胎間忍 作:内府
凜子は山の中を甲賀衆に追われながら下っていた。
甲賀衆はその数を増やし今では20人程にまで増えて凜子を追撃してくる。
このままではいずれ、殺されると凜子は思った。
甲賀衆とこのまま戦えば凜子が生き残る可能性は五分といったところであったがアサギ達の元に追いつけば5人で連携して戦えば必ず勝てると考えた。
しかし、それは甲賀衆をアサギ達の元に連れて行くということでありアサギ達4人の情報を甲賀衆がつかみ彼女達を危険にさらすということであった。
凜子はアサギ達を危険にさらすことはできず、自分の剣の腕に賭けここで甲賀衆と対決することに決めた。
追撃してくる甲賀衆の先頭に千本を前を向いたまま投げ、数人の甲賀衆に刺さり隊形が乱れたところへ反転して斬り込んだ。
クナイを横薙ぎにする甲賀衆の下をくぐり抜けすれ違い様に脇の下を斬り、上段に構えて刀を振りかざす甲賀衆に鳩尾に体当たりをして体勢を崩し、一瞬も止まること無く追撃してくる甲賀衆の集団の中を突っ切り走りながら次々に甲賀衆を斬りつける。
凜子は甲賀衆の集団の中にいる時にアサギのなにものにも囚われてはならないという教えを思い出していた。
相手の剣先に、相手の動きに、一人の相手に、集団に、次の行動に、全てのことに気を配れと幼い頃の凜子にアサギが投げかけたものであった。
当時の凜子にはよく分からなかったが、こうして甲賀衆の集団の中にいるとその意味が分かった。
相手一人に集中すれば残りの者に斬られ、集団に集中すれば目の前の相手に斬られ、先読みをすると今のことに躓き、生きようとすれば追い詰められるそんな状況下で凜子は師の教えを理解した。
凜子の執着心が薄まると自分が空中に浮かび上がり上から小さくなった自分を操っている感覚を覚え、相手の次の動きが見えてその次の動作の姿に剣を沿わせるだけで相手が自分から斬られにきた。
凜子がこの感覚を維持していると瞬く間に10人前後の甲賀衆を斬り倒した。
このままいけばまたアサギ達に会えるかもしれないと凜子が思った瞬間、空中にいた自分が地上で戦っており先ほどまで何も感じていなかったのに疲労感と息苦しさを覚えた。
そんな凜子の隙を見抜き甲賀衆が網を投げつけた。
網に絡まってしまった凜子はもがくが簡単に取れず、更に甲賀衆の増援の足音が聞こえて、少なくとも20人の甲賀衆が近づいて来るのか分かった。
凜子はもう戦えずこのまま死ぬのだと思った。
任務のことも無念だが、凜子はアサギ達にもう二度と会えないことが心残りであった。
ムラサキとサクラがしょうもないことで言い争い、ユキカゼが無茶なことをする、そんな騒がしい中に自分がいてアサギがそれを見ている日常が二度と味わえないことに凜子は絶望した。
できることならもう一度アサギ達に会って、アサギに褒められ、サクラとムラサキに感心され、ユキカゼに姉弟子としての背中をみせたかった。
凜子は天を仰ぎ、どうかアサギ達が自分よりもかなり遅れてあの世で会えることを祈った。
ボッフーン
突然、破裂音がして白煙が木の太い枝に立ちこめた。
謎の男「やぁ、諸君こんばんは。そしてさようならだ。」
煙の晴れ間から銀髪の男が現れ、5人の甲賀衆はそれを注視していた。
銀髪の男は甲賀衆へ向かって跳び両手に2つずつ手裏剣を持ちそれを投げると甲賀衆の喉に深く刺さって即死した。
最後の甲賀衆は身動きする前に忍び刀が喉を貫き捻られて抜かれた。
銀髪の男「頭をさげてろ。敵の数をへらしてくるから。」
凜子は網をかぶったまま近くの藪の中で姿勢を低くした。
銀髪の男は刀の血を払うとそのまま加勢に来た甲賀衆へと突っ込んだ。
その男はまず持っていた刀を頭目格の甲賀衆に投げ、6枚の手裏剣を手の内から閃かせると一瞬で7人が落命し
た。
銀髪の男はそのまま止まること無く倒れた甲賀衆の刀を手に取ると次々に甲賀衆を倒していく。
凜子はその様子を見てその男の持つ速さ、洞察力、技術、体力等が自分より圧倒的に高く、もしかするとアサギ以上に強い忍びではないかと思った。
銀髪の男は左右から斬り掛かる甲賀衆の刀に手を添えて軌道をずらすことで彼らを互いの剣で倒し、最後に残った忍びが上段から振り下ろす剣をあっさりと躱しその忍びの顎と後頭部に手を回し一気に落命させた。
辺り一帯に甲賀衆の骸が溢れていた。
銀髪の男は最初投げた刀を取り戻し血を拭って納め、額の鉢鐘をずらし左目に眼帯として当てた。
銀髪の男「おーい、もう出てきてもいいぞ。」
凜子はおそるおそる出てきた。
銀髪の男「俺は、甲斐のカカシ。胎間忍を助けにやって来た。」
凜子は本物のカカシか疑ったが噂にあう銀髪、隻眼なによりあの圧倒的な強さから彼のことを信じた。
凜子「始めましてカカシ様。私は胎間忍の凜子です。お助けくださりありがとうございました。」
カカシ「まっこれも主命だからね。それより他のくノ一達は?」
凜子は正直に答えるか迷ったが、武田家は反織田家の立場であったことから正直に答えた。
凜子「この山を下った先に街道から外れた荒れ寺があります。そちらをはぐれた際の集合地点にしていますのでそこに集まっていると思われます。」
カカシ「そっ、じゃあ行こうか。」
そういうと凜子は案内のために先頭に立って走ろうとするが立てなかった。
凜子は先ほどの戦闘の疲労と死を覚悟した重圧で腰が抜けてしまった。
カカシ「しょうがないか。」
カカシはそう呟くと凜子を担ぎ上げた。
凜子「えっちょっやっやめてください!大丈夫ですから!」
カカシ「そんなこと言って、大分つかれてるんでしょ。まっ、女の子一人なんて軽い軽い。」
カカシは走り出したが担がれる凜子は先ほど会ったばかりの男にこんなことをされてとても恥ずかしかった。
この時、凜子は気づいていていなかった、この姿をアサギ達に見られることに。