胎間忍 作:内府
アサギ達が自分達の胎の子の未来を案じつつ長政の説得が成功するのを祈っているとムラサキが戻ってきた。
顔色はやや悪いが部屋から出て行く前よりもいくらかましに見える。
ムラサキ「ただいま、戻りました。先ほどはお見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした。」
アサギ「ムラサキ、気にすることはありません。貴方だけでなく私たちの誰にでも起こりえるのですから。」
ムラサキは、忍法・子移しによりある程度まで成長した胎児が胎の中に入っているので突然、ひどい悪阻に襲われアサギ達の目の前で嘔吐しそうになっておりその姿を見られたことを恥じていた。
アサギはそんなムラサキに対して自分たちも全員孕んでいるのでいずれ先ほどのムラサキと同じような姿を見せることになるから何ら恥じることは無いと暗に言っている。
アサギ達5人が再び全員揃ったと頃、長政は彼の政務を執る一室に彼の妻と共にいた。
彼は文机に向かい手紙を書いていた。
一通は彼の3人の娘達に宛てた父としての手紙、もう一通は織田家の者に宛てた娘達のことを委ねる手紙であった。
お市は彼の夫が手紙を書く姿を背後から見守ることしかできず、詳細な内容を尋ねてもこれを読んだ娘達から直接聞けとの一点張りであった。
長政は手紙を書き終えると、小姓を呼んで指示を耳打ちしできたばかりの文を渡した。
小姓は長政の命を果たすべく二通の文を預かるとある人物の元に届けた。
娘達に関する手紙を届けさせた長政はお市と向かい会った。
長政「市よ、儂の願いを聞いてくれるか?」
お市「はい、何なりと仰って下さい。」
長政「儂は其方が死ぬところは見たくはない、ひどいとことを言うようだが儂が腹を切って果てるまで自害してはならん。儂が先に彼岸で待っておる故後から来い。」
お市「分かりました。長政様より先に果てることなく必ず後をおいます。」
長政「そうか、では約定の質に其方の懐剣を儂に預けてくれ。」
お市は快諾して懐剣を長政に預け、彼と共に彼岸まで行けることを心から喜んだ。
小谷城内でアサギ達の脱出に向けてそれぞれが動いているのと同じく寄せ手の織田軍も小谷城攻略に向けて動いていた。
織田軍の先頭は木下隊でその後を織田軍の本隊が木下隊が開いた突破口から侵入し城内を制圧し本丸に向けて包囲網を狭めていった。
また、織田軍の正規兵とは別に滝川一益配下の甲賀衆が城から落ち延びる者を監視するために城の周囲を固め、新たに件の追い忍として売り込んできた五人組の一人キバがアサギ達5人を待ち受けていた。
キバの頭の中ではくノ一なぞ自分一人で事足り手柄を独占できると考えていた。
このことを捕らぬ狸の皮算用とは言えない。
キバは滝川一益が選抜した件の追い忍を殺害しその後釜に居座っているので彼が口だけの男とは言えなかった。
キバとアサギ達の忍び同士の命を賭けたおぞましい闘いが迫っていた。