胎間忍 作:内府
小谷城でアサギ達が日が暮れるのを待っていた頃、甲斐国躑躅ヶ崎館、この城は甲斐武田家の本拠地である。
この館の一室で信玄の跡を継ぎ当主の座に就いた武田勝頼が忍びからの報告を受けている。
勝頼に報告をしている忍びは銀髪で左目に眼帯をした若い男であった。
勝頼「では朝倉は潰され、浅井も風前の灯火か。」
忍び「その通りです。」
勝頼「くそっ!父上が亡くなられて家中が乱れていなければすぐにでも出陣して織田と一戦交えていたものを。穴山などは儂を諏訪の四郎と侮っておるこんなことなら儂ではなく、亡き義信兄上が家督を継がれていればよかったのだ!」
忍び「お館様、今はあなたが甲斐武田の棟梁です。亡き信玄公も貴方様の武将としての器をかっておられました。暫くすれば皆が親方様の器量に気づくでしょう。心無い者の言葉など気にしてはなりません。」
勝頼「すまぬな、カカシよ。其方にとっては嫌なことを思い出させたな。」
カカシ「いえ、過ぎたことですから。」
カカシは親子二代に亘って武田家に仕える忍びであった。
カカシの父はサクモといい近隣にその名を轟かせる実力の持ち主でカカシもそれに匹敵する忍びであった。
しかし、サクモは信玄の嫡子義信が切腹をした際に義信派の家臣を粛清する任務を遂行したのだが武田家家中から仲間殺しと批難を浴びた。
今まで共に死線をくぐり凄腕の忍びとして尊敬してきた仲間からのその中傷に耐えられずサクモは自害してしまった。
そして、その息子であるカカシにも白い目を向けられていたのだが勝頼がその腕を見込んで重用され今では武田家お抱えの忍び随一の実力者と言われるまでに至っている。
勝頼「そうか、では話を元に戻そう。浅井があの里に依頼を出したとのことであったがその計画はうまくいくのであろうか?」
カカシ「あの里のくノ一の実力は確かですが、織田家は甲賀衆を抱えており、危ういこともあるでしょう。」
勝頼「そうか。それでは、カカシよあの里のくノ一を手助けしてやれ。そして武田に誘い浅井の血をこちらに引き込むのだ。」
カカシ「はっ!」
勝頼の命を受けカカシは稲妻の如く一瞬の内に勝頼の前から姿を消し、アサギ達のいる小谷城を目指し疾走する。
勝頼としては浅井の血縁を引き入れ、織田家を破った際の近江統治の正当性を確保するためと浅井の旧臣を引き込むための道具とするためであった。
こうした血縁を用いた策を自分が弄することに勝頼は皮肉を感じた。
勝頼自身も信玄の諏訪統治のために利用されておりそれ故に武田の家督を継ぐことに反発が起きている。
こうした反発を抑えるために勝頼は戦により敵を撃つほかにないと考え、今後の織田という強敵との戦に思いを馳せた。
アサギ達5人、甲賀衆、カカシそれぞれの忍び達の激突が目前に迫っていた。