二日近く家に戻っていない、ひとり夜の街を駅へ向かって歩く。
都会の夜は僕が住んでいた田舎とは違って街灯が明るく照らしている。時々立ち止まりながらこれまでのことを考えた。
乾いた寒風が吹き荒み肌に冷たい風が当たる。この間買ったN−2Bに身を包んで夜の街を颯爽と歩く。
咲希ちゃんが寝ている間にこっそりと抜け出して来た。あれ以上続けていたら僕は本当にダメになってしまいそうだったから。
初めて性行為を経験した──今でのその時のことを鮮明に思い出すことができる。
乱れ切った彼女の顔は酷いものでセックスをするとあんな風になるんだなって思った。
恋人がいるのに他の女の子と行為をしてしまった。激しい後悔の念が押し寄せてくる……。
このままどうしたらいいんだろうか? いつまでも隠しておくわけにはいけない、きちんと湊ちゃんに話すべきだろう。
それでたとえ僕らの関係が険悪になったとしてもずっと嘘をつき続けるよりはずっとましだ。
冬の群青色の空は今日も変わらない、そんな空を睨んでから終電に間に合わせるように歩くペースを早めた。
大きなビジョンに映る知らない芸能人は笑顔で商品の宣伝をしている、わざわざ足を止めてそれを見る人は少ない。
みんな他人になんぞ興味も示さずに前を向いて歩いている。忙しない、それが都会の人なんだ。最初のうちはこの景色に違和感を抱いていたけれど、今では僕自身もその空間の中にいるひとりだ。
改札にスマートフォンをかざす人が多く出入りする駅で僕は交通カードの券売機の前に立っていた。
財布から野口を取り出してカードに料金をチャージする。吐き出されたカードを取って定期入れに入れ直して改札へ向かう。
改札をから駅のホームへ降りると冷たい風が肌に当たる。それでも表情一つ変えずに乗る電車のくる方へ体を向けてズボンのポケットに手を入れた。
吐く息は白くなり、寒そうに体を丸める人がいる中で僕はこれから先の事を考えていた。夜の帳は降りて静寂な時間が長く続く。
マンションへ帰る途中に携帯を開いた──湊ちゃんからの着信があったのに気がつく、電話が鳴った時僕は咲希ちゃんとのセックスに夢中になっていた、何回もかけていないところを見るとどうやら僕が出なくて諦めたみたいだ。今度僕の方から連絡を取ろうと思う。
それで、きちんと謝ろう、とても許してもらえるようなことじゃないけど誤魔化しておくほうがスッキリしない。
初めてできた恋人を大事にしたい、その気持ちに嘘なんかはない。けれども、彼女との性行為がこれからの僕らの関係を変えていくことになるんだろう。
もしも、妊娠していたらどうする? 間違いなく父親は僕だ、男ならその責任を取らなくちゃいけない。だからといって彼女と結婚するわけにもいかない……。
せっかく授かった命を堕すなんていう残酷な選択を僕ができるんだろうか?
問題は咲希ちゃん自身がどう考えているかだ、子どもを作れば苦労するのは彼女だ、一時の快楽を求めた結果できてしまったものとどういうふうに向き合っていくんだろうか?
子どもを作ることを望まないのならセックスなんてするべきじゃない。けれども、彼女はそれがわかっていて行為を続けた。
お互いが繋がる中、何度も自分を孕ませてくれと懇願する言葉を聞いた。
妊娠することを咲希ちゃん自身が望んでいたのか? それは聞いてないから僕にはわからない。
湊ちゃんに隠れて関係を続けるわけにはいかない、次に会う時にもう二度と会えないことを伝えるべきだと思う。
まだ、父親になるなんて実感は湧かないしそれに僕は咲希ちゃんとの間に子どもが欲しかったわけじゃない、自分のやったことの責任を正当化するように何度も頭の中で言い訳をしていた。
最低な男だと思われても仕方がない。事実僕は恋人がいる中で他の子と交わってしまったのだから。先のことがこんなにも不安に思えた事はなかった……。
家に帰り着いても簡単に眠る事はできずに結局考えがまとまった時にはもうすでに外が明るくなっていた。