胎間忍 作:内府
岐阜城の一室に薄桃色の小袖を着た美しい女がいた。
信長からこの部屋に留め置かれている響子であった。
響子はとてつもない不安に襲われていた。
彼女を軟禁する部屋の外から監視を行っている小姓の声が聞こえたためであった。
その小姓が言うには響子の胎の子を堕ろすという内容だった。
小谷城落城の際は何とか落ち延びることができ、自分が長政の側室であったことが露見した際もその場で処刑されずにこうして軟禁されていたが今度ばかりは胎の子の命はないと思われた。
だが部屋の外では常に小姓達が監視をしており自分一人では抜け出せそうになかった。
そんな響子の苦境を救ったのはお市であった。
いつものように響子の元を訪れたお市達は普段とは違う暗い表情の彼女に何があったのかを尋ねた。
響子が理由を話すとお市はそれに深く同情した。
お市も3人の娘の母であり自分の子供が堕ろされるなど許せるはずがなかった。
お市「響子殿、私にお任せ下さい。貴女をここから出して差し上げます。」
響子「そんな、それではお市の方様にご迷惑をお掛けしてしまいます。」
お市「私とてこの娘らの母親、みすみす子の命を奪われる悲しみは分かります。何卒、協力させてください。」
こうしてお市に押し切られる形で響子はお市と協力してこの場から脱出するための計画を立てた。
岐阜城の一室を3人の小姓達が監視していた。
この部屋には響子が軟禁されており、今はお市とその娘達も部屋の中にいた。
部屋の襖が開き中から少女が出てきた。
茶々「これ、茶々のまえである。頭が高い。」
監視役の小姓「あ、え、…」
突然の出来事に監視役の小姓の頭は混乱していた。
茶々「何をしておる、無礼な奴め。」
監視役の小姓「はっ、失礼いたしました。」
茶々に無礼を咎められた小姓は慌てて謝罪した。
初「はつー、初もいるー」
茶々だけでなく彼女の妹の初も現れにわかに小姓達の周辺か騒がしくなった。
茶々「ふっふーん、その方なかなか整った顔立ちをしておるな。茶々の小姓にしてやってもよいぞ。」
監視役の小姓「はっ?」
初「初も、初もするー。」
茶々の発言に小姓は戸惑いを隠せないでいた。
茶々「どうなのだ?嫌なのか?」
監視役の小姓「いえ、…その…。」
茶々「はっきりせぬか!」
この小姓は主君の信長に忠誠を誓っているので茶々の小姓になることはないのだが、その信長の姪である茶々ににべもなく断ることもできずなによりこの可愛らしい少女をはっきりと拒絶することは酷なことであった。
監視役の小姓が茶々の無理難題に頭を抱えていると、助け船が出された。
お市「これ、茶々あまりその方を困らせてはなりません。」
茶々「母上!」
監視役の小姓「お市の方様!」
娘の横暴を見かねたお市が茶々をたしなめにはいった。
お市「許して下さい。聞いた言葉を意味もなく使っているだけなのです。お役目の邪魔をして申し訳ありませんでした。」
そう言ってお市は謝罪すると深々と頭を下げた。
監視役の小姓「おっ、おやめくださいお市の方様!」
頭を下げているお市に監視役の小姓は却って恐縮してしまった。
お市「いえ、本当にすまなかったと思っています。茶々、初今日はもう帰りますよ。これ以上この方のお役目を妨げてはなりません。」
茶々「はい、母上。すみませんでした。」
初「すみませんでした。」
茶々はお市に叱られて大人しく謝罪し、初も姉に習ってたどたどしく謝った。
監視役の小姓「いえ、お気になさらずに。」
お市と彼女の娘達それにお市の侍女達は小姓に対し申し訳なさそうに小姓達のいるこの場から離れていった。
小姓の一人が部屋の中を一瞥すると部屋の中には薄桃色の小袖を着た女の後ろ姿が見えた。
監視役の小姓「よし、持ち場に戻れ。監視を続けるぞ。」
残りの小姓「応。」
こうして小姓達は普段どおりに監視を続けた。