「心配をかけたけど、もう大丈夫だよ。わざわざ電話してくれてありがとう」
「僕も雅也君がどうしてるか気になってたからね。なんでもなかったのならよかった」
義之君との通話を終えて携帯を置く──僕の小学生時代からの友人は彼の方からこうあって連絡をしてる。僕は湊ちゃんの事を話して二人で好きな漫画の話で盛り上がった。
東京に来てからもが唯一関わりのある友達で彼との友情はこれからも大事にしていきたいと思った。
これからは湊ちゃんを最優先にしていこう。僕は初めてできた恋人との距離感を考えながら接する。もちろん毎日話していたいと思うこともあるんだけど、こういうのはお互いに適切な関係でいる為に強引な真似はできない。
彼女がそれで僕を嫌ったりはしないとは思うんだけど、何せ僕にとって彼女ができるなんていうことはあの日以来一度たりとも考えたことはなかった。
僕の初恋は小学四年の頃だった──クラスメイトの女の子の笑顔を見て胸がドキリとしたことを覚えている。それから少しずつだけどあの子の事を意識するようになっていた。中学生になる頃には大人びた感じに成長した彼女にドギマギしながら毎日を過ごしていた。咲希ちゃんをふいに目で追っているなんていうことも。
あの頃の彼女は髪をポニーテールにする機会が多くて部活の帰りにはよく体操服のまま駅の椅子に座っているところを見かけた。
他の子もいたのに僕は咲希ちゃんしか目に留まっていなかった。
椅子に座って読書している彼女は本当に魅力的な女の子だと感じた。どうしてあんなに可愛いのに誰とも付き合っていないんだろう? 好きな人はいないのかな? なんていう思考を巡らせていた。
部活を引退して制服姿で帰るようになってからも咲希ちゃんは相変わらず特別な魅力を放っている。もしかすると僕が彼女のことが好きだったから贔屓目に見ていたのかもしれない。
地味目な中学校の制服を着ても咲希ちゃんはとびきりに輝いていた。小学生時代と比べると話す機会は少なくなって彼女の仲の良い友達と話す事が多かった。
ずっと片思いをしててなかなか想いを伝えられずにいた、田舎の学校だから僕が告白したなんて知られたらあっという間に学校中に広まる可能性がある、それは避けたかったら結局手紙で想いを伝えることにしたんだ。
自信が無かったわけじゃないけれど、誰も好きな人がいなかった咲希ちゃんと付き合えたらすごくいい、それ以上は何も望まないつもりだった。
あれから十年経って僕らは再び巡り合った──どこかのテレビドラマみたいな展開が現実でも起こるなんて今でも信じられないけど、僕は彼女と〈再会〉する。そこから止まっていた僕の時間は動き出した。
正直夢だと思った。あのこが僕を好きだと言ってくれた事。ずっと好きで片思いな僕の「恋」が十年振りに進展があるだなんて。
咲希ちゃんにあのネックレスをプレゼントした時僕はどういう気持ちだったんだろう? 単なる友達にあんなものを贈ったりするだろうか?
彼女が僕の中で特別だという認識は変わっていない。
最低だな……。湊ちゃんと付き合っているのに僕は昔好きだった人を思い出していた。あの子の事をフったはずなのに罪悪感に苛まれる。
気持ちに整理をつけたはずなのに心の奥にまだ残っている感情──早く消さないと! 僕はもう咲希ちゃんの事がー。
人生にやり直しはきかない、だからこそ常にベストな選択をしなくちゃいけない。取り返しがつかなくなる前に。
きっと咲希ちゃんは今回の事で僕を諦めてくれただろう、あの子の側にいるのは僕じゃない、別の人を好きになって恋愛をするべきだ。
もう会うこともないんだろうし、昔みたいな友達同士の関係に戻るのも難しい……。
咲希ちゃんの事を追いかけていた僕がいつの間にか彼女から求められる存在に変わっていた。
この時の僕は咲希ちゃんとの出来事がこの先の湊ちゃんとの幸せな時間の大きな障害になろうとしているなんていうことは予想もしていなかった。
まだ冬は終わりそうにない──三人の間に流れる空気は周りを巻き込んで変化していく。
僕が細やかな幸せを手に入れるのが困難であるのを知るのは少しだけ先の話になりそうだ。