雅也君が出て行った部屋の中でポツリと取り残される私はさっきまで起こった出来事を振り返っていた。
彼が私に惹かれた理由を聞く事ができた、自信持って無かった自分の顔──笑顔が好きだと言ってもらえた。
私が雅也君に笑顔を見せた回数なんてそんなに無いはずなのにそれが彼を惹きつけていたなんて知らなかった。
小学生の頃からずっと私に好意を持ってくれていた事、改めて知ると胸が張り裂けそうになる……。
生まれて初めて私に好きだと伝えてくれた人──
──なのに私は彼への想いに最近になってようやく気がついた。
自分でも本当に嫌な女だと思う……。
雅也君を抱きしめた時の感触を思い出して手でほっぺを触る、こんなにもあの人が好きで今まで「恋」を経験した事の私が変わっていくのが分かる。
「最初は外見から好きになったけど、その後は咲希ちゃんの内面も含めて好きだなって思うようになったんだ」
雅也君に言われた言葉が何度頭の中で再生される。彼の私への気持ちの大きさを感じた。小学生の時からずっとこんな私を好いてくれた。
「私ってかなり鈍感だったんだ」
恋愛に興味無かったのもそうなんだけど、雅也君の気持ちに気づかなくてあの手紙を貰うまで彼が私に好意を持っているなんて知ら無かった。
過去はやり直す事はできない、もしもそれが可能なら今すぐにでも過去に戻って雅也君の告白への返事をしたい。
「どうしてあんな酷い事しちゃったんだろう」
自己嫌悪に陥る。当時の私の気持ちを汲み取って彼への手紙の返事は最善な選択を選んだはずなのにね。
「……諦めたくない」
涙で濡れた目元、真っ赤になった鼻を見ても現実を受け入れるのは難しかった。
「あの告白が失敗に終わった時に僕の咲希ちゃんへの気持ちは完全に消えてしまった」
彼に言われた言葉が心にずしんと重くのしかかる。雅也君が篠宮さんと恋人同士になったというのを聞かされた。
私よりも早く彼に気持ちを伝えた年下の女の子──
──羨ましい、妬ましい。私に向けられるはずの愛情を全部あの子が独占してる。
嫉妬で狂いそうになる、胸元のネックレスにギュッと握る。金属の冷たさがやけにリアルで私の気持ちをざわつかせる。
子どもの頃泣き虫だった私は雅也君の悪気なく言った言葉で悲しんだ事がある。彼からしたらいつも泣いてばかりの女の子だったかもしれないん
だけど、ケンカした事は一度も無かった。泣いてる私に彼が必死になって謝っていたのを思い出した。
中学生になってからは前よりも話をする機会も減っていった。部活の終わりにたまたま一緒に帰った事がある、けれど私たちの間に会話は無かった。
私は雅也君が好きそうな話題を必死に探しているうちに駅のホームに着いちゃった。
田舎に住んでいたから都会みたいな改札がある駅は全く無い、帰りの汽車は同じでも私は友達といる場合がほとんどで彼は一人でいる事が多かった。
女子が恋話で盛り上がる中、私は教室で本を読んでいた。
「咲希ちゃんは好きな人っているの?」
急にクラスの子が私に話題を振ってきた──特定の誰かを好きだと思っていなかったか「好きな人なんていないよ」とだけ答えて本の続きを読む。
いつのまにか私は恋愛に興味のない子って言う周囲の認識に変わっていった。
正直、中学生で彼氏彼女の関係になるなんて早すぎるんじゃないかと思う。
恋愛経験は無いけど、小説とか漫画で恋愛の絡み話は読んだことはある。
高校生になってからは中学時代よりも恋愛の話題を聞くことが増えてきた。
クラスの男子の誰が良いとか言う会話を聞いても私にはパッとしなかった。
「浅倉さんって真面目だよねー」
クラスメイトからそんな言葉を受けとっても私の心に変化は無かった。
あの日、雅也君に好きだという告白をされてから私はそれ以降男の子に好意を伝えられていない。自分でも好きだと思える相手にも出会わなかった。
それから大学生になって明日奈から合コンに誘われる機会もあったんだけど良いと思える人は見つからなかった。
だから、この「恋」が私にとっては初恋なの。初めて一人のひとを好きになった。
今まで経験した事のない気持ちや感情が湧き出してくる。
いつも彼の夢を見る。恋人同士になった私たちは幸せな時間を過ごし、私は雅也君に寄り添って一緒に歩く。
そんな細やかな幸福をお互いにシェアしながらゆっくりと関係を深めていく。
だけど、現実は夢のようにはいっていない。私の気持ちは雅也君に届くのは凄く難しい……。
今まで苦労するなんて言うのは少なかったけど、今が一番ままならない。
大好きな人に触れたいと言う私の気持ちはどんどん大きくなるばかり。
息が苦しくなるくらい胸が痛む。
もしも篠宮さんよりも先に私が彼に告白していたらどうなっていたんだろう?
私の気持ちを受け止めてくれたのかな?
胸元に輝くネックレスは綺麗な色で私の心を包み込む。初めて異性からプレゼントされた贈り物──
──ただそれだけなら私の中でのこのネックレスの価値なんてたかが知れているんだけど、それだけじゃないの。
私の彼への想い気づかせてくれた。自分が愛されていたのがわかった時、私の中でたった一つの大切なプレゼントに変わった。
自分の気持ちに迷いそうになってもこのネックレスが思い出させてくれる、もう私の心に迷いなんて無いの。
雅也君が愛おしい。ずっとずっと一緒にいたい、ううん、それだけじゃないの。彼と人生を歩いていきたい。日に日にその感情は強くなるばかり。
諦めるなんて嫌……。
この「恋」を成就させたい、その為なら──
咲希の雅也への気持ちは冷めるどころか更に強くなる一方、恋人ができて一段落したと思っている雅也はそんな彼女の想いなど到底知る由も無かった。
三人の間の空気が変化して行く予兆を感じさせていた。