「あれ? 新堂さん今日はお休みですか」
「そうなんだよ、彼が仕事を休むなんて珍しいよね? 何か聞いてない?」
「いいえ、私は……。そう言えば私が入社してから新堂さんが休んでいるとこあんまり見たことないかも」
「まあ、休みの連絡は受けてるし、体調が悪いなら無理する必要もないよね、彼がいない分はみんなでフォローして行こうよ」
上司の言葉でちょっとだけ安心したけど私に心の片隅には不安が残っていました。
デートする約束していたのに雅也さんと連絡がつかなかったの……。何度か携帯にかけてみたけど出てくれない。
普段遅くても連絡をしてくれる彼が音信不通になるのは何だか嫌な胸騒ぎがした。
雅也さんがお仕事を一日お休みした日は私は早めに帰宅して家でお母さんのお手伝いをする、夏帆やお父さんは相変わらずだけど私は不安感を感じ取られないように振る舞った。
「やっぱり出ない……」
自分の部屋で雅也さんに電話をかけてたけれど、結果は変わらない。どうしたんだろう? この前まで一緒だったのにもしも何か大きな病気になっていたのならお見舞いに行かなくちゃ。
あんまり心配しすぎてうざがられるのも嫌だし……。そのうち彼の方から連絡があるでしょう、そんなことを考えながら過ごすのでした。
「新堂さん今日もお休みなんですか?」
「そうみたいだね、二日も続けてなんて珍しいよね、さっき連絡受けてあと二、三日は休みたいとっていう話なんだけど心配だよね。ついこの前まで元気そうにしてたし、急に何か大きな病気になっちゃったのかね」
雅也さんは今日も来ていない、私が就社してから彼が休むところなんてほとんど見たことがない
もしかして本当に入院でもでもしてるんだろうか? だけど、それならちゃんと言うはずだし気になる……。
朝から仕事に集中できない私は今日退勤したら様子を見に彼のお家に行こうと思う。
「お疲れ様でした」
「お疲れ、篠宮さんも大変だったね。今日は早めに帰ってしっかり休んでね」
「はい、ありがとうございます。それじゃあお先に失礼します」
会社を出ると冷たい風が吹いていた──いつもよりも早い時間にお仕事を終えた私はその足で電車に乗って彼の住むマンションへ。
部屋に番号を入力して呼出ボタンを押す、数秒待っていると反応がある。
「あの、私、新堂さんの仕事先の者ですが、お休みしていると聞いて様子を見に来ました」
数秒すると自動ドアのロックが解除される、目の前にあるエレベーターに乗り込んだ。
六〇五室の前に来て一度深呼吸──来るのは初めてじゃないけれどやっぱり緊張する。ゆっくりとチャイムを押す、押してかた数秒間沈黙が広がると重い扉が開かれた。
「あ、あなたは確か。この間うちに来てた子よね?」
雅也さんのお母さんが出てくる──ここで話すのもなんだからと家の中に上げてもらう。
「ごめんなさいね。せっかく来てくれたのに雅也いないのよ。どこで何をしてるのかあなたは知らない?」
「私も知らないんです……。お仕事を何日か休んでいたので様子が気になって来てみたんですが」
「あらそうなの? 仕事休んでまで何をしてるのかしらねー」
顎に手を当てて困った顔をする彼のお母さんから少しだけ話を聞くことができた。
なんでも彼は私とデートする約束した前日から家に戻って無いらしい、携帯に電話をかけても電源が入っていないらしくて全く反応無し。
出かけるにして後できちんと連絡を入れるようにしていたからそんな雅也さんが音信不通になるのはおかしいと言ってた。
「確か篠宮さんだった? あの子が恋人だって言ってたけどそれは本当なの?」
「はい、私は雅也さんとお付き合いしてます」
「そう、彼女に心配をかけるなんて本当にしょうがない子ね。全く子どもじゃないんだからふらふらとしないでほしい」
「だけど、変な話よね。雅也はあなたとデートする約束してたんでしょ? それでいなくなるなんて普通ならあり得ないことだろうけど、あの子が行きそうなところ心当たりはない?」
「……すみません。わかりません」
「連絡を取ろうにも携帯にかけても出ないからねぇ本当に何かトラブルに巻き込まれたのかもしれない」
新堂さんのお母さんと少しだけお話をする──私は彼のことがしんぱいになった。お付き合い始めてまだそんなに月日は経っていないのだけど、私に取って彼はとてもかけがえのないひと。
私の家族も彼を受け入れてくれた、雅也さんとこれからもずっと一緒にいたい、彼の携帯にもう一度電話をかけてみたけど反応無し……。
お母さんは戻ってきたら私に連絡をさせると言ってくれたから一旦家に帰る事にした。もしも私の方に雅也さんから連絡があった時はきちんとお母さんにも伝えると言う約束をして新堂家を後にした。
帰りの電車の中で私は今までに感じたことがない不安を抱いていた。私たちの恋人としての生活は始まったばかりなのにいきなり障害が立ち塞がる。
その時だった、私はもしかしたらかもしれないけれど、雅也さんの居場所を知っている人に一人だけ心当たりがあった。
駅を出てから残っていた彼女の電話番号へ電話をかける。
冬の寒さが厳しい中、ひとり白い息を吐きながら凍える指先でスマホの画面をタップする。呼び出し音が鳴ってからお目当ての相手が電話に出る。
「もしもし? 浅倉さんの携帯で良いですよね? 私です。篠宮です。ちょっと聞きたいことがあって連絡しました」
「あら、何かしら? もしかして失恋した私を笑う為にかけて来たの?」
「いえ、そうじゃありません実は──」
時がゆっくりと流れる──三人の人間関係は大きな“変化”を迎える。それは今まで最大の波乱の予感を帯びていた。
湊と咲希、二人がもう一度対峙することになる、始まったばかり新しい「恋」は純白のアルバムのページを染めながら記憶していく。
それはまるで小説の物語の一頁を捲るように静かに紡がれていくのでした。