「おかえりなさいお姉ちゃん」
「ただいま、外すごく寒いよ」
家に帰り着いた私は靴を脱いでスリッパに履きかける。雅也さんのお家に泊まって1日を過ごした。
私たちの関係は<変化>した──ただの会社の同僚から恋人へ変わった。
夢みたいな話、だけどこれは現実。これはずっと私自身が望んでいたこと。
お母さんと夏帆に雅也さんとお付き合いを始めた事を伝えるとみんなすごく喜んでくれた。
篠宮家の温かい家庭、いつも笑顔が絶えない家族が私は大好き。
妹の夏帆とは仲の良い姉妹だって評判で私自身もあの子の事を大切に思っている。
お母さんの手伝いをするためにキッチンに立つ、四人だけの家族の輪で笑う雅也さん。
そんな将来を想像するとなんだかすごく楽しい。
「お姉ちゃん。私も手伝うよ」
「ありがとう。それじゃあ、レタスを千切ってくれる?」
「はーい」
夏帆と並んで料理をする機会なんて少ないから嬉しい。
いつもと変わらないように感じる食卓が毎日ちょっとずつだけど変わってる。
今度また雅也さんをうちに呼ぶという約束をして私は自分の部屋に戻る。
「ねえお姉ちゃん。ちょっと話したいんだけどいい?」
「良いわよ入ってらっしゃい」
部屋の中に夏帆を招き入れる。妹は床にピタんこ座りする。
「それで話したいことって何?」
「お姉ちゃん本当に新堂さんとお付き合いすることになったの?」
「……そうだよ。夢みたいな話だけどね」
「そっかー。おめでとう。お姉ちゃんにもやっと彼氏ができたんだね」
「うん、恋人ができるなんて私も驚いてるよ。彼と一緒に働くようになって片思いをしてて、その想いがやっと報われたんだ」
「夏帆のおかげでもあるのよ。あんたがお姉ちゃんを励ましてくれたから勇気が持てた。そのおかげで新堂さんに告白することができたの」
「そうなんだ。私がお姉ちゃんの力になれたんだー。すごく嬉しい! だって私はお姉ちゃんが大好きだもん」
私たちはたまに喧嘩をすることもあるんだけど、仲の良い姉妹だと自分でも感じるの。夏帆は私と違って明るくて前向きな子、時々あの子の前向きさが羨ましい。
「今日はお姉ちゃんの部屋で寝ようかなぁ。新堂さんとの事色々と聞きたいしね」
「良いわよ。ちゃんと布団持ってきなさいよ。そう言えば夏帆と一緒に寝るなんて随分と久しぶりね。昔はあんなに同じ部屋で寝てたのにね」
お互い成長してから同じ部屋で寝るなんていうことは無くなった。だkらすごく懐かしく思うのよね。
小さい頃は『お姉ちゃんお姉ちゃん』ってよく私の後を着いてきていたあの子が今ではすっかり成長して姉である私をからかうことを覚えちゃって。
その日の夜は夏帆と遅くまで妹と久しぶりに深夜まで話をした。あの子の事、そして私の自身の事、今ままで伝えたかったこととかを話した。
雅也さんともこういう風に気を遣わずに会話できる日が来るんだろうか?
初めての「恋」に障害はつきもの、私は彼と恋人同士になれたことに安心していた。
三人の時間の針はまた、動き出そうとしていた──湊は雅也への想いを再度確認しながら幸せな時間を過ごす。
咲希はもう一度自分の本心と向きあい、諦めきれない心と失恋の記憶を引きずりながらもあるアクションを起こそうとしていた。
彼女たちの恋は一筋縄ではいきそうにない。一人しかいない人を好きになったこと。
咲希は今まで抱いてた感情が一気に胸の中に湧き上がってくる。十年経って燃え上がるような彼女の想いは一度フラれただけでは消えることはない。
湊の恋はこれから起こるであろう試練を予測させる。たった今の幸福な時間を過ごす二人の間にはまたしても障害が阻もうとしていた。