二月一八日(日)
いつも通り何も変わらない朝がやってくる。目が覚めた僕は体を起こして軽く背伸びをした。ベッドの方を見るとまだ湊ちゃんが寝ている。
彼女を起こさないようにそっと立ち上がって部屋を出る。
「美味いなぁ。朝の一杯はこれに限る」
冷蔵庫に入れてあった野菜ジュースをコップに注いで一気に飲み干した。ニンジンの強い匂いがするけれど、別段気にはならない。
オレンジ色の液体に含まれている糖分はすぐさま僕の脳内に刺激を与えるに違いない。
コップを洗ってから自分の部屋に引き返す──まだ湊ちゃんは起きてないだろうから。
部屋に戻ってからはウォークマンで音楽を流しながら時間を過ごす、女の子が僕の部屋で眠っているなんていう状況に緊張しないわけじゃないけれど、変な気をおこさないようにしないと。
まるで夢みたいだけど、現実である。僕は恋人がいてその子が今、自分の部屋にいるんだ。
あの日以来、もう「恋」何てしないと思っていたのにまさかこんなことになるなんてね。
湊ちゃんの事を大事にしたい、僕にもう一度「恋」をできるきっかけをくれた子。
咲希ちゃんへの気持ちにはキリがついた。十年の間、僕の心の中に残っていた記憶はスルッと抜け落ちていく。
これからは彼女と一緒の未来を過ごしていこう。ベッドで眠る恋人に優しく微笑みかけてもう一度部屋を出る。
「おはよう。今、朝ご飯作っているから」
母さんが起きてきてキッチンで料理を作っている──僕は一旦洗面所で顔を洗ってから食器をテーブルに並べる。
「あの子はまだ寝てるの?」
「ああ、昨日は色々あって疲れてるみたいだから起こさないであげようと思ってる。コップは二つでいいんだっけ?」
「健吾もいるから3つ準備しておいて、お母さんはコーラを飲むからよろしく」
「はいはい、わかったよ」
母さんのコップにコーラを注ぐとシュワシュワと音をたてて泡に覆い尽くされる、泡が引くのを待ってから少しずつ注いでいく。本当にコーラが好きな人だ。僕はさっき飲んだ野菜ジュースを自分のコップに注いでから茶碗と箸をテーブルまで運んだ。
「おはよう」
「おはよう。今、母さんが朝ご飯作ってるとこ」
「俺もジュース飲むわ。悪いけど注いでくれんか?」
「あいよ」
兄ちゃんはゆっくりとジュースを飲むとテーブルに座ってご飯ができるのを待った。
「こうやって家族みんなで食事をするのはいつもと変わらない光景なんだけど僕は今朝の朝食は何だか新鮮に思えた」
座って待っていると良い匂いが部屋に漂ってきて、母さんがおかずをテーブルに並べていく
──その瞬間僕の部屋の扉が空いた。
「……おはようございます」
「おはよう湊ちゃん。ごめんね、ちょうど今朝飯食べるとこなんだけど湊ちゃんはまだ起きてなかったから準備してなかった」
「いえいえ、わたしにはお構いなく、急にお邪魔して迷惑かけているだけですし……」
そういうって申し訳なさそうに俯く彼女に僕はいたたまれなくなって立ち上がる。
「そういえば雅也、この子誰なんだ?」
この中で唯一事情を知らない兄ちゃんがいたってシンプルな疑問を問いかける、僕は昨晩あった事をかいつまんで説明すると驚いた様子を見せていた。
「せっかくだから彼女さんにも朝ごはんも食べてもらったら?」
そういうと母さんは湊ちゃんの分の食器も並べ始める。
「すみません……ご好意に甘えさせてもらいますね」
ちょっとだけ無理は表情を見せると僕の横に座る。僕は湊ちゃんのコップにもジュースを注いで箸を置く。
今までずっと三人だけだった新堂家の朝餉に今日は特別なお客さんが加わることになった。
家族団欒の良さを改めて実感した僕は美味しい朝食を食べて自分の部屋でゆったりと過ごすことにした。