緩やかなに流れる時の中で僕の隣で微笑む彼女の耳元で囁く。
「今日は一緒に過ごそうね。時間ならたっぷりあるから」
湊ちゃんと付き合う様になってから休日は彼女と過ごす時間が殆どだ。ファミレスに入って料理を食べている時も細やかな会話を続ける、その一瞬一瞬が僕にとってはかけがえのない時間だし、何よりも恋人といるとどんな場所にいても心が安らぐ。
「これからゆっくりと買い物を楽しんでその後はどこかで食事でもしようか? 湊ちゃんは何か食べたいものってある?」
「だったらこのお店に行きませんか? 実は今日のデートの前に調べててずっと気になってたんです!」
「どれどれ? へえー、本格和食かー。良いね。僕は和食も好きだし行ってみようか」
湊ちゃんがスマホに移したお店のホームページを見せてくれた、どうやら駅近くにできた日本食の料理店で本格的な和食に僕が好きな定食とかのメニューも充実している。お酒も提供しているみたいで種類も豊富で価格もお手頃、給料日前で財布が軽い僕にとっては願ってもないことだ。
湊ちゃんと手を繋いで歩く──冷え切った指先に伝わる熱、ほんのりと頬を染めている彼女に僕は笑顔を返してペースを合わせる。
雪がちらつくほどじゃないけれど、相変わらずの寒さだ、通り過ぎた人の中にはぶるっと肩を震わせて歩いている人もいる、僕はどちらかといえば寒いのは得意な方だからあまり辛くはない。辛くは無いんだけど、外を吹く風が冷たくてほっぺがピリピリしてくる……。
「……寒い」
湊ちゃんはぶるっと体を振るわせると立ち止まって街の街頭に目線を移す。僕は「風邪引かない様にね」と言って自分が羽織っていたジャンパーを脱いで彼女に着せた。
「雅也さん、寒く無いんですか?」
「風が冷たくてちょっときついけど平気かな。湊ちゃんとこうしていると凄くあったかいし」
僕は彼女の体を自分の方へ引き寄せてぎゅっと抱きしめる。『もぅ』と口を尖らせても嫌がる素振りを見せずに受け入れてくれる湊ちゃん。
すっかり冬を迎えた東京はいつだって忙しそうに時が流れていく。
──田舎では感じることのできないスピードの速さに最初のうちは慣れるまでに時間がかかったっけ。昔の事を思い出すとあまり良い記憶は無い……。
上京してからは就職活動で慌ただしくてどこかに遊びにいくなんていうイベントとは縁遠い生活を送っていた。
就職しても毎日覚えることが多くて仕事をなんとかこなすのが精一杯でプライベートな時間なんて取る暇もなかった。
だけどここ最近はようやく落ち着いて来たかな? 一度しかない人生だ、もっと自分の好きに生きるのが良いのかもしれない。
「雅也さんが楽しいと思ってくれるなら私はいつでもお付き合いしますよ」
「僕だけが楽しいんじゃ意味がない。湊ちゃんも同じ気持ちじゃないとどっちか片方が一方通行な想いなんて好きじゃない」
彼女とはお互いの気持ちを尊重し合ってやっていこうと思っている。喧嘩をすることだってあるだろうけど、時にはそれが良いスパイスになる。そうやってぶつかり合ってもいい、時にはきもちがすれちがうことだってあるだろうけど、それで別れるほど僕らの関係は浅いものじゃない。
“恋”をするきっかけをくれた子【篠宮湊】ちゃん。
──僕にとって彼女は家族と同じくらい大切な存在、なんて言うのを直接伝えるのは照れくさいから遠回しな言い方をするんだけど、湊ちゃんはちゃんとわかっているみたいだ。
「また考え事してたんですか? 雅也さんって考え事してる時は口数が少なくなるのですぐにわかりますよ」
「──ホント、叶わないなあ湊ちゃんには」
全部お見通しってわけね、まあ、良いけど。付き合い始めた頃から変わらない僕の好きな人、心のメモリーに湊ちゃんとの思い出を刻み込みながらゆっくりと流れるハーモニーに耳を傾けた。
「今日は何だか普段よりも湊ちゃんが眩しく見えるよ」
「何ですか? それ? 私、特に変わりないですよー」
微笑む湊ちゃんの手をもう一度握って僕は今目の前にある幸せを心から感じていた。