胎間忍 作:内府
小谷城内においてサクラと凜子は先ほど金平糖をくれた侍を探している。
城の中は浅井家の甲冑を着けた武者で溢れかえっていて容易に見つけられそうにない。
サクラ達が金平糖の侍を探して歩き回ることは同時にサクラ達が浅井の武者達から見られているということでもある。武者達からして見れば小袖を纏ったまだ二十そこらでしかも美人の娘が歩き回っていてはよからぬことを企むことは至極当然のことであった。
自然とサクラ達を囲うように武者達が動いていく、武者達の鼻息は段々と荒くなって今にもサクラ達に襲い掛かろうとした刹那、老人の一喝が場を飲んだ。
老将「何をしておるか!この方々は親方様の客人であるぞ!早う持ち場に戻れ!」
浅井の武者達「ははっ!」
老将の一喝に怯んだ武者達は蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻り後にはサクラ達しか残っていない。
凜子「先ほどは危ないところを助けてくださりありがとうございました。」
老将「いえ、家中の者がお見苦しいところをお見せしました。」
サクラ「あっ、凜子この人さっきの金平糖のお侍様だよ。」
老将「フッフッフ、どうやら喜んでくれたようですな。」
サクラ「えっへへ、とーっても美味しかったですよ。」
老将「それはなにより、ようございました。」
凜子「一つ伺ってもかまいませんか?」
老将「何でしょう?」
凜子「何故貴方はこのように手厚くもてなしてくださるのですか?」
老将「ハッハッハ、何かと思えば。何、単純なことです。一つは主が招いた客人であること、もう一つは家中の忠義の者について教えてくださったからでござる。横田は私が推挙した者ゆえどうなったのか気にしておりました。」
サクラ「いやあ、そのおかげで金平糖までもらっちゃってもうほんと至れり尽くせりですよー。」
老将「フッ喜んでいただけてなにより、私は合戦の支度があるのでこれにて失礼いたします。」
凜子「分かりました。御武運をお祈りします。最後に御名前を伺っても?」
老将「これは失敬。それがしは赤尾清綱と申します。」
そう言うと赤尾は、城内の巡視に行った。
凜子「うーん、どうも引っかかるな。本当にあの二つの理由だけだったのかな?」
サクラ「あっ!」
凜子「何かわかりましたか?」
サクラ「さっきの赤尾さんにおねだりしてない…」
サクラが赤尾を追いかけようとすることを止めて凜子はやはり監視役としてついてきてよかったと思った。
凜子がサクラを引き止めている頃、小谷城の館内の奥にムラサキはやってきた。当主長政の側室に会うためである。
長政の側室は響子といい近江の国人音無氏から嫁いできた。
響子の住んでいる間の前にやってきたムラサキは自分が胎間忍であることを告げて入室の許しを求めた。中から若い女の声でムラサキの入室を許すと返答があったので、ムラサキは早速中に入り響子に頭を垂れた。
ムラサキが面を上げると雷に打たれたような衝撃が走った。
響子の顔はアサギによく似ており、アサギの顔から凛々しさの変わりに柔和さを加えたような顔で体は背がアサギより低く全体的に小さいがくびれもあり男達を喜ばすには十分であった。
ムラサキは響子と出会い、すぐにこの方を犯したいという衝動に駆られるもくノ一として任務を優先するという理性との間で辛うじて理性が勝っていた。
響子「初めまして、私が響子です。長政様からお話しは伺っています。わたくしのやや子をどうかよろしくお願いいたします。」
ムラサキ「はっはい!このムラサキ命に替えましてもお守りします!」
響子「フフッ頼もしくも可笑しなお方。」
ムラサキが興奮で顔を赤らめる様を見た響子はムラサキに対して面白さを感じると共にその言葉と響子を見つめる真剣な眼差しから信頼の出来る者だと思った。
実際にはムラサキは響子のためなら何でもするであろうが、同時に響子の貞淑にとって最大の危機が迫っていた。
ムラサキはこのまま子移しの儀の説明を行うと儀式の内容を妄想してしまい、説明の途中で響子を襲ってしまうと考え、秘密の儀式なので頭目から説明をしてもよいかと許しを得てくると響子に告げて城内で何か冷静になることは出来ないかと早足で動き回った。