胎間忍 作:内府
お市は兄から許しを得ると早速、娘達を引き連れ響子の元に赴いた。
響子「お市の方様、それに姫様達も。」
茶々「きょーこ、茶々会いたかった。」
響子が信長に捕らえられ軟禁され、その間会えなかった茶々は久しぶりに会った響子に抱きついて甘えていた。
お市「許してください、響子殿。貴女をこちらからお出しすることはできませんでした。」
お市は信長に響子を解放させることができなかったことを謝罪した。
響子「お気になさらず、そのお気持ちだけで十分でございます。」
響子は茶々の頭を撫でながら答えた。
部屋の外では小姓達が監視していたが以前と同じようにお市とその姫達と一緒に過ごすことができた。
近江国長浜、ここでは羽柴秀吉が浅井家の残党狩りをしてすでに長政の嫡子を処刑していた。
また、長政の側室がお市に仕えているという情報も入手しその情報をダンゾウに伝えていた。
浅井家の残党狩りはほぼ片がついたように思われた。
秀吉「これで、ひと段落じゃな。」
側近「その通りですが、ダンゾウより報せが届いております。」
そういうと側近はダンゾウからの文を秀吉に渡した。
文の内容は長政の側室であった響子がお市に仕えており子を孕んでいることとそれを信長が捕らえているという内容であった。
秀吉「なんということじゃ。お舘様が浅井の残党を捕らえておられるとは。」
秀吉は手柄を信長に取られ、さすがに主に抗議するわけにもいかず別の方法で手柄を立てる必要があった。
秀吉「儂は領内では税の免除といった善政を敷いておるが浅井の残党狩りではこれ以上のことは望めないのであろうか?」
側近「一つ策があります。浅井の者を捕らえたことを喧伝いたしましょう。それに釣られた者を捕らえるというのはいかがでしょうか?」
秀吉「それはいい手じゃ。そのように手配せよ。」
側近「はっ。」
こうして秀吉は側近に命じ浅井の者を捕らえ近く処刑するという噂を流すこととした。
岐阜城では信長がいよいよ響子の処遇を決めようとしていた。
武家の習わしとして男児が産まれたならばそれを殺さねばならなかった。
だがこの時の信長はそこまでする必要はないと考えていた。
響子が男児を産んだならば寺へ出し、女児ならばお市の娘達と同じように育てるつもりで信長はいた。
信長が考えをまとめそれを実行しようとするとどこからともなくダンゾウが現れた。
ダンゾウ「浅井の側室はどうするのだ?」
信長「何もせぬ、産まれた子が男ならば寺へ女ならばそのまま育てる。」
ダンゾウ「ふん、甘いな。それより、儂に任せよ。子を堕ろしてやろう。」
ダンゾウの提案に信長は揺らいだ。
先ほど自分でまとめた考えは甘過ぎるのではないかと信長自身思う節があった。
信長「好きにせよ。」
ダンゾウ「そうさせてもらう。」
信長から一応の許しを得るとダンゾウは音も無く消えていった。
ダンゾウに許可を出した信長であったが、その心は未だに定まっていなかった。
子を失って悲しむ響子の姿を想像するだけで信長の胸は痛んだ。
信長が自身の決断に悩んでいると小姓が滝川一益の来訪を告げた。
滝川一益の目通りを許すと、早速用件を告げた。
滝川一益「お舘様、甲賀衆の補充が終わり女狐どもの後を追わせます。」
信長「であるか。甲賀の者はよくはたらいてくれるな。」
滝川一益「ありがたきお言葉、甲賀衆も喜びましょう。」
信長「亡くなった者の遺族には厚く報いるようにせよ。」
滝川一益「はっ、仰せに従います。」
小谷城落城の際、アサギ達くノ一とカカシとの戦闘により50人以上の死者が出ていた。
滝川一益は自分が追っている忍びに強い恐れを抱いた。
信長としては諜報活動に役立つ甲賀衆が一度に大勢亡くなることは信長の情報網に支障をきたすので、これ以上の犠牲は避けたかった。
信長「一益、甲賀衆には諜報に専念させ戦闘は避けるように伝えよ。」
滝川一益「はっ、それでは女狐どもはいかにしましょう。」
信長「その件は儂に任せよ。もう下がってよい。」
滝川一益「はっ、失礼いたします。」
信長は甲賀衆には情報収集に専念させ正規に雇ってはいないダンゾウらにアサギ達の追討にあたらせるつもりでいた。
ダンゾウらは確かに能力は高いがどこか信が置けないと信長は考えていた。
ふと蘭丸を連れて帰ったダンゾウの配下のことを思い出した。
あの包帯に包まれた男は一言も言葉を発しておらずその素顔を見たことはなかったが、ダンゾウの配下の中では唯一人間味を感じることができた。
信長はあの男の素顔を見てみたいと思った。