胎間忍 作:内府
木下隊が小谷城への攻略を始めた頃織田の本隊は小谷城を包囲した。
信長は小谷城のある山の麓に本陣を設け秀吉の城攻めを見守っている。
信長が床几に腰掛け小谷城の図面を睨んでいると近習が滝川一益の来訪を告げた。
滝川一益「親方様、城の周囲に甲賀衆を配置し終えました。また、件の追い忍部隊を選抜し編成しました。甲賀衆の監視の網に掛かれば直ちに追撃させます。」
信長「であるか。」
謎の老人「その追い忍とやらはこの者達のことかな?」
滝川一益がその声に反応し信長の前に飛び出て抜刀し未知の存在から主君の盾になろうとした。
声のした方向の陰の中から赤黒く汚れた5つの包みが投げ込まれた。
滝川一益が包みの中を中を確認すると、中には彼が編成した追い忍部隊の首が無念の表情を遺している。
滝川一益は信長の命を果たせなかったことと、主君の前に敵が姿を見せたことに怒りをおぼえた。
滝川一益「何やつじゃ!姿を見せろ!」
謎の老人「安心しろ。きっとお主らの役に立つ。」
そう言うと陰の中から五人の異様な者どもが現れる。
一人目は毛皮の衣を着て獣のような匂いをさせた、若い犬歯の発達した男。
二人目は白い衣を着た長身痩躯の三十路半ばの男。
三人目は黄色い衣を着て全身に包帯を巻きつけ素肌を全て隠した長身で筋肉質の男。
四人目は黒い衣を着て右目だけ穴の空いた渦模様のお面で顔を隠した男。
五人目は頭と右目に包帯を巻き顎に傷のある片腕の僧のような形をした老人。
これらの不気味な男達が信長と滝川一益の前に姿を見せた。
謎の老人「儂の名はダンゾウ。此奴らは儂の部下だ。」
毛皮の男「俺様はキバだ!」
痩せた男「私は佐馬斗と申します。」
仮面の男「オビト。」
4人はそれぞれ名を名乗ったが包帯の男は黙ったままであった。
滝川一益「おい、その包帯の男はどうした。」
ダンゾウ「これは人間ではない。獣だ。ただ身体が頑健で怪力がある。それに簡単な会話をする。」
ダンゾウの説明を聞き信長は不機嫌になり、ダンゾウ達が何者か怪しむ滝川一益を置いて苛立ちながら話し掛けた。
信長「それで何のようだ?」
ダンゾウ「儂らを雇わんか。」
信長「何?」
ダンゾウ「信濃の女狐を狩るのであろう。手を貸すといっている。」
滝川一益は自分の用意した甲賀衆が全滅したことから反対もできず、主の回答を待った。
信長「褒美はなんだ?金か?」
ダンゾウ「いや、織田家に士分として取り立ててくれ。日の当たる中で働き名を残したいのでな。そいつの配下の忍びどもより役に立つぞ。」
ダンゾウの発言に滝川一益は怒りをおぼえ拳を強く握っている。
信長「よかろう、女狐の腹から浅井の子を奪ってこい。投げ出すことは許さん。」
滝川一益「親方様!」
信長「落ち着け、一益。できるのであればやってみせればよかろう。それにお主が手配した者がこうなっては仕方なかろう。ここは堪えよ。」
滝川一益「承知しました。」
信長はダンゾウに不快感を感じつつも腕の立つ忍びの重要性を考え合理的な判断を下した。
主君に宥められ、仕方なく滝川一益は引き下がった。
ダンゾウ「では我らが女狐らを…」
キバ「へっ!お前らなんか必要ねェ。このキバ様だけで十分だ!」
そう言うとキバは小谷城に向けて走り出した。
滝川一益「おい、大丈夫なのか?」
ダンゾウ「ああ、彼奴はあれでも腕が立つ。」
滝川一益は伝令の甲賀衆を呼び出し皆にキバと協力して任務に当たれと命じた。
ダンゾウらは我関せずといった様子でキバが成功して戻ってくるのを信長の本陣で待つことにした。
キバがいなくなってしばらくすると、母衣衆が駆け込んできた。
母衣衆「申し上げます。木下隊、大手門を突破しました。」
信長「であるか。」
報告を受けた信長は手で合図をだし母衣衆を下がらせた。
信長はダンゾウにより不機嫌にされたが、自分がサルと呼ぶ部将が立てるであろう武勲の大きさを想像しやや機嫌が直った。