胎間忍 作:内府
雪の積もった京の通りを頭に白い布を巻いた女が歩いていた。
この女は京へと潜伏先を移したアサギ達胎間忍の一人サクラであった。
今は桂女に扮して、行商の真似事をしたり産婆をしたりして生活していた。
アサギ達は度重なる戦火に巻き込まれそこから復興を進める京の喧騒の中に隠れるように身を潜め京の中心地から外れた通りの一角に住まいを借りていた。
桂女の格好をしたサクラがアサギ達のいる家へと帰った。
サクラ「ただいまー、帰ったよー。」
アサギ「お帰りなさい、サクラ。外は冷えたでしょ。こっちにいらっしゃい。」
サクラ「うー寒い寒い。はー、暖まるね。」
帰ってきたサクラをアサギが出迎え、囲炉裏へと誘った。
凜子「お帰りなさい、サクラさん。お務めはどうでしたか?」
サクラ「へっへっへー、こんな感じかな。」
凜子から今日の稼ぎを尋ねられ、サクラは懐から一杯になった銭入れを得意気に取り出した。
ユキカゼ「ウップ…、さすがサクラさんですね…。」
凜子「あっユキカゼ、ちゃんと寝ていなさい。無理に起き上がろうとしないで。」
ユキカゼ「ハァハァ…、すみません姉弟子。」
起き上がろうとするユキカゼを凜子が止めてそのまま横にならせた。
ユキカゼはこの時激しい悪阻に悩まされていた。
アサギと凜子もユキカゼに比べると軽いが時折胃がむかむかして、嘔吐してしまうことがあった。
そんななか、サクラはそんなこととは無縁でいたって元気であったので必然的に彼女が外に出て日銭を稼いでいた。
ムラサキ「ご苦労だったなサクラ、私も外に出られればいいんだか……。……、あのアサギ様、そろそろこれを外してもらえませんか?」
アサギ「駄目よ。」
サクラを労うムラサキであったが、彼女の腰には縄が縛られておりその先はアサギの腰に結ばれていた。
ムラサキの悪阻は治まり体力も元に戻っていたのだが、勝手に抜け出して一人で岐阜城へと乗り込もうとしたことからアサギは彼女がどこにも行けないようにこのような暴挙にでたのであった。
ムラサキは迷惑を皆に掛けた分、外に出て日銭を稼ぐことで償いをしたかったがアサギがそれを許さず申し訳なく思っていた。
ただ、常にアサギと一緒にいれることはムラサキにとっては嬉しかった。
ムラサキの腹はアサギ達のものと比べると大きく、衣の上からでもやや目立っていた。
これはムラサキの胎児がアサギ達よりも成長していたことが原因で幾月かすると隠しきれなくなるほど大きな腹になることが予想され、ムラサキはそれまでに少しでも働いておきたかった。
ムラサキ「そこをなんとか…。」
アサギ「貴女はもう少し、皆に心配をかけたことを反省しなさい。」
ムラサキ「はい…本当に反省しています。」
アサギに責められるムラサキを見てつい可笑しくなってサクラは笑ってしまった。
ムラサキ「おい、サクラ。笑うな!」
サクラ「いやー、私も心配したんだよー。だから当分は反省してなくちゃね。」
ムラサキ「ぐむむむ…。」
ムラサキはサクラに何も言い返せなかった。
その様子を見る凜子とユキカゼはあの時のことを振り返ると本当にムラサキが無事でよかったと思っていた。
血まみれになったムラサキを見つけた時は絶望のどん底にあったがこうしてまた5人でいられることができて凜子は幸せであったが、この気持ちは凜子だけでなくこの5人全員が同じ気持ちであった。
ユキカゼ「ウッ……ゴホゴホ。」
凜子「大丈夫、ユキカゼ?白湯でも飲む?」
ユキカゼ「あり…がとう…ございます、姉弟子。」
ユキカゼが胸を押さえて苦しみだしたので凜子は白湯を勧めた。
凜子から渡された白湯を受け取りそれを口にしたユキカゼは少しだけ癒された。
アサギ「ユキカゼの悪阻は酷いわね。私も軽い方ではないけど…。もう少ししたら楽になるからそれまでの辛抱よ。」
ユキカゼ「はい、師匠。」
アサギに心配されユキカゼは少しでも元気なように返事をした。
今のところアサギ達の周囲は平穏であったが、甲賀衆の包囲網は着実に迫っていた。、