっても新しい「恋」を見つけるきっかけに繋がるんじゃないかと思う。
これからは恋人である湊ちゃんとの時間を大事していこう。
真っ暗な部屋の中で電気も点けずにカーテンの側まで寄ると隙間から差し込む光が足元を照らす──僕はカーテンを開けて夜の景色を眺める。
チラチラ雪が降る、寒さで凍えそうな手に息を吹きかけて窓硝子に触れると氷のような冷たさを感じる。
今年の冬は去年とは違い寒さが厳しいなあ感じる。
何でもないはずの僕の日常はゆっくり変化していく、僕は湊ちゃんへの想いを再確認するとまだ雪が降る外の景色を見ながらしばらくの間部屋の中に立ちつくした。