私の悩みは胸が大きいことだった……。小学四年生頃から大きくなり始めて中学生になると体育の時間とかちょっと大変だったの。
幸い大きな胸をしてても視線を感じたことがないし、中学時代のクラスの男子はそういうことに興味がない子ばかりだった。
他の子から羨ましがられたけど、大きな胸で得するようなことってあるのかな?
皆は成長期を迎えて男子に肌を見せるのに抵抗があって水泳の時間は大抵の子が見学していた。
私はスイミングスクールに通っていたから他の子と違った本格的な水着を着て授業を受けた、ただ、体のラインがくっきりとわかるから今思い出すよからに大胆な事をしてたと思う。
プールサイドから上がる時におっぱいがはみ出してしまわないか気にしていた、自分の版が終わってプールから上がると丁度雅也君が泳ぐ番だった、彼はチラリと私の方を見たけどすぐに顔を前に戻して水の中に入る。
選手ごとに泳ぐ種目が違うメドレーリレーで彼は「ふぅ」と大きく息を吐いて水に潜る。
小学生の頃は二十五メートルすら泳げなかった彼が今では楽々と百メートル泳いで疲れた様子も見せていない。
ここが男子と女子の差なんだなと感じるけれど、私はスイミングスクールで結構長い距離を泳いでいたからその差を大きく感じなかった。
他の子は体操服を着て日かけで休んでいる。水泳の授業を真面目に受ける私が珍しいのかあれこれと話をしていた。
自分のスタイルに絶対に自信があったわけじゃないけど恥ずかしがってちゃ何もできなくなるから私はそんな事は気にしないでおいた。
授業が終わって更衣室で着替える──冷たいシャワーの滴を落として水着を脱いでタオルで体を拭く。泳ぐのが好きだから水泳の授業は好き、どうして他の子はわからないんだろうなぁ……。
なんて事を考えながら更衣室を出た。
外に出ると雅也君も同じタイミングで出てくる、彼は私を見る事はせずに体育館に入っていった。
先生から次の体育の授業の説明を受けて私たちは教室に戻る事に、途中で仲の良い子と合流して喋りしながら渡り廊下を歩く。
体育の授業は嫌いじゃない、体を動かす事自体は悪くないし、運動を大切だと思うからー。
今思うと私は九年間も彼と同じ空間を共有していたのに好意にすら気づくことがなかった……。中学生になってからあまり話す機会も多くなかったし、第一に私自身が恋愛に興味を持っていなかったのが理由だと思う。
中学校を卒業してからは一度も会ってはなかった、友達の義之君とはたまに同じ汽車に乗り合わせた事があったけれど……。
あの手紙に返事をして以来、私たちはもう二度と巡り合うなんて思っても見なかった。成人式の時も彼は会場にいなくて小学校時代の男子が全員揃うことがなかった。
大学を卒業して働き始めてからは毎日遅い時間に家に帰ってぐったりとして何もやる気が起こらない、大好きな読書をする回数も昔と比べると減ってきた気がする。
長期休暇の時は大好きなイケメン俳優の出るドラマを見てキュンとする。明日奈から誘われて一緒に出かけることもあったけど、あれ以来異性の人から告白をされた事はない。
雅也君が初めて純粋に好意を持ってくれた相手だったの、そんな十年も前の事なんかとっくの昔に忘れてしまっていて思い出すことなんて無いって分かってた。
たまに義之君と電話で話すけど、お互いの仕事のことばかりの端的な会話をして切る、それだけ──
大人になるともっと色んなことができて楽しいはずだと考えていたけどそんな私の理想なんてすぐに打ち砕かれてしまった。
会社恋愛の話題が出た時は自分に話が降られないように祈りながら周りを気にして仕事する。地元には戻ってないし久しぶりにお母さんたちに会いたい、家族で集まって賑やかな会話を楽しもう。
お兄ちゃんやお姉ちゃんとも会えたら良いなぁ。明るくて笑顔の絶えないうちの家族は私は大好き。
高校になって中学の頃から仲の良かった同級生とはあまり話さなくなった、私が通っていた高校は進学校だったから毎日勉強漬けで大変だった……。自分で選んだとはいえもっとのんびりとした学生生活を送りたいと感じたこともある、定期考査の多さと成績ではっきり区別される、うちの学校に通うほとんどの子は進学するから高校を卒業して就職するというのは滅多にない。
部活と勉強の両立に悩ん時もあった、けど家族に支えられて何とか頑張れた、帰りが遅くなることもあってヘトヘトになりながらな何とか家に辿り着く毎日──楽しかった思い出の方が少ない。
たまに義之君と同じ時間に帰ることになった時は彼と端的な会話を交わす、だけどその会話に雅也君が出てきた事は一度もなかった。
彼がどうしているかなんて興味が湧かなかったしー。
義之君とも小学校からの付き合いだけど彼はとっても良い人だという印象を持っている。穏やかな性格をしていてみんなに好かれるタイプ、事実面白くて中学生時代も人気があった。
大して雅也君はどうだろう? 私は彼について考えてみた。小学生の頃から一緒なはずなのに私は彼のことを全く知らない、誕生日くらいは覚えてあげてはいるけれど……。
向こうは私の誕生日や性格とか結構よく知っていた、誕生日の日におめでとうと言ってくれた。
それか今では彼に夢中になってしまった──自分の中の想いを何度も確かめる、冬の空の下、肩まで雪を積もらせて私へのプレゼントを必死になって探してくれた事、特別な贈り物に込められた本当の意味それを知った時今まで秘めていた感情が一気に爆発しました。
明日奈に言われて初めて気づいた彼への想い、それは十年もの間ゆっくりと心の中に降り積もっていたのかも。
白い雪を見るとそんな感情が湧き上がってくる、もうすぐ三月を迎えるというのにね。今年の春はどんな形で訪れるのかな? 変わらない日々の中で普段通りの季節を感じる。今年はちょっと意味合いが変わってきそう。
*
浅倉さんに電話をかけた私は彼女ともう一度会う約束をしました。
雅也さんに何かあったとしたおそらくは浅倉さん絡みだろうし、どうして彼女は諦めてくれないんだろう?
あの子と雅也さんの関係は十年前に終わってしまったというのにー。
ここまで順調だった私の「恋」に立ち塞がる大きな障害、彼の気持ちが自分に向いているのは知っているけれど、最初に好きになった人ってやっぱり特別だと思うの。
私は今まで雅也さん以外の人に好意を持ったことがないけどこの気持ちが特別なものだというのは分かります。
彼の初恋は小学生の頃から──ずっと一途に浅倉さんのことを想っていた、結局その「恋」は叶わなかったけど……。
十年前の彼がどんな気持ちで彼女に手紙を書いたのか私には理解できない、真っ直ぐなひとだからきっと純粋に浅倉さんに恋をしていたんだろうなぁ。
雅也さんとの幸せを考えるなら浅倉さんには向き合わないといけない、彼女があの人を諦めてくれるならそれは幸いじゃないかな。
これ以上雅也さんを苦しめないように勇気を出して私から言おう、内気なはずなのに自分から行動したのは数えるほどしかない、好きな人を想うからこそ、こんなに積極的になれた気がするの。
彼と連絡が取れないのは不安だけどきっと大丈夫よね。
咲希にマンションの場所を聞いて辿り着いた湊は電話をかける、中で何が起こっているかはもちろん彼女は知る由もなかった。