※この作品はR-18です。

初恋と忘れられない想い   作:南雲悠介

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割り切れない想い

「湊ちゃん大丈夫?」

 

 雅也は湊に声をかける。恋人に気を遣いながら帰り道を歩いていたのだけれど、気が気ではなかった。

 

 湊と咲希のやり取りを目の前で目撃していても経ってもいられなくなり気がついた時には二人の間に割って入っていた。

 

「心配かけてごめんなさい」

 

 申し訳無さそうに謝る湊の顔を見ていると罪悪感に押しつぶされそうになる。

 

「湊ちゃんが謝る理由なんてないよ」

 

 震えている恋人を優しく抱き寄せて人目も憚らず(はばか)キスをした。

 キスをしている瞬間はまるで時間が止まっているかのような気がする。

 もう湊ちゃんが悲しむ事がないように何度も僕なりの愛情を彼女に注いだ。

 

 

「今日はこれから家に帰るんだよね?」

 

 こんな状態の湊ちゃんを一人で返すのは心持たない。僕はある事を思うついて口に出してみた。

 

「今日は僕の家に泊まっていきなよ」

 

「えっ……?」

 

 戸惑う彼女を他所に僕は話を続ける。

 

「明日も休みなんでしょ? だったら今日一日は一緒にいよう」

 

 自分の気持ちを湊ちゃんに伝える。もしも、断られたとしても譲歩するつもりなんて無い。

 湊ちゃんは少しだけ考えて「分かりました」と返事をしてくれた。家族がいる家に彼女を連れて帰るなんて言うのは初めてだけどそんな些細な事を気にしている場合じゃない。

 僕のせいで湊ちゃんはこんな目に遭ったのだからその責任は取らないといけない。

 

「雅也さんのお家に泊まるのは良いんですが、お母さん達に連絡だけはさせて下さい」

 

 彼女は僕から離れて親に電話をかける。話している最中にチラチラと僕の方を見ている。

 湊ちゃんはどういう風に説明しているんだろう。彼女の事だから上手く伝えたに違いない。

 

「お待たせしました。これで大丈夫です! ちゃんと雅也さんのお家に泊まるってお母さんに説明しましたから」

 

 照れくさそうに言う湊ちゃんの目は少しだけキラキラしているように見えた。

 ついさっきあんな出来事があったのに僕に笑顔を見せてくれるこの子は本当に芯が強いなと感じた。

 僕らは同じ電車に乗ってマンションに向かう──僕は方時だって湊ちゃんの側を離れやしなかった。

 

 マンションに着いてから鍵でドアのロックを解除する。目の前にあるエレベーターに乗り込んで六階のボタンを押す。

 

 どこか緊張した様子の湊ちゃんを尻目に僕はドアをゆっくりと開けた。

 

 玄関で靴を脱いで上着を洗濯籠に放り込む。靴からスリッパに履き替えて部屋に向かう。

 

「遅かったじゃん。また秋葉原に行ってたの?」

 

 母さんが部屋から出てくる僕が首を縦に振って応えると後ろにいる湊ちゃんに気がついた。

 

「こんばんは。お邪魔します」

 

 湊ちゃんは母さんに挨拶するのを見て「先に部屋に入ってて」とだけ伝えて母さんに彼女がうちに来た理由を話す。

 できるだけ分かりやすく伝える必要はあるけれど、公園であった事は言わないでおいた。

 

 それから湊ちゃんが僕の恋人だと言うこともやんわりと伝えて自分の部屋に入る。

 

 部屋に入ると湊ちゃんが床にぺたん座りをしている。僕はその隣に座る。彼女のキョロキョロと辺りを見る。

 僕の部屋はあんまり物は無いけど他人からじっくり見られるのは緊張する。

 大きなモニターはゲーム用で下のカラーボックスにはゲームソフトのパッケージが名前順で並んでいる。

 そういえば、湊ちゃんはゲームはするんだろうか? 

 既にゲームが生活の一部になっている僕にとって自分の好きな事を恋人から否定されるのは堪える気がする……。

 

「この前雅也さんの看病に来た時以来ですね。この部屋に入るのは」

 

「あの時は本当にありがとうね。正直に言うと湊ちゃんが看病に来てくれて嬉しかった」

 

「今日一日は君の側にいさせてほしい」

 

 湊ちゃんのすぐ側に寄って手を握る。あんな事があった後じゃ彼女も不安な気持ちが募っているだろうから安心させたい。

 

 僕は体を密着させる──湊ちゃんがあぐらをかいた僕の足の上に座る。

 それからゆったりと体の方向を変える。

 僕らはお互いに向き合う形になって彼女の顔がすぐ近くまで寄って来る。

 心臓の鼓動が早くなり。上目遣いで見つめて来る湊ちゃんの背中に手を回した。

 

 こうしてみると湊ちゃんの体って意外と小さいんだなって感じた。

 

 もう彼女を離したりなんかしない、僕がいつまでも沸きらない態度をしていたせいであんな事が起こった。

 

 

「湊ちゃんには本当に辛い思いさせたね。ごめん」

 

 彼女には何度謝っても足りないくらいだ。僕のせいで苦しんで来た恋人の心の支えになればいい。

 

「もう平気です。雅也さんの気持ちはちゃんと私に伝わっていますから」

 

 湊ちゃんの優しさを感じると自分が本当に情けなく思わされる。

 変わって行こうと決めた──彼女との関係を続けていく為に。

 十年の間、僕の心に傷を残した片思いの記憶がもう一度蘇る事は無い。

 だって僕は咲希ちゃんの想いには応えなかったのだから。

 僕の初恋の人から好意を伝えられた時、冗談だと思った。

 彼女は昔、僕を振ったのだから。

 けれど咲希ちゃんの想いが冗談なんかじゃないと知った時、僕はあの頃の記憶を思い出す。

 両思いになりたいと願って告白したにも関わらず結果は最悪だった……。

 

 

「今日はずっと側にいるから」

 

 湊ちゃんは安心した表情を見せてくれた。僕は彼女を部屋に残してシャワーを浴びる事にした。

 〇時を迎えようとしている中、僕は家で変わらない生活を送る。

 

 風呂から出ると丁度母さんに鉢合わせ、シャワーじゃなくちゃんと風呂に入るように言われると給湯機の電源を入れて風呂に湯を張る。

 

「彼女さんにも温まってもらいなさい」と一言だけ言って自分の部屋に戻って行った。

 僕は頭に被ったバスタオルを洗濯籠に放り込んで一端服を着て彼女の元に。

 

 湊ちゃんにさっき言われた事を伝えると初めは遠慮していたけれど、最後には「お風呂いただきます」と答えてくれた。

 服は仕方ないから同じ物を着るらしい。何か申し訳なくて僕は自分のTシャツを出して湊ちゃんに渡す。

 ちょっとサイズは大きいけど何も着ないよりはマシ。

 

 風呂から上がって来た湊ちゃんは炬燵に入って温まる。

 もう遅い時間だから寝ることにしてベッドをどっちが使うか話し合う。

 湊ちゃんを床に寝せる訳にはいかないから彼女にベッドを使って貰うことにした。

 床にクッションを置いて枕替わりにして寝転ぶ──硬いフローリングの床で寝ると体が痛くなりそうだ……。

 

 

 本当はもう少しだけ彼女と話したいと思っていたけれどね、仕方ない。

 

「……部屋の電気消すよ」

 

 もう夜の遅い時間だけにそろそろ寝ないと流石にキツい……。

 部屋の電気を消して炬燵に足を入れて固い床に体を預ける。

 カーペットを敷いているからフローリングの冷たさは感じない。

 目を閉じて今日の事を振り返る。

 

 咲希ちゃんを振った事──これからは湊ちゃん(かのじょ)の為だけに生きていこうと決断した。

 十年も掛かってようやくあの時の想いを断ち切る事ができた。

 咲希ちゃんに恨まれようと憎まれようと僕はたった一人の恋人の想いに報いたい。

 初めて人を好きになったあの頃の僕、ずっと咲希ちゃんの事を考えていた。

 

 僕の片思いは叶わなかった……。きっかけさえあればもしかしたら咲希ちゃんと恋人同士になって今も一緒の道を歩いていたなんて言う未来だってありえたかもしれない。

 

 人生は一度きりでやり直しはきかないんだ。咲希ちゃんと付き合えた未来は無数に枝分かれしたルートの一つ。

 僕はそれを選択できなかったから別の未来が時間軸に刻まれていった。

 湊ちゃんとの出会いもそうだ。彼女に一生会わない別の選択肢だって幾多に存在するのかもしれない。

 

 僕はこう言う思うんだ。

 

 人間の生きている時間には無数の因果列が存在するんだと、無数にある未来から僕らはどれかを選択していく。

 毎日同じように過ごしているのだって実にところは自分では変化に気づかないほど微細なものだと言うのを。

 例えば今日、秋葉原に出かけなければ湊ちゃんと咲希ちゃんのやり取りを目撃する事だって無かったし、彼女らの想いを知る由も無かった。

 

 そうやって無数に分かれた未来の一つを選んで進んで行く、これからどういう状況へ変化するのかは今の僕には知る手段はない。

 だけれど、湊ちゃんとの未来が少しでも明るいものになるように選択していくしかない。

 

 僕は昔好きだった咲希ちゃん(あのこ)にさよならを告げた。

 

(さようなら僕の初めて好きになったキミ)

 

 もう会う事はないだろう。

 

 

 *

 

 

 咲希は雅也の言葉を聞いて激しい後悔をする。

 十年前のあの日、彼からの手紙の返事で咲希の運命は決まってしまった。

 もしも、雅也の告白に応えていたのなら今と違った形を迎えていたのかもしれない。

 

 何度泣いても涙は止まる事が無かった。そう、これほど後悔するくらいに咲希は雅也を好きになっていた、初めて自分へ好意を持ってくれた同級生、ただそれだけの存在ではなく純粋に雅也を愛していたのだと改めて実感する。

 

「私、こんなにもこんなにも雅也君の事好きだったんだ……」

 

 顔を覆って泣く──涙は頬を伝っていく。そこに冷たい風が吹いてめちゃくちゃな状態になる。

 

 未だに自分が振られたという現実を受け入れられない咲希は夢なら早く覚めてほしいと願った。

 篠宮さんに殴られた顔の痛みはジンジンとして治まる気配はない。

 

 この場で命を絶ってしまいそうになるくらい辛くて苦しい……。

 きっと彼も同じ想いをしたんだろうなぁ。

 初めて雅也君の気持ちが理解できた、好きな人と結ばれない難しさと厳しさを感じる。

 

 たった十年前の私の選択で全部失敗しちゃったの……。

 過去はやり直す事が出来ないって知っているからこそキツい。

 ようやく気づいた自分の本心──雅也君への想いはそう簡単に捨てられるものじゃない。

 

 思えば思うほど彼が好きだと気づかされる。胸元に輝くネックレスは今日も変わらない色を見せている。

 私がそれをギュッと握ると涙がぽたりと落ちる。

 

 今の私はきっと見せられないほど酷い顔をしてるんだろうなぁ。

 

 

「失恋しちゃったんだ、私」

 

 やっと今の状況が理解できたけど、今日あった出来事を思い出すだけでも嫌……。

 

 もう雅也君と会えないと、彼は私じゃなくてあの子を選んだ。

 

 それが悔しくて悲しくてこの複雑な気持ちをどうやって伝えたらいいのかわからないけど私は彼への想いを早々に割り切れるような強さは持っていない。

 

 これから私は彼に会うのは叶わないけれど、ずっと想い続ける事は出来る。ううん、好きでいさせて下さい。

 自分の「恋」諦めないと決めたのを、いつかまた私を見てくれると信じ続けて二月の空に誓う。

 

「その時が来るまで私はあなたを待ち続けます」

 

 

 咲希にとっては悲恋となった初めての「恋」

 それでもどうしても断ち切る事が出来ない想いがあるのだった。

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