胎間忍 作:内府
木下隊が小丸に突入する。
彼らは虎口を突破してやってきた。
今の彼らは、日輪の如き明るい光を持つ英雄に率いられその英雄に従ってさえいればなんでもできると思っていた。
京極丸、小丸を守る者達は曲輪群を守っていた将兵とは違い織田木瓜の旗を仰ぐ事をよしとせず最期まで浅井家と運命を共にすると決め決死の覚悟をもった強者達であった。
しかし、そんな彼らの覚悟を木下隊の勢いが津波の如く押し潰していった。
京極丸が瞬く間に陥落し瓢箪の旗印が揚がる。
小丸の主、先代浅井家当主浅井久政は腹を切ることにした。
おそらく息子は自分を見捨てたのだと久政は感じた。
長政が自分から家督を奪い、このままでは死ぬと分かっているにも関わらず助けに来ないことに戦国大名としての成長を頼もしく思うと共に一人の親として寂しく思った。
木下隊の喚声と剣戟の音が近づく。
小丸を守る将兵はせめて久政が穏やかに腹を切れるように木下隊の進撃を阻むが、ぞくぞくと討ち取られていく。
ついに木下隊が小丸の主の間に達した。
木下隊の長である木下秀吉が主の間を検分する。
そこには腹を切り介錯を受けて事切れた久政の姿があった。
秀吉が合掌をすると、配下の者達がそれに習って合掌をする。
秀吉は久政を弔いながらなんともいえない感覚が湧き上がるのを感じた。
虎口を突破し京極丸、小丸を瞬く間に落とした事実が秀吉を力に酔わせ流血を嫌っていたはずなのに不思議と不快感が湧いてこない。
秀吉は自分が万能に思えていたが、突然自分が大きな闇に引きずり込まれる姿を想像してしまった。
側近「木下様、物見より報告がございます。」
側近の声によりようやく秀吉は現実に引き戻された。
秀吉「何じゃ?何じゃ?長政めの肝を潰した顔でも見られたか?」
先ほど感じた姿を打ち消すように秀吉は無理に冗談を言って周りを笑わせた。
物見「申し上げます。こちらに幼い姫を連れた侍女達がこちらに向かってきます。」
秀吉「なんと!それはお市様のお子様達ではないか!すぐに丁重に保護せよ。」
秀吉は以前清洲城で見かけたお市の姿を思い出し心が踊った。
保護された中にお市はいなかったが、その侍女達が秀吉に面会を求めていると告げられ彼は心を躍らせながら侍女達が待つ京極丸の一室に向かった。
秀吉が中に入ると3人の大人の女と3人の幼い姫が座っている。
秀吉「やーやー、どーもどーも。儂が木下藤吉郎です。儂にかかれはば何事も心・配・ご・無・用、ご安心くだされ!」
侍女達に大物ぶろうと笑いながら挨拶した。
侍女「お黙りなさい!こちらに居られるのは織田の姫君ですよ!貴殿は主家の姫に無礼をはたらくのですか?」
侍女に一喝され秀吉はすぐに床へ頭を擦りつけるようにして許しを請うた。
侍女の声に幼い江は泣き出してしまった。
豊満な美女「あーあー、怖かったでちゅねーごめんなちゃいねー…よしよし。まあ、此方の方も悪気が無かったのですから許して差し上げたらどうですか?」
江をあやしている豊満な美女が秀吉を取りなした。
この女大変美しく秀吉の好みからはずれているが十分に魅力的であった。
侍女「響子様がそう仰るなら…」
茶々「猿じゃ、猿じゃ。」
茶々は秀吉が頭を擦りつけるところを見て猿が頭を下げるように見えたのかそれを面白いと思って笑っている。
秀吉「キキー、ウッキー、秀吉でご・ザ・ル!ウッキー、ウッキキー!」
秀吉は姫達の機嫌を取ろうと渾身の猿真似をした。
まず、茶々が笑い姉につられて初も笑い江も笑い出したので響子も微笑んでいる。
姫達と響子が笑っているので、侍女もこれ以上秀吉を責める気が失せた。