胎間忍 作:内府
近江国坂本の山中の小屋、ここをアサギ達は拠点にして織田からの追撃をかわしながら畿内の情報を集めていた。
悪阻のため体調を崩していたムラサキを除いた4人で二つの組を組み山を下り人里に入り活動をしていた。
近江国は京と美濃を結ぶ交通の要衝で道行く旅人から噂に耳をかたむけるだけで多くの情報を得ることができた。
サクラと凜子の二人が歩き巫女のなりをして街道沿いの茶屋に入り休憩をしていると後から入ってきた商人風の男達が自分がいた場所の情報を交換していた。
堺の商人「あんさん、どこから来ましたん?」
近江の商人「近江の長浜から、あそこでは新しく羽柴秀吉という方が大名として治めております。そこでは商いをするのに税が免除されています。」
堺の商人「へーそれはエエことを聞きましたわ。ワテもいっぺん行ってみたいもんですわ。」
近江の商人「ええ、ただ浅井の残党狩りが激しいので気をつけてください。」
堺の商人「そんなに激しいんですのん?」
近江の商人「浅井長政の嫡男、万福丸はすでに処刑されましたが最近では、長政の子を孕んだ側室が岐阜城で捕らえられ処刑するという話しです。」
堺の商人「ひえー、お武家さんのなさることは恐ろしいでんな。」
二人の商人が話しを続ける中、サクラと凜子はその会話に耳をかたむけていた。
織田の包囲網が近づいてくるのが感じられ、アサギ達にも知らせなければならないとサクラと凜子は思った。
サクラと凜子は周囲に溶け込み目立つことなく茶屋の支払いを済ませ、山中の小屋を目指して歩き出した。
サクラと凜子が山中の拠点に戻ったのはその日の夕刻であった。
小屋の中にはアサギ達3人が囲炉裏を囲んで、今日仕入れた情報について話し合っていた。
アサギ「二人ともお帰りなさい。さあ、こっちにいらっしゃい。」
サクラ「ふー、疲れたー。」
凜子「ただいま戻りました、師匠。」
二人を囲炉裏に迎えて彼女達がえた情報について話し始めた。
サクラ「いやあ、織田の追っ手はなかなか緩くならないねー」
アサギ「どういうこと?」
サクラが茶屋で聞いた商人達の噂をアサギ達にも話した。
この話を聞いたアサギ達は自分達の身に織田の探索の手が迫っていることを感じこれからはより一層慎重に行動しなければならないと考えていた。
そんな中にあってただ一人、ムラサキは処刑されるという浅井の側室のことが気にかかっていた。
その処刑されるという側室はもしや響子のことではないのだろうかと考えるとムラサキは急に不安になった。
アサギ「ムラサキ、どうしたのですか?気分が悪くなったの?」
ムラサキ「い、いえ。なんでもありません…。」
ムラサキの顔に不安の色が見られ、アサギがそれを見て尋ねたがムラサキはなんでもないと隠してしまった。
アサギ「そう…。まだまだ悪阻が続いて辛いとは思うけどもう暫くの辛抱よ。」
ムラサキ「はい。」
アサギから励まされたムラサキであったが内心は響子のことで頭が一杯であった。
ムラサキが第一に好いているのはアサギであったが、その姿によく似た響子のことを忘れることはできなかった。
またムラサキの胎の中には響子と惣一郎の子供がおり、響子の胎の中にはムラサキと響子の子供がいるのでその事を考えるとこのまま響子を見殺しにするようなことはできなかった。
5人は一通り情報を交換し終えると夜も遅くなり始めたので眠ることにした。
アサギ達の中で寝相が特にひどいのがユキカゼであった。
ユキカゼの場合寝相というより夢遊病に近いのかもしれないが朝起きるとアサギの布団の中に潜り込んでアサギにひっついて寝ているということがよくあった。
アサギもたびたび注意するのだがなかなか治ることはなかった。
ただ、ユキカゼのこうした習慣は以前より改善したものでアサギに弟子入りした直後の頃はアサギの乳を吸おうとしたり夜中に起きて泣き出してアサギが宥めるなど大騒ぎしていた。
おそらく、ユキカゼの母が突然いなくなったことが原因だと思われた。
あとの4人の寝相は特にひどいものではないが、サクラの寝相も悪いと見ることもでき、よく凜子やムラサキの上に手や足が乗り上げることがあったがこれは常識的な寝相の悪さといえた。
こうして5人が床につくと早くもユキカゼとサクラがすやすやと眠り出した。
凜子は子供のように眠るユキカゼの寝顔を見ていると徐々に自分の瞼が重くなっていくのが感じられ、そのまま眠ってしまった。
アサギも段々と瞼が重くなっていき眠りに落ちることとなった。
ムラサキは響子のことを考えるとなかなか眠ることができなかった。
他の4人が寝静まっているなかムラサキは一人起きていた。