胎間忍 作:内府
戦国時代の三英傑といえば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人である。
この3人を象徴する言葉といえば、鳴かぬならで始まるホトトギスの句であろう。
信長、秀吉、家康、それぞれの性格があらわれているものといえる。
それぞれの性格が出てくるものと言えばもう一つ、女性の好みもあげられる。
信長は後家好きといわれどこか乳の香りのする母性のある女性が好きだった。
母親が弟を可愛いがったためか、母性に飢えていたのかもしれない。
秀吉は身分の高い高貴な女性が好きだといわれている。
彼の出自が関係していたのかもしれない
家康は未亡人が好きだといわれている。
家康の場合は経産婦を好んでいたが、これは子孫を残すために子供を産める女を選んでいたのか安産型の豊満な女性が好みだったのかもしれない。
ただ、晩年の家康は幼女趣味といわれるが若い生命力に惹かれたのかもしれない。
美濃国岐阜城、ここには信長とお市が暮らしていたがこの兄妹は以前のような関係ではなく、その関係は冷たいものであった。
小谷城が落城して以来二人は一度も会っていなかった。
そんな時に信長が、突然お市の元を訪れた。
お市をはじめ侍女達と娘達もこの城の主を迎えた。
信長が上座に座るが、お市からは何も言い出さない。
侍女「これは、お舘様。よくぞお越しくださいました。」
信長「うむ。市よ息災であったか?」
お市「……。」
お市は兄に対してどう接していいのか分からなかった。
お市「兄上もお元気そうでなによりでございます。」
彼女はとりあえず、形通りの挨拶をした。
信長「ああ。忙しくはあるがな。」
お市「……。」
お市はなかなか信長と話しをしようとしないが信長はそれを咎めることはしなかった。
侍女「お舘様、本日はいかなる御用向き合で?」
みかねた侍女が信長に話題を振った。
信長「なに、久しくお主らの顔を見ておらんでな。時があったのでこちらに来たわけじゃ。」
信長は表向きの理由を述べた。
本当の理由は浅井の残党がお市の元にいるのか探るためであったが目の前のお市のことを考えると信長は話しを切り出せずにいた。
信長「まだ、其方の娘達の顔を見ておらなんだな。儂に見せてくれぬか?」
信長は当たり障りのない会話をすることにした。
お市「茶々、初。この方は貴女達の叔父上です。挨拶をなさい。」
お市は自分の娘達を兄に紹介することにした。
茶々「茶々でございます。」
初「初です。」
信長「うむ、儂が信長じゃ。其方達の叔父である。其方達は母親に似て可愛らしいのう。いくつになる?」
茶々「四つでございます。」
初「三つです。」
茶々と初は初めて目にする叔父に対していささか緊張していた。
信長「であるか。これからも母のいうことをよく聞くのだぞ。」
茶々、初「はい。」
信長はお市の二人の娘を見て尾張にいたころの幼いお市の姿と重ねた。
侍女「お舘様、お市の方様にはもう一人お子がおられます。」
信長「ほう、見せよ。」
侍女「はい、響子様お願いいたします。」
侍女は響子に抱かれている、江も紹介することにした。
響子「はい、こちらが江様にございます。」
信長「ほう。」
信長は思わず感嘆の声を漏らした。
江に対してではなく、江を抱いている響子に対してである。
信長は響子の美しさに心が惹かれていた。
信長「抱いてみてもよいか?」
お市「ええ、響子殿兄上に江をお渡しして。」
お市から許しを得たので、響子が江を信長にわたした。
江を渡すために近づいてきた響子に信長はますます心が惹かれていた。
信長の手に渡った江であったが、先ほどまでは静かにしていたのに急に泣き出してしまった。
どうやら腹が減ったようであった。
響子「お舘様、失礼いたします。」
響子は信長から江を預かるとあやしだした。
響子「まあまあ、どうしたんでちゅか?お腹がすいたんでちゅか?」
響子は江が空腹により泣き出したことを察し、乳をあげることにした。
響子の白い乳房があらわれ、辺りに甘い香りが立ちこめる。
信長は響子の授乳するところから目を離せずにいた。
この女を自分の傍に何としても置きたい、そう信長は考えてしまった。
響子は信長に一切気にかけず江に乳を与えていたが、乳をやり終わると信長のことを思い出した。
響子「お舘様、大変失礼いたしました。」
信長「いや、よい。赤子が大事である。」
響子から謝罪を受ける信長であったが、むしろこちらが感謝したかった。
信長「その方は、響子と申すのか?」
響子「はい、お市の方様に乳母として仕えております。」
信長「であるか。」
信長と響子が会話をしていると突然ダンゾウと、佐馬斗が乱入してきた。
突然のことに茶々達幼い娘は泣き出し、侍女はお市の信長は響子の前に盾として立ちはだかった。
信長「ダンゾウ、なにゆえここにおる。」
ダンゾウ「決まっておろう。浅井の残党を殺すためよ。」
信長「浅井の残党じゃと?」
ダンゾウ「そうよ、ほれそこにおるではないか。」
ダンゾウは響子を指さしている。
響子は自分の正体がばれたこと、そしてこの得体のしれない乱入者に震えていた。
信長「響子が浅井の残党…。」
ダンゾウ「それだけではないわ。」
佐馬斗「ふっふっふ、聞こえます、聞こえますぞ。この女からややの心音が。」
ダンゾウ「分かったらそこをどけ。さっさと始末する。」
そういうとダンゾウは懐から短刀を取り出し今にも響子に斬りかかろうとした。
信長「待て、手を出すことまかりならん。」
ダンゾウ「なんだと。このまま浅井の残党を野放しにするのか。」
信長「そうではない。この女は儂が預かる。故に手を出すでない。」
ダンゾウ「ふん、勝手にしろ。」
信長の剣幕にダンゾウは大人しく従うことにした。
信長「誰ぞある、この女を城内の一室に丁重に詰めさせておけ。見張りを怠るな。」
お市「お待ちください、兄上。響子殿は我らにとって大切なお方、どうかこのままにしていただけませんか。」
信長「安心せい、儂とて手荒にするつもりはない。じゃがこのままにしておくことはできぬ。」
お方「そんな…。」
信長の命に、控えていた小姓が応じ響子を城の客間に連れて行きそこに厳重な監視を置いた。
お市の信長を見る目は冷たかった。