胎間忍 作:内府
アサギ達は一つの風となって、山を下っていた。
下っていていく斜面には討ち取られた浅井の兵が点々と骸となって横たわっていた。
サクラが先頭に立って走っていると死んだはずの浅井兵が起き上がり手裏剣を投げつけた。
サクラはそれを忍び刀で、たたき落とすと彼女も千本を投げ返した。
サクラの千本は浅井兵の首に刺さり、彼を即死させた。
この浅井兵は本物ではない、甲賀衆が死者から鎧を剥ぎ取り浅井兵の骸に化けてアサギ達が通るのを監視していた。
アサギは内心舌打ちした。
甲賀衆の手の早さに恐れを抱いた。
それでも止まることはせず、一目散に山を下った。
アサギは獣臭い匂いが近づいてくるのに気がついた。
木々の陰から1頭の犬がアサギへと飛びかかってくるがユキカゼがそれを蹴って別方向へ弾く。
先ほど、犬と思ったのは人間であった。
アサギ達の匂いを嗅ぎつけここまで追い掛けてきたキバであった。
キバ「ヒャッハー、遂に追いついたぜ!くっせえ、くっせえゲロと子種の匂いがプンプンするぜ!そんなもんを匂わせたまま、このキバ様から逃げられる訳無いぜ!」
アサギ達はキバの挑発を無視して先へ進む。
キバ「おい!ちょ、待てよ!」
キバは自分を無視し先へ進むアサギ達に襲いかかった。
キバの手の指には鉄を鋭く尖らせた爪が着いており、それで狼の爪のように相手を引っ搔くか貫手で攻撃する。
キバは背負われているムラサキを狙い貫手を放つが凜子がそれを忍び刀で受け止めてひざ蹴りを喰らわした。
キバ「グハッ。」
凜子はこの忍びをこれ以上アサギ達に近付ける訳にはいかなかった。
凜子は反転してキバに横薙ぎの一閃を放つが、キバはそれを背面に回転しながら跳躍して躱した。
キバの毛皮の服の腹の部分が真一文字に裂けている。
この服は油に浸けて強度を高め刀では切れないはずであった。
キバ「へぇ、なかなかやるぜ。だがまぐれがそんなに続くかよっ!」
そう言うとキバは両手を着いて四足歩行の獣のような構えを取った。
アサギは後ろの凜子を振り返り叫んだ。
アサギ「戻りなさい、凜子!そいつは無視して!」
凜子「師匠、こいつは私が仕留めます。先にお行き下さい。」
アサギは凜子の腕を信頼していたし、このままこの場で時間を浪費して追撃をさけることを恐れ凜子にキバの相手をさせることにした。
アサギ「必ず、追いつきなさい!」
アサギ達は凜子を残して走り出した。
キバ「おいおい、なめられたもんだぜ。さっさとお前をぶっ殺して残りの奴らも血祭りに上げてやるぜ。」
キバは威勢良く吠えているがそれを無視して凜子は呼吸を整えた。
小谷城本丸が落城しアサギ達が山を下っていた頃浅井家重臣赤尾清綱は山の中を彷徨っていた。
赤尾は曲輪群を守っていたがそこを守る諸将が秀吉の調略により次々に投降し戦線が崩壊した。
赤尾はこのまま本丸に戻っては長政に申し訳が立たずせめて一矢報いようと信長の本陣に斬り込もうと織田兵を躱し、織田の本陣を探し山を下っていた。
この時すでに信長は、京極丸に入っておりちょうど入れ違いになった。
赤尾が山を下っていると遠目に犬と人間が対峙しているのが見えた。