「湊ちゃんに伝えておかないといけないことあるんだよね」
LINEのトークから僕は彼女へメッセージを送った。咲希ちゃんから聞いた内容を湊ちゃんにも教えておこうと考えたからだ。
咲希ちゃんの友人の久我山さんはとんでもない計画を立てていた。僕らの「恋」をテーマにした演劇を上映するらしい、彼女が今まで咲希ちゃんと友達として接してきたのは全部その為の行動で【久我山明日奈】って言う名前も本当の名前じゃないらしい。
ずっと信じていた友達から聞かされた事実に咲希ちゃんは胸を痛めた、心の拠り所を失っても少しでも現実にいたかったのか唯一の希望である僕に連絡して来た。
都合が良いと思えばそれまでなんだろうけど彼女が落ち着くまでは何も言わないでおいた。
今更咲希ちゃんへの気持ちを再確認するだけ無駄だから──僕にはもう恋人がいる、湊ちゃんとの時間を大事にしていきたい。
彼女が例え僕を諦めてくれなくても自分の気持ちには正直でいたい。
初恋の人と結ばれるのを夢見ていた子どもの頃と今とじゃ状況が違う。
咲希ちゃんは何もかもが遅すぎた──もしも当時の彼女が別の応えを出していたのなら描かれていた未来の結末は変化していただろう。
*
「湊ちゃんはまだ会ってないだろうけど、僕はこの間その久我山さんと会ったのは本当に偶然で僕はあの子の事について何も知らなかった」
「浅倉さんのお友達なんですね……。その人何を考えてるんだろう。私には理解できません、人の恋愛を舞台にするなんて」
「そうだね。あの子が何を思っているのか分からないけど、確実に言えるのは彼女は僕らの関係を知る為に何かアクションを起こすと思う。現に僕と関わって来たのはその一つだろうし」
「そうですね、となるとその人はもしかしたら私にも接触して来るかも……」
「その可能性は高いだろうね。ただ、久我山さんは湊ちゃんとの直接の繋がりがないからどういう風に来るのかは予想できない。僕の事は咲希ちゃんから聞いて知ってただろうけど、湊ちゃんの存在を確認するのは難しい」
咄嗟に僕は咲希ちゃんが言ってた言葉を思い出した。
──久我山さんは咲希ちゃんと関わる時もわざわざ偽名を使って別の誰かを「演じて」いた。
本当の自分を他人には決して見せずにどんな性格でも演じ続ける。舞台女優としての彼女を見たことがないから分からないけれど、彼女には人を惹きつけるような魅力があると思う。
僕は湊ちゃんと話す中で一抹の不安を感じた──僕の恋人ならきっと大丈夫だろうけど……。
湊ちゃんに辛い思いをさせるわけにはいかない。ずっと僕に片思いしててようやく実った「恋」昔、僕も片思いをしていたから気持ちはよく分かる。
「恋」をするのは一筋縄じゃいかない。恋愛の駆け引きとかそういったものも重要になるんだろうけど、僕は器用じゃないからそういうのはできそうにない。
ただ、湊ちゃんとこれから先の将来を考えて一緒に過ごしてゆく、そんな細やかな幸せを噛み締めて生きていこう。
まるで十年間の振り返しが来ているかのようだ、これまで何の変化もなかった僕の生活がまるでドラマみたいに目まぐるしく移り変わっていく。
きっかけはあの日、駅で
終わったはずの「恋」がまた始まった。実は咲希ちゃんと結ばれるのをw少しだけ期待してた自分がいたんだ。だけども、十年という時の流れは僕らにはあまりにも長すぎた。
あの日、手紙での告白の返事を貰った日──当時の事を思い出すと胃が痛くなる……。
僕は彼女にフラれた。初めての「恋」が終わりを告げた日。咲希ちゃんともう一度出会うまでは心の片隅に留めておくだけにして、ずっと忘れていた。
だけれども、こんな自分でも好きだと言ってくれる子が現れる──湊ちゃんは辛かった僕の初恋の記憶を受け入れてくれた。
彼女のおかげでもう一度恋愛をしてみようと前向きな気持ちになれた。十年という間フラれたのを引きずっていた自分の心を解きほぐして貰った。
最初は仕事先の後輩から始まった関係、同じ時間を共有するうちに僕らの心は寄り添っていった。
自分では気づかないうちに湊ちゃんに惹かれていたんだろう。純粋で明るくてとってもチャーミングな彼女の笑顔が大好きだ。
だからこそ、大切にしたいと思える。
「僕はどんな事があっても迷わないよ。これから先もずっと湊ちゃんを想い続けます。君は僕にまた恋愛をするチャンスをくれた。僕にとっては一番大切な人だから」
真剣に自分の気持ちを伝えてみる、彼女は「はい」としっかりとした返事を返してくれる。その言葉尻にどこか幸福さを滲ませているのが分かった。
これから起こるだろう出来事を警戒しながら僕たちは何度もお互いの気持ちを確かめ合った。
付き合い始めてから二年が経った僕らの関係はゆっくりとだけど二人で思い描いた未来へ着実に進んでいくのだった。僕の想いをのせて君へ届けよう。
(ありがとう湊ちゃん)